かの悪党はヒーローへ   作:bbbb.

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I・アイランド~
三十八話


 「おおお!!すっげぇーーーー!!!」

 

 切島が目の前に広がる光景に驚きの声を漏らす。空港を出てすぐだというのに、そこにはまるで遊園地のような光景が広がっていた。切島だけでなく、後ろにいた垣根や爆豪も思わず目を丸くする。垣根達は今、I・アイランドに来ているのだ。体育祭の優勝者としてこの地への招待券が送られた垣根だったが、実はもう二枚招待券が同封されていたのだ。おそらく、友人や家族と来ても良いという運営側からの心遣いなのだろう。そのことをたまたま切島と話している際に口にしてしまい、切島に一緒に連れて行くようにせがまれた。面倒だし最初は断っていた垣根だったが、あまりにもしつこく頼んでくる為、渋々了承してしまった。さらに彼はもう一人連れて行きたいヤツがいることを垣根に伝え、色々面倒くさくなった垣根は切島の好きにするよう言った。そして当日、待ち合わせ場所で待っていた垣根の前に現れたのは爆豪を連れた切島だったというわけだ。垣根と共に旅行に行くなど爆豪ならば秒で断りそうな案件だが、おそらく切島が頑張りまくったのだろう。そんな訳でI・アイランドの地に降り立つことになった三人であった。

 

 「行くぞ。まずはホテルにチェックインする」

 

垣根は先頭を歩いて行き、切島爆豪もそれに続く。I・アイランド。それは世界中から選りすぐりの才能を集め、個性やコスチュームについての研究を行う人工島である。そのセキュリティーはとても頑丈で、敵達を収容しているタルタロスにも匹敵するらしい。そしてI・アイランドでは個性の使用が自由なのも特徴の一つだ。パビリオンには個性を使ったアトラクションも多いという。そんな夢のような島がこのI・アイランドな訳であるが、生憎と垣根は観光目的でこの地を訪れたわけではない。垣根の能力の更なる飛躍のためにここに赴いたのである。

 

 (今夜のI・エキスポのパーティー…そこには世界的な科学者も多く出席するはずだ。コンタクトを取るとしたらその時だな)

 

垣根が今後の計画を立てながら滞在用のホテルにたどり着く。ホテルのフロントに話を通し、チェックインを済ませた三人。夜のパーティーまではまだまだ時間があり、どうしようかと考えていると、

 

 「じゃあさ、観光しようぜ観光!」

 

切島が二人に提案する。

 

 「あァ?観光?んなモン明日いくらでも出来ンだろ」

 「そうだけどよ。出来るだけ色んなモン見ときてぇだろやっぱ。どうせ暇なんだしいいだろ?な?」

 「…チッ、面倒くせぇ」

 「ま、暇なのは事実だしな。ブラつくのも悪くねぇか」

 「よっしゃ!じゃあ早速行こうぜ!」

 

結局パーティーの時間までI・アイランドを観光することにした三人。しばらく街中を歩いて色々な場所を見に行った垣根達だったがふと切島が足を止めて目の前の岩の形をしたスタジアムを見上げる。中からは時折歓声が聞こえてくるので恐らく何らかの競技を行っている最中なのであろう。どんな事をやっているのか気になった三人は観客席に足を運ぶ。そこからフィールドを見ると、何やらゲームのような催しをしていることが分かった。実況の声などからルールを推察するに、目の前の岩山にいくつかの仮想敵が設置されていて、それらをいかに早く撃破できるかを競っている様子だった。それを見ていた切島が、

 

 「何か面白そうだな!おい爆豪、垣根!誰が一番早いタイム出せるか競争しようぜ!」

 

垣根と爆豪にゲーム参加を促す。爆豪も珍しく乗り気な様子でそれに答える。

 

 「上等だクソ髪!おいメルヘン野郎!今度こそぶっ潰してやるから覚悟しとけよ!!」

 「はいはい」

 

垣根が適当に返事を返すと切島と爆豪は下に行き準備を整える。しばらくすると切島がゲートから出てきてスタートの合図を待つ。そしてスタートの合図が鳴らされると共に勢いよく岩山まで走ると、全身を硬化させ、次々と仮想敵達を破壊していく切島。全ての敵を倒し終えると実況の声が会場にこだました。

 

 《クリアタイム33秒!第八位です!》

 「「「おおぉ~!」」」

 

会場では切島のパフォーマンスに感心の声が上がる。すると、

 

 「切島君!?」

 

垣根の耳に聞き慣れた声が聞こえ、思わずその方向を見るとそこには緑谷の姿があった。いや、緑谷だけではない。その後ろには麗日、八百万、耳郎、飯田の姿までもが確認できる。

 

 「お前ら、こんなとこで何してんだ?」

 「って垣根君まで!?」

 「おぉ~!ていと君!」

 

垣根は緑谷達の下へ歩み寄りながら尋ね、緑谷達も垣根に気付き反応する。だが緑谷が何か言葉を発する前に実況が次の対戦相手のアナウンスをし、再びフィールドに目を向ける緑谷。そしてまたもや驚きの声を上げた。

 

 「かっちゃん!?」

 《それでは敵アタック、レディーゴー!!》

 

緑谷の反応などお構いなしにゲームのスタート合図が鳴らされる。開始の合図と共に爆豪は爆破によって勢いよく空を飛び、一気に岩山まで迫ると目にもとまらぬ速さで敵を撃破していく。

 

 《これは凄い…!!クリアタイム15秒!?トップです!!》

 「「「おおおおおお!!!」」」

 

実況や会場が驚きの声を上げる。平然とこちらに帰ってくる爆豪だが切島の声で緑谷達の存在に気付くと途端に血相を変え、一直線に緑谷の下へ飛んでいき、吠える。

 

 「何でテメェがここにいるんだァ!!??」

 「や、やめようよかっちゃん…人が見て…」

 「だから何だっつぅんだァ!?」

 「やめたまえ爆豪君!!」

 

飯田が二人の間に割って入り、爆豪を諫める。緑谷の後ろでそれを見ていた金髪の女性は不思議そうに呟いた。

 

 「あの子どうして怒ってるの?」

 「いつものことです…」

 「男の因縁ってやつです!」

 

耳郎と麗日がそれに答える。

 

 (コイツ誰だ?)

 

しれっと緑谷達と一緒にいるが一体何者なのか。垣根がそれを聞こうとする前に八百万が垣根に尋ねてきた。

 

 「垣根さん達もエキスポに招待を受けたんですの?」

 「達っつーか招待されたのは俺だけだがな。コイツらは俺の付き添いだ」

 「んで何?これから皆でアレ挑戦すんの?」

 

切島がそう言いながら後ろの岩山を指で示す。

 

 「やるだけ無駄だ!俺の方が上に決まってんだからな!」

 「うんそうだねぇうん…」

 「でも、やってみなきゃ分からないんじゃないかなぁ」

 「うんそうだねぇ…って!?」

 「だったらはよ出て惨めな結果出してこいやクソナードがァ!!!」

 「は、はい…」

 

こうしてなぜだか緑谷がゲームに挑戦することとなった。

 

 《さて、飛び入りで参加してくれたチャレンジャー!一体どんな記録を出してくれるのでしょうか!?敵アタック、レディーゴー!!》

 

開始の合図と共に緑谷は凄い速さで走り出し、一気に岩山を飛び越えていく。そしてその拳で仮想敵をどんどん壊していき会場の注目を集めた。

 

 《これは凄い!16秒!第二位です!!》

 「「「おおおおおお!!」」」

 

拍手を浴びながら帰還してくる緑谷。

 

 「ん~~~惜しい!!」

 「流石だな緑谷君!」

 「まさかかっちゃんの記録にここまで迫れるなんて…」

 「だァーーーーーありえねぇ!!!もっかい突き放したらァ!!!!」

 

爆豪が闘志を燃やしながら再び吠えると、突如会場に震えが走る。皆がフィールドに目線を戻すとそこには岩山が凍り漬けにされている光景が広がっていた。

 

 《きゃあーーーーー!!!凄い凄い凄い!!!じゅ、14秒!?現在トップに躍り出ました!!》

 「「「おおおおおおおおおおおおおお!!!」」」

 「轟君!?」

 

白い息を吐く轟を緑谷が驚いた様子で見る。轟もこの地に来ていたのだ。そしてまたもや金髪の女性が尋ねる。

 

 「彼もクラスメイト?」

 「はい!」

 「皆凄いわね!流石ヒーローの卵!」

 「そんなこと…//」

 

八百万達が照れながら答えていると、またしても爆豪が爆破で飛び出し、轟に食ってかかる。

 

 「テメェ!!この半分野郎!!!」

 「爆豪…」

 「いきなり出てきて俺スゲェアピールかコラ!?」

 「緑谷達も来てんのか…」

 「無視すんな!!大体何でテメェがここにいんだよ?」

 「招待受けた親父の代理で」

 「あ、あの~、次の方が待って…」

 「うっせェ!!次は俺だァ!!!」

 

すっかり頭に血が上ってしまっている爆豪。それを見た飯田が急いで爆豪の下に向かいながら皆にも声をかける。

 

 「皆!止めるんだ!!雄英の恥部が世間にさらされてしまうぞ!!」

 「お、おう!」

 

切島や緑谷も慌てて爆豪を止めに入る。その間に垣根は謎の金髪女性の下へ近づき、接触を図った。

 

 「よう。俺は垣根帝督。コイツらと同じ雄英生徒だ。アンタはコイツらと知り合いみたいだが…」

 「あ、初めまして!私はメリッサ・シールドです!デク君をこの街に案内している最中に彼女たちとお会いしたの!」

 「へぇ~緑谷を…ってことはアレか?アンタ、緑谷の彼女か何かか?」

 「かっ…彼女!?」

 

会話を聞いていた麗日がなぜだか酷く動揺していたがメリッサは笑いながら否定する。

 

 「いやいやそんなんじゃないよ。ただ、マイt…じゃなかった、えっと…パパの招待でデク君がこの島に来たから私が案内してたってわけ」

 「パパ?」

 「そ。私のパパ。デビット・シールドよ」

 「デビット・シールド…」

 

垣根は聞き慣れない名前に疑問を抱く。すると耳郎が驚いた様子で垣根に言った。

 

 「えっ!?もしかして垣根、デビット・シールド博士の事知らないの!?」

 「?知らねぇけど?」

 「嘘でしょ!?デビット・シールド博士と言えばノーベル個性賞を受賞した個性研究のトップランナー。あのオールマイトのアメリカ時代の相棒でオールマイトのコスチューム全てを発明した超天才発明家だよ」

 「へぇー。」

 「ていと君相変わらず世間に疎いんやね…」

 

耳郎が垣根にデビットについて説明する。それを聞いた垣根は、

 

 (天才発明家か。よし決めた。まずはコイツからだな)

 

小さく笑いながら心の中でそう呟くと再びメリッサに声をかける。

 

 「なぁ、アンタの父親に…」

 「オイ垣根ェ!!!!」

 

垣根がメリッサに話しかけている途中に爆豪の声が割って入る。垣根が面倒くさそうにフィールドの方へ目を向けると、切島達に押さえつけられながらも、凄い形相でこちらを見ている爆豪の姿。

 

 「あ?何だようるせぇな」

 「何だよじゃねェ!!テメェもとっととコレやりやがれ!!じゃねぇと勝負つけらんねぇだろうが!!!」

 

爆豪が垣根に向かって吠える。垣根は心底面倒くさそうにため息を吐き、

 

 「…ったく、キャンキャンキャンキャン吠えやがって。本当に犬野郎だなアイツは」

 

そう言いながら下へ降りた。そしてゲートから垣根が入場すると実況のアナウンスが鳴り響く。

 

 《さあ!今日午前の部最後の挑戦者です!!一体どんなパフォーマンスを見せてくれるのでしょうか!?》

 「おいメルヘン野郎!!本気でやれよテメェ!!」

 「垣根ー!!いったれーーー!!」

 「ていと君頑張れー!!」

 

観客は勿論、生徒達も垣根に注目する。そんな中、メリッサが八百万に尋ねる。

 

 「あの子も凄い子なの?」

 「クスッ、それは見てからのお楽しみですわ」

 「?」

 

笑いながら答える八百万に怪訝そうな顔をするメリッサ。と、ここで実況の開始の合図が鳴り響く。

 

 《それでは敵アタック、レディーゴー!!》

 

開始と同時に垣根の背中から純白の白い翼が現れる。そして一瞬で天高くまで昇っていき、眼下の岩山を眺めながら敵の数を数えた。

 

 (2,4…6か。ちょうどだな)

 

瞬時に敵が六体であることを確認すると、背中の六枚の翼を一斉に伸ばし、全機に同時に攻撃する。

 

 ズガァァァァン!!

 

轟音を立てながら各翼は仮想敵を貫き、一斉に爆発を起こした。そしてゆっくりと地上に降り立つ垣根。一瞬の静寂の後。実況が我に返ったかのように慌ててタイムをアナウンスする。

 

 《き、記録は…えっ!?ご、5秒!!??な、なんとまさかの一桁台が出ましたーーーー!!!信じられません!?》

 「「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」

 

会場がどっと沸く。そして生徒達も驚きの表情を浮かべていた。

 

 「ご、5秒!?はっっっや!!!」

 「一瞬だったな…」

 「わーい!ていと君すごーーい!!」

 「流石は垣根だね」

 「やっぱり凄いや垣根君!」

 「ぐぬぬぬ……!!」

 

悔しそうに歯ぎしりしながら垣根の方を睨めつけている爆豪以外は皆垣根に賛辞を送る。一方同じくそれを見ていたメリッサも驚いた様子で言葉を口にした。

 

 「す、凄い…!!!本当に一瞬で終わっちゃった…とんでもない人ね!」

 「ええ。本当に凄いお方ですわ」

 

八百万が笑顔でそう返す。その後この催しは一旦終わり、昼食休憩を挟んだ。垣根達もそこで緑谷達と別れ、また色々な場所を回っていった。

 




轟って絶対14秒もかかってないと思うんですけど・・・

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