かの悪党はヒーローへ   作:bbbb.

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三十二話

 

 轟と飯田は気絶したステインを縄で縛り上げ、彼が所持していた武器を全て地面に置いた。そして縛り上げたステインを引きずりながら路地裏から出て先に出ていた垣根や緑谷と合流する。怪我が酷い緑谷はプロヒーローであるネイティブに背負われていた。するとそこへ、

 

 「む!?んなっ…なぜお前がここに!!」

 

新たな声がする。

 

 「あ!グラントリノ!」

 

その声に反応する緑谷。緑谷の視線の先には、一人の背の低い老人、グラントリノの姿があった。グラントリノは跳躍し、緑谷の顔面に蹴りを入れ、

 

 「座ってろっつったろ!!」

 

一言緑谷を叱りつける。

 

 「誰?」

 「僕の職場体験の担当ヒーロー、グラントリノ」

 

ネイティブの背中でぐったりしながら轟の質問に答える緑谷。

 

 「まァ…よぅ分からんがとりあえず無事なら良かった」

 「ごめんなさい…」

 

緑谷は申し訳なさそうにグラントリノに謝罪する。すると、

 

 「オイジジイ、こりゃどういうことだ?」

 「ん?」

 

聞き覚えのある声がグラントリノの耳に聞こえ、思わず振り返るとそこには垣根が立っていることに気付いた。

 

 「て、帝督!?なんでお前がここに!?」

 「そりゃこっちの台詞だ。それに緑谷の担当ヒーローだと?どういうことか全部説明しろ」

 「そ、それは…」

 

垣根の追及に言葉を詰まらせるグラントリノ。その様子を見た緑谷が遠慮がちに口を挟む。

 

 「あの~、ひょっとして垣根君とグラントリノってお知り合い、ですか?」

 「ま、まァそんなとこだな…」

 「……」

 

グラントリノは気まずそうに答えるが、垣根は緑谷の質問には答えず、グラントリノを睨み付けている。しかし、その先の会話が行われる前に数人の大人がこちらに駆けつけてくるのに皆が気付く。

 

 「エンデヴァーさんから応援要請承ったんだが…」

 「子供?」

 「ひどい怪我じゃないか!?今すぐ救急車呼ぶから!」

 「?おい、こいつ…」

 「えっ!?まさかヒーロー殺し!?」

 

駆けつけたプロヒーロー達が縄で縛られているステインに気付く。その後すぐに病院と警察に連絡するプロ達。その間に緑谷と轟、飯田は怪我の具合を聞かれていた。

 

 (なんだか騒がしくなってきたな。面倒くさくなる前に退散するか)

 

一人離れたところに移動していた垣根が今のうちに退散しようと考えていたところ、

 

 「おい帝督。どこへ行く?」

 

グラントリノに見つかり呼び止められる。

 

 「うるせぇな。どこだっていいだろ」

 「よくないわ!大体お前、職場体験はどうした?まさかすっぽかしたのか!?」

 「俺がその質問に答えたらテメェが緑谷を指名した理由も教えてくれんのか?」

 「むっ…!?」

 

垣根に痛いところを突かれ、またもや黙り込んでしまうグラントリノ。

 

 「まぁ今この場であれこれ詮索するつもりはねえ。俺も早くアイツのとこに戻らなきゃならねえしな。だが…」

 「(ヴィラン)!?」

 

垣根の言葉を遮るかのように突如、プロヒーローの声が響く。垣根とグラントリノが会話を止め声の方を見ると、空から羽の生えた脳無がこちらに急降下し、足で緑谷を捕まえて飛び去っていく。

 

 「緑谷君!」

 「血が…!やられて逃げて来たのか!?」

 (いかん…!あまり上空に行かれると、俺の個性じゃ届かなくなる!)

 (チッ、仕方ねぇ…)

 

心の中で舌打ちしつつ、垣根が翼を出そうとしたその時、バッッ!!っと黒い影が垣根達の横を駆け抜け、脳無の方へ向かって行く。すると突然、空中の脳無はまるで金縛りにでもあったかのように急に動きを止め、そのまま落下していった。そして、黒い影の正体であるステインが脳無の脳みそにナイフを突き立て、脳無を地面に組み伏せる。

 

 「少年を助けた!?」

 「バカ!人質とったんだ!」

 「躊躇無く人殺しやがったぜ!」

 「いいから戦闘態勢取れとりあえず!」

 

プロ達がステインに対して戦闘態勢をとると、

 

 「なぜ一塊で突っ立っている?こっちに敵が逃げてきたはずだが…」

 

炎を纏ったヒーロー、エンデヴァーが駆けつけた。

 

 「あちらは、もう…?」

 「多少手荒になってしまったがな。後始末はホークス達に任せてここまで来たのだが…して、あの男はまさかの…」

 「ハァハァハァ…エンデヴァー…!!」

 「ヒーロー殺し!」

 「待て!轟!」

 

ヒーロー殺しだと分かるや否や、早速攻撃を仕掛けようとするエンデヴァーだったが慌ててそれを止めるグラントリノ。するとステインがゆっくりと立ち上がり、こちらに振り向く。

 

 「偽者…!!」

 

顔の包帯は取れ、素顔が露わになる。鬼の形相を浮かべながら、ステインは憎悪とともに言葉を放つ。

 

 「正さねば…誰かが…血に染まらねば…!!ヒーローを、取り戻さねば!!!」

 

言葉を発する度に一歩一歩、歩を進めるステイン。相手は既に戦える身体ではない。そんなことは分かりきっていることなのに、

 

 「「「……っ!?」」」

 

この場にいる誰もがステインの姿に畏怖を覚える。

 

 「来い!来てみろ偽者共!!俺を殺していいのは本物の英雄(ヒーロー)、オールマイトだけだ!!」

 

力強く叫ぶステイン。圧倒的狂気。ステインから発せられる狂気は百戦錬磨のグラントリノやエンデヴァーでさえ、思わず気圧されている。蛇に睨まれた蛙のように、ステインの圧に呑まれたヒーロー達は完全に動けなくなってしまった。

 

 「なるほど。ただのイカれた殺人鬼だと思ってたが、どうやらテメェにもテメェなりの大義があるらしい。その執念だけは認めてやる。大した『悪』だ」

 

皆がその場で佇む中、垣根は一歩前に出て言葉を放つ。そして、

 

 「だが一つだけ間違いがある。テメェを殺すのはオールマイトなんかじゃねぇ。この俺だ」

 

静かにそう言い放つと、垣根の背中から一斉に翼が出現する。そしてゆっくりとステインに歩み寄っていく垣根。だが、

 

 「あ?…こいつ、もしかして…」

 「気を…失ってる…」

 

エンデヴァーが言葉の先を引き継ぐ。そう、ステインは立ったまま気を失っていたのだ。それが分かった途端、どっと息を吐き出すヒーローや飯田達。中には座り込んでしまう者もいた。垣根は舌打ちをしながら翼を引っ込めた。

 

 その後、改めてステインを拘束し、警察へ引き渡した。轟、緑谷、飯田は怪我の手当てのため、病院に運ばれた。事件の事情聴取なども受けるのだろう。一方垣根はと言うと、警察や救急車が来る前にこっそりホークスの下へ戻っていった。面倒くさい事情聴取に巻き込まれるのはごめんだったし、プロヒーローの観察外で個性を使用したことはあまり褒められたことではないだろう。勿論、垣根がここで逃げたところで、緑谷達かプロヒーローの誰かが警察に告げ口したら終わりな訳だが、そこはそうならないよう祈るしかない。ともかく、広場の方で怪我人の手当てなどに当たっていたホークスの下へ垣根が帰還すると、初めはどこ行ってたんだとか連絡をちゃんとしろとかグチグチ怒られた。そして、今まで何があったかをホークスに説明すると、更にグチグチ言ってきたが、垣根が全然真面目に聞いていないことを察すると大きくため息を吐きながら説教を終えた。その後は垣根もホークスの仕事の手伝いをし、それが終わると近くのビジネスホテルに泊まった。そして明朝、垣根とホークスは再度空港に行き、九州に向かって飛び立った。九州に戻った後は本来の職場体験が再び始まった。ホークスの手伝いで奔走しているとあっという間に期間の一週間が過ぎ、垣根の職場体験は終わりを告げた。

 

 




職場体験篇終わりです!次は期末試験ですね!ここから徐々に新約の内容を入れていこうかなと思ってます!今後もよろしくお願いします。

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