「こ、これがデイブの…!?」
「パパの作った装置の力…」
オールマイトとメリッサが目の前の敵の姿を見て言葉をなくす。緑谷達の下にオールマイトが駆けつけて一気に形勢逆転かと思われたが、敵がデビットの作り出した装置を起動させたことで、敵の力が何倍にも膨れ上がってしまった。周囲のあらゆる金属を取り込みながらどんどん巨大化していく敵。
「さぁて、装置の価値をつり上げるためにもオールマイトをぶっ倒すデモンストレーションと行こうか」
敵はそう告げるとオールマイトに向けて金属の塊を次々と放っていく。それらを躱していくオールマイトだったが、跳躍した瞬間を狙われ、思わず拳で迎え撃つオールマイト。だが破壊しきることは出来ず、オールマイトは金属の塊に押し込まれてしまう。
(オールマイト…やっぱりそうだ!活動限界なんだ!)
メリッサを抱え、敵の攻撃の余波を凌ぎながら緑谷はオールマイトの身を案じる。血を吐きながら敵の攻撃に耐えているオールマイトだったがこのままでは時間の問題。そして更なる追加攻撃がオールマイト目掛けて発射され、勢いよく迫っていく。
「オールマイトォ!!!」
緑谷が思わず叫んだ刹那、突然敵の攻撃が一斉に凍り付く。これには敵も驚き、一瞬動きを止めた。すると今度は聞き慣れた爆発音と声が響きわたる。
「くたばりやがれ!」
「チッ!」
爆豪が爆破による連続攻撃を仕掛けるも、金属の壁を作り防御する敵。
「くっ…!?あんなクソだせぇラスボスに何やられてんだよ!?えぇ?オールマイト!!」
「爆豪少年!?」
「今のうちに…敵を…っ!」
「轟君・・・!!皆・・・!!」
「金属の塊は俺達が引き受けます!」
「八百万君!ここを頼む!」
「はい!」
爆豪達が加勢に加わる。すると、
「邪魔だガキ共!」
それを見た敵が苛ついたように叫びながら金属の塊を生徒達に向けて一斉に放つ。緑谷の下にもいくつもの金属の塊が襲来し反応が遅れる緑谷。何とか直撃は避けたが、その衝撃でメリッサの身体が宙に舞う。
「キャーーーー!!!」
「メリッサさん!?」
慌ててメリッサをキャッチしに行こうとする緑谷だったがその行く手を金属の塊が阻む。
(ダメだ!間に合わない…!)
メリッサの身体が塔から落ちてしまうと思われた瞬間、ヒュッ!と白いナニカが通過しメリッサの身体をさらう。
「あなたは…垣根君?」
自身を抱えて飛んでいる人物を認識したメリッサは、その人物、昼間に出会った垣根だということに気がつく。垣根は腕の中のメリッサに視線を移し、
「無事か?」
一言尋ねる。
「え、ええ…」
「そうか。なら良かった。アンタに死なれちゃ困るんでな」
垣根はメリッサが無事であることを確認すると八百万達の下へ行き、ゆっくりと彼女を降ろす。
「八百万、コイツも頼む」
「ええ。分かりましたわ!」
八百万にメリッサの保護を頼むと再び敵の方へ向かう垣根。一方、教え子達に発破をかけられ再び奮起したオールマイトは迫り来る金属の塊を悉く粉砕していき、一気に勝負を決めに行った。
「観念しろ!敵よ!」
渾身の右ストレートを敵にお見舞いしようとしたオールマイトだったが、その拳が当たる直前に身体が縛り上げられ、動きを止められてしまう。
「この程度…!!ぐお……っ!?」
「観念しろ?そりゃお前だオールマイト!」
(何だ!?この力は!?)
突然何倍にも太くなった敵の左手で喉を掴まれているオールマイトはその異質なまでの力に違和感を覚える。そして敵は同じように太くなった右手でオールマイトの左脇腹を握りつぶすかのように掴んだ。
「うぐ…っ!?ぐ、ぐあああああああああああああああ!!!!」
オールマイトの苦痛にもだえる声が戦場に響き渡る。緑谷が駆け寄ろうとするも、個性の反動による痛みに思わず顔を歪める。
(この力は…筋力増強!個性の複数持ち…!ハッ、まさか!?)
「ああ。この強奪計画を練っているときあの方から連絡が来た。是非とも協力したいと言った。なぜかと聞いたらあの方はこう言ったよ!『オールマイトの親友が悪に手を染めるというのなら是が非でもそれを手伝いたい。その事実を知ったときのオールマイトの苦痛に歪む顔が見られないのが残念だけれどね。』とな!」
「オールフォーワン…!!!」
「ようやくにやけヅラが取れたか!」
「ああああああああ!!!」
激昂にかられたオールマイトは拳を振り抜こうとするも、逆に金属の塊をぶつけられ後方に吹っ飛ばされてしまう。そして間髪入れずにいくつもの巨大な立方体型の金属の塊が同時に迫り、オールマイトを押し潰そうとしたその時、オールマイトの後方から突然、六枚の巨大な白い翼が伸びてきて金属の塊を全て破壊する。
「これは…」
「よう。結構ヤバそうじゃねぇか」
巨大な白い翼を広げながら空を飛んでいる垣根はオールマイトに声をかける。垣根はオールマイトを縛り付けているものを翼で切断し、その拘束を解く。
「すまない。助かったよ垣根少年」
「オールマイト!」
拘束の取れたオールマイトの下へ緑谷が駆け寄ってくる。
「緑谷少年!」
「大丈夫ですか!?」
「ああ、何とかね。君こそ随分と無茶をしたようだな」
「アハハ…」
緑谷がオールマイトの様子に安堵していると垣根が地上に着地する。すると
「ガキが…!邪魔をするなァ!!」
オールマイトを仕留め損なった敵が怒りを露わにしながら垣根に攻撃を仕掛する。敵から放たれた金属の塊が垣根を飲み込もうとした瞬間、白い壁が垣根の目の前に現れ、ドォン!!という衝撃音を響かせながら激突した。だが砕かれたのは金属の方で白い壁には傷一つついていない。
「……!?」
「何がどうパワーアップしたのかは知らねぇが、結局お前は金属を操ることしか出来ない。どんだけ規模がデカくなろうと所詮は金属。俺の敵じゃねぇな」
「くっ…!黙れぇぇぇぇぇぇ!!!!」
激昂した敵が全力で垣根を潰しに掛かる。先ほどとは比べものにならない数の金属の塊が垣根を押しつぶすために迫っていく。静かにその光景を見ていた垣根はそのまま片膝をつき、地面に右手を当てる。すると
ドッッッッ!!!
振動と共に地表から一斉に『白』が飛び出した。迫り来る無数の金属の塊と地面から放たれた白い未元物質の大群が空中で激突し、大気に衝撃が走る。敵が放った金属の塊は未元物質の塊と衝突した瞬間に悉く破壊され、地上に金属の破片の雨が降る。
「馬鹿な!?あの数の攻撃を全て…!?」
「喰らっとけ」
「!?」
垣根はゆっくり立ち上がり、足を前に踏み出す。すると垣根の足下から一本の巨大な槍が敵目掛けて発射された。直径1.5メートル程の巨大な槍は一直線に進んでいく。敵はすかさず巨大な金属の壁を三つほど作り上げ防御しようと試みるも、
スガン!ズガン!ズガン!
派手な音と共に、一瞬でそれらを突き破った白い槍はそのまま敵の本体付近に激突する。垣根はしばらく槍が激突した場所を見つめていたが、轟と爆豪が近づいて来るのを確認するとそちらに視線を移す。
「垣根、終わったのか?」
「だといいがな」
「?」
轟が垣根の言葉に首をかしげていると突如、地鳴りが響く。すると周辺の金属が敵の下へどんどん集まっていき、敵の身体を覆っている金属タワーが更に大きくなっていった。
「…ケッ!どうやら仕留め損なったみてぇだなメルヘン野郎!」
「これは…暴走か」
「暴走?」
オールマイトが呟いた言葉に緑谷が反応し、垣根達も耳を傾ける。
「ああ。デイブの作った装置は個性をパワーアップさせるようだが、それにも限度があるのだろう。その限度を超えて無理矢理力を得ようとした結果、個性が暴走状態になってしまったんだ」
「そんな…」
「面倒くせぇな」
「どうする?」
「ハッ!んなモン決まってんだろ!本体を直接ぶっ叩く!!」
爆豪が手のひらから火花を散らせながら意気込む。
「しかし君たちにはあまりにも危険だ。ここは私に任せて…」
「いくらオールマイトでも流石に一人でこれを突破していくのは厳しいでしょ。俺達がサポートに入りますよ」
「轟少年…」
「オールマイト、僕も行きます!行かせてください!僕は…博士を助けたい!それが、ヒーローだから!」
「緑谷少年まで…」
オールマイトは決意に満ちた生徒達の目を見ると何を思ったのか、突然豪快に笑い出した。
「ハハハハッ!全く、大した生徒達だよ君たちは!でもありがとう!確かに私だけでアレを突破するのはいささか骨が折れそうだ。手を貸してくれ少年達よ!」
「はい!」
緑谷が大きく返事をすると轟が呟く。
「緑谷達が突撃して俺がサポート。三人分をカバーすんのはしんどいな…垣根、頼めるか?」
「ま、しゃーねぇな」
「そうか。助かる」
「よし!頼んだぞ二人とも!…では二人とも、行くぞ!」
オールマイトのかけ声と共にオールマイト・緑谷・爆豪が一斉にスタートを切る。すると、
「くたばり損ないとガキ共が…!ゴミの分際で…!!往生際が悪ィんだよ!!!!」
「そりゃこっちの台詞だ三下が」
叫び声を上げながら敵が金属の塊を一斉に放つ。だが垣根は未元物質の塊をぶつけることでそれを迎え撃ち、三人に攻撃が当たることを防ぐ。すると別方向からも鉄の塊が飛来する。
「させねぇ!!!」
ピキピキピキピキッッッッ!!
轟が巨大な氷の壁を作り上げ攻撃の進行を止める。その隙にオールマイトと緑谷は敵が作り上げた金属の塔に飛び移り、爆豪は爆破で空を飛び、敵の本体まで進んでいく。オールマイトが拳で敵の攻撃を粉砕すると緑谷は蹴りで鉄塊を破壊し、爆豪は爆破で金属塊を吹き飛ばす。三人への視界外からの攻撃は垣根と轟で対応し、三人の道を作っていく。完璧な連携によってあっという間に中盤過ぎまで進んだ三人だったが、突如オールマイトに攻撃が集中するようになる。オールマイトが迫り来る金属塊を破壊した直後に十を超える立方体型の鉄塊を一斉に放つ敵。
「まずは貴様からだァァ!!オールマイト!!!」
(この数は…!?)
しかしオールマイトに攻撃が飛来する数秒前、爆豪がチラリと地上の垣根の方を見る。それを感じた垣根は足下から未元物質の塊を瞬時に生み出し、一気に爆豪の下まで放った。そして爆豪は空中で方向転換し更に速度を上げ、オールマイトの下へ向かう。爆豪の進路を阻もうと金属塊が立ちはだかるも、
ドォォォン!!
垣根の未元物質が迎え撃つことで爆豪の進路をこじ開ける。そしてオールマイトに鉄塊が放たれた瞬間、垣根の未元物質を足場にして勢いよく飛び出し、加速しながら自身に回転を加えていく。オールマイトを追い越し、鉄塊にぶつかりそうになったその時、爆豪は大技を繰り出した。
「
轟音と共にもの凄い爆風が空中で巻き起こり、目の前の鉄塊群を一掃する。全力を込めて撃った爆豪は腕に痛みを覚えながらオールマイトに向かって叫ぶ。
「行け!オールマイト!」
「爆豪少年…!!サンキューな!!!」
オールマイトは爆豪に一言感謝すると再び本体目掛けて爆進する。緑谷とオールマイト、二人が金属の道を駆け上がり敵まで一気に迫っていくと突如敵が雄叫びを上げる。
「くっ、うおおおおおおおおおおおお!!!!」
敵はありったけの金属を一点に集中させ、超巨大な立方体の金属塊を形成する。麗日達が唖然と見上げているのとは対照的に二人の顔には笑みが浮かんでいた。
(目の前にあるピンチを…)
(全力で乗り越え…)
(人々を…)
(全力で助ける!!)
(それこそが!!)
(ヒーロー!!!)
拳を握りながら向かってくる二人の
「タワーごと潰れちまえぇぇぇ!!!」
「「W・DETROIT SMASH!!!!」」
お互いの技が正面から激突する。目の前に立ちはだかる巨大な障害を全力でねじ伏せに行く緑谷達。すると突如下方からもの凄い風圧を受け、二人の身体を押し上げる。翼によって巨大な風圧を生み出した垣根がボソリと呟く。
「サービスだ。とっとと決めろ」
「「うおおおおおおおおおお!!!」」
「くっ…!?」
雄叫びを上げながらついに目の前の鉄塊を打ち砕いた緑谷達。そして二人はその勢いのまま天高く駆け上がる。
「行けぇぇぇぇぇぇ!!!」
「「オールマイト!!!」」
「「「緑谷!!」」」
「「ブチかませ!!!!」」
皆の声援を受けながら二人は最後の攻撃に移る。
「さらに!」
「向こうへ!!」
「「Plus Ultra!!!!!」」
オールマイトと緑谷の渾身の拳が敵の身体に直撃した。
◆
デビットは病院の一室で横になっていた。先日の敵襲撃事件の際に傷を負ってしまい、その治療のため入院しているのだ。外の景色を眺めていると部屋のドアをノックする音がした。デビットが返事をするとドアが開かれ二人の人物が入ってきた。一人は自分の愛娘であるメリッサ。そしてもう一人はパーティー会場で少し喋った少年、垣根帝督だった。二人はデビットの下まで近づき、メリッサが声をかける。
「パパ、傷の方はどう?」
「動かすとまだ痛いけど、大分楽になったよ」
「そっか。よかったわ」
メリッサがデビットの答えにホッとした様子を見せる。そして一緒に入ってきた垣根について紹介しようとした。
「あ、えっと彼は…」
「知っているよメリッサ。垣根君だろ?彼とは既に面識がある」
「え!?パパと知り合いだったの?」
「…まぁな。」
「なぁんだ~初めから言ってくれれば良いのに…でね、垣根君がパパと話したいことがあるって言うから連れてきたんだけど…」
「私に話したいこと?」
「ああ。アンタに頼みがある」
「頼み…」
デビットはこちらをじっと見据える垣根の目を受け止める。するとメリッサが、
「あ、じゃあ私はデク君達の所に行ってくるね。今日皆を案内するって約束したから」
気を遣ってのことか、そう言うと一人退出していった。
「…本当に済まなかったね垣根君。せっかく招待を受けてこの島に来てくれたのに私のせいでとんでもない迷惑をかけてしまった」
「ああ、全くだ。せっかくの休み期間にまさか敵と戦わされるとはな。勘弁して欲しいもんだぜ」
「ハハハッ…それで垣根君、私に頼み事とは一体何かね?今回のお詫びと言っては何だが、私に出来ることなら何でも協力するよ」
「そうか。それはありがたい」
そう言って垣根は話し始めた。自分の個性の正体やこれから垣根が行おうとしていることを。黙って聞いていたデビットだが垣根が話し終えると何やら考え始めた。
「未元物質…この世界に存在しない物質を生成する個性…そんなデタラメな個性がこの世に存在するなんて…!しかもソレを用いて人体の複製…ダメだ、情報量が多すぎてなんてリアクションすれば良いのか分からないな」
「流石に人体の複製なんてのは俺にもまだ出来ない。そこで世界的発明家であるアンタに協力を依頼しようと思ったんだが、どうだ?」
「…協力してあげたいのは山々だが、君の個性は謎が多すぎる。それこそ専門の研究機関などでまずその未元物質とやらを分析するところから始めなければならない。だが私は治療が終わったら今回の事件の事で警察に出頭しなければならない為そんな時間も無い」
「……」
「それに君は個性の研究と言うよりどちらかというと人体についての、世界最先端レベルの研究に携わりたいということなんだろう?私の専門分野は残念ながらそっち方面ではなくてね。残念ながら私では期待に応えられそうにない」
「…そうか。邪魔したな」
垣根はそう言うとデビットに背を向けてこの場から去ろうとするも、
「待ちたまえ垣根君。まだ話は終わっていない」
デビットが垣根を呼び止める。
「あ?協力出来ねぇんだろ?なら話は終わりだ」
「私では、ね。私では君の力になれないが、私の知り合いなら君の力になれるかも知れない」
「?」
「まぁこれでも一応、私は割と有名人でね。世界的な科学者達や研究機関にはそれなりにツテがあるのさ。その中から一つ君に紹介するよ」
そう言ってデビットは左手にペンを持つとメモ用紙に何やら書いていき、書き終わるとそれを垣根に渡した。
「これは…」
「私の知る限り、人体科学においてこの研究機関ほど優れた所は無いよ。ここを訪れてみるといい。私がここの所長に話を通しておくから」
「…感謝する。アンタを救って良かったぜ」
垣根はデビットに礼を言うと再度去ろうとするも、またもやデビットに呼び止められる。
「垣根君!いつ飛び立つんだい?」
「あ?今からだけど?」
「い、今から!?そんな急がなくても…」
デビットの言葉に垣根はゆっくり振り返ると
「急ぐさ。何せ、林間合宿が迫ってるからな」
笑みを浮かべながらそう言った。
映画編終わりです。次から本編に戻ります。