「おい・・・どうするよ、これ」
神野区のとある廃墟では今、二つの戦いが繰り広げられていた。一つはオールマイトと敵の大将であろうオールフォーワンとの戦い。もう一つは雄英生徒の垣根帝督と敵側であろう車椅子に座っている謎の女性。その光景をすぐ側の建物の残骸に身を隠しながら観ていた切島はボソリと呟いた。同じくその場には他五人の生徒がいたが、誰も切島の言葉には返答しなかった。他五人とは、緑谷・飯田・八百万・轟・そして爆豪である。彼ら六人がこの場にいる理由は、垣根を助けに来たからである。切島と轟がこの作戦をクラスメイトに立案し、賛同を得られたのがこのメンバーだった。もっとも、飯田はこの作戦には強く反対していたのだが、緑谷達の監視役という名目で同行することとなり、八百万もその役を担っている。緑谷にとって意外だったことは爆豪が一緒に来たことだった。A組生徒なら垣根と爆豪の犬猿の仲を知らぬ者はいないというくらい、この二人の相性は最悪だった。そんな爆豪が今作戦に参加すると知れば驚くのも無理はない。彼にも何か思うところはあったのだろうか。しかし、緑谷をはじめ、他のメンバーも特には追求せず作戦決行に至った。そんな訳で今に至る緑谷達である。緑谷達の目的は垣根の救出。しかし、その垣根はと言えば車椅子の女性と交戦を始めてしまった。二人の様子を見る限り、何やら因縁めいた関係であるらしいが、詳細については分からない。そんな中、切島が言葉を続ける。
「垣根の奴、敵と戦い始めやがった・・・これじゃ救出なんて出来ねぇぞ・・・」
「垣根さん・・・」
「今敵側で戦闘可能な奴はマスク野郎と車椅子野郎、それに死柄木の三人。マスク野郎はオールマイトが相手してるっつーことを考えりゃ実質二人。俺らが加勢すりゃ十分勝機はあるなァ・・・」
「駄目だ爆豪君!忘れたのか!?戦闘皆無での救出!それがこの作戦の条件だったはずだ!」
「ならどうすんだァ!?このまま黙って見てろってのか!?あァ!?」
「ッ!?それは・・・」
「・・・助けようにもこれじゃ手が出せねぇな」
「・・・うん。でも、オールマイトにとっても最優先目標は垣根君保護のはず。とすれば、垣根君をここから逃がすよう動くと思うんだけど・・・」
緑谷の予想通り、オールマイトはオールフォーワンと交戦しながらここから離脱するよう垣根に伝えていた。
「垣根少年!今すぐここから逃げるんだ!戦闘可能な敵の数が少ない今なら・・・クッ!?」
「戦闘中によそ見とは随分と余裕だねぇオールマイト」
オールマイトが最後まで言い終わらないうちにオールフォーワンの攻撃がオールマイトに直撃する。一方の垣根は、
「逃げる?オイオイ冗談よせよオールマイト。
と、空中でオールマイトに返答しながら純白の翼を木原に叩きつける。しかし放たれた翼が木原を捉えることはなく、標的を見失った翼はコンクリートの地面を深々と削りとる。車椅子から伸びている多脚ユニットが素早く動き、垣根の攻撃を躱したのだ。垣根は休むことなく攻撃を仕掛けるも、多脚ユニットによって普通の車椅子では絶対にあり得ない動きを見せながら悉く躱していく木原。
「チッ!ちょこまかと・・・」
木原の素早い動きに苛つきを見せる垣根。すると木原は多脚ユニットと同様、車椅子に装備された重火器、具体的には軽機関銃と大口径散弾銃をセットし、垣根に標準を合わせる。二つの重火器の側面には『Made_in_KIHARA』という悪魔の文字列。そして、
ドドドドドドドドドドッッッッッッ!!!!!
爆音を響かせながら銃を発射した。すかさず翼で身を守る垣根。木原の銃撃を受ける垣根であったがふとあることに気付く。
(削れてやがる・・・!)
垣根の翼を弾丸の嵐は少しずつではあるが、確実に翼の表面を削り取っていたのだ。
(どうやら、未元物質の強度も織り込み済みってのはあながち嘘でもないらしいな・・・)
垣根は心の中で呟くと、今度は翼の羽の何枚かを槍の形に変形させ、一斉に木原に放った。垣根の槍を視認した木原は手元のボタンをポチッと押す。すると木原の車椅子が天高く、勢いよく跳躍し、本体ごと垣根に襲いかかった。
「うおっ!?」
慌てて回避した垣根は一旦地面に着地する。標的を見失った木原も重力のなすがまま落下し、ガシャンッ!と大きな音を立てながら地面に着地した。
「・・・蜘蛛みてぇにちょこちょこ動き回るわ、いきなりジャンプするわ、銃器出してくるわ、普通の車椅子がしていい動きじゃねぇなそれ。流石は木原製。イカレてやがる」
「お褒めに預かり光栄ですー」
「褒めてねぇよクソ女」
「クソ女とは酷いですねぇ・・・ところで、良いのですか?私と戦っていても。No.1ヒーローさんの言うとおり、逃げた方が良いのでは?」
「逃がす気もねぇくせによく言うぜ」
「まぁそれもそうなんですけどねー。でもそうなると、あのヒーローさんは大変そうですねー」
「あ?」
「だってあれ、明らかに力をセーブしながら戦ってますよね。アナタを気遣ってのことなのかは知りませんけど」
木原の言葉を聞いた垣根はオールマイトの方を見る。言われてみれば確かにいつもほど威力が出ていない。どこか窮屈そうに戦っているようにも見える。しかしなるほど、それが自分への気遣い故だとすれば筋が通るし理解も出来るが、それは同時に垣根をイラつかせる要因ともなった。これは、オールマイトにとって今の垣根が足枷になっているということだからだ。常に強者側であった垣根にとって、それは屈辱的なことだった。垣根はその場で大きく舌打ちをしながら悪態をつく。
「チッ、余計なことしやがってあの筋肉ダルマ・・・なら、教えてやるよ。俺に気遣いなんて無用だって事をな」
そして垣根は片膝をつきながら地面に手を当てる。数秒の沈黙の後、ゴゴゴゴゴゴッッッ!!と突然地鳴りのような音が辺り一面に鳴り響く。そしてオールマイト側と垣根側を隔てるかのように、未元物質で出来た巨大な壁が出現した。壁は境界線のような役割を担い、その範囲は数㎞先まで及び、高さはおよそ十メートル程。巨大な壁が突如出現したことで、オールマイトとオールフォーワンも流石に手を止め、壁の方へ目を向けた。
「これは・・・垣根少年の仕業か・・・?」
「ほぅ・・・これは中々・・・」
「・・・ハッ!垣根少年!今すぐここから逃げるんだ!」
「・・・って言ってますけど?」
「うるせぇよ。これで戦いに集中出来るってもんだ。そろそろ潰される覚悟は出来たかよ?」
「それはまだ出来ていませんが・・・そうですね、今度はこちらから行かせて頂きましょう」
木原は不気味に笑いながら言うと、車椅子の背面が突如開く。そして複数のナニカが勢いよく上空へ発射され、ある程度の高さまで上がったそれらは突如急降下し垣根に襲いかかった。
「あれは・・・ミサイルか!?」
何か嫌な予感がした垣根は翼を広げ上空へ逃れる。しかしミサイルは軌道を変え、上空の垣根目掛けて再度襲いかかる。ミサイルが追尾してくることを確認した垣根は背中の翼をはためかせ、空を駆け回り、垣根とミサイルの空中レースが開始した。逃げても逃げても追ってくるミサイルのしつこさに舌打ちをする垣根。
(撃ち落とすか)
迫り来るミサイルを迎撃しようと体勢を整えようとしたがその時、視界の隅に人らしきものを捉えた垣根。しかも一人ではなく、おそらく五人ほど。あまりに一瞬だったため、得られた情報は少なかったが、その中のある情報が垣根を混乱させる。それは髪色。複数人の内の一人の髪色が白と赤色の二つの分かれていたのだ。そんな特徴的な髪色をしている人物を垣根は一人しか知らない。それは同じクラスの轟焦凍。もしあれが轟だとすれば他の人物達もA組のクラスメイトの可能性が高い。では一体なぜ?なぜクラスメイトがこんな場所にいるのだろうか。思考によって割かれた一瞬の時間が垣根の準備を遅らせる。ハッと意識を戻した垣根の目の前には迫り来るミサイルの姿があった。
「しまっ・・・・!?」
ボォォォォォォォォォォォォォン!!!!
ミサイルが垣根に直撃し、空中で大爆発が起きる。爆煙の中、白い塊が落下していき、土埃を舞わせながら地面に落ちた。
「意外と当たるものですねー。では行きますか」
垣根が地上に落下したことを確認すると、落下地点に向けて車椅子を動かした。
◆
ドサァァァ!!!
緑谷達が背にしている壁のすぐ裏側に、ミサイルで撃たれた垣根が落下する。
「か、垣根君!!」
「大丈夫か垣根!」
緑谷と切島が壁越しに不安そうに声をかける。しばらくすると垣根は立ち上がり、翼を目一杯広げた。緑谷が再度声をかけようとしたが、垣根がそれを制す。
「騒ぐな。黙ってろ。奴にバレる」
「!?」
有無を言わせない垣根の口調に思わず黙りこくる緑谷達。垣根は前方に目をやる。少し遠くから木原が車椅子を動かし、こちらに向かってくるのが見える。このままこちらにきてしまったら緑谷達の存在がバレかねない。そう考えた垣根は演算を開始し、未元物質で目的のモノを形成していく。数秒後、垣根の前に現れたのは二体のカブトムシ型兵器だった。いずれも全長五~十メートル程で、角の先端はくりぬかれ砲身となっている。垣根はカブトムシ型兵器を生み出すと、
「行け」
一言そう命じた。途端に二体の兵器は翅をはばたかせながら木原へと向かっていった。木原もカブトムシの存在を視認すると再び戦闘を開始した。そして垣根は木原から目をそらさずにまっすぐ立ちながら、口元をほとんど動かさずに緑谷達に話しかける。
「で?なんでお前らがここにいる?」
「何でって、助けにきたんだよお前を!」
「は?なんだそりゃ。んなもん頼んだ覚えはねぇぞ」
「頼むとか頼まねぇとか関係ねぇよ!ダチが攫われたんだ、助けに行くのは当たり前だろ!」
「は、相変わらず甘いなお前ら。反吐が出るくらいによ・・・・・さっさと帰れ。戦いの邪魔だ」
「そんな・・・!皆キミのことを想い、危険を冒してまでここに来たんだぞ!そんな言い方はあんまりじゃないか!」
「だから頼んでねぇっつってんだろ。それに今回の騒動は俺のミスだ。自分のケツは自分で拭くさ。お前らには関係ねぇ」
「関係あるよ!友達だもん」
「垣根さん!私たちと共にここから脱出しましょう」
「それは無理だ」
木原に怪しまれないよう、垣根は木原の動きを目で追いながら緑谷達と会話する。木原は二体のカブトムシと交戦中で、垣根には近づけていない。今のところ木原はカブトムシ兵器と戦うことに意識が削がれているため問題ないが、それも時間が経てば垣根が全く動かないことに違和感を覚えるだろう。このスタンスもそう長くは続かないと見ていい。すると飯田が先ほどの垣根の言葉に対し疑問を投げかける。
「どうしてだ!?オールマイトは君を保護するために懸命に戦っているんだぞ!なら君は一刻も早くここから逃げるべきだろう!?」
「その理屈は確かに正しいが、それを押しのけてでも俺には倒さなきゃならねぇ奴が目の前にいるんだよ」
「あの女か・・・」
「あの敵は一体・・・?」
「今話してる時間はねぇ。とにかく俺は今手が放せねぇんだよ。分かったらとっとと帰れ」
「待ってよ垣根君!オールマイトがここに到着したってことはきっと他のプロヒーロー達もここへ向かっているはず。だから後のことはプロに任せれば・・・」
「他のプロに任せる?じゃあそいつらはいつ来るんだ?それまでにコイツらがここから逃げないでいる保証はどこにある?」
「そ、それは・・・」
「ほらな?不確定要素が多すぎる。それに仮にプロが来たとして、あの女を捕らえられるとも思えねぇ。だから俺がやるんだよ」
「・・・今回の作戦にはベスト・ジーニストやギャングオルカ程のヒーローも出張ってきてる。なら、他にも大物ヒーローが絡んでると見ていい。あの敵がどれほど強いかは知らねぇが、増援が来れば捕らえることも可能だと思うぜ」
「どれだけ大物が来たって変わらねぇよ。お前らは
「・・・ッ!それでも!君が今戦闘を行っていい理由にはならないだろう垣根君!僕たち資格未取得者は保護管理者の指示無く個性を使って危害を加えることは許されない・・・!それが規則なんだ!」
飯田が必死に垣根に訴えかける。保須での事件を経た飯田だからこそ、自分達が学校外で個性を戦いに行使することへの危機感を何より感じており、同じ過ちを犯そうとしている垣根を止めようとしているのだ。
「クラス委員長として、僕には今の君を止める義務が――――――――――」
「しつけぇなァ・・・」
「「「!?」」」
「あと何秒テメェらに時間割けばいいんだ?」
今までの口調とは明確に違い、怒気の籠もった低いトーンで言葉を放つ垣根。壁越しで顔は見えていないが、その冷徹な声のトーンだけで分かる垣根の苛立ちが伝わってきた。垣根の冷徹さは彼が敵と対峙している時にちょくちょく目にしてきたが、その冷徹さが今自分達に向けられていることを知る。背中に冷や汗が流れ、言葉を発することが出来ない緑谷達に垣根は言葉を続ける。
「規則違反なんざ知ったことか。退学でも何でも好きにすりゃいい。アイツをここで
事情がどうであれ、資格未取得者が敵と交戦し、かつその敵を殺めてしまったとなっては流石に未処分という訳には行かないだろう。最悪、退学になってもおかしくはない。だが、垣根はそんなことはどうでもいいと一蹴し、会話を切り上げようとする。そして木原との戦闘を再開しようと歩き出した途端、爆豪の声がした。
「待てよメルヘン野郎」
「・・・まだ何かあんのか。いい加減マジでキレるぞ」
呆れと苛立ちが入り交じり、心底うっとうしそうに答える垣根。爆豪は続ける。
「テメェが規則違反でどうなろうが知ったこっちゃねぇがな、このまま勝ち逃げってのは許さねェ」
「はぁ?」
「テメェはいつか必ず俺が超える!その前にテメェが蒸発したらこっちが困ンだよ!だからここは黙って俺らの話に乗れや!」
「・・・何言ってんだお前。話にならねぇな」
「っるせェ!大体、あの敵がどんだけ脅威だろうと関係ねェンだよ!!俺らがそれ以上強くなりゃいい!ビビってんじゃねェぞメルヘン野郎」
「・・・ムカついた。誰がビビってるって?」
「お、おい!二人とも落ち着けって!今は喧嘩してる場合じゃねぇだろ!」
「「・・・」」
「・・・垣根君、僕もかっちゃんと同じ意見だ。この先も垣根君や皆と一緒に学校生活を送っていきたい・・・君と一緒に雄英に帰りたいんだ!だからどうか今はその矛を収めて欲しい」
「ええ。私も同意見ですわ」
「あぁ、僕もだ」
「勿論俺らもだよな?轟?」
「・・・ああ、まぁな」
「ケッ!」
「それで、その為の作戦も考えた。垣根君、君に聞いて欲しい」
「・・・・・・・・・」
垣根の沈黙を肯定と捉えた緑谷は考え出した作戦をこの場全員に伝える。緑谷が伝え終わると、垣根は黙って木原の元へ歩いて行った。
「何も反応がなかったが、大丈夫だろうか・・・?」
「きっと大丈夫だぜ飯田!アイツはやるときゃやる男だ」
「ええ!垣根さんを信じましょう
「・・・ああ、そうだな」
「よし、僕らは準備に取りかかろう」
緑谷は作戦決行のため、準備に取りかかった。
◆
「おや?見物は終わりですか?中々おもしろい
「ああ。そろそろ退屈してきたところだし俺も参戦しようかと思ってな」
「そうですか。私はてっきり先ほどのダメージ故、休息でもしていたのかと思っていましたが」
「抜かせ。ちゃんと防御はしたさ。まぁ衝撃を完全に殺すことは出来なかったが、大したダメージじゃねぇ」
「それにしては随分と長い見物でしたねー」
「いや何、テメェのその蜘蛛みてぇな気色悪ぃ動きを分析しようと思ってな。ちょろちょろ動き回りやがってウザかったからよ」
「ほぅ・・・ちゃんとその成果が出るといいですねー」
垣根は木原と軽口をたたき合いながら頭の中では別のこと考えていた。
(くだらねぇ・・・どう考えても俺がこの場でコイツを殺すことが最適解。相澤風に言う、『合理的』ってやつだ。規則違反なんざ関係ねぇ。それをアイツら、薄ら寒い綺麗事をペラペラペラペラと・・・反吐が出る)
一方、木原は新たな重火器を起動し、攻撃態勢を整える。
(アイツらの言うことなんざ無視して俺はコイツを仕留めることだけに集中してればいい。そう、今も昔も変わらねぇ。俺は俺の好きなようにやればいいんだ。なのに・・・何だこの苛つきは!?)
どうしようもない苛つきが垣根の体を蝕む。頭では何をすべきか分かっているのに、何かが引っかかる。だがその正体は分からない。その不明瞭さへの苛立ち。垣根が考えれば考える程、なぜか緑谷達の言葉が浮かび上がり、その思考を妨げる。故に思考がまとまらず、イライラは更に増すばかり。
(・・・今は木原に集中しろ。コイツを殺すことだけ考えてりゃいい。俺が、コイツを・・・・・・)
(ふむ。そろそろ仕留めにかかりますか。現在の形態では流石に無理そうなので、第三形態で―――――――)
垣根と木原の戦いが再び始まろうとしたその時、バカンッッ!!という音と共に崩落しかけていた建物の壁が壊れ、飯田・緑谷・切島が姿を見せる。思わぬ人物達の出現に思わず気を取られる木原。同時に垣根もオールマイト側と自分達とを隔てる壁を解除した。その直後、すぐさま轟が氷結によって天高く道を形成し、飯田と緑谷が切島を抱えながら個性を利用してその道を駆け上がっていく。そして最高到達点で勢いよくジャンプした三人は一気に戦場を横断し、声高に叫びを上げる。
「「垣根君!!!」」
「来い!!!」
戦場にいる全員が空中の三人に目を向ける中、一人下を向く垣根。唇をかみ、刹那の間葛藤する。
「クッ・・・!」
木原が緑谷達の意図を理解し、慌てて垣根に視線を戻した瞬間、純白の六枚の翼が力一杯羽ばたかれ、その場で暴風が吹き荒れる。全力で飛翔した垣根は一気に緑谷達の下へ駆け上っていった。それを見た木原も瞬時に対応する。
「逃がしませんよ垣根帝督・・・形態変化、スカイフィッシュ参照」
木原のかけ声と共に、木原の腕からプラスチックに亀裂が入るような、嫌な音が鳴る。さらに木原の下半身のパジャマが破け、足全体を覆う合成樹脂の機械が露わになると共に彼女はその場で立ち上がった。右腕の側面にひだのようなものが生まれ、足下に落ちていた鉄パイプをその腕で拾い上げ、緑谷達へ狙いを定めると、機械の足で強く前に踏み込んだ。そして空中の垣根目掛けて力一杯腕を振り抜こうとしたその時、爆豪が木原の視界の斜め上に躍り出る。木原が投擲のために腕を振り始め、かつキャンセルできない絶妙のタイミングで木原の前に飛び出した爆豪は両手を木原の目の前にかざして声高に叫んだ。
「
「くっ・・・!?」
ピカッ!と辺り一面に眩い光と大きな爆発が発生する。突然の閃光と爆風により投照準がズレてしまった木原の投擲は垣根からはややずれ、あさっての方向へ飛んでいってしまった。視界が戻ると共に態勢を立て直した木原だが、その時には既に爆豪も爆発による推進力で遠くへ飛んでいっていた。しかし木原病理は諦めない。
「スカイフィッシュ形態の能力を甘く見てもらっては困ります。その気になれば1000メートル先の獲物も正確に撃ち抜けるのですから。まだチャンスは・・・・・・」
再び投擲を行おうとした木原だったが、
「!?」
バシッ!と何者かに蹴りを放たれ、間一髪で右腕でガードする。
「チッ!勘がいいのぉお前」
「危ないですねーご老体」
足の裏のジェットを吹かせながらグラントリノと木原病理が相対する。するとオールマイトがこちらに駆けつけて来た。
「グラントリノ!遅いですよ」
「お前が速すぎんだ。なぁ緑谷!ほんっとますますお前に似てきとる。悪い方向に!」
「保須での経験を経てまさか現場に来ているとは・・・十代!」
「志村の友人か・・・」
オールフォーワンが起き上がり、こちらに歩みながら呟く。先ほど、緑谷達が現れた一瞬、オールフォーワンの気が逸れたところをオールマイトが一発入れたため、吹っ飛ばされていたが再び立ち上がってきたのだ。
「だがこれで本当に心置きなくお前を倒せる。オールフォーワン!」
「こっちもあと二人!終わらせる!」
「ふーむ・・・増援はまだ来そうですし、垣根帝督の即時奪還はほぼ不可能。中々面倒ですねー」
「やられたな。一手で綺麗に形勢逆転だ」
そう言いながらオールフォーワンは先ほどと同様、五指の先から赤黒い線状のモノを伸ばし、今度はマグネの体に突き刺す。
「個性強制発動・磁力!」
すると女性である木原とトガにはN極の磁場が発生し、男の敵達にはS極の磁場が発生した。男の敵は木原に吸い寄せられるように移動し、トガはその男達に引き寄せられていった。死柄木は体を引きずられながらも、オールフォーワンへ必死に呼びかける。
「待て・・・ダメだ!先生・・・!その体じゃアンタ・・・ダメだ!俺・・・まだ・・・!」
「弔、君は戦い続けろ・・・そして木原、ドクターを頼んだよ」
「はい」
オールフォーワンに短く返事をすると木原はワープゲートの中へ入っていく。
「しばしの別れです垣根帝督。いずれまた会う日その日まで、せいぜい生き延びてて下さいねー」
そしてオールフォーワン以外の敵全員がワープゲートの中へ消えた。
死柄木・・・絡ませてやれなくてスマンかった。