第二種目が終わり昼休憩。A組の生徒が食堂に向かう中、垣根はスタジアムの中を彷徨っていた。用を足すためトイレを探していたのだが、中々見つからず、気がついたら自分が今どこにいるのか分からなくなっていた。要は迷子である。
(ったく、広すぎんだろこのスタジアム!どこだここは!?)
垣根が心の中で悪態を吐きながら歩いていると、通路の先に誰かの人影が見えた。気になって近づいてみると、
(爆豪…?)
その人影は同じクラスの爆豪であることが分かった。更に歩を進めると、爆豪も何かの気配を感じたのか、こちらを振り返る。垣根の顔を見た爆豪は一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに露骨に嫌そうな表情を浮かべる。こんなとこで何してんだ?と垣根が爆豪に聞こうとすると、
「しっ!」
爆豪は人差し指を唇に当て、垣根に言葉を飲み込ませた。
(あ?)
怪訝そうな表情を浮かべながら垣根は爆豪の側に行き、
「何だよ?」
小声で爆豪に尋ねる。爆豪はその質問に答えることはせず、代わりに曲がり角の先の方へ顎をしゃくる。垣根が顔を覗かせる形でその方角を見ると、轟と緑谷が向かい合って何か話している。
(何だこりゃ?)
垣根は爆豪の方を見るが爆豪も、俺に聞くな!という表情。すると
「緑谷、お前、オールマイトの隠し子か何かか?」
轟の話し声が唐突に聞こえてくる。
「ち、違うよそれは!もし本当に隠し子だったら違うって言うに決まってるから納得しないと思うけどとにかくそんなんじゃなくて…」
「そんなんじゃなくて、って言い方は少なくとも何かしら言えない繋がりがあるってことだな?」
「…っ!?」
緑谷に追求する轟。この一連の会話で垣根は目の前の光景についておおよその見当が付ける。
(なるほど。控え室の続きか)
体育祭開会式前、轟が緑谷に突っかかったシーン。恐らく、その時の続きが今行われているということだろう。轟が更に続ける。
「俺の親父はエンデヴァー。知ってるだろ、万年No.2のヒーローだ。お前がNo.1ヒーローの何かを持ってるなら俺は尚更勝たなきゃならねえ」
轟はそう言うと、自身の過去を語った。No.2ヒーローにまで上り詰めた轟の父・エンデヴァーはオールマイトを超える逸材を生み出すために『個性婚』という手段に出た。個性婚とは自身の個性をより強化して子供に継がせる為だけに配偶者を選び、結婚を強いること。そうやって生まれてきたのが轟焦凍という訳である。だから轟はオールマイトに気に入られている緑谷に妙に突っかかっていたのだ。そこまで話すと轟は、
「お前がオールマイトの何であろうと俺は右だけでお前の上を行く。時間取らせたな」
最後にそう言い残しその場を去ろうとする。しかし、
「僕は…!僕はずっと助けられてきた。さっきだってそうだ。僕は誰かに助けられてここにいる。笑って人を助ける最高のヒーロー、オールマイト。彼のようになりたい!その為には一番になるくらい強くならなきゃいけない。君に比べたら些細な動機かも知れない。でも僕だって負けられない。僕を助けてくれた人達に応えるためにも」
去りゆく轟を追いかけ、緑谷ははっきりと告げる。そして、
「さっき受けた宣戦布告、改めて僕からも。僕も君に勝つ!」
緑谷の決意が響く。轟は黙って聞いていたが、そのまま何も言わずに去って行った。そしてこの光景を見ていた爆豪も無言でこの場を後にする。
「No.2、か…」
一人残った垣根はひとりでに呟いた。
◆
《さあ昼休憩も終わっていよいよ最終種目発表だ!》
昼休憩が終わりいよいよ午後の部開始時刻。会場にマイクの実況の声が響き渡り、盛り上がりを見せる会場。
《最終種目は総勢16名からなるトーナメント形式!1対1のガチバトルだ~!!》
この最終種目は毎年違う種目だが、サシで勝負する形式なのは共通なのだそうだ。ちなみに去年はスポーツチャンバラをしていたらしい。
「それじゃ組み合わせ決めのくじ引きしちゃうよ!組が決まったらレクリエーションを挟んで開始となります。レクに関しては進出者16名は参加するもしないも個人の判断に任せるわ。じゃ一位のチームから」
ミッドナイトが前で説明し、早速垣根達がくじを引こうとしていると、
「すいません。俺辞退します」
尾白が突然挙手し、辞退を宣言する。
「「「え~~!?」」」
「尾白君何で!?」
「せっかくプロに見てもらえる場なのに!」
「…騎馬戦の記憶、終盤ギリギリまでほぼボンヤリとしかないんだ。多分ヤツの個性で…チャンスの場だってのは分かってる。それをふいにするなんて愚かなことだってのも。でもさ、皆が力を出し合って争ってきた場なんだ。こんな…訳分かんないままそこに並ぶなんて俺には出来ない」
「……」
尾白が辞退の理由を口にすると、尾白と同じチームだったB組の庄田という人物も同じ理由で辞退を申請。皆がミッドナイトを見つめる。
「そういう青臭い話はさ…好み!!!」
ということで二人の辞退は認められた。その代わりとして鉄哲と塩崎が繰り上がってトーナメント進出という形になった。そしてくじ引きが再開され、全員が引き終えると、
「抽選の結果、組はこうなりました!」
ミッドナイトの言葉に合わせ、モニターにトーナメント表が映し出された。
1回戦: 心操VS緑谷
轟VS瀬呂
塩崎VS上鳴
飯田VS発目
芦戸VS垣根
常闇VS八百万
鉄哲VS切島
麗日VS爆豪
「「またか!被りすぎだろ!」」
「全力で行く!」
「の、望むところですわ!」
「え~~!?初戦から垣根!?終わったぁ~~~~!!!」
「…また芦戸かよ」
「あァ?麗日?」
「ヒィィィィィ!!!」
トーナメントを見た生徒達は様々な反応をしている中、マイクの声が会場に響く。
《それじゃあトーナメントはひとまず置いといて。it'sつかの間!楽しく遊ぶぞレクリエーション!!》
そのかけ声と共にレクリエーションゲームが始まった。
◆
《Hey guys!Are you ready!?》
「「「おおおおおおおお!!!!」」」
レクリエーションの時間が終わり、ついにトーナメントが始まろうとしていた。会場はトーナメントの開始を今か今かと待ちきれない様子で、マイクの呼びかけにノリノリで応える。
《いよいよやってきましたが、結局コレだぜガチンコ勝負!!!頼れるのは己のみ!心・技・体に知識、総動員して駆け上がれぇ!!!》
マイクが会場のボルテージを最大限に盛り上げる。そしてフィールドの四方の隅から炎が吹き出すと、いよいよ一回戦第一試合のアナウンスが流れる。
《オーディエンス共!待ちに待った最終種目がついに始まるぜ!第一回戦!成績の割には何だその顔!ヒーロー科・緑谷出久!VSごめん、まだ目立つ活躍なし!普通科・心操人使!》
マイクに紹介された両選手が大勢の歓声を浴びながら入場する。
《ルールは簡単!相手を場外に落とすか行動不能にする!あとは「参った!」とか言わせても勝ちのガチンコだ!怪我上等!こちとら、我らがリカバリーガールが待機してっから!道徳・倫理は一旦捨て置け!!だが勿論命に関わるようなのはアウト!ヒーローは敵を捕まえるために拳を振るうのだ!レディィィィィ!スタート!!!》
マイクのかけ声と共に一回戦第一試合が始まった。垣根はスタンドのクラス席でその様子を眺める。緑谷は最初、相手と何か話しているかと思えば、急に相手に歩み寄り始める。しかしその瞬間、緑谷の身体が突然硬直する。会場も何が起きたのか分からない様子で、
《オイオイどうした!?大事な初戦だ。盛り上げてくれよ!緑谷!開始早々完全停止!?》
とマイクも困惑気味な様子。
「デク君…?」
「一体どうしたというのだ…?」
麗日と飯田は思わず立ち上がりながら緑谷を見る。飯田と麗日だけではない。A組の皆が緑谷に何が起きているのか分からない様子だった。そんな中、
「精神系能力者、いや、精神操作系個性か」
「「「!?」」」
垣根がボソリと呟く。
「精神系…?それって…」
「だろ?尾白」
麗日が垣根に尋ねるも、垣根はそれには応えず代わりに尾白に話を振った。今度は皆が尾白の方を向き、尾白に尋ねる。
「尾白君、何か知ってるの?」
「ああ。ヤツの個性で俺は騎馬戦の時、操られていたんだ。」
「「「!?」」」
「ヤツの問いかけに答えてからの記憶が無いことから推察するに、多分人を操るトリガーはそれだ。ヤツの問いかけに答えたらその瞬間からヤツに操られることになる」
「そんな…」
「強すぎだろ…」
「でも万能ってわけでも無い。騎馬戦の時、終盤に鉄哲のチームとぶつかったんだが、その時に目覚めた。だから衝撃を与えれば洗脳は解ける、って緑谷にもちゃんと言ったんだが…」
「緑谷君…!!」
垣根は尾白の話を聞きながら、ふと別のことを想起していた。
(そういや
「デク君!」
麗日の声により再びフィールドに視線を戻す垣根。なんと緑谷が自ら場外へ進んでいっているのだ。
(アイツら厄介だからな。これは緑谷も終わったか?)
垣根がそう思ったその時、
ブォォォォォォォォォォン!!!
突然衝撃波がフィールドを襲い、強い風が吹き荒れる。強風が収まると、その衝撃で洗脳が解けたのか、寸前の所で緑谷が場外になるの堪えている姿があった。
《緑谷とどまったァァァ!!!》
「「「うおおおおおおお!!!」」」
「緑谷君!!!」
「よ、よかったぁ!!」
緑谷が耐えたことに沸く会場。飯田と麗日も大きく喜んでいた。
(暴発させたのか?相変わらず無茶すんなアイツ)
そして緑谷は心操の下へ再度詰め寄り、指や顔面に攻撃されながらも背負い投げを喰らわせ、心操を場外に押し出した。
「心操君場外!緑谷君、2回戦進出!」
こうして緑谷は2回戦進出を決めた。
◆
《続きましてはこいつらだ!優秀!優秀なのに拭いきれないその地味さは何だ!?ヒーロー科瀬呂範太!VS予選3位2位と推薦入学者の名に恥じぬ成績のこの男!同じくヒーロー科轟焦凍!!それでは最終種目第二試合レディースタート!》
開始の合図が鳴った直後、瀬呂がテープを射出し、轟の身体に巻き付ける。そしてそのまま場外に引っ張り出そうとする。
《場外狙いの不意打ち!この選択は最善じゃないか!?正直やっちまえ瀬呂!!》
このまま轟が引きずり出され、瀬呂の勝利かと思われたその時、
ピキピキピキピキピキピキッッッッッッッ!!
音を立てながら地面が急速に凍っていき、次の瞬間、
ドゴォォォォォォォォォン!!!!
地鳴りのような音が会場中に響き渡ると同時に、フィールドには巨大な氷塊が出現していた。その大きさはこの会場には収まらず、天井を突き抜けてしまう程のモノだった。唖然としてその光景を見る観客及び生徒達。解説と実況ですら言葉を失っていた。
「瀬呂君行動不能!轟君二回戦進出!」
ミッドナイトが半身を凍らせながら宣言すると、瀬呂に対して観客からドンマイコールが発生。皆が言葉をなくす中、
「ヒュ~。流石はサラブレッド」
垣根は口笛を吹き、愉快そうにそう呟いた。