「さて、何から話せば良いのやら」
「…」
垣根は今、丸テーブルの椅子に座っている。その向かいに座っているのがグラントリノ。グラントリノに家まで案内され、取り敢えず腰を据えて話そうということで、二人は今こうして座っている。
「取り敢えず、お前さんは今どのくらい自分のことを理解しておるのか話してみ」
「はぁ?」
「自己紹介ってやつだよ。ホレホレ」
グラントリノはニヤニヤしながら垣根に催促する。そのニヤけ顔に若干イラッとした垣根だが、自分が何を知っているのかこの老人に話さないことには何も始まらないので苛立ちを押し殺して話し始めた。
「垣根帝督。15歳らしい。なんとか中学ってあの医者が言ってたから多分中三だ。そして俺はあんたの息子。知ってるのこれだけだ」
簡潔に、そして不機嫌そうに垣根は自分の知っている情報を開示した。それを聞いたグラントリノは、
「なんだつまらん。なんか面白いこと言えんのかい」
と呆れるようにつぶやいた。
「うるせーぞコラ。で、今度はてめえの番だ。俺やこの世界のことについて知ってること全部話せ」
「この世界のこと?…よく分からんがお前さんのことについてなら大体それで全部だ」
グラントリノは話を続ける。
「お前は垣根帝督。4歳の頃から俺が育て、今は××中学に通っとるクソ生意気なガキ。それが俺の知るお前だ」
「ん?4歳の頃から育てた?どういうことだ?」
グラントリノの話を黙って聞いていた垣根はひっかかりを覚え、思わずグラントリノに疑問を投げつける。
「ん?あぁ、言ってなかったか?お前は4歳の頃、両親を亡くしておる。そのときお前の父親の親戚である俺がお前を引き取って育てることになったんだ。つまり、俺はお前の育ての親ということだ」
「…なるほど。そういうことか。」
そういう設定か、と垣根は心の中でつぶやく。どうやらこのVR世界(まだ仮説だが)では垣根は4歳の頃から11年間、義理の父親のグラントリノに育てられ今に至るそうだ。何だこのダルい設定は、と垣根は内心で科学者達のセンスのなさにあきれ果てながら、再び考え始めた。
(取り敢えず俺の現状は大方理解できた。だが問題は次だ。俺はこれからどうすればいい?どうすれば元の世界に帰れる?あいつらは一体俺に何をさせてえ・・?まさかこのまま学生ライフを満喫しろってか?冗談じゃねえ。俺は速攻で学園都市に戻ってこんなふざけた真似してやがる連中とあのクソ忌々しい第一位をぶち殺さなきゃならねえんだ)
垣根が頭であれこれ考えていると、、
「まぁ何にせよ身体はなんともなくて一安心だな。明日から学校には行けるだろう。明日は三者面談で休むわけにはいかんからな」
グラントリノが言った。
「三者面談だと?」
「そう。三者面談。なんでも、お前の成績や進路について話すとか…って、あーーーー!!!」
突然グラントリノが何かを思い出したかのように叫びだす。
「何だ、いきなりデケェ声出しやがって」
「そうだ忘れるところだった。昨日お前が学校から帰ってきたら聞こうと思っとったんだ」
「何を?」
「あー…でも今のお前に聞いても意味ないな…」
勝手に自己完結するグラントリノに垣根は、自分に何を聞こうとしたのかを聞き出そうとする。
「教えろ。俺に何を聞こうとしたんだ?」
「今のお前に言っても分からんと思うが、まぁ良いか…お前の進路のことだ」
「進路?」
「ああ、そうだ。三者面談の前にお前に色々聞いときたかったんだ。」
なるほど。今日は10月10日、確かにそろそろ学生は自分の進路について考えなければならない時期だ。進学するのか、社会に出て働くのか、進学するとしたらどの高校を受験するのか、そういった自分の将来に関する決断をする時期である。もっとも垣根はそういったことに今まで無縁だったため、あまり実感は沸かなかったがグラントリノの言っていることは理解できた。
「進路ね。前の俺は何か言ってなかったのか?」
「お前は家では全然そういった話はしなかったからな。俺は何も聞いとらん」
グラントリノが垣根の質問に答える。垣根はそれを聞きながら、俺らしいなと妙に納得してしまった。多分前の俺も進路とか将来とかあまり興味なかったのだろうと垣根は考える。学園都市にいた垣根もまた似たような感じだったからだ。すると、
「せめて雄英を受けるかどうかだけでも知れてたら良かったんだが…」
グラントリノがボソリと呟く。
「雄英?なんだそりゃ?」
垣根はグラントリノが呟いた言葉に反応し、質問を返すとグラントリノがそれに答えた。
「高校の名前だ。雄英高校。お前には雄英高校のヒーロー科を受けるのかどうか聞いておきたかったんだ」
「雄英高校…ヒーロー科…?」
今目の前の老人が言った言葉を反芻する垣根。ふざけているとしか思えないような学科名だった。
「ヒーロー科だと?ヒーローってあのヒーローのことか?」
「?そうだが?」
垣根の質問にグラントリノは至って普通の様子で答える。冗談を言っているようには見えない、本気で言っているようだと垣根は悟る。
「おいおい、冗談だろ。この世界にはそんなふざけた学科があんのかよ。で?何をするんだ?そのヒーロー科ってとこでは。まさか、皆で仲良くヒーローごっこでもすんのか?」
垣根は鼻で笑い、茶化しながらグラントリノに尋ねる。すると、
「何を笑ってるんだお前は。ヒーロー科がヒーローを目指すのは当たり前だろ」
至って真面目な様子でに答えるグラントリノ。なにがおかしいのか理解できないという様子だ。
「ヒーローを目指すだぁ?本気で言ってんのか?ジジイ。」
「本気も何も当たり前のことだろう。何を言ってるんださっきから。社会で活躍しているヒーローのようになりたくて皆ヒーロー科に入ろうとするんだ」
「はぁ??」
グラントリノの言葉はまたもや垣根の頭を困惑させる。
(社会で活躍するヒーローだと??何を言ってやがる?それじゃあまるで本当に「ヒーロー」という存在が具体的な形でいるみたいじゃねえか。ヒーローってのは英雄的な行動をした奴のことを指す名称じゃねえってのか?)
垣根は何か違和感を感じていた。さっきから妙にグラントリノとの会話が噛み合っていない気がする、自分は何か大きな勘違いをしている可能性がある、と。
「…おい、ヒーローってのは何だ?」
「はぁ??お前何言って――――――――――」
「…」
「…まさかお前、ヒーローを知らんのか?」
「……」
「そうか…確かに言われてみればそうだったな。自分のことも忘れてるお前がヒーローのことを知ってるはずなかったな…ん?てことはお前さん、まさか『個性』についても知らない感じか?」
「個性?個性ってアレか?個人の性質や特徴のことを指す言葉のことか?」
「…なるほど、分かった。どうやらお前には全部説明する必要があるらしい」
大きく息を吐くと、グラントリノは一から説明を始めた。この世界の仕組み、つまり、個性やヒーロー、そして「
「つまり、この世界の大半の人間はガキの頃からなにかしら能力を持っていて、それを『個性』と呼ぶ。その個性を使って社会奉仕を行ったり『敵』って奴らをぶっ倒してんのが『ヒーロー』。そのヒーローになるための養成所みたいなとこが『ヒーロー科』。こういうことか?」
「ああ、そうだ。」
なるほどな、やっと全てが繋がった、と垣根は心の中で呟いた。普通ならあまりの突拍子のなさに理解に時間が掛かるはずだが、垣根にはなぜかすんなり受け入れられた。その理由としては恐らく、似たような環境に身を置いていたからだろう。そう、学園都市だ。学園都市という場所では子供達を集め、能力開発プログラムというものを実施している。これは子供達に能力を発現させ、それを調整・強化していくプログラムのことである。垣根自身もその実験の対象者であり、その実験によって強大な力を手に入れた一人でもある。「能力者」という者達と触れ合い、かつ自身も「能力者」の一人である垣根にとってみれば、個性の話も特別驚くようなことでは無かった。もっとも垣根は「能力者」は「能力者」でも、その中で頂点の存在とされている「超能力者」である。ただ、「能力」は人為的に生み出されるものであるのに対し、「個性」は生まれたときから人に備わっているものであるという明確な違いがある。一見似ている両者ではあるが、実は根本的な部分で違いが発生している。なかなか興味深いな、などと考えていると、再びグラントリノが口を開いた。
「それで数あるヒーロー科の中で最も入ることが難しいとされておるのが雄英高校ヒーロー科というわけだ。社会で活躍しているヒーローの多くはこの学校を出ている」
「なるほど。そこを俺が受験するかどうか聞きたかったわけか」
「そういうことだ」
日本最難関高校である雄英ヒーロー科を志望するかどうか。グラントリノは垣根に尋ねた。自分の将来が決まる選択である。普通ならば熟考する場面であろうが、垣根帝督にその常識は当てはまらない。グラントリノの目を見ながら垣根は、すぐに、短く次のように答えた。
「答えはノーだ。」
グラントリノの口調が難しいです、、、
違和感がある人、申し訳ありません。
「ワシ」とか「じゃ」を使わず、普通の言葉遣いをする老人てイメージなんですが、どうもしっくりこない、、、