かの悪党はヒーローへ   作:bbbb.

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切島ってマジいい奴


二十話

 

 雄英高校体育祭当日。会場には多くの人であふれかえっていた。日本を代表する催しなので毎年人はたくさん集まるのだが、今年は例年に比べてもその数は多い。その理由は一つ。先の敵襲撃事件だ。雄英は敵襲撃を受け、ヒーローによる警備を例年の五倍にすることを決めた。そのため、今年は全国各地からプロヒーローが集まっている。そして何より、敵襲撃を受けたのにもかかわらず全員生き延びた一年A組の注目度が世間的に高く、会場には多くの観客が足を運んでいると言う訳だ。そんな大注目の一年A組の生徒はと言うと、控え室で全員待機していた。入場の知らせがあるまでここにいなければならないらしい。格好は皆体操着。何でも公平を期すためにコスチュームの着用は不可だそうだ。人それぞれだが大半の生徒達は緊張している面持ちだった。そんな中、轟が緑谷の方へ歩み寄り声をかける。

 

 「緑谷。」

 「轟君…何?」

 

皆が二人の方を見つめる中、轟は言葉を続ける。

 

 「客観的に見ても実力は俺の方が上だと思う」

 「えっ…うん」

 「けどお前、オールマイトから目かけられてるよな。別にそこ詮索するつもりはねぇが…お前には勝つぞ」

 「!?」

 

轟が緑谷にそう言い放ち、じっと見据える。控え室に緊張が走る。

 

 「おお~クラス最強候補の一人が宣戦布告?」

 

上鳴がボソッと呟くと、座って見ていた切島が立ち上がって仲裁に入った。

 

 「おいおい急にけんか腰でどうした!?直前に止めろって」

 「仲良しごっこじゃねぇんだ。何だっていいだろ」

 

切島の手を振りほどき、轟は自分の席に戻っていく。すると

 

 「轟君が何を思って僕に勝つって言ってんのかは分かんないけど…そりゃ君の方が上だよ。実力なんて大半の人に敵わないと思う。客観的に見ても」

 「…」

 「緑谷もそういうネガティブなこと言わない方が…」

 「でも…!みんな…本気でトップを狙ってるんだ。遅れをとるわけにはいかないんだ。僕も本気で獲りに行く」

 

緑谷が静かに、しかし強い意志をこめてそう宣言する。緑谷の言葉を聞くために足を止めていた轟だったが、再び自分の席まで歩き出す。そしてチラッと垣根の方を見るも、特に何も言わずそのまま着席した。

 

そしていよいよ入場の時が来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《ヘイ!!刮目しろオーディエンス!群がれマスメディア!一年ステージの入場だ!》

 

プレゼントマイクが実況を始め、それに伴い会場のボルテージも一気に上がる。ヒーロー科、普通科、サポート科、経営科の順で入場を始めるが、特に一年A組が入場するときは会場は大盛り上がりを見せた。それほど注目されていると言う事なのだろう。そしてすべての一年生が整列し終わると前にある壇の上に立っているミッドナイトが声を張り上げる。

 

 「選手宣誓!1ーA代表!垣根帝督!」

 

名前が呼ばれ、この場にいる生徒全員に注目される中、垣根は前に出た。

 

 「垣根君なんだ…!!」

 「ま、入試一位通過だしな。当然だろ」

 「ヒーロー科の入試、な?」

 

緑谷と瀬呂が話していると、他の科の生徒が嫌みっぽく絡んできた。

 

 「対抗心剥き出しだな…」

 「それもこれも全部お前のせいだぞ爆豪」

 「うるせぇ」

 

瀬呂や上鳴などが声を落として喋っていると、垣根が宣誓の言葉を述べ始めた。あらかじめ原稿を用意していたのだろう。そして宣誓が終わると観客の拍手の中、垣根は自分の列へ戻る。

 

 「さあて、それじゃあ早速始めましょう!第一種目はいわゆる予選よ!毎年多くの者がティアドリンク!さて運命の第一種目、今年は障害物競走!」

 

再びミッドナイトが話し始め、第一種目について説明を始めた。

 

 「計11クラス全員参加のレースよ!コースはこのスタジアムの外周約4㎞!我が校は自由が売り文句!コースを守れば何をしたって構わないわ!さあさあ、位置につきまくりなさい!」

 

ミッドナイトが説明を終えると全ての生徒達はスタート位置に付く。そしてゲートに付いている三つのランプの明かりが消えたその瞬間、

 

 「スタート!!!」

 

ミッドナイトが開始の合図をする。開始の合図が聞こえた途端、全ての生徒はゲートの入り口になだれ込んだ。

 

 《さ~て実況していくぜ!解説Are you ready?ミイラマン!》

 《無理矢理呼んだんだろうが》

 《早速だがミイラマン、序盤の見所は!?》

 《今だよ》

 

相澤はゲートの様子を見ながらそう呟く。ゲートの中は一斉に生徒がなだれ込んだため、却って皆身動きが取れない状態になっていた。最初の見所はこの密集地帯をどう切り抜けていいスタートに繋げるかということらしい。観客や実況組が見守る中、

 

 ヒュオォォォォォォォォォ!!!

 

突然風の唸り声の様なモノが聞こえた、その直後、大勢の生徒ごとゲートが凍り付く。そして急冷によって引き起こされた白い煙のなかから出てくる人影が一つ。その正体は、この氷を生み出した人物であり、地上をその足で駆ける轟焦凍。

 

 「悪いな」

 

そう言い残して走る轟。だが、

 

 「どりゃああああああ」

 「甘いわ轟さん!」

 「そう上手くは行かせねぇ!半分野郎!」

 

轟の戦術を読んでいたA組の生徒達は各々の個性を駆使し轟の後を追う。振り返りながらその様子を見た轟は、

 

 「クラス連中は当然として、思ったより避けられたな」

 

ひとりでに呟く轟。そして、

 

 (チッ、空飛べるアイツには有利だなこの競技。一位で逃げ切りたかったが…)

 

轟は一人悠々と空を飛ぶ垣根を見上げる。轟は生徒の足下を凍るように個性を発動させたが、恐らく垣根は開始の合図と共に羽を広げ、宙に浮かんでいたのだろう。それ故に轟の攻撃に全く反応することなくスタート出来たのだ。何とかしなければと轟が考えていると、垣根が空中で止まる。何事かと思い、前方を見るとそこには何と巨大ロボが何体も進行方向に立ち塞がっていた。

 

 《さあいきなり障害物だ!まずは手始めに第一関門ロボ・インフェルノ!》

 

マイクの実況がこだまする。そして巨大ロボの一体が一番近くにいた垣根を捕まえようと右手を伸ばす。垣根はロボの手のひらが近づくのをギリギリまで引きつけ、垣根を掴もうと指を閉じようとした瞬間、

 

 ヒュンッッッ!!!

 

六枚の翼を勢いよくはためかせ、親指と人差し指の間の隙間を超高速ですり抜けると、弾丸のように一直線にロボの左肩目掛けて加速し、一秒後にはロボを後ろに置き去りにした。

 

 《1ーA垣根!ロボの手を掻い潜り、一瞬で抜き去ったぁぁ!!すげぇぞ一抜けだ!ってか空飛ぶってそんなのアリかよ!!??》

 《相手するだけ時間の無駄だと判断した上での行動。合理的な行動だ》

 《流石は入試成績一位の男!このまま一位独走FINISHか!?》

 

垣根は一体目のロボを避けた後、他のロボが手出しできないような高度まで飛び、先を急ぐ。しばらくすると後ろで大きな音がしたので振り返ると、そこには氷漬けにされているロボが見える。恐らく轟の仕業だろう。轟も第一関門を突破したというわけだ。そして早くも第二関門に到達した垣根。しかし、

 

 《1ーA垣根帝督!早くも第二関門、ザ・フォールに到達!っつっても垣根にはほぼ意味ねぇ!!》

 

第二関門は一言で言えば綱渡りフィールドだった。落ちたら即ゲームオーバーな第二関門。しかし空を飛んでる垣根には何の意味も無かった。垣根はそのまましれっと通過し、後続との差を更に広げていく。観客は勿論、スカウト目的で体育祭を見にきたプロヒーロー達もまた、興奮した様子でレースを見ていた。

 

 「一位の奴圧倒的すぎないか!?」

 「まさかあれが噂のエンデヴァーの息子さん?」

 「いや、エンデヴァーの息子は今2位の奴だ。一位は全く別の奴だよ」

 「すげぇ~、エンデヴァーの息子を抑えてトップ独走かよ…」

 「確か、今年の入試の実技で歴代最高クラスの得点を叩き出した生徒がいるって話を聞いたことがあるが、あの子のことじゃないか?」

 「マジかよ!?早くも相棒(サイドキック)争奪戦だな!」

 

そしてマイクの実況がまたもや会場に轟く。

 

 《さあ、早くも最終関門!一面地雷原!してその実体は…ってまたしても意味ねぇ!!垣根帝督!セコすぎるぞその個性!!!!》

 

またしても垣根には関係のない関門だった。その関門も何事も無かったかのように通過した垣根は一気にゴールのスタジアムの前まで加速し、そこで地面に着地しゴールであるスタジアムの中へ走り出す。そして、

 

 《雄英体育祭!一年ステージ!!最初っから最後までトップ独走!!強すぎるぜぇ!!!余裕綽々で一番にスタジアムに帰ってきたのは1-A垣根帝督だぁぁぁぁぁぁ!!!》

 

マイクの絶叫がスタジアムに響き渡り、大歓声の中垣根帝督は第一種目を一位で終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次は騎馬戦。

うーむ、難しい・・・

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