三十三話
職場体験期間が終わり、再び学校生活が始まった。久々に学校に登校すると、教室では職場体験の話で持ちきりだった。思っていた以上に刺激になった者もいれば、期待していたようなものではなかった者もいる。そして職場体験の話となれば当然、緑谷達にも注目がいった。彼らは職場体験の際、あのヒーロー殺しと遭遇したのだ。皆が気になるのも無理はない。ヒーロー殺しについてあれこれ聞かれた緑谷達だったが、無難な返答をして乗り切る三人。飯田も心の折り合いが付いたのか、元の元気を取り戻したみたいだった。そんなわけで、職場体験の熱が覚めやらぬまま学校生活は再開することとなった。再開初日は何も目新しいことは無かったが、強いて言うならヒーロー基礎学だろうか。その日のヒーロー基礎学では救助訓練レースを行うことになった。複雑に入り組んだ迷路のような密集工業地帯を模した運動場で、誰が最初にオールマイトを助け出せるか競う訓練だ。レースは五人四組に分かれて一組ずつ行われる。その中で一際目立っていたのが緑谷だった。以前のように一か八かの超パワーではなく、全身に力を行き渡らせ、自在に密集地帯を動き回っていた。その姿に思わず驚きの声を上げるクラスメイト達。だが動いている最中に足を滑らせてしまったため、惜しくも勝利には繋がらず、その組では瀬呂が勝利した。しかしそれでも、緑谷が成長していることはしっかりと他のクラスメイト達にも分かっただろう。ちなみに垣根はと言うと、別の組でいつものように空を飛び、余裕綽々で勝利した。ヒーロー基礎学が終わると、後は普通の座学が行われ、その日は終わった。
そして次の日。朝のHRで相澤が生徒達に向かって話す。
「え~、そろそろ夏休みも近いが、もちろん君らが一ヶ月休める道理は無い」
「まさか…!」
一瞬の静寂の後、相澤が再び口を開く。
「夏休み、林間合宿やるぞ」
「「知ってたよ!やった~!!」」
「肝試そ~!」
「風呂!」
「花火」
「行水!」
「カレーだな」
「湯浴み!」
「自然環境ですとまた活動条件が変わってきますわね。」
「いかなる環境でも正しい選択を、か…面白い」
「寝食みんなと!ワクワクしてきた!」
「ただし!!!」
皆が騒いでいる中、相澤が強めの口調で口を挟み、再び静まりかえる教室。
「その前の期末テストで合格点に満たなかった奴は補習地獄だ」
「みんな!頑張ろうぜ!」
「クソくだらねぇ」
「女子!頑張れよ!」
「…マジでくだらねえな」
その後HRは終わり、通常授業が始まった。こうしてしばらくは普通の学校生活が続いた。体育祭や職場体験と慌ただしい日々を過ごしていた生徒達には、久しぶりの心地よい平穏だった。そして時は過ぎ、期末試験一週間前。相澤が授業終わりに生徒達に伝える。
「よし、授業はここまでにする。期末テストまで残すところ一週間だが、お前らちゃんと勉強してるだろうな?当然知ってるだろうが、テストは筆記だけでなく演習もある。頭と身体を同時に鍛えておけ。以上だ」
そう言い残し、教室から出て行く相澤。その瞬間、
「「全く勉強してな~い!!」」←中間19位&20位
上鳴と芦戸が声を上げる。上鳴は危機感を覚えてそうだったが、芦戸に関してはなぜだか楽しそうに笑っていた。
「確かに、行事続きではあったが…」←15位
「中間はまぁ、入学したてで範囲狭いし、特に苦労なかったんだけどな。行事が重なったこともあるけど、やっぱ、期末は中間と違って…」←13位
「……」←12位
「演習試験もあるのが辛ぇとこだよな」←10位
「「中間10位!?」」
「あんたは同族だと思ってたのに~!!」
「お前みたいな奴はバカで初めて愛嬌が出るんだろうが!!どこに需要あんだよ!!」
「世界、かな」
期末試験が間近に迫り、焦り出す成績下者達。
「芦戸さん上鳴君!頑張ろうよ!やっぱ全員で林間合宿行きたいもん!ね!?」←5位
「うん!俺もクラス委員長として皆の奮起を期待している!」←3位
「普通に授業出てりゃ赤点は出ねぇだろ」←6位
「言葉には気をつけろ…!!」
成績上位陣から励ましの言葉を受けるも、逆に心にダメージを負う上鳴。すると上鳴と芦戸はある人物の下へ行き、。
「頼む垣根!勉強教えてくれ!」
「垣根~、お願~い!」
「あ?」
中間テスト一位の男に頭を下げる。面倒くさそうに振り向く垣根。
「俺達このままじゃ林間合宿行けねぇんだよ!だから頼む!お前のその賢さを俺達にも分けてくれ!」
「なんでそんな面倒くさいこと俺がやらなきゃならねぇんだ?悪いがお断りだ。大体、あのレベルの授業で何が分からねえのか俺にはさっぱり分からねぇよ」
「ってお前酷すぎるだろ!?ダチがこんなに必死で頭下げてんだぞ!ちっとは手貸してくれても良いだろうが!!情ってモンがねえのかお前には!?」
「そーだそーだ!」
「1㎜もねえな」
「「この悪魔ーー!!!」」
「うぜぇ…」
垣根の席の前で騒ぎ立てる芦戸達。すると、
「お二人とも、座学なら私、お力添え出来るかも知れません」←2位
「「ヤオモモ~!!!」」
「演習の方はからっきしでしょうけど…」
「ん?」
成績がヤバめの二人に八百万が声をかけ、それに感激する芦戸達。さらに、
「お二人じゃないけどさ、ウチもいいかな?二次関数、ちょっと応用躓いちゃってて」←8位
「えっ?」
「悪ぃ俺も!八百万、古文分かる?」←18位
「えっ?」
「俺もいいかな?いくつか分からない部分あってさ」←9位
「「「お願い!!!」」」
耳郎や瀬呂、尾白までもが八百万に勉強について教えてほしいと頼みこむ。それを聞いた八百万は感激のあまり目を輝かせながら、
「皆さん…!!いいですともぉ~!!」
嬉しそうに声を上げる。快諾してくれた八百万に対し、安堵する耳郎達。
「やったぁーー!!」
「では、週末にでも私の家でお勉強会を催しましょう!」
「マジで!?ヤオモモん家超楽しみィ~!」
「あぁ、そうなるとまずお母様に報告して講堂を空けていただかないと…!」
((講堂!?))
「皆さん、お紅茶はどこかご贔屓がありまして?」
((お紅茶!?))
「我が家はいつもハロッズかウェッジウッドなのでご希望がありましたら用意しますわ!もちろん勉強のことも任せてください!必ずお力になって見せますわ!」
(ナチュラルに生まれの違いを見せつけられたけど…)
(なんか超プリプリしてんの超カァイイからどうでもいいや)
一人張り切る八百万の姿を和やかな気持ちで見守る上鳴達。
「何やってんだコイツら」
垣根は目の前の奇妙な光景を見て呆れながら呟くと、八百万が躊躇いがちに垣根に声をかける。
「あの…もしよろしかったら垣根さんもご一緒にどうでしょうか?」
「あ?」
「私より成績が上の垣根さんがいた方が皆さんも心強いと思いますし、私も垣根さんにお力添えしてもらえると嬉しいですわ」
「…いや、悪いが俺はパスだ。そういうのはガラじゃねぇ」
「そ、そうですか…」
垣根に断られて気を落とす八百万。すると、
「おい垣根テメェ!!せっかく八百万が誘ってくれてんのにその態度はなんだコラァァァ!!」
「そーだよ!!少しくらいウチらのこと手伝ってくれもいいじゃん!!」
「女泣かすのは最低だぞお前!」
「いや、別にヤオモモ泣いてないけどね」
「…何なんだよお前らは」
さっきまで和んでいた上鳴達が凄い剣幕で垣根に詰め寄る。その圧に少し気圧されながらも八百万の方を見ると、誰が見ても分かるようにションボリと肩を落としている八百万。そして目の前には無言の圧力をかけてくるクラスメイト達。何やら考えていた垣根だが、やがてため息を吐き、
「仕方ねえな。まぁ、暇だったら行ってやるよ」
諦めたようにそう呟く。それを聞いた八百万はパッ!と顔を輝かせ、
「本当ですか!?ありがとうございます垣根さん!」
嬉しそうにそう言った。
そして昼休み。垣根はA組の生徒達と昼食をとっていた。その中で緑谷が不安そうに呟く。
「演習試験かぁ。内容不透明で怖いね」
「突飛なことはしないと思うがなぁ」
「筆記試験は授業範囲内から出るから、まだ何とかなるけど」
「まだ、何とかなるんやな…」←14位
「演習試験、ほんと何するんだろう?」
「一学期でやった総合的内容」←17位
「…とだけしか教えてくれないんだもの相澤先生」←7位
「今までやった事って、戦闘訓練と救助訓練、あとは基礎トレ…」
「試験勉強に加えて体力面でも万全に…うっ!?」
緑谷が言葉の途中で突然うめき声を上げる。
「ああゴメン。頭大きいから当たってしまった」
「B組の!?…えぇっと、物間君!!」
緑谷が頭を押さえながら側に立っている金髪の青年の方を見る。
「よくも…」
「君ら、ヒーロー殺しに遭遇したんだってね。体育祭に続いて注目浴びる要素ばっかり増えていくよねA組って。ただその注目って決して期待値とかじゃなくてトラブルを引きつける的なものだよね。あ~怖い。いつか君たちが呼ぶトラブルに巻き込まれて僕らまで被害が及ぶかもしれないなぁ!疫病神にたたられたみたいに、あ~怖…こふっ!?」
A組の生徒達に対して盛大に毒を吐いていた物間の言葉が突如とぎれる。そして物間の身体が沈み込むと同時に、こちらも聞き覚えのある声が聞こえる。
「物間シャレにならん。飯田の件知らないの?」
「拳藤君!」
「ゴメンなA組。コイツちょっと心がアレなんだよ」
(心が!?)
B組の拳藤が物間の首根っこを掴みながらA組の生徒達に謝罪する。その光景に何となく既視感を覚えたA組。拳藤が更に続ける。
「アンタらさ、さっき期末の演習試験、不透明とか言ってたね。入試の時みたいな対ロボットの実践演習らしいよ」
「えっ!?本当!?何で知ってるの!?」
「私先輩に知り合いいるからさ、聞いた。ちょっとズルだけど」
「いやズルじゃないよ。そうだきっと前情報の収集も試験の一環に織り込まれてたんだ。そっか先輩に聞けば良かったんだ。何で気付かなかったんだブツブツ…」
いつもの緑谷現象が発生し、引き気味にそれを見ていた拳藤だったが、
「ま、アンタなら楽勝でしょ?入試の時みたいにパパッと終わっちゃうんじゃない?」
「…だといいがな。」
ふと垣根に気さくに話しかけ、それに答える垣根。すると、
「バカなのかい拳藤?せっかくの情報アドバンテージを!ココこそ憎きA組を出し抜くチャンスだったん…だっ!?」
さっきまでダウンしていた物間が起き上がりながら拳藤に文句をつける。
「憎くはないっつ~の!」
拳藤は再び物間に手刀を決め、強制的に黙らせ、その身体を引きずりながらその場を去って行った。
「「やったぁ~~~!!」」
教室では上鳴と芦戸が喜びの声を上げていた。緑谷達が拳藤から聞いた話を聞いたのだ。
「んだよロボなら楽ちんだぜ!」
「ほーんとほんと!」
「お前らは対人だと個性の調整大変そうだからな。」
「ああ!ロボならブッパで楽勝だ!」
「私は溶かして楽勝だ!」
「あとは八百万と垣根に勉強教えてもらえば期末はクリアだ!」
「「これで林間合宿バッチリだぁ~!!」」
上鳴や芦戸を始めとする生徒達が期末試験について楽観視し始めたその時、
「人でもロボでもぶっ飛ばすのは同じだろ。何が楽ちんだアホか!」
爆豪が苛つきながら上鳴達に言い放つ。
「アホとは何だアホとは!」
「うっせぇな!!!調整なんか勝手に出来るもんだろアホだろ!!なぁ!?デク!」
「…!?」
上鳴達に噛みついた後、急に緑谷に話を振る爆豪。ハッとしながら緑谷は爆豪の方を見る。
「個性の使い方、ちょっと分かってきたか知らねぇけどよォ、テメェはつくづく俺の神経逆なでするな!体育祭みたいな半端な結果はいらねぇ。次の期末なら個人成績で否が応にも優劣が付く。完膚なきまでに差ァつけてテメェぶち殺してやる!!!」
「…っ!?」
「轟!垣根!テメェらもだ!!」
爆豪は緑谷だけでなく、轟と垣根に対しても宣戦布告する。すると、
「フッ…」
垣根が一人、下を向きながら鼻で笑う。
「何がおかしいんだテメェ!!!」
当然、爆豪が垣根に噛みつく。
「あ?何がおかしいってお前、そりゃお前自身だよ」
「あァ!?何言って…」
「――――――そんなに怖いか?緑谷の成長は?」
「…っ!?」
爆豪の言葉を遮るように呟かれた垣根の言葉に思わずビクリとする爆豪。それを見た垣根はニヤつきながら爆豪に尋ねる。
「何だよ。図星か?」
「…はァ!?んなわけねぇだろ!いくら成長しようがこんなクソナードどうでもいいんだよ!!」
「そう。どうでもいい。いくら緑谷が成長しようが、他の奴が成長しようがそんなものは関係ねえ。それ以上に自分が強くなればそれでいい。違うか?」
「何が言いてェんだテメェ…」
「小せぇっつってんだよ」
「あァ!?」
「ちょっと緑谷が動けるようになったからってピーピー喚きやがって。ガキかテメェは。だからお前は三下なんだよ野良犬が」
「んだとテメェ…!!!」
もう我慢の限界だったのか、爆豪が垣根に詰め寄っていく。そして垣根に掴みかかろうとする直前、切島や瀬呂が爆豪を止めに入る。
「おい爆豪!やめろって!」
「今喧嘩なんかしたら期末どころじゃなくなるぞ!」
「離せコラ!!!」
今にも垣根に殴りかかろうとしている爆豪を必死に押さえつける切島達。
「何だよやるってのか?別にいいぜ俺は。また
爆豪を見下ろしながら垣根は更に爆豪を挑発する。
「垣根もこれ以上煽るのはよせって!マジで爆豪が手ェ付けられなくなるから!」
「大体、お前らが
「心配すんな。俺だって限度は弁えてる。半殺し程度で済ませてやるよ」
「そーゆう問題じゃねぇ!!それに全然限度弁えてねぇじゃねーか!!」
「はァなァせェェェェ!!!」
そんな風に騒いでいると、突然教室の扉がガラッと開く。
「何やってんだお前ら!」
教室に入ってきた相澤が垣根達の方を睨み付けながら言う。それを見た爆豪は暴れるのを止め、切島達も動きを止める。しばらく教室に沈黙が訪れるが、チッ!と爆豪が派手に舌打ちをすると、そのまま教室を出て行った。
「おい待て爆豪!」
相澤が爆豪を呼び止めるも、爆豪は無視して帰ってしまった。呆れたようにため息を吐いた相澤は生徒達を見回すと、
「お前ら今日はもう授業無いだろ。だったらもう帰れ。それと垣根は後で職員室に来るように」
垣根以外に帰宅を命じて自分も職員室に戻っていった。