かの悪党はヒーローへ   作:bbbb.

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二十七話

 

 準決勝第二試合は垣根の勝利に終わった。垣根がフィールドを去ろうとすると、

 

 「待てや、コラ…!」

 

身体を振るわせ、起き上がりながら垣根を呼び止める爆豪。垣根も動きを止める。

 

 「何、しやがった…?」

 「……」

 「個性を、消したのか!?」

 

爆豪が垣根に問い詰める。個性を消す。そんなことはイレイザーヘッドの個性でない限り無理な話だ。あり得ないことだと言うことは分かっている。だが実際垣根の攻撃を食らう直前、爆豪の個性は確かに発動しなかった。ならば垣根が何らかの手段で爆豪の個性を消したとしか考えられない。爆豪が歯を食いしばりながら見つめる中、垣根が口を開いた。

 

 「個性を消す?馬鹿言え。相澤じゃねぇんだ。んなこと出来るわけねぇだろ」

 「あァ!?じゃなんで――――――」

 「んなことはどうでもいいんだよ」

 「!」

 

爆豪の言葉を遮るようにして垣根が言葉を挟む。

 

 「個性が消えただか何だか知れねぇが、お前は俺に負けたんだよ」

 「…ッ!?」

 「それで十分だろ?じゃあな」

 

そう言い残すと垣根はフィールドから去って行ってしまった。

 

 「クッソォ…」

 

残された爆豪はただ一人、垣根に敗北したという事実を噛みしめ、膝を突きながら地面を悔しそうに見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《雄英高校体育祭もいよいよラストバトル!一年の頂点がこの一戦で決まる!いわゆる決勝戦!ヒーロー科轟焦凍VSヒーロー科垣根帝督!》

 

 マイクの実況に沸くスタンド。いよいよ決勝戦。片や推薦入学者でかつNo.2ヒーロー・エンデヴァーの息子である轟。その実力は折り紙付き。そしてもう片方は入試成績トップで、一部では歴代最強新人(ルーキー)とも呼ばれている垣根。文字通り頂点を決める戦いが今、始まろうとしていた。観客や生徒達は勿論、警備に来たプロヒーロー達もモニター越しでこの戦いに注目している。そして

 

 《今、スタート!!》

 

マイクの合図が響き渡った直後、轟が動く。

 

 ピキピキピキピキッッッッッ!!!!

 

地面に手を当て大氷塊を生み出し、目の前の垣根目掛けて一気にぶつけた。瀬呂戦で見せた氷結程ではなかったがそれでも凄まじい規模の氷塊がスタジアムに形成される。

 

 《轟いきなりかましたァ!!早速優勝者決定かァァ!?》

 「瀬呂君戦ほどの規模じゃない!?一撃を狙いつつ、次を警戒した!?」

 

緑谷の言うとおり、轟は既に警戒態勢を取っていた。皆がフィールドを見守っていると、突然、

 

 ドガァァァァァァァァァァァン!!!

 

凄まじい轟音を響かせながら大爆発が起こり、大氷塊は粉々に崩れ去る。皆が驚きの目で見つめる中、爆煙の中からポケットに手を突っ込みながら歩いてくる垣根の姿が現れる。

 

 《と思ったら垣根またしても無傷!?しかもあの氷結を一瞬で粉々にしちまったぜ!!どっちもチートかよ!!》

 「おいおい、流石に冗談だろ!?あの氷結喰らって無傷はねぇだろ…」

 「何だ今の大爆発!?」

 「雄英のレベル高すぎだろ…」

 

最初の攻防だけでレベルが違うと分かる二人。スタジアムのボルテージが上がっていくのとは裏腹にフィールドの二人を取り巻く空気は至って静かなモノだった。しばらく見つめ合ったまま動かなかった二人だが、またもや轟が氷塊をぶつけに行く。

 

 「はぁ」

 

垣根はため息を吐きながら目を閉じると、突如垣根の目の前に大きな白い壁が現れる。

 

 ドンッ!!

 

衝撃と共に白い壁にぶつかった氷結は、その進行が止まる。

 

 「馬鹿の一つ覚えみてぇに氷ばっか出しやがって…舐めてんのかテメェ」

 「くっ…!?」

 「察しが悪いみたいだな。だったら直接言ってやる。お前の氷じゃ俺に傷一つ付けらんねえよ」

 

垣根はそう言いながら背中から翼を出し白い壁を消すと、目の前の氷塊に対して烈風を放つ。

 

 轟ッ!!

 

 バリバリバリバリバリバリッッッッッ!!!!

 

次々と氷塊が砕かれ、その風圧が轟を飲み込む。

 

 「くっ…!」

 

後方に吹き飛ばされそうになるも、自身の真後ろに氷の壁を作り、なんとか踏みとどまった。

 

 「ほぉ、中々しぶといな。流石はNo.2の息子」

 「……っ!」

 「ほら、お前の親父さんも見てるぜ?息子のカッコいいところが見たいってな」

 「うるせぇ!!」

 

垣根の挑発に激昂した轟は足下から三度目の氷結攻撃を繰り出す。すると、今度は垣根が足を一歩前に踏み出した。すると、

 

 ドッッッッッ!!!

 

強い振動と共に垣根の足下から巨大な白い塊が出現し、轟の方目掛けて迫っていく。そして、

 

 ゴッッッッ!!

 

轟による氷の塊と垣根による白い塊が轟音と共に衝突した。会場全体に衝撃が走る。

 

 「うおおおお…!すげぇ衝撃…!」

 「地震かよ!?」

 

観客達は伝わり来る振動に驚きつつも、試合に目を向ける。二つの巨大な攻撃。一見互角に見えたが、均衡を保っていたのはほんの一瞬。ガリガリガリッッ!!と音を立て、白い塊はみるみる氷塊を飲み込んでいく。そのまま轟に直撃するかと思われたが、氷の壁を自身の真横に射出するように出現させ、それに乗ることで直撃を回避した。轟を捉え損ねた白い塊はゴォォォォォン!!という轟音と共に観客席の壁に激突し、何人かの観客は悲鳴を上げる。轟を含め、会場にいる人々は唖然とした様子でこの光景を眺める。

 

 《なんと垣根!轟の氷結攻撃に応えるように白い塊攻撃をぶつけたァ!!つーか何だありゃ!?》

 《あれは槍だ》

 《槍?》

 《ああ。準決の時、垣根が爆豪に放った槍。それを大量に生み出し放った結果がこれだ…ざっと百本以上ってとこか。数が多すぎて遠くから見ると白い塊にしか見えないな》

 《ほうほう…って、百本!?》

 

相澤の解説にどよめく観客達。それは生徒達とて例外ではなかった。

 

 「そんな…!?一度にそれだけの数のモノを作り上げるなんて…!?」

 

八百万が驚嘆の声を上げる。

 

 「確かに構造が単純なモノほど作る時間は少なくて済みますが…それでも一瞬で数百も作り上げるなんて…そんなことが…!」

 「いや、それだけじゃない」

 「ん?どうした緑谷?」

 「さっきの白い壁やこの白い槍、そしてあの翼。恐るべきはその強度だよ」

 「って言うと…」

 「あの白い物質はかっちゃんの爆破や轟君の氷、そしてオールマイトと同等のパワーを持っていた脳無の一撃をも完璧に防いでいた」

 「脳無の攻撃を!?ウチ別の場所で戦ってたから知らなかった…」

 「一体あの白い物質の正体は何なんだ?…八百万さん、何か心当たりとかない?」

 「…いえ、まったく見当が付きませんわ。例えばダイヤモンドはこの世でトップクラスに硬い物質だと言われていますけど、垣根さんの白い物質の正体がダイヤモンドだとは思えません。それにもし仮に白い物質の正体がダイヤモンドだとしても、先ほど緑谷さんが挙げた方々、特にオールマイト先生並みのパワーの持ち主である脳無の攻撃を無傷で防ぐなどとは考えにくい」

 「ん~、確かにな」

 

垣根の個性の正体について色々考えるA組の生徒達。一方で、フィールドでは再び垣根と轟の戦いが再開していた。背中の翼を伸ばし、轟を穿とうとする垣根。轟は氷の盾を作り上げ翼から身を守ろうとするが、

 

 「ぐは……っ!!」

 

紙くずのように砕かれ、轟の腹に重い一撃が入る。肺に息が詰まり、一瞬息が出来なくなる轟。そのまま地面に叩きつけられ仰向けに倒れる轟。

 

 「ハァ…ガッカリだ。多少はやるかと思ってたが、これだったらまだあの犬野郎の方が楽しめたぜ」

 (くっ…!?強い…!俺の氷結が紙くずみてぇに砕かれる…!このままじゃ…!)

 「とっとと終われ」

 

垣根は吐き捨てるように言うとその翼に力を込めていく。誰もが轟の敗北を察したその時、

 

 「頑張れ!轟君!!」

 

スタンド席から緑谷の声が聞こえた。その声の方を思わず振り返る垣根。

 

 「あの野郎…」

 

垣根の視線を感じた緑谷は、

 

 「あ…えっと、もちろん垣根君も頑張って!」

 

慌ててフォローを入れる緑谷。すると、

 

 ボウッッッッッッ!!!

 

音を立てながら激しく炎が吹き荒れる。垣根が再び視線をやると、左半身に炎を纏いながら立ち上がる轟の姿があった。

 

 「何だよ。やる気になったのか?」

 「……」

 

垣根の問いかけには答えず、そのまま左腕を突き出す轟。どうやら緑谷戦で見せた爆風攻撃を垣根に向けて放とうとしているらしい。

 

 「そうか」

 

垣根は轟の構えを見て一言呟くと、そのまま空に上昇していく。そしてある程度の高さで静止すると背中の翼を五メートル程の長さにまで伸ばす。皆が空中に浮かぶ垣根の姿に注視する。日差しを浴びて輝く純白の翼を広げて飛んでいる垣根の姿はどこか神々しさを感じさせ、見る者達を魅了した。

 

 《天、使?》

 

思わず口から言葉が漏れるマイク。皆の視線を一手に受ける中、

 

 「行くぜ」

 

地上の轟に声をかけ、垣根は六枚の翼に力を込める。そして、

 

 轟!!!

 

凄まじい轟音を響かせながら放たれた烈風の塊は一気に轟に襲いかかる。ハリケーンでも発生したのかと思うくらいの風圧がスタジアム全体を襲う。轟は迫り来る嵐の塊を見上げながら左手をかざし、

 

 ドゴォォォォォォォン!!!

 

派手な音と共に観客席の壁に何かが激突した。土煙の中ミッドナイトが近くに寄ると、気絶した轟が壁にもたれかかっている姿を確認した。

 

 「轟君場外!よって、垣根君の勝ち!」

 

ミッドナイトの宣告が響き渡ると同時にスタジアムが歓喜に沸く。

 

 《決まったぁぁ!!以上で全ての競技が終了!!今年度雄英体育祭一年優勝はA組垣根帝督!》

 

歓声の中、垣根は静かに地上に降り立ち、先ほどの光景を思い出す。垣根が攻撃を放ち、その攻撃が轟に直撃する直前、轟が左手を下ろしながら火を消す瞬間を垣根はしっかりと見た。

 

 「チッ、くだらねえ」

 

垣根は吐き捨てるようにそう言うとフィールドを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「今年度雄英体育祭一年の全日程が終了!それではこれより表彰式に移ります!」

 

ミッドナイトがそう言うと白い煙と花吹雪を舞わせながら表彰台が現れた。一位~三位までの生徒がその台の上には立っており、観客や生徒達から拍手で迎えられた。

 

 「三位には爆豪くんと飯田君がいるんだけどちょっとおうちの都合で早退になっちゃったのでご了承くださいな♡」

 

ミッドナイトは飯田が表彰台にいないわけを手短に話すと次に進む。

 

 「それではメダル授与よ!今年メダルを贈呈するのはもちろんこの人!」

 「ハーッハッハッハッ!!」

 

突然空から高らかな笑い声が聞こえてきた。その声を聞くと

 

 「うおおおおおおおお!!!」

 「オールマイトだ!」

 「オールマイトよ!」

 

観客のボルテージは更に上がる。

 

 「私がメダルを持って「我らがオールマイト!」きた~!」

 

いつもの決め台詞と共に空からオールマイトが降ってきたが、ミッドナイトの言葉と被ってしまい、微妙な空気が漂う。

 

 「それではオールマイト、三位からメダルの授与を…」

 

若干気まずそうに申し立てるミッドナイト。オールマイトもそれに従いメダルを渡していく。

 

 「爆豪少年おめでとう!と言っても全然満足してない様子だね…だが爆豪少年!君の戦闘センスは本物だ!間違いなく入学時から成長しているよ!ちょっとアツくなりすぎてしまう所もあるが…このまま磨き続ければ君は立派なヒーローになれる!頑張っていこうな!」

 「……」

 

オールマイトの言葉に反応すること無く、終始下を向いていた爆豪。オールマイトは爆豪にそっとメダルをかけ、ハグをすると次は轟の下へ向かう。

 

 「轟少年おめでとう。決勝で左側を収めてしまったのはワケがあるのかな?」

 「緑谷戦できっかけをもらって分からなくなってしまいました。あなたがヤツを気にかけるのも少し分かった気がします。あなたの様なヒーローになりたかった。ただ…俺だけ吹っ切れてそれで終わりじゃダメだと思った。清算しなきゃならないものがまだある」

 「うん・・・顔が以前と全然違う。深くは聞くまいよ。今の君ならきっと清算できる」

 「…はい」

 

轟の言葉を最後まで聞き終えると先と同様メダルを首にかけ、ハグをして次に進むオールマイト。そして、

 

 「さて垣根少年!いや~君は本当に強いね!予選ダブル一位でトーナメントも優勝。文句の付け所の無い成績だ!正直ちょっと引いたぐらいさ。流石は先生の息子さんだ!」

 「なんだ、俺がジジイの息子だって知ってたのか」

 「勿論さ!君が幼い頃、一度会っているんだが憶えてないかな?」

 「生憎と」

 「そっかぁ~。まぁいいよ、うん!とにかく優勝おめでとう!垣根少年!」

 「どうも」

 

垣根にメダルをかけハグをするとオールマイトは前に向き直り、

 

 「さあ!今回の勝者は彼らだった!しかし皆さん!この場の誰にもここに立つ可能性はあった!競い、高め合い、さらに先へ登っていくその姿!次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている!てな感じで最後に一言!皆さんご唱和ください!せーのっ!」

 「お疲れ様でした~!」

 「「「Plus Ultra!!!」」」

 

こうして今年度の雄英体育祭は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガチャッと扉を開けて垣根は自分の家の中に入る。体育祭の後の帰りのHRが終わり、今帰宅してきたところだ。ちなみに明日は振替休日で休みらしい。垣根がリビングに向かうと、

 

 「おぉ~帰ったか」

 「ん」

 

テレビでニュースを見ていたグラントリノが垣根に気付き声をかけ、それに答える垣根。

 

 「見てたのか?体育祭」

 「ん?ああ、まぁちょっとだけな。飯出来てるぞ。食うか?」

 「ああ」

 

そう短く返事すると垣根は椅子に腰を下ろした。そしていつものように二人で夕食を食べ、一日を終える。長かった体育祭もこれで本当の終わりを迎えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夕食はこれまたいつもの夕食よりも豪華な気がしたが、恐らく気のせいだろう。

 

 




長かった体育祭もついに終わりです。こんなに長くなるとは・・・

あと世界一硬い物質ってダイヤモンドじゃないらしいですね

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