「ヒーロー殺しステインと
時は遡り、演習試験の数日前。会議室で校長が手元の資料を見ながら呟く。会議室には校長先生だけでなく、雄英の教師陣が全員居合わせており、期末の演習試験について話し合いが行われていた。
「もちろんそれを未然に防ぐことが最善ですが、学校としては万全を期したい。これからの社会、現状以上に対敵戦闘が激化すると考えればロボとの戦闘訓練は実戦的ではない。そもそもロボは『入学試験という場で人に危害を加えるのか』等のクレームを回避するため」
「無視しときゃいいんだそんなもん。言いたいだけなんだから」
「そういう訳にもいかないでしょ」
「試験の変更理由は分かりましたが、生徒を二人一組にし、我々教師陣と戦わせるというのは…」
「ええ、少し酷だと思います」
「俺らがあっさり勝っちまったら点数もつけられないYO?」
「もちろんその辺りを考慮して教師側にはハンデを付ける予定だ」
「校長、いかがでしょうか?」
「いかがも何も、僕は演習試験の内容変更に賛成してるよ。これ以上生徒達を危険に遭わせないために我々は何をすれば良いか。答えは簡単!生徒自身に強くなってもらうことさ」
「ですね」
「異論ありません」
校長の賛同によって演習試験の変更が決まった。他の教師陣もそれに納得している様子だった。そして次に相澤が生徒のペアと対戦する教師の割り振りについて説明していく。
「では組の采配についてですが、まずは轟。ひと通り申し分無いが、全体的に力押しのきらいがあります。そして、八百万は万能ですが咄嗟の判断力や応用力に欠ける。よって俺が二人の個性を消し、接近戦闘で弱みを突きます」
「「異議なし!」」
「次に垣根と爆豪ですが…オールマイトさん頼みます」
「!」
「この二人に関しては能力や成績で組んではいません。ひとえに仲の悪さ。とは言え、正直迷いました。爆豪と緑谷も同じくらい仲が悪いですからね。爆豪と緑谷に関しては、まぁ昔から仲が悪かったというのもあるでしょうが、最近では緑谷の急成長が爆豪の苛つきを助長している節があります。一方、垣根と爆豪はシンプルに相性が最悪。犬猿の仲とはまさにアイツらのことを言うんでしょう。全く、困った奴らです」
「じゃあ、何でオールマイトの相手を爆豪くん緑谷くんペアじゃなくて垣根くん爆豪くんペアにしたの?」
相澤の説明を聞いたミッドナイトが尋ねる。
「垣根を相手できるのがオールマイトさんくらいしか思いつかなかったからだよ」
「…へぇ~、そういうこと」
相澤の答えを聞いたミッドナイトは得心がいったというような表情を浮かべる。体育祭での彼の活躍を見れば、相澤の評価が特別過大評価ではないことはこの場にいる誰もが理解していた。そして相澤はオールマイトの方を向きながら確認を取る。
「オールマイトさん、お願いしていいですか?」
「…ああ、了解した」
オールマイトは力強く頷きながらこれを了承した。
◆
そして現在に至る。垣根・爆豪ペアが発表されたところで校長が残りの対戦カードを一気に発表していく。
一戦目:セメントスVS砂藤・切島
二戦目:エクトプラズムVS蛙吹・常闇
三戦目:パワーローダーVS飯田・尾白
四戦目:相澤VS轟・八百万
五戦目:13号VS緑谷・麗日
六戦目:根津VS芦戸・上鳴
七戦目:プレゼントマイクVS耳郎・口田
八戦目:スナイプVS葉隠・障子
九戦目:ミッドナイトVS瀬呂・峰田
十戦目:オールマイトVS垣根・爆豪
「試験の制限時間は三十分!君たちの目的はこのハンドカフスを教師にかけるorどちらか一人がステージから脱出することさ!」
根津校長がそう言いながらハンドカフスをかざし、生徒達に見せる。
「先生を捕らえるか脱出するか…何か戦闘訓練に似てるな」
「ホントに逃げてもいいんですか?」
「うん!」
「とは言え戦闘訓練とは訳が違うからな!相手はちょ~~~~格上!!」
「格、上?イメージないんスけど」
「今回は極めて実戦に近い状況での試験。僕らを敵そのものだと考えてください」
「会敵したと仮定し、そこで戦い勝てるなら良し。だが…」
「実力差が大きすぎる場合、逃げて応援を呼んだ方が賢明。轟、飯田、緑谷、お前らはよく分かってるハズだ」
「「「……!!」」」
「戦って勝つか、逃げて勝つか…!」
生徒達が試験の概要について理解する。逃げるか戦うか、その判断力がこの試験の鍵になってくるのだ。
「そう!君らの判断力が試される。けどこんなルール逃げの一択じゃね?って思っちゃいますよね。そこで私たち、サポート科にこんなの作ってもらっちゃいました」
そう言ってオールマイトが何かを取り出して生徒達に見せる。
「超圧縮お~も~り~!体重の約半分の重量を装着する。ハンデってやつさ。古典だが動きづらいし体力は削られる。あっヤッバ…思ったより重っ…」
「戦闘を視野に入れさせるためか。ナメてんな」
「ああ、舐め腐ってやがる」
「HAHAHAHA!どうかな?」
垣根と爆豪を挑発するかのように強い目で見つめるオールマイト。説明が終わると相澤が段取りについて話し始める。
「よし。チームごとに用意したステージで一戦目から演習試験を始める。砂藤・切島、用意しろ」
「はい!」
「出番がまだの者は試験を見学するなり、チームで作戦を相談するなり好きにしろ。以上だ」
相澤の話が終わると教師陣は建物の中へ入っていく。そして生徒達も基本的にペア同士で作戦会議に移っていった。一方で垣根と爆豪に関しては、相澤の話が終わるとすぐに爆豪はどこかへ行ってしまった。そして垣根もそれを特に気に留めている様子はなく、建物の中に入っていった。
◆
垣根はモニター室にいた。普通は作戦会議をしている時間だろうが、爆豪がどこかへ行ってしまったのでそれが出来ない。たとえ爆豪がいたとしてもそんなことをする気がないのは垣根であったが。とにかく、何もすることが無くて暇だったので、他の者達の戦いを見ながら時間を潰そうと考えた垣根。モニター室には垣根の他にもう一人、リカバリーガールが椅子の座りながら垣根と共にモニターを眺めていた。
「さて、今日は激務になりそうだね」
モニターを見ながら呟くリカバリーガール。垣根も黙ってモニターを見つめていると、第一戦目が始まった。切島・砂藤の相手はセメントス。コンクリートを操る個性の使い手だ。二人が会場に入った途端、いきなりセメントスが攻撃を仕掛ける。二人はギリギリの所でそれを躱すと、切島は身体を硬化させ、砂藤は糖分摂取によってパワーを増し、一気にセメントスまで迫ろうとする。セメントスが生み出すコンクリートの壁を次々と破壊していく二人。一瞬、このまま突破してしまうのではないかと思われたが、そう甘くはなかった。二人が壁を壊し続けても一向にその数は減らない。二人が壁を壊すスピードより早く壁を生成しているのだ。このままでは二人は負けてしまう。なぜなら二人の個性には時間制限があるからだ。垣根はそこまで考えると、
「なるほど。俺達にとって相性が不利な教師をぶつけてるってことか」
ふと気がついたかのように呟く。すると、
「その通りだよ。自分の出番が来るまで対戦する教師との相性をじっくり考えるこったね」
リカバリーガールが垣根のつぶやきに反応し、助言した。
(相性ねぇ…)
垣根はオールマイトについて暫し考えていたが、やがてモニターに目線を戻す。モニターでは個性の制限時間が切れ、切島達がコンクリートの壁に押しつぶされていく様が映し出され、ついに気絶してしまう切島達。切島達のダウンが確認されると、両者の敗北をしらせるアナウンスが場内に響いた。
「やれやれ、初戦から出番かい」
面倒くさそうに立ち上がりながら、二人の治療に向かうリカバリーガール。
「中々いい個性だな。流石はプロってとこか」
垣根は画面に映っているセメントスを見ながら、愉快そうに口にする。そしてリカバリーガールは治療を終えると、再びモニター室に帰ってきた。すると時間をおかずに第二戦目が始まった。第二戦目はエクトプラズムVS蛙吹・常闇。エクトプラズムの個性は分身。開始の合図と共にエクトプラズムの個性が発動し、何体ものエクトプラズムが出現する。それを見た垣根はあることを思いつく。
(分身か…その発想は無かったな。俺の
垣根は考える。垣根の外見を未元物質でなぞれば、それっぽいモノは確かに出来上がるだろう。だが、垣根が思いついたのはそんなチープなモノではなかった
(ただの人形じゃねぇ。
垣根が思いついたことはクローンの製造に近い。恐らく今の最先端技術を集約しても、人間のクローンを創り出すことは不可能だろう。それ程、高度で未知数な概念なのだ。垣根はそれを未元物質で行う可能性について模索する。
(俺と同等の力を振るうためにはまず脳がいる。でなきゃ能力は発動できないからな。つまり俺の複製体を創るには未元物質で脳を創り出さなきゃならねぇ)
武器や道具などを創り出すことは造作もないし、今までもやってきたことではあるが、人間の臓器を創り出すなどということはやったことはおろか、考えたことすらなかった。とんでもない領域に足を踏み入れようとしている垣根。普通ならたとえ思いついたとしても、すぐに絵空事だと諦めてしまうだろう。だが、垣根帝督にその
(もし脳を創り出すことが出来れば、他の臓器を創ることも出来るようになるはず。いや、逆かもしれねぇな。まぁどっちでもいいが。そしてさらには筋肉や骨、神経までもが複製可能となれば、俺は人体を生成できるようになったと言っても過言ではない。未元物質による人体複製。おもしれぇ…やってやろうじゃねぇか)
尤も、たとえ脳を生成出来たとしてもそれだけで能力を使えるようになるわけではないが、それはまた後で考えれることとする。新たな目標について垣根が考えを巡らせていると、第二戦終了を告げるアナウンスが響いた。蛙吹・常闇チームの勝利に終わったらしい。その後も演習試験はどんどん進んでいき、緑谷・麗日チームが13号に勝利すると、先ほど試験を終えた飯田と八百万がモニター室に入ってきた。初めからモニター室にいた垣根と、一足先に試験を終えて垣根と共にモニター室にいた蛙吹がそちらを振り返る。
「麗日君クリアしたのか!流石だな!」
「ケロ!二人ともおめでとう!」
「蛙吹君もな!」
祝福し合う三人。垣根以外は全員試験を受け終わり、そして合格している。八百万は垣根の方を見ると軽くお辞儀をし、垣根もその場で小さく笑う。続く第六戦が始まったが上鳴・芦戸チームは根津の策略を突破できずに敗北。敗北を知らせるアナウンスが鳴り響くと今度は緑谷と麗日がモニター室に入ってきた。芦戸達の敗北を知り、残念がる二人。だが息を吐く暇も無く第七戦が始まる。耳郎・口田と音に関する個性持ちの二人に対して、相手はプレゼントマイク。その圧倒的な音圧で二人を苦しめるも口田が虫を操ることでプレゼントマイクに勝利した。
(音波か…そういうのもアリだな)
垣根はプレゼントマイクの個性を見ながらまたもやヒントを得る。そして第八戦・第九戦も教師達に苦しめられながらも生徒達が勝利した。峰田チームの勝利のアナウンスが流れると、垣根はモニター室を出ようとする。すると、
「垣根君!頑張って!」
「応援しているぞ垣根君!」
緑谷と飯田が垣根にエールを送る。緑谷達だけでなく女子三人も垣根の方を見つめていたが、垣根は振り返ることなくモニター室を出る。するとちょうどモニター室に入ろうしてきた轟と遭遇した。一瞬驚いた表情を浮かべる両者だったが何も言葉を交わすことなく、再び歩き出す垣根。すると、
「垣根」
轟が垣根を呼び止める。
「あ?」
「頑張れよ」
「…はいはい」
面倒くさそうに返事をしながら垣根は会場に向かった。
◆
「轟君!」
緑谷はモニター室に入ってきた轟を見ると驚いたように言う。
「緑谷か。通ったんだってな。」
「うん!轟君もおめでとう!」
「あぁ。お前もな」
二人が互いの合格を祝っていると、轟はモニターを見ながら皆に尋ねる。
「次の試験、オールマイト対垣根・爆豪の試験だがお前らはどう見る?」
「うん…まだ何とも言えないけど、少なくともかっちゃんが逃げに回るとは思えない。多分、全力でオールマイトを倒しに行くと思う」
「でも、相手はオールマイトよ。いくら爆豪ちゃんが強いとは言え、一人で勝てるような相手じゃないわ。仮に倒すとしても垣根ちゃんと協力しなきゃいけないと思うけど…」
「あのお二人、とても仲が悪いですからね。現に今まで何の作戦会議も行っていない様子でしたし…」
「ていと君と爆豪君ってデク君と爆豪君とは違う仲の悪さだよね」
「えっ!?そ、そうかな…」
「何にせよ、これまでの試験同様クリアするためには二人の協力が不可欠ということだな」
最強のヒーロー・オールマイト相手に二人はどう立ち回るのか。あらゆる憶測を立てながらモニター室にいる生徒達は試験開始の合図を待っていた。
一方、モニター室を出た垣根が演習試験の会場に着くと、既に爆豪は扉の前で待機していた。爆豪が垣根の到着に気付くと、後ろを振り返り垣根をギロリと睨み付けるがすぐに前にむき直る。垣根も特に何も言わずにその場で待機する。そしてしばらくすると、最後の試験開始の合図が鳴り響いた。
《垣根・爆豪チーム、演習試験レディ・ゴー!》
アナウンスと共に目の前の扉が開く。今この瞬間、No.1ヒーローへの挑戦が始まった。
旧約15巻と新約6巻しか読んでないんですけど、垣根が未元体になる話って他の巻で詳しい説明とかありますかね?(どうやって臓器作ったのかとか)あるなら読んだ方が良いのかなぁ・・・