合宿二日目。生徒達は自分達の個性を強化するため、様々なトレーニングを行っていた。
「んんんんあああああああ!!!クッソがァァァァァァァ!!!」
《爆豪勝己。熱湯に両手を突っ込んで汗腺の拡大及び爆破を繰り返して規模を大きくする特訓!》
「ハァ…ハァ…くっ…!?」
《轟焦凍。凍結と炎を交互に出し風呂の温度を一定にする。凍結に体を慣れさせ、炎の温度調節を試みる特訓!二つの個性を同時に出せるかも!?》
「ああああああああああああああああ!?」
《瀬呂範太。テープを出し続ける事で容量の拡大、テープ強度と射出速度を強化する特訓!》
「くっ…!?来い!」
「はァ!!」
《切島鋭児郎・尾白猿夫。硬化した切島を尾白の尻尾で殴ることで互いの個性強度を高める特訓!》
「ギィィィィィィィィヤァァァァァァ!!!」
《上鳴電気。大容量バッテリーと通電することで大きな電力にも耐えられる体にする特訓!》
「はぁ~~~~~~~~~!!!」
《口田甲司。生き物を操る声が遠くまで届くように声帯を鍛える発声の特訓!内気な性格を直すのにも効果的!》
「うあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
《常闇踏影。暗闇で暴走するダークシャドウを制御する特訓!》
「ん~~~~~!!!」
《麗日お茶子。無重力で回転し続ける事によって三半規管の鍛錬と酔いの軽減、また限界重量を増やす特訓!》
「ふんふんふん!ふんんんんんんん!!!!!」
《飯田天哉。脚力と持久力を高めるために走り込みの特訓!》
「ケロッ……ケロッ…!」
《蛙吹梅雨。全身の筋肉と長い舌を鍛える特訓!》
「はぐっ…ほぐっ…!モグモグ」
《砂藤力道。個性発動に必要な甘い物を食べながら筋トレしパワーアップを図る特訓!》
「んっ…むっ…!モグモグ」
《八百万百。同じく食べながら個性を発動させて創造物の拡大、また創造時間の短縮を目指す特訓!》
「んぎゃあああああああ!!!」
《耳郎響香。ピンジャックを鍛えることで音質を高める特訓!》
「うぐぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
《芦戸三奈。断続的に酸を出し続けて皮膚の耐久度を上げる特訓!》
「ううぅ…ヒグッ…いでぇぇよぉぉ…」
《峰田実。もぎってももぎっても血が出ないように頭皮を強くする特訓!》
「……」
「……キョロキョロ」
《葉隠透・障子目蔵。気配を消す葉隠を複製腕を素早く同時に変化させ探すことで互いの個性を強化する特訓!》
何も知らない人が見たら思わず悲鳴を上げそうな光景がそこにはあった。一方垣根はと言うと、創造物のレパートリーを増やす特訓を言い渡されていた。特に創造物のジャンル指定などは受けなかったので、垣根は自由に作ることにした。その結果作り上がったモノの内の一つがカブトムシ型兵器である。それは全長10~15m程でその表面は新車のようなつるりとした光沢を放っていた。瞳が不気味な緑色をしていて、角の『芯』がくり貫かれ砲身になっているのが普通のカブトムシとは違う所だろう。要は白いカブトムシ型の戦車である。なぜカブトムシ型にしたのかは垣根にも分からないが。他にもいくつか動物型の兵器を作ってみたり、あるいは他の生徒の個性を参考にして未元物質で似たようなモノを再現してみるという事も試みた。あらかた試し終わると、いよいよ今合宿での最終目標である『人体複製』に挑戦する垣根。垣根はより演算に集中し、未元物質で人体を形取っていく。そして出来上がったのは垣根本人と寸分違わぬモノ。ただ一つ違う点は全身が真っ白であるということ。早くも人体複製が完成したのかと思われたが、垣根の顔は険しいままだった。
(ダメだな。これじゃ俺の外見をなぞったのと大して変わらねぇ。中身がペラッペラだ。何より、脳の構築が全然なってねぇのが問題だ)
そう考えながら垣根は目の前の未元体を消し、再び新たな未元体の構築を始めた。
◆
その日の夜は皆でカレーを食べた。過酷なトレーニングの後だったからか、皆がっつくように食べていた。垣根はあまり体を動かしていないので皆のように疲労困憊というわけではなかったが、ずっと演算に集中していたので流石に少し疲労感は感じた。あの後も未元体を作り続けていた垣根だったが、まだ完成には至っていない。夕食中も未元体についてひたすら考えを巡らせていた。
(ぶっちゃけ脳の複製が出来るなら他の臓器などどうでもいい。脳さえ出来れば未元物質は実装可能だからな。しかし流石にムズい。科学の助けもあったし、正直割とすぐ出来上がると思ったんだが…そう上手くは行かねぇか。だが、確実に進歩はしている。方向性は間違ってねぇ。このままトライ&エラーを続けていけば、いずれは至るはずだ)
垣根は目標達成の難しさを再認識すると同時に、確かな手応えも実感してその日を終える。翌日も基本的にやることは一緒で、皆ひたすら自身の個性を伸ばす特訓を行った。垣根も未元体完成の為、ひたすら作っては消し作っては消しの繰り返し。そして前日と同様、あっという間に日が暮れて生徒達が夕食を食べ終わると、クラス対抗肝試しが始まろうとしていた。
「さて、腹も膨れた!皿も洗った!お次は…」
「肝を試す時間だぁぁぁぁぁぁ!!!」
「「「試すー!!!」」」
「その前に、大変心苦しいが補習連中はこれから俺と授業だ」
「……うっそだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
「スマンな。日中の訓練が思ったより疎かになってたのでこっちを削る」
「試させてくれーーーーーー!!!」
相澤に縛られ、痛々しい悲鳴を上げながら校舎への方へと姿を消す補習組。その補習組がいなくなるとピクシーボブがルール説明を始める。
「はい。というわけで脅かす側先攻はB組!A組は二人一組で三分おきに出発。ルートの真ん中に名前を書いたお札があるからそれを持って帰ること!」
「…闇の饗宴」
(また言ってる…)
「脅かす側は直接接触禁止で個性を使った脅かしネタを披露してくるよ!」
「創意工夫でより多くの生徒を失禁させたクラスが勝者だ!」
「やめてください汚い」
「なるほど!競争させることでアイデアを推敲させ、その結果個性に更なる幅が生まれるというわけか…!流石は雄英!!」
「さあ!くじ引きでパートナーを決めるよ!」
ピクシーボブにそう言われ、A組生徒達がくじを引いていく。結果がこちら。
一組目:常闇・障子
二組目:爆豪・轟
三組目:耳郎・葉隠
四組目:垣根・八百万
五組目:麗日・蛙吹
六組目:尾白・峰田
七組目:飯田・口田
八組目:緑谷
「よろしくお願いしますわ垣根さん」
「ああ。ま、ぱっぱと終わらせようぜ」
垣根と八百万が話していると、ユラリユラリと体を揺らしながらゆっくり峰田が近寄ってきて垣根にペア変更を迫る。
「垣根~オイラと代わってくれよぉ~!!」
「うぜぇキモい近寄んな」
各々決まった組み合わせに様々な感想を抱いていたが、ペア変更は行われることなく肝試しが始まった。耳郎・葉隠ペアが出発して数分後に垣根達もスタートし、森の中を進んでいく。前の方から絶えず悲鳴が聞こえてきて思わず八百万が苦笑する。
「耳郎さんの声ですわね。耳郎さん、怖いのが苦手だと仰っていましたし」
「へぇ、アイツにもそんな女っぽいとこあんのな」
「…垣根さん、耳郎さんの前では言ってはいけませんよ?それ」
「あ?なんでだよ?」
「…なんでもです。そういえば、垣根さんはどうなのですか?怖いものとか」
「別に。特にどうということもねぇ。お前はどうなんだよ?」
「そうですね。私も特に苦手意識は無いですわ。人並みと言ったところでしょうか」
「ほーん…あ?」
「えっ…!?」
垣根達は思わず足を止める。B組の小大の首が突然地面から生えてきたのだ。数秒間小大と見つめ合う垣根達だったが、またすぐに先へ進み出す。
「驚きましたわ。まさか地面から小大さんの顔が出てくるなんて…」
「お前、割とビビってたよな」
「び、びびってなどいませんわ!垣根さんの方こそ結構驚かれていたのではなくて?」
「んなわけあるか。俺があんなんでビビるわけねぇだろコラ」
「わ、私だってあの程度では驚きませんわ……ヒッ!?」
今度は拳藤が手を巨大化させて八百万を驚かせ、思わず小さな悲鳴を上げてしまう八百万。その後、八百万は垣根と一瞬目が合ったが気まずそうに目をそらした。
「……」
「……」
「…まぁ、行くか」
「…ええ、そうですわね。」
先を進んでいく垣根達は再び話し始め、今度は合宿について話していた。
「今回の合宿、思っていたよりずっとハードですわ。個性を伸ばすということがこうも大変だとは…」
「そういやお前、何かずっと食ってたな」
「ええ。前にも申しましたが、私の個性は脂質を様々な原子に変換して物質を生み出すのでその脂質を取り入れていたのです。そういえば垣根さんはどのような特訓を行っているのでしょうか?特訓中、あまり姿が見えませんが…」
「まぁ簡単に言うと創造物のレパートリーを増やす特訓だな。色んなモン作ってんだよ」
「なるほど、確かに我々創造系の個性は様々な物質を作り出せてこそですからね…では、合宿中ずっと考え込んでいたのはその特訓のことなのですか?」
「あ?考え込む?」
「?ええ。垣根さん、何やらずっと考え込んでいらっしゃる様子でしたので、もしかしたらその事かと」
「…そんなにか。まぁそうだな。中々上手くいかねぇもんでな。色々と試行錯誤中だ」
「垣根さんでも上手くいかないことがあるのですね。ですが、何か私にお手伝いできることがあればいくらでも言ってください!同じ創造系の個性持ちとして精一杯お力添え致しますわ!」
「…あぁ」
垣根と八百万は話しながら森の中を進んでいく。すると突然何かが焦げるような匂いが二人の鼻腔を刺激する。
「?何だか少し焦げ臭くありませんか?」
「ああ。何か妙だな」
垣根達が怪訝に思って足を止めると、二人の周りを霧のようなものが覆い始める。すると、
「八百万、今すぐガスマスクでも作って口と鼻を覆え」
「えっ?」
垣根はとっさに八百万に指示を出す。
「この煙は有毒だ。吸ったら何が起きるか分からねぇ。早くしろ」
「は、はい!」
垣根の言うとおり八百万は急いでガスマスクを創造し、装着する。
「垣根さんも早くこれを…!」
「いや、俺は大丈夫だ。そいつは他の奴らにくれてやれ。今この状況でアイツらを助けられんのはお前だけだ」
「…分かりましたわ」
力強く頷くと八百万は他の生徒達を助けに向かった。
(さて、これはどういう状況だ?)
八百万を見送った垣根が改めて状況確認をしようとした時、突然体に電流が走ったかのような感覚を覚える。その直後、垣根の頭の中にマンダレイの声が響いた。
〈みんな!
「…そういう事かよ」
マンダレイの通信を聞いた垣根は静かに呟くと翼を広げて飛び立った。
青山っていいポジションにいるんですよね。