「あの会見後に、まさかタイミング示し合わせて……!?」
「うわぁぁぁ!」
「木の人!引っ張んなってば!押せよ!」
敵達はシンリンカムイの木によって縛られ呻いていた。拘束をほどこうと身をよじっているが中々抜け出せそうにない。
「攻勢時ほど守りが疎かになるものだ。ピザーラ神野店は俺達だけじゃない。外はあのエンデヴァーを始め、手練れのヒーローと警察が包囲している」
そう言いながらエッジショットを筆頭に警官達がドアからバーの室内に入ってきた。こうして敵包囲網が出来上がるとオールマイトは側にいた垣根に優しく声をかける。
「怖かったろうによく耐えた!ごめんな……もう大丈夫だ少年!」
「…ケッ」
「こんのアホたれが!!!」
「ブフォッ!!!」
突然後頭部に蹴りを入れられ、思わず呻く垣根。垣根は蹴られた後頭部に手を当てながら今垣根を蹴ったであろう人物を睨み付ける。
「てんめぇ…!何しやがんだクソジジイィ!!マジで効いたぞ今の!」
「そりゃこっちの台詞だこの馬鹿モン!敵連合なんぞに捕まりおって!おかげでこんな大がかりな突入作戦をやる羽目になったんだぞ!」
「チッ……んなことテメェに言われなくても分かってるようるせぇな」
「な、何だその態度は!?お前本当に自分のしでかしたこと理解しとるんだろうな!?」
「しつけーなァ!分かってるっつってんだろ!」
「ま、まあまあ二人とも落ち着いて」
グラントリノと垣根が言い争っているのをオールマイトが横からそっとなだめる。相変わらずグラントリノはスパルタだなぁなどとオールマイトが心の中で思っていると、木に縛られている死柄木がオールマイト達を睨みながらボソッと呟いた。
「せっかく色々こねくり回したのに何そっちから来てくれてんだよラスボス!……仕方ない、俺達だけじゃない?そりゃこっちもだ。黒霧!持ってこれるだけ持って来い!!」
「脳無だな!」
オールマイト達はすぐさま目の前の死柄木に意識を戻し警戒態勢を取る。しかし室内には何の変化も起こらない。
「どうした黒霧!?」
「すみません死柄木弔、所定の位置にあるはずの脳無が………ない!?」
「は?」
黒霧の報告に困惑する死柄木。すると今度はオールマイトが垣根の肩に手を乗せながらゆっくりと話しはじめた。
「やはり君はまだまだ青二才だ死柄木」
「あァ!?」
「敵連合よ、君らは舐めすぎだ。少年の魂を、警察のたゆまぬ捜査を、そして…我々の怒りを!!!おいたが過ぎたな。ここで終わりだ死柄木弔!」
「「!?」」
そこにはNo.1ヒーロー、平和の象徴と謳われるオールマイトが自分達敵連合を鋭い眼光で睨めつけながら仁王立ちしている姿があった。その圧倒的存在感、威圧感に誰もがすくむ。
「いィ!?オールマイト!?これがステインの求めたヒーロー!!」
「終わりだと?ふざけるな…始まったばかりだ。正義だの平和だの、あやふやなモンで蓋されたこの掃きだめをぶっ壊す!その為にオールマイトを取り除く!仲間も集まり始めた…ふざけるな!ここからなんだよ…!黒霧!」
「うっ…」
「なっ!?」
「キャア!やだぁもう!見えなかったわ!」なに?殺したの!?」
「中を少々いじり気絶させた。死にはしない」
その技で黒霧を一瞬で気絶させたエッジショットが糸状から元の形に戻りながら答える。
「忍法千枚通し。この男は最も厄介……眠っててもらう」
「さっき言ったろう。大人しくしといた方が身のためだって。引石健磁。迫圧紘。伊口秀一。渡我被身子。分倍河原仁。少ない情報と時間の中、おまわりさんが夜なべして素性を突き止めたそうだ。分かるかね?もう逃げ場はねぇってことよ」
「「…………」」
「なぁ死柄木、聞きてぇんだがお前さんのボスはどこにいる?」
グラントリノは死柄木に尋ねる。一方死柄木は呆然と目の前の光景を見渡しながらある記憶を思い起こす。死柄木達のボス。その人物との出会い。自分に手を差し伸べてくれたあの人の姿を。
(こんな…こんな、呆気なく…ふざけるな……ふざけるな!)
「奴は今どこにいる?」
「失せろ…!消えろ…!」
「死柄木ィ!!」
「お前が!嫌いだぁぁぁぁぁぁ!!!」
室内に響き渡る死柄木の絶叫。その直後、
バシュウゥゥ!!
水のような音と共に、突然死柄木の両隣の空間から黒いナニカが出現する。そしてその黒い断面から覗いて見えるのは、
「脳無!?何も無いところから!?何だあれは!?」
「エッジショット!黒霧は!?」
「気絶してる!コイツの仕業ではないぞ!」
「どんどん出てくるぞ!」
突然出現した黒いナニカは部屋中に現れる程数を増し、それぞれから脳無が出てきている。
「シンリンカムイ!絶対に放すんじゃないぞ!」
「は!」
オールマイトが急いでシンリンカムイに指示を出す。すると、
「ごはっ……!?口の中か………ら!!」
垣根の口の中からも黒いナニカが吐き出されるように現れた。
「!?垣根少年!」
慌てて垣根を助け出そうとしたオールマイトだが黒いナニカはあっという間に垣根を飲み込み、その場から消えてしまった。
「NOOOOOOOOOOOOOO!!!」
「帝督!!」
「エンデヴァー!応援を………はっ!?」
慟哭するオールマイト。事態を見たシンリンカムイが外の部隊に増援を求めようとしたが外の様子を見て口をつぐむ。外も既に黒いナニカから出現した何体もの脳無で溢れかえっており、エンデヴァー達は交戦を強いられていた。一方、グラントリノとオールマイトは脳無を撃退しながら状況把握を行っていた。
「俊典!こいつは…」
「ワープなど持ってはいなかったはず……対応も早すぎる!まさか…この流れを……」
「先生………」
状況が渾沌としていく中、死柄木は宙を見つめながらひとりでに呟いた。
◆
「ゲホッゲホッ……!何だこりゃ…………
黒いナニカによってバーから別の場所へ飛ばされた垣根は嘔吐きながら辺りを見渡す。垣根は廃墟のような場所にいた。辺りは崩れた建物ばかりで退廃した空気が漂っている。そして垣根の目の前にはおそらく垣根をここに連れてきたであろう人物が立っていた。スーツ姿で顔には厳ついマスクを装着しているその人物からは不気味な雰囲気が漂っていた。
「悪いね垣根君」
「…誰だテメェは」
口元を拭いながら目の前の人物を睨み付ける垣根だったがその直後、いくつもの黒いナニカが垣根達の周りに出現した。その黒いナニカから出てきたのは垣根と同じくバーにいた敵達である。彼らも黒いナニカによってここまで飛ばされてきたのである。そして敵達もこの状況には困惑している様子だった。
「うえぇぇぇ……」
「何なんですか…」
「何かクッセー!いい匂い!」
「先生………」
「また失敗したね弔。でも決してめげてはいけないよ。またやり直せばいい。こうして仲間も取り返した。この子もね。君が大切な駒だと考え、判断したからだ。いくらでもやり直せ。その為に僕がいるんだよ。全ては君のためにある」
そう言いながらマスクの男、死柄木が先生と呼ぶ男はゆっくりと死柄木に歩み寄り手を差し伸べた。その場に数秒の静寂が訪れる。そしてその静寂を破ったのはまたしてもマスク男だった。
「やはり、来てるな」
ひとりでにそう呟いた直後、彼方からナニカがマスク男目掛けて飛来し、二者がその場で激突した。
「全てを返してもらうぞ!オールフォーワン!!!」
「また僕を殺すか?オールマイト!!!」
ドゴォォォォォォォォォン!!!!
凄まじい衝撃が辺り一帯を襲い、瓦礫やその場にいた者達がその風圧によって吹き飛ばされる。垣根はとっさに自分の体の正面に壁を作り、風圧を防ぎながら激突地をじっと見据える。視線の先では先ほどまで一緒にいたオールマイトの姿とオールフォーワンと呼ばれるマスクの男が対峙していた。
「随分と遅かったじゃないか。バーからここまで5㎞余り。僕が脳無を送り優に30秒は経過しての到着…衰えたねオールマイト」
「貴様こそ何だその工業地帯のようなマスクは。大分無理してるんじゃないのか?」
(オールマイトのパワーと互角……それに死柄木のあの台詞…アイツが親玉で間違いなさそうだな)
垣根はオールフォーワンについて憶測を立てながら再び周囲に目を配る。するとオールマイトが更に続けた。
「六年前と同じ過ちは犯さん。オールフォーワン!垣根少年を取り返す。そして貴様を今度こそ刑務所にぶち込む!貴様の操る敵連合もろとも!!」
「それはやることが多くて大変だな。お互いに」
オールマイトが雄叫びと共に砲弾のごとくその身を発射させ、一瞬でオールフォーワンとの間合いを詰める。それに対しオールフォーワンはゆっくりと片手を前に突き出し、大規模な衝撃波をオールマイト目掛けて発射した。衝撃波をもろに受けたオールマイトは倒壊していたビル群を突き破りながら勢いよく後方へ吹き飛ばされた。
「『空気を押し出す』+『筋骨バネ化』、『瞬発力×4』、『膂力増強×3』。この組み合わせは楽しいなぁ。増強系をもう少し足すか……」
自身の腕を見ながら何やらブツブツ呟くオールフォーワン。すると、
「おいマスク野郎」
垣根がオールフォーワンに声をかける。
「心配しなくてもオールマイトはあの程度では死なないよ」
「んなこと聞いてねぇよ。木原はどこだ?」
「ここですよ垣根帝督」
垣根の問いに答えたのは無機質な女の声。垣根は忌々しそうに声のした方へ振り向くと、車椅子に乗った一人の女がいた。栗毛色の髪にパジャマ服が特徴的であり、一見おしとやかで可憐な女性に見えるがその漆黒に染まった瞳が一気に不気味さを引き立てていく。垣根の前に現れた木原は微笑みを浮かべながら垣根に話しかける。
「改めまして、お久しぶりです」
「……相変わらずブチ殺したくなるような面してんなァ、テメェは」
久方ぶりに再会した女性に垣根は辛辣な言葉をぶつける。垣根から純度100%の殺気をぶつけられているというのに木原病理はその顔に笑みを浮かべたままだ。まるで久しぶりに会った旧友と話をするかのように、木原は穏やかな口調で話しかける。
「そんな怖い顔しないでください垣根帝督。再会の挨拶くらい―――――――――」
しかし、木原がセリフを言い終える前に垣根の足下から二本の鋭い槍が木原目掛けて放たれ、ズガンッッ!!と音を立てながら木原に直撃した。垣根は依然険しい顔のまま木原の方を注視していたが、
「まったく、レディの話の途中に攻撃とはマナーがなってませんね。せっかちな男は嫌われるらしいですよ?」
垣根の神経を逆なでするようなフワリとした声が聞こえてくる。土煙が晴れると、垣根が生み出した槍を車椅子から伸びた盾のような物で防いでいる木原の姿があった。
「防いだか…」
「先ほども言いましたよね?あなたの能力開発に携わったのは私です。未元物質の強度も把握済みですよ」
「ほぉ、おもしれぇ。潰し甲斐があるじゃねぇか木原君よ」
木原の言葉に更に闘志を燃やす垣根であったが、それまで静観していたオールフォーワンが木原に声をかける。
「再会を喜び合っているところ悪いが木原、今はここを離れることを優先してもらいたいんだ。その子を連れて」
「ええ、分かっていますよオールフォーワン」
「黒霧、皆を逃がすんだ」
オールフォーワンはそう言いながら五指の先から赤黒い線状のモノを伸ばし、気絶している黒霧の体に刺した。それを見ていたマグネは慌てたようにオールフォーワンに抗議する。
「ちょ……アナタ!彼やられて気絶してんのよ!?よく分かんないけどワープを使えるならアナタが逃がしてちょうだいよ!」
「僕のはまだ出来たてでねマグネ。転送距離はひどく短い上に彼の座標移動と違い、僕の元へ持ってくるか僕の元から送り出すことしか出来ないんだ。ついでに送り先は人、馴染み深い人物でないと機能しない。だから黒霧にやってもらう」
オールフォーワンがマグネに返答した直後、黒霧の体の真上にワープゲートが出現した。
「個性強制発動!さぁ行け!」
「先生は………」
そう死柄木が呟いた直後、遠方でボォォォォン!!と爆発音のような音がし、皆がその音の方向を見る。そこには先ほど吹っ飛ばされたオールマイトが凄いスピードでオールフォーワン目掛けて向かってくる姿が見て取れた。オールフォーワンはゆっくりと浮遊を開始しながら死柄木に言葉をかける。
「常に考えろ弔。君はまだまだ成長できるんだ」
「逃がさん!!!」
そして再びオールフォーワンとオールマイトが激突した。
「先生………」
「行こう死柄木!あのパイプ仮面がオールマイトを食い止めてくれてる間に!駒持ってよ!」
未だにオールフォーワンの方を見つめている死柄木に、コンプレスが気絶している荼毘をビー玉に変化させながら言った。そしてコンプレス・トガ・トゥワイス・スピナー・マグネが垣根と相対する。垣根は目の前に立ちはだかる敵連合の面々を一瞥しながら言い放った。
「退けコラ。俺が殺してぇのはそこのクソ女だけだ。お前ら雑魚共に興味はねぇんだよ」
「お前に興味は無くても俺達はお前に興味津々でね。コイツをヤりたきゃ俺達を倒してからにするんだな。…………木原、例のヤツを」
「はい」
木原はコンプレスの指示に返事をすると、車椅子の仕掛けを起動させ、駆動音を鳴らしながら背面からスピーカーのようなモノを出現させる。そして林間合宿の時と同様、キーン!という甲高い音を響かせた。
「これでお前は個性が使えなくなった」
トガ・トゥワイス・スピナー・マグネはゆっくりと垣根を囲むように移動し、包囲網を整える。そして、
「やれ!」
コンプレスの合図と共に5人が一斉に垣根に飛びかかる。そして、敵達と垣根の距離がほぼゼロになるであろう瞬間、
「はぁ…………」
垣根は大きくため息をつき、その直後眼をカッ!と見開いた。
ドゴォォォォォォォォォン!!!!
轟音を響かせながら垣根のいた場所に大爆発が起こる。垣根に攻撃を仕掛けた敵達は爆発に巻き込まれ、その体は四方八方へと吹き飛ばされた。爆煙の中、垣根は歩きながらゆっくりとその姿を見せる。
「俺は外道だが一般人や格下を見逃すくらいの良心は持ってる。だがな、俺の邪魔するヤツは誰だろうと容赦はしない」
「うぅ…バカな……!?」
「どうして……個性が…………」
「…………」
吹き飛ばされた敵連合はうめき声を上げながら地面に横たわっていた。木原はその場でスッと眼を細めながら黙って垣根を見つめる。
「同じ技が俺に通用するかよ。木原が元の
「………」
「じゃあ……どうやって防いだのよ……」
「音ってのは空気を伝わるもんだろ?だから、大気中に未元物質をバラ捲いといたんだよ。未元物質と触れ合った音波は全く別の異物に変質する」
「なっ………!?」
「俺の未元物質はこの世のどんなモノにも影響しうる。音さえもその例外じゃねぇ。ま、お前らには分かんねぇよ。なぁ?木原」
「フッ、やはりそう上手くはいきませんか。予想より対策されるのが速かったですが、まぁいいでしょう。こんなもので
「何だよ、負け惜しみか?いいぜ。いくらでも言えよ今のうちに。どのみちお前はここで死んじまうんだからよ」
「そうなるといいですね」
そう言いながら木原は手元のボタンを押す。すると車椅子がガチャッガチャッ!と音を立てながらその姿を変形させていった。車椅子の足が蜘蛛の足のように複数に分かれ、多脚ユニットが構成される。車椅子の背面やアーム部分からはいくつもの重火器がその姿を現した。一方の垣根も轟ッ!という派手な音と共に純白の翼を出現させる。両者は睨み合い、沈黙がその場を支配する。そして、
「木ィィィィィィィィィィ原ァァァァァァァァァァァ!!!」
「それでは、アナタを『諦め』させるとしましょう」
垣根は怒号をあげながら、木原は冷徹な声音で呟きながら、両者は激突した。
ガバガバでも許してください