かの悪党はヒーローへ   作:bbbb.

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三十九話

 18時53分。垣根はセントラルタワー2階のレセプション会場にいた。エキスポのパーティーの招待客として招かれたからだ。飯田に18時30分に皆で待ち合わせしてから行こうと提案されたが、垣根は会場に集まる様々な学者について前もって見ておきたかったので一足先に会場に足を運ぶことにしたのだ。服装も先ほどのコスチューム姿ではなく、ちゃんとした正装に着替えている。だが、もう飯田達も会場についても良い頃なのに一向に現れる気配は無い。何をやっているのだろうかと考えていると、垣根の耳に聞き慣れた声が聞こえる。

 

 「やあ垣根少年!元気そうだね!」

 「…オールマイトか。あんたも来てたんだな」

 「ああ。私の友人の紹介でね」

 

そう言いながらオールマイトは隣に立っている男の方を示す。

 

 「紹介しよう。私の古くからの友人でありかつての相棒、デビット・シールドさ!」

 「はじめまして。垣根君、だったかな?よろしく」

 

オールマイトに紹介された男、デビットが垣根に挨拶し握手を求めると垣根も黙ってそれに応じた。

 

 (デビット・シールド…耳郎が昼間言ってたヤツか。まさかこんなに早く会えるとはな。ツいてるぜ)

 

思わぬ巡り合わせに笑みを浮かべる垣根。そして垣根もデビットに話しかける。

 

 「噂はかねがね。貴方ほどの人にお会いできるとは光栄ですね」

 「ハハハ!よしてくれ。照れるじゃないか」

 (垣根少年が敬語を使ってる!?私にもあまり使ってくれないのに…!)

 

こうして垣根はデビットとコンタクトを取ることに成功した。二人はその後も軽く話し、主に今デビットがどんな研究を行っているのかなどを垣根は聞き出す。そして垣根が本題に入ろうとしたとき、司会のアナウンスが会場に響いた。

 

 《えー、ご来場の皆様、I・エキスポのレセプションパーティーにようこそお越しくださいました。乾杯の音頭とご挨拶は来賓でお越し頂いたNo.1ヒーロー・オールマイトさんにお願いしたいと思います。皆様、盛大なる拍手を!》

 

司会の言葉と共に会場に拍手の音が鳴らされ、オールマイトは若干戸惑いつつもステージに向かい壇上で話し始めた。

 

 「ご紹介にあずかりましたオールマイトです。堅苦しい挨拶は…」

 

しかし、オールマイトの言葉が最後まで紡がれることはなかった。オールマイトの言葉の途中で突然甲高い警報音が鳴り響き、オールマイトの背後のモニターにも緊急事態を示す画面が表示された。何事かと皆が戸惑っている中、アナウンスが会場に響く。

 

 《I・アイランド、管理システムよりお知らせします。警備システムにより、I・エキスポエリアに爆発物が仕掛けられたという情報を入手。I・アイランドは現時刻をもって厳重警戒モードに移行します》

 

緊急アナウンスの途中で突如会場の扉が開かれ、覆面を被り銃を構えた兵士達が会場に入ってきた。会場の人々が悲鳴を上げる中、主犯格と思われる男が最後に入ってきてそのままゆっくりと告げる。

 

 「聞いた通りだ。警備システムは俺達が掌握した。反抗しようなどとは思うな。そんなことをしたら警備マシーンがこの島にいる善良な人々に牙を剥くことになる。そう、人質はこの島にいる全ての人間だ!当然お前らもな。…やれ!」

 

主犯格らしき人物が合図をすると、床から縄のようなモノが一斉に射出され、会場にいたヒーロー達を縛り上げてしまった。オールマイトもその例外ではなく、オールマイトが縄から逃れようとしていると会場に銃声が響き渡る。

 

 「動くな!一歩でも動けば即座に住民共を殺すぞ」

 「SHIT!うっ…!?」

 「良い子だ。全員オールマイトを見習って無駄な抵抗は止めるんだな」

 

オールマイトは縛り上げられたまま床に転がされてしまった。他のヒーロー達も縛られているので動けない。垣根は縛られてはいなかったが、だからといって動けるわけでもなかった。

 

 (銃ぶっ放されでもしたら流石に死人が出る。ここはしばらく様子見だな)

 

しばらくの間垣根を含む人質達はおとなしく座らされていたが、やがて主犯格の男がデビットの助手に目を付け連行していこうとすると、デビットが止めに入ろうとした。しかし主犯格の男はその男がデビットであることに気付くと、助手とデビットをどこかに連行させる。そしてそれから少し時間が経ち、ふと垣根が天井のガラス板を見上げると、なんとそこには緑谷の姿があった。オールマイトの方を見つめていた緑谷だったが、何やら力強く頷くと後ろへ走って姿を消した。それを見ていた垣根は

 

 (アイツ、何か考えてやがるな…そろそろ俺も動くか)

 

垣根はおもむろに立ち上がると主犯格の男に近づく。それに気付いた男は銃を構え垣根に警告する。

 

 「動くなガキ!座ってろと言ったハズだが?」

 「すみません。でもどうしてもトイレに行きたくて」

 「…今は我慢しろ。解放した後にゆっくりとするんだな」

 「いや、それがパーティー始まる前からずっと我慢してて。割とマジで漏れそうなんですよ」

 

銃を向けられた垣根は両手を挙げながら男に話す。抵抗の意思はないことを表明するためだ。

 

 「大丈夫ですよ。逃げ出したりなんかしませんって。そんなことしたら殺されるって事くらいガキの俺でも分かります。っていうか、今すぐにでも漏らしちゃうかもなんですけど」

 「チッ!…おい、トイレまで連れて行ってやれ」

 

主犯格の男は部下に垣根をトイレまで連れて行くように指示した。本来なら許可しなかっただろうが、相手は所詮子供。何かあってもすぐに対処出来ると思ったのだろう。それにここで漏らされると敵側としても気分が悪い。垣根は拳銃を背中に突きつけられながら会場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さてと…」

 

 垣根は会場の外のトイレ前で一息つく。目の前には気絶した兵士が転がっていた。しばらくその兵士の持ち物などを漁り、情報を得ようとしていた垣根だったが、会場の方から走る足音が聞こえたので即座に身を隠す。最初は垣根達を探しに来たのかと思ったが、会場から出てきた兵士二人はトイレ前を素通りしそのままエレベーターに乗り込むと上の階へ行ってしまった。

 

 (あの急ぎよう…緑谷達がバレたか。なら、あのエレベーターの先にアイツらがいるってこったな)

 

垣根はそう推測すると、気絶した敵を縛り上げて見つからないように隠してからエレベーターの扉の前に立つ。強引に破壊してもいいが、それでは会場の敵達に気付かれてしまう。物音を立てず、かつ迅速にエレベーターの扉を破壊しなければならない。垣根は扉に手を当て、

 

 (確か、オジギソウとか言ったか。『メンバー』のジジイと殺り合ったときにそう聞いたんだが、まぁいい。あんな感じで…)

 

垣根が集中力を高めていく。すると突然、扉がパラパラパラッと音を立てながらゆっくりと消失していく。そして二分もすればエレベーターの扉は跡形も無く消えてなくなっていた。

 

 「つくづく便利なモンだな。未元物質ってのは」

 

笑いながらそう呟くと垣根は背中から翼を出現させ、本来エレベーターが通る通路をその翼で駆け上がっていく。しばらく飛んでいるとエレベーターが止まっている地点にまでたどり着いた垣根。垣根はそのエレベーターを翼でなぎ払い、粉々に破壊してその階に降り立つとそこには切島、轟、爆豪の姿があった。そして側には地面に伸びている敵と凍らされている敵達の姿。どうやら三人で敵を倒してしまったらしい。轟達も突然現れた垣根を驚いた様子で見つめていた。

 

 「垣根!?お前なんでここに?」

 「随分と派手なご登場だなメルヘン野郎!今までどこいたんだテメェ!!」

 「…何がどうなってんだこりゃ」

 

垣根は三人と情報交換をし、それらをまとめる。

 

 「なるほど。つまり緑谷達は警備システムを抑えるために最上階へ向かってると。そういうわけだな?」

 「そうだ。俺らも早く緑谷達を追わねぇと」

 「だな。じゃ行くか」

 「って、なんでテメェが仕切ってんだよ!!」

 

急いで緑谷達の後を追う四人。だが彼らの前に多数の警備ロボが立ち塞がった。

 

 「奴ら本気になったようだな」

 「邪魔だどけコラァ!!」

 

爆豪の叫び声と共にロボとの戦闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 138階 サーバールーム。ここでは飯田・耳郎・八百万・峰田・上鳴達が警備マシンと戦闘を繰り広げていた。飯田はレシプロで警備ロボを次々と破壊していったが、数が多すぎてエンジンがエンストしてしまう。耳郎は八百万の作った大砲で警備ロボに向かって弾を撃っていたが、弾を製造していた八百万に限界が訪れて攻撃できなくなってしまった。峰田も頭の球をちぎりすぎて頭部から出血しているし上鳴は既にアホになってるしでもう誰も戦うことが出来なくなっていた。そして警備ロボが飯田達を拘束し、もうダメかと思われたその時、

 

 ザシュッ!!

 

警備ロボ達に白い羽根のようなものが突き刺さり、その場で小さな爆発を起こす。飯田達が顔を上げると、空中に見慣れた翼を背に携えている垣根の姿があった。

 

 「垣根君!?どうして君がここに!?」

 「ま、色々あってな」

 

そう言いながら垣根は彼らの側に着地すると皆の顔を見渡す。

 

 「ヘロヘロじゃねぇかお前ら」

 「…垣根、さん…?」

 「いい所に来てくれたよ垣根!結構ヤバくてさ、ちょっと助けてくんない?」

 「垣根ぇ…おせぇんだよお前ぇ!!!」

 「ウェーイ…」

 

垣根の救援に安堵する耳郎達。垣根はチラりと八百万の作った大砲を見ると、瞬時に同じような形をした大砲を創り出す。ただ八百万の大砲と違うのは色が純白であることと、その数が五機であることだ。そして垣根が合図すると、

 

 ボンッ!!

 

五機の大砲から一斉に砲撃音が炸裂した。すると前方にいたロボの大軍が激しい轟音と共に盛大に飛び散っていく。なおも垣根は砲撃の手を緩めずひたすらに砲弾を撃ち続け、全てのロボが破壊されて動かなくなったのを見ると垣根も攻撃を止めた。砲撃を止めた大砲の口からはなぜだか煙のようなモノは出ていない。火薬を使っていないのだろうか?と八百万が考えていると、

 

 「先に轟達を行かせた。俺達も後を追うぞ」

 

垣根が八百万達に呼びかける。

 

 「は、はい!」

 「了解した!」

 

拘束が解けた飯田達は垣根と共に進んでいく。垣根達がタワーから外に出ると轟達が麗日と共に警備ロボと戦っているのが見え、皆でそれに加勢する。そして最後の三機を倒そうとしたときにロボ達が急に動きを止めた。

 

 「あァ?何だァ?」

 「止まった…?ってことはデク君達がやったんだ!」

 「ああ、そのようだな。どうやら無事警備システムを書き換えたらしい」

 「あーーやっと終わったー…」

 

麗日達が緑谷の成功を察し、安堵の表情を浮かべる。

 

 「あとはオールマイト達が何とかしてくれるよな」

 「ああ。会場にいる他のプロヒーローの拘束も解けているだろうから敵達の制圧は時間の問題だろう」

 「皆で緑谷とメリッサさんを迎えに行ってやろうぜ!」

 「「「うん!」」」

 「ケッ!」

 「……」

 

皆が一安心している中、垣根は思案する。

 

 (デビット・シールドは見つからなかったか…恐らく管制室だな。助け出して恩の一つでも売りつけてやりたかったが、まぁプロが復活した以上任せるしかねぇか)

 

垣根の能力アップには科学者の協力が不可欠だ。そこで今回の件でデビットに恩を売れば頼み事もしやすくなると垣根は考えていたのだが、残念ながらそれは実現しそうになかった。そして垣根は皆と一緒に緑谷達がいる塔の入り口に向かうとしたとき、突然その塔の屋上で爆発が起きた。

 

 「な、何だ!?」

 「今屋上で凄い爆発が…!?」

 「終わったんじゃなかったのかよ~」

 

慌てて屋上の方へ目を向ける生徒達。しばらくするとその塔の上の部分一帯に青い稲妻模様が何本も現れ、宙には塔の破片がいくつも浮かびあがる。そしてそれらの破片が屋上のある一点に集約していき、巨大な怪物のようなモノを形成した。

 

 「オイオイオイ、何だよアレ…」

 「でけぇな…」

 「そんな…まだ戦いは終わってないってこと!?」

 

唖然とその光景を見つめる生徒達。そんな中、突然垣根が背中から六枚の翼を出現させ一気に飛び立つ。

 

 「待ちやがれメルヘン野郎!!」

 

それを見た爆豪も爆破で空を飛び垣根の後を追うと、

 

 「俺達も行くぞ!」 

 

轟も皆に屋上へ向かうよう促し、塔を登っていく。

いよいよ最終決戦。




映画の敵絶対本編の敵より強そうなんですけど

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