かの悪党はヒーローへ   作:bbbb.

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オリジナルの話です。


二十九話

 「全員コスチューム持ったな?本来なら公共の場じゃ着用禁止の身だ。落としたりするなよ」

 「は~い!!」

 「伸ばすな!はい!だ、芦戸」

 「はい…」

 

 職場体験当日。A組の生徒達はそれぞれの職場体験先に向かうべく、駅に集合していた。相澤は芦戸に軽く注意した後、生徒達を送り出す言葉をかける。

 

 「くれぐれも体験先のヒーローに失礼の無いように。じゃあ行け」

 「「「はい!!!」」」

 

元気よく返事をした生徒達はそれぞれの職場体験先へと向かう準備をする。垣根は空港行きの電車に乗る為に改札を通ろうとすると、

 

 「飯田君!本当にどうしようもなくなったら言ってね?友達だろ?」

 

緑谷が飯田に声をかけているのを目撃する。その横で麗日も心配そうに飯田を見つめていたが、

 

 「ああ」

 

一言返事をすると飯田はそのまま行ってしまった。

 

 「……」

 

そんな飯田の様子をしばらく見つめていた垣根だったが、

 

 「垣根も空港行くんだろ?一緒に行こうぜ!」

 

不意に上鳴に声をかけられ、我に返る。

 

 「…ああ」

 

そう返事をすると垣根は上鳴と共に改札を通った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ようこそ。俺の事務所へ。垣根君」

 「……」

 

 垣根の目の前に立っているNo.3ヒーロー・ホークスが垣根に声をかける。垣根は現在、プロヒーロー・ホークスの事務所の一室にいた。なぜかと問われれば、それはここが垣根の職場体験先だからだ。垣根は結局、ホークスの事務所を体験先として選んだ。理由はいくつかあるが、オールマイト以外のトップヒーローがどの程度のモノなのか見ておきたいというのが大きかった。故に垣根のリストの中でヒーローランクが最も高かったホークスの事務所に行く事を決めた。ヒーロー殺しが出たという保須市のヒーロー事務所に行くことも考えたが、この一週間の内にまた保須市にヒーロー殺しが出現する保証は無い。一ヶ月くらい滞在できるならまだしも、一週間は短すぎる。なので今回は消去法でNo.3ヒーローの下に行く方を取った。そんな訳で垣根は九州のホークスの事務所までこうしてやってきたわけである。

 

 「ああ、ヒーロー名は違ったね。えーっと…」

 「いや、垣根でいい。よろしく」

 「あ、そう。よろしくね」

 

二人は挨拶を済ませると、ホークスが続ける。

 

 「んじゃ早速で悪いんだけど、行こうか」

 「は?どこに?」

 「どこって、敵退治だよ」

 「…ああ、なるほど」

 「そ。つっても、もう準備できてるっぽいね」

 

ホークスが垣根のコスチューム姿に目を向けながら言う。

 

 「まぁな」

 「よし、じゃあ出発だ」

 

ホークスが部屋を出ると垣根もそれに続く。そして事務所の外に出ると、外では二人の男がホークス達を待っていた。

 

 「この二人は俺の相棒(サイドキック)。何か分かんないこととかあったらこの二人に聞くと良いよ」

 

ホークスが二人の男の事を垣根に紹介する。そして今度は二人の相棒に垣根のことを紹介するホークス。

 

 「一週間よろしくな!垣根君!」

 「…よろしく」

 

垣根が相棒に挨拶を済ませると、早速ホークスが三人に指示を出す。

 

 「先ほど、敵一体が現金の入った鞄を持って逃走したとの通報がありました。今からその敵を追います。んじゃついてきて下さいね」

 

そう言うとホークスは背中の翼をバッ!!と広げ、一気に飛んで行ってしまった。

 

 「なんだアレ。飛んで行っちまったけど?」

 「ほら!行くよ垣根君!グズグズしてると見失っちゃう」

 「見失う?」

 「ああ。『速すぎる男』。それがホークスの異名さ。その名の通り、彼は全ての事件をもの凄いスピードで解決していく。一人でね。だから我々相棒の仕事は彼が片付けた仕事の後処理をすることなんだ。モタモタしてるとどんどん距離を離されちゃう」

 

相棒達は垣根に説明すると急いでホークスの後を追って走り始めた。

 

 「冗談じゃねえ。なんで俺が必死こいて走らなきゃならねえんだ?」

 

そう言いながら垣根は、ファサッ!!っと背中から六枚の翼を出現させる。それらの翼をはためかせ、垣根は空中に飛び立つ。

 

 「って、垣根君!?」

 

相棒の一人が宙に浮く垣根を見て驚いたように声を上げる。

 

 「お先に」

 

垣根はそう一言言い残すとホークスの後を追っていく。しばらく進むと電柱の上に立っているホークスの姿が見えた。ホークスが垣根の接近に気付くと、

 

 「お、速かったね。流石は優勝者」

 「…どうも」

 

垣根は一応礼を言いながらホークスの隣へ目をやると、ホークスの翼から生み出された思われる羽根が敵を空中で拘束していた。敵が持っていたであろうナイフや金の入った鞄も羽によって浮かされている。

 

 「その羽…それがアンタの個性か?」

 「ん?ああ、そうだよ。そう言う君はその白い翼が個性なのかな?いやー、近くで見ると一層綺麗だねそれ」

 「俺の個性は『作製』。物質を作り出す個性だ。この翼は勝手に生えてきたモノであって俺の個性の本質ではない」

 「へぇ~。勝手に生えてきたんだその翼。なんか凄いね」

 「アンタの個性は…」

 「俺の個性は『剛翼』。翼に生えてる羽根を一枚一枚自在に操ることが出来る個性さ。こんな風にね」

 

ホークスは羽根で吊されている敵を指さしながら自身の個性について説明する。

 

 「ただの鳥の羽根って訳じゃなさそうだな。硬く、それでいてしなやか。良い羽根だな」

 「ハハ、そいつはどうも…ん?」

 

垣根との話の途中で、相棒の二人が追いついてきたことに気がつくホークス。

 

 「遅いですって」

 

ホークスは肩で息をしている相棒達に声をかけ、更に

 

 「完庭那のバーで客が暴れてるらしいから次そこで!事後処理よろしくお願いしまーす」

 

と言い残し、再度飛び立っていく。そして、

 

 「あ、垣根君も相棒達と一緒に事後処理やっといてね。これもお勉強の内だよ」

 

顔だけ振り返りながら、垣根に事後処理に参加するよう伝えると次の目的地に向かって飛んでいった。

 

 (なるほどな。最初は雑用やれって訳か。面倒くせぇ…)

 

ため息をつきながら垣根は地上に降りると、言われたとおりに事後処理に参加する。と言っても垣根は初めて参加するので、二人の相棒の内、一人が事後処理をし、もう一人が垣根に事後処理の仕方を解説する役目になった。流石はホークスの相棒と言うべきか、一人でもスムーズにこなしていき、5分と掛からずに事後処理は終わった。事後処理を終えた三人は再びホークスのいる場所に向かう。今度も空を飛んでいった垣根が最初にホークスのいる現場にたどり着いた。ホークスは垣根が来たのを見ると、次に現場の場所を伝え、また一人で飛んでいった。その姿を見送った垣根は相棒達の到着を待たずにこの現場の事後処理を進めていく。まだ一度しか事後処理の現場を見ていないし、説明も一回しか受けていないが、垣根にとっては一度見て聞けばそれで十分だった。手際よく事後処理をこなし、相棒達が到着する頃には全て完了させていた。そしてホークスの次の現場を伝えると、再び空を舞う垣根。この日は、ホークスを追っては事後処理をし、追っては事後処理をし、という作業をひたすら繰り返した。事件は全てホークスが解決していったため、直接戦闘する機会は無かったが、その分ホークスの戦い方について観察できた。ホークスの羽根は色々な使い道がある。羽根を飛ばして敵に攻撃したり、剣のような長い羽根を作ることも出来る。更に羽根を使って人の身体を浮かすことも出来るので、敵から逃げ遅れた人々を助けたり、老婆が階段を上るのを助けたりするなどサポート機能としても優秀だ。

 

 (ほぉ~、結構器用だなアイツ)

 

垣根は珍しく感心した様子でホークスが羽根を操る姿を眺めていた。そしてもう何件目か分からない事件の後処理を垣根がしていると、

 

 「次が今日ラストの事件かな。まぁ最後だし、全員揃ってから行こう」

 

ホークスが垣根に言う。そして垣根が事後処理を終え、相棒達が二人に追いつくとホークスは最後の現場に向かった。垣根達もその後を追う。最後の現場は銀行だった。銀行の前で敵が人質を取りながら大声で何か喚いている。

 

 「ん?銀行強盗って聞いたんだけどな」

 

ホークスは首をかしげながら呟くも、

 

 「ま、取り敢えず人質は助けないとね」

 

そう言って敵の前に降り立った。突然目の前に現れたホークスに対して動揺を見せる敵。そしてホークスが何やら敵に話しかけていく。その敵は勿論、周りの野次馬も最早ホークスにしか注意を向けていないので敵の頭上に並んでいる五枚の羽根の存在には誰も気付かなかった。その五枚の羽根はホークスが降り立つ直前に空中に置いてきたモノで、敵に話しかけながら遠隔操作でセットしたのだ。そしてホークスが話し終わると、

 

 シュッ!

 

五枚の羽根が一斉に飛来し、敵の首筋に直撃した。突然攻撃を受けた敵はそのまま前のめりに倒れ、気絶した。地上では相棒達が到着し、事後処理を行い始めた。しばらく眺めていたホークスだったが、、

 

 「あれ?垣根君は?」

 

事後処理をしているのが相棒達だけで垣根の姿が見当たらない事に気付く。迷子にでもなったのか?と思っていると、

 

 ドゴォォォォォォォン!!

 

銀行の裏から大きな音が鳴り響く。ホークスが慌てて銀行の裏へ回ると、そこにはぺしゃんこになった小型トラックと泡を吹いて気絶している男二人、そしてポケットに手を突っ込んだまま突っ立っている垣根の姿があった。

 

 「よう。こっちも終わったぜ」

 

垣根はホークスに気付くと涼しげに伝える。

 

 「これは…」

 「表で注意を引きつけてる間にトンズラしようって魂胆だったみたいだが、やっすい手だな。考えがチープすぎる」

 「へぇー。真っ先に陽動に気付き、俺が表の奴を相手してる間に本命をボコってたのか。君、相当慣れてるね」

 「まぁ、ちょっとな」

 

ホークスの言葉を受け流すと、垣根は事後処理を始める。そしてそれらを全て終え、ホークス一行が事務所への帰途につく頃には辺りはすっかり日が暮れていた。垣根とホークス達は事務所の前で別れた。まだ事務所でやることが残っているそうだが、それらはホークス達が片づけるからと言って垣根は帰らされたのだ。垣根も別に仕事がしたいわけではなかったので言われたとおりに宿泊場所であるビジネスホテルに帰った。流石は雄英と言うべきか、宿泊代もちゃんと出してくれるし、割と良いところで宿泊させてくれる。垣根は自分の部屋に戻ると夕飯や入浴などを済ませ、テレビを付けた。別に何か目的があったわけではない。ただ何となく付けただけなのだが、偶然にもそのチャンネルではヒーロー殺しについての特集番組が放送されていた。

 

 (こいつが噂のヒーロー殺しか…)

 

そのコーナーではヒーロー殺しのこれまでの行いについてをおさらいしたり、どういった場所でヒーロー殺しは出現しやすいのか推測したりしていた。スマホをいじりながら興味半分で見ていた垣根だったが、解説者がヒーロー殺しの個性について話し始めたときはテレビの方へ注意を向けた。何でも全員の被害者が、ヒーロー殺しに切りつけられてから突然身体が動かなくなってしまったと証言したという。このことから、ヒーロー殺しの個性は剣で切りつけた相手の身体の自由を奪うモノはないかと解説者は推測していた。

 

 「割と初見殺しな個性だな。どこまで当てになるかは分かんねぇが」

 

ひとりでに呟く垣根。その後もテレビを付けていた垣根だったが後はそんなに面白そうなことはなかったので番組の途中でテレビを消し就寝した。

 

職業体験一日目、終了。

 




常闇ちゃんは別のとこです。ホークスは垣根と轟指名したって感じで。
まぁ常闇ちゃんインターンではちゃんとホークスのとこ行かせるんで…
えっ、行けるよね?

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