四十九話
「取り敢えず一年A組、無事にまた集まれて何よりだ」
相澤が学校の校門前に集まった生徒達に向けて話し始める。
「みんな入寮の許可降りたんだな」
「ふぅ…私は苦戦したよぉ~」
「普通そうだよね…」
「二人はかつて直接被害あったもんね」
「無事集まれたのは先生もよ。会見を見たときはいなくなってしまうのかと思って悲しかったわ」
「うん」
「俺もビックリさ。まぁ、色々あんだろうよ」
(全体的に下手に動かすより、泳がせて尻尾を掴む…って感じだろうな)
軽く頭をかきながら相澤は今回の全寮制の意図について自身なりの見解を立てる。先の事件で雄英に内通者がいる疑惑が発生し、その犯人をあぶり出すという目的もこの全寮制にはある。だが、それはそれとして相澤は話を続けた。
「これから寮について軽く説明するがその前に一つ。当面は合宿で取る予定だった仮免取得に向けて動いていく」
「そういやあったなぁそんな話」
「色々起こりすぎて頭から抜けてたわ」
「大事な話だ。いいか。切島・八百万・飯田・緑谷・爆豪・轟。この六人はあの晩あの場所へ垣根救出へ赴いた」
「ケロッ…!」
「「「・・・・・・」」」
「・・・その素振りだと行く素振りはみんなも把握していたわけだ。色々棚上げした上で言わせてもらうよ。オールマイトの引退がなけりゃ俺は、垣根・耳郎・葉隠以外全員除籍処分にしてる。行った六人は勿論、把握しながら止められなかった十一人も理由はどうあれ、俺達の信頼を裏切ったことには変わりない。正規の手続きを踏み、正規の活躍をして、信頼を取り戻してくれるとありがたい。以上。さ、中に入るぞ。元気に行こう」
(((いや、待って・・・行けないです・・・)))
相澤から厳しいことを言われ、ドンヨリとした雰囲気が漂うA組。すると垣根が上鳴に声をかける
「・・・おい、ちょっと面貸せ」
「え?何?やだ・・・・・・ウェ~イ」
「ブフッ!!」
「え?ちょ、垣根何?」
「それと切島」
「えっ怖!何!カツアゲ!?」
「ちげぇよ馬鹿。金使ったんだろ?」
「おめぇ、俺が暗視鏡買ったのどこで聞い・・・」
「借りは作らねぇ主義なんだよ俺は」
垣根は切島に持ってきた金を渡すと、一人寮の中へ入っていった。
「ウェ~イ・・・」
「「「わはははははははっ!!!」」」
「皆すまねぇ!!詫びにもなんねぇけど今夜はこの金で焼き肉だぁー!!」
「うぉーーー!!まじかーー!?」
「・・・茶番、も時には必要か」
◆
「学生寮は一棟一クラス。右が女子、左が男子と分かれている。ただし一階は共同スペースだ。食堂や風呂、洗濯などはここで行う」
「おおおおおおおお!!!」
「中庭もあんじゃん!」
「広っ!キレイ!ソファー!」
「豪邸やないかぃ~・・・」
「麗日君!?」
「聞き間違いかなぁ・・・風呂、洗濯が共同スペース?夢か・・・?」
「男女別だ。お前いい加減にしとけよ?」
「はい・・・」
寮の中に入り相澤は施設の説明を始める。その豪華さに感嘆するA組生徒達。相澤は続いて部屋の説明に入った
「部屋は二階から。一フロアに男女各四人の五階建て。一人一部屋。エアコン、トイレ、冷蔵庫にクローゼット付きの贅沢空間だ」
「ベランダもある!凄い!」
「我が家のクローゼットと同じくらいの広さですわね」
「豪邸やないかい!!」
「麗日君!!」
「部屋割りはこちらで決めたとおり。各自事前に送ってもらった荷物が部屋に入ってるからとりあえず今日は部屋作ってろ。明日また今後の動きを説明する。以上!解散!」
「「「ハイ先生!」」」
◆
時は進み夜。他のクラスメイトは何やら各生徒達の部屋を見て回って盛り上がっているようだが、垣根は自室のベッドで人体に関する資料を再度読み込み、思考にふけっていた。林間合宿では敵襲来もあり、完成させることが出来なかったモノ、未元物質による人体精製。早く完成させたいとは以前から思っていたが、先日の事件で木原病理という存在に気付いた時点でそれは、一刻も早く完成させなければならない、という義務感に変わった。アレがこの世界に存在する以上、垣根帝督に平穏など訪れはしない。来る再戦の時に備え、垣根ももうワンランク上のステージに行く必要があるのだ。その為の第一歩としてまず、未元体を完成させることが必要不可欠である。垣根はふと顔を上げ、眼を細める。
(そろそろ仕上げだ)
壁をじっと見つめながら垣根は心の中でそう呟いた。
◆
「昨日話したと思うが、ヒーロー科一年A組は仮免取得を当面の目標にする」
「「「ハイ!」」」
朝のHRで相澤が教壇に立ち、生徒達に改めて仮免の話をする。
「ヒーロー免許ってのは人命に直接関わる責任重大な資格だ。当然取得のための試験はとても厳しい。仮免といえど、その合格率は例年五割を切る」
「仮免でそんなキツいのかよ・・・」
「そこで今日から君らには一人最低でも二つ・・・」
「必殺技を作ってもらう!」
相澤が言うと同時に教室のドアが開き、セメントス・エクトプラズム・ミッドナイトが入室してきた。
「「必殺技!?」」
「「学校っぽくてそれでいて!」」
「「ヒーローっぽいのキタァァァァァ!!!」」
「必殺!コレ即チ必勝ノ型、技ノコトナリ!」
「その身に染みつかせた技、型は他の追随を許さない。戦闘とはいかに自分の得意を押しつけるか」
「技は己を象徴する。今日日必殺技を持たないプロヒーローなど絶滅危惧種よ!」
「詳しい話は実演を交え合理的に行いたい。コスチュームに着替え体育館γへ集合だ!」
生徒達はコスチュームに着替えると、言われたとおり体育館γに集まった。
「体育館γ。通称トレーニングの台所ランド。略してTDL」
(TDLはマズそうだ!)
「ここは俺考案の施設。生徒一人一人に合わせた地形やモノを用意できる。台所ってのはそういう意味だよ」
セメントスが自身の個性で実演しながら説明する。
「な~る」
「質問をお許しください!なぜ仮免取得に必殺技が必要なのか!意図をお聞かせ願います!」
「順を追って話すよ。落ち着け。ヒーローとは、事件・事故・天災・人災、あらゆるトラブルから人々を救い出すのが仕事だ。取得試験では当然その適性を見られることになる。情報力・判断力・機動力・戦闘力、他にもコミュニケーション能力・魅力・統率力など別の適性は毎年違う試験内容で試される」
「その中でも戦闘力はこれからのヒーローにとって極めて重視される項目となります。備えあれば憂いなし!技の有無は合否に大きく影響する」
「状況に左右されることなく安定行動を取れれば、それは高い戦闘力を有していることになるんだよ」
「技は必ずしも攻撃である必要は無い。例えば飯田君のレシプロバースト。一時的な超速移動、それ自体が脅威である為必殺技と呼ぶに値する」
「あれ必殺技でいいのか・・・!」
「なるほど、自分の中にこれさえやれば有利!勝てる!って型を作ろうって話か」
「その通り。先日大活躍したシンリンカムイのウルシ鎖牢なんか模範的必殺技よ。相手が何かする前に縛っちゃう」
「中断されてしまったが、林間合宿での個性を伸ばす訓練は必殺技を作り上げるためのプロセスだった。つまり、これから後期始業まで残り10日あまりの夏休みは個性を伸ばしつつ、必殺技を編み出す圧縮訓練となる!なお、個性の伸びや技の改良に合わせてコスチュームの改良も平行して考えていくように。プルスウルトラの精神で乗り越えろ。準備はいいか?」
「「「はい!!!」」」
◆
セメントスが地形を動かし、各自の練習場としての足場を作る。そしてエクトプラズムが生徒一人につき一体ずつ分身を出し、つきっきりで指導するという形である。皆自分だけの必殺技を編み出そうと必死に試行錯誤していた。垣根にも一体のエクトプラズムがついていた。
「それで、君の必殺技だが・・・」
「ああ、案はある」
「?」
「まぁ見てろよ」
そう言うと垣根は目を閉じ集中する。数秒後、垣根の目の前に白いナニカが現れ、みるみる形を変えていく。うねり渦巻きながらその白い物体は、気付けばヒトの形を形成していた。その姿は目の前の垣根帝督と瓜二つで全身が白で包まれている事以外に相違点はない。それを見たエクトプラズムはひどく驚いた様子だった。
「こ、これは・・・なるほど。私と同じ分身か」
「まぁそんなとこだ・・・まだ完全体じゃねぇがな」
「というと?」
「んー?ま、色々あんだよ。そんなことより、コイツの相手してくれるか?」
「・・・いいだろう」
そう言うとエクトプラズムの分身と未元体が戦闘を始める。垣根はそれを観察しながら未元体について思案する。
(ふむ・・・出力は問題なさそうだな。機動力も十分だ。脳波もリンクしてるし、制御も可能だ。とりあえずスペックに関しちゃ文句はねぇな。だが残念ながら、仮免までに『未元物質』を実装するのはキツそうだな。一応案はあるんだが・・・まぁ今は中途半端にあれこれ付け加えるより、未元体自体のクオリティ上げた方が賢明だろ・・・・・・ってあれ)
しかし垣根が未元体について分析をしている途中で、突如未元体の身体が崩れ去ってしまった。これではまだ完成と呼ぶことは出来ない。
「・・・肉体の構成が甘かったか。まだ演算式に穴がありそうだな。もう一度見直すか」
垣根はひとりでに呟くと再び未元体精製にとりかかった。一方相澤とオールマイトは下の方から垣根の訓練場を目を丸くしながら見ていた。垣根の技が余りに想像を超えるモノだったからだ。
「あれは・・・分身体か?」
「その類いかと。エクトプラズムから着想を得たんでしょうかね。普通分身体なんて個性の応用レベルで出来る範疇の技じゃありませんよ」
「ああ。垣根少年の個性の根幹を成すあの白い物質・・・あれは一体何なんだ?相澤君、あの不可思議な物質について何か心当たりは?」
「あるわけないでしょう。個性届けにも詳しいことは何も書いてなかったですからね。武器や物を形取るだけならまだしも、自律型カブトムシ兵器や分身体をも創り出せるなんてデタラメな物質、少なくとも俺は聞いたことがない。そこら辺に詳しい八百万なら何か知ってるかも知れませんが。ていうか、アナタの方が詳しいんじゃないですか?期末試験で垣根とやり合ったんでしょう?」
「残念ながら何も分からないよ。分かったことと言えば、彼はあの場で私と互角に渡り合ったということだけ。以前から薄々そうではないかと思っていたが、あの時に完全に確信に変わったよ。彼はそこらのプロを遙かに凌駕する力を持っているということ。なんなら、現時点でもTOP10にすら入ってしまう程かもしれない」
「・・・・・・」
相澤は神妙な面持ちでオールマイトの話を聞いていた。するとオールマイトが茶化すように相澤に言う。
「おや?いくら何でも買いかぶりすぎだ、とか言ってくるもんだと思っていたが」
「・・・私は一応クラスメイト全員の期末試験のビデオを見ています。ですから、アナタが冗談で言っているわけでないことも分かりますよ」
「ははっ。そうか。流石は相澤君だ」
「この歳であの完成度・・・正直、背筋がぞっとしますね」
「ああ。彼はきっと凄いヒーローになるよ」
オールマイトと相澤は未だ底が知れない15歳の少年を見上げながらそっと呟いた。
時は流れ、圧縮訓練から9日目。いよいよ仮免試験を明日に迎える中、各自が訓練の最終調整に入っていた。爆豪のようにトントン拍子で必殺技の開発が進んだ奴はそうはいなかったが、それでも何か一つは独自の必殺技として形に出来た者は多かった。かくいう垣根はと言うと、目の前の未元体を眺めながら満足気な表情を浮かべていた。
「ま、こんなもんだな」
我ながら上出来だ、と言わんばかりの様子でそう呟くと垣根の様子を見ていた切島と上鳴が興味津々そうに話しかけてきた。
「うぉい!何だよ垣根それ!?エクトプラズムみたいな分身か?」
「お前そんなことも出来んのかよ!?才能マンすぎだろ!!」
「あ?あぁ、まぁそうかもな」
「少しは謙遜しろよ!」
垣根の適当な返事に上鳴がツッコミを入れる。上鳴と切島は自身のコスチュームに改良を入れることで、個性を更に有効に使う道を選んだ。コスチュームを改良したのは何もこの二人だけではなく、緑谷や轟なども自身の戦闘スタイルに合わせて改良を加えていた。その事を垣根が指摘すると上鳴が得意そうに言った。
「おうよ!特に俺のスタイルチェンジは群を抜く!度肝ブチ抜かれっぞマジで!見るか?いいよ!すっごいよマジで!」
「いや、別にいいわ」
「何でだよ!!??俺様の超カッケェ新技を見たくねーのかよお前はよ!!」
「あーはいはいスゴいスゴい」
「てんめぇぇぇぇ!!!少しは興味もてや!!!」
上鳴が悔しそうに絶叫していると横から切島が垣根に質問する。
「なぁ垣根。お前の作ったソレ、分身っぽいのは分かるんだけど、どんくらいつえーんだ?」
「・・・試してみるか?」
「えっ!?それって・・・」
「いつまでもあの分身相手じゃ、いい加減退屈してきたとこだしな」
「むっ」
「けどよ、生徒同士がやり合うのはマズいんじゃねぇか?相澤先生が許してくれねぇだろ」
「そうか?意外と分かってくれそうだけどな。いや、どうせなら他の奴も誘った方がいい検証になるな。おい上鳴、お前もやれ」
「えぇ!?俺もかよ!?」
「なんだよ。超カッケェ新技見せてくれるんじゃなかったのか?」
「・・・!おっしゃあ!やってやろうじゃんか!」
「他は誰か呼ぶか?」
「そうだな・・・適当に火力ある奴ら集めてくれたらそれでいいわ。俺はちょっくら相澤のとこ行ってくるからよ」
「りょーかい!上鳴、行こうぜ」
そう言うと切島と上鳴は一緒にやる仲間を集めに行った。垣根も相澤とオールマイトの元へ行き、事情を説明する。
「訓練の成果を試したいから戦闘許可が欲しい、だと?」
「ああ。戦闘っつってもガチでやり合うわけじゃねぇ。ちょっくらコイツの性能を確かめたくてな」
垣根は自身の後ろに立っている未元体のことを指しながら説明する。
「エクトプラズムの分身じゃイマイチ測りきれねぇし、アイツらに頼みたい。それにアイツらとしても訓練の成果を実感できるいい機会だと思うんだが・・・」
「・・・・・・」
「ダメか?」
「・・・いいだろう。ただし、俺も立ち会う。もし俺が危険だと判断すれば即刻止めさせるからな」
「ああ、それでいい。頼んだぜ」
相澤の了承を得ると垣根と未元体はその場を去る。横で二人の様子を見ていたオールマイトはそっと相澤に話しかけた。
「意外だね。君なら却下すると思っていたよ」
「あいつの言うとおり、訓練の成果を生徒自身が実感することも大事なことです。それに危なくなったら俺の個性で止めますよ」
そう言いながら相澤も垣根達の下へ歩き出し、オールマイトもその後に続いた。
◆
未元体垣根と六名のA組クラスメイトが10メートルほど距離を空けて相対していた。未元体と相対しているのは切島と上鳴は勿論のこと、彼らの誘いに乗った緑谷・轟・常闇・爆豪であった。垣根に言われたとおり、A組の中でも火力が高い者達を集めてきた切島達。今から行われる催しは他のクラスメイトにも知れ渡り、当事者七名以外は観戦に来ていた。
「お、おい、何が始まんだよこれ」
「なんか、訓練の成果を試すらしいぞ」
「おぉ~。なんかA組の派手な個性持ち勢揃いって感じだね」
「それにしても垣根ちゃんの白い造形物、あれは一体何なのかしら?」
蛙吹が垣根の未元体を指さしながら疑問を提示する。だが、その疑問に答えられる者はいなかった。
「何だあれ?等身大の人形でも作ったのか?」
「にしては凄いリアルだよね」
「あれが垣根君の必殺技って事なのかな?」
「飯田君、ていとくんのあれ、何だろうね」
「うーむ。何だろう?エクトプラズム先生のような分身、のようなものか?」
「・・・・・・」
垣根の未元体に様々な憶測が飛び交う中で八百万百は一人、真剣な顔をして静観していた。それを見た耳郎は八百万に声をかける。
「どうしたのヤオモモ?なんか凄い考え込んでる様子だけど」
「い、いえ!何でもありませんわ。ちょっと垣根さんの新技について考えていたのですけど・・・」
「何か分かった?」
「いえ、それが全く分からなくて・・・」
「そっか。まぁまだ情報が少なすぎるしね。戦いが始まれば何か分かるかも」
「そうですわね」
八百万は耳郎に相槌を打ちながら、なぜか不安な気持ちに駆られていた。
(なんですの・・・?この胸騒ぎは。何か、見てはいけないモノを見ているときのような、そんな感じがします)
不安そうに切島達を見る八百万。一方垣根達も準備が出来たようなので、それを確認した相澤は開始の合図を発した。
「あくまでこれは成果の確認だ。危険と判断したら俺が即止めるからな・・・では、始め!」
「っしゃあ!」
相澤の合図と共に切島が一番乗りで未元体目掛けて走り出す。そして未元体が切島の間合いに入ると、切島は硬化で拳を硬くし未元体に殴打のラッシュをたたき込む。
「オォォォォォォォォラァァァァァァァ!!!」
全力で拳を撃ち込み続ける切島。切島はオールマイトにゴリ押し戦法をアドバイスされて以来、圧縮訓練では体を硬化させ、攻撃の手数を増やす訓練をメインで行っていた。結果として切島の硬化による攻撃力は訓練前と比べて飛躍的に上昇した。攻撃の手を緩めないことで相手に反撃の機会を作らせない。事実、未元体は何も出来ず切島に殴られるがままになっていた。そして切島は一気に勝負を決めに行く。
「必殺ー!!
雄叫びと共に切島の右拳が未元体の鳩尾に入り、その体を吹っ飛ばす。その光景を見ていたクラスメイト達は感嘆の声を上げた。
「おぉー!!すっげぇな切島!!」
「硬化を活かしたごり押し戦法!シンプルだが強い!切島君ならではの作戦だな!」
「垣根の人形、吹っ飛んじまったけど大丈夫か?」
皆が未元体の方を見つめる。切島から少し離れたところに仰向けで地面に転がっている未元体。すると、
スッ…
突然未元体の体がまるで天井から糸で引っ張られているかのような不自然な動きで地面から起き上がった。その動きにも驚いた一同だったが、何よりも驚いたことは未元体の体が全くの無傷であったことだ。
「なっ!?効いてねぇ!!」
「なら次は俺の番だぜ!」
意気揚々と声を張りながら上鳴が動く。上鳴の個性は帯電。しかし電気を操れるわけではなく、攻撃方法も放電に限られるという欠点があった。そこで今回の圧縮訓練でコスチュームを改良することでその難点を克服しようと考えた上鳴。上鳴の相談を受けた発目は上鳴のコスチュームにシューターとポインターを装着したのだ。シューターにポインターをセットし、発射するとポインターは着弾箇所に引っ付く仕組みになっている。ポインターと上鳴の距離が10メートル以内であれば上鳴の放電は一直線上に収束するため、上鳴は周りを巻き込まずに戦うことが可能になったのだ。というわけで、上鳴は早速ポインターを未元体の真後ろの壁に射出すると、全力の放電を放った。
「指向性放電、130万V!!!」
上鳴の指先からポインターまで一直線に雷電が走り、未元体の垣根に直撃する。
「っしゃあ!!・・・ってあれ?」
技が成功し、思わず喜んでいた上鳴だったがすぐさま我に返る。130万Vもの電気を浴びているというのに目の前の白い人形は微動だにしていない。それどころか未元体はゆっくりとこちらに歩を進めてきた。
「嘘だろ!?これもノーダメ!?どんな体してんだよあれ!?」
(切島君の硬化の強度でも上鳴君の電撃でもダメージがないなんて・・・!?どうなってるんだアレは!?)
(ダメージがないわけじゃねぇけどな)
垣根本体の方は戦いを静観していたが、一言緑谷達に声をかける。
「おい。コイツは俺の個性で創り出したモノだ。生身の人間じゃねぇ。だから遠慮無くやっていいんだぜ。それこそ、ぐちゃぐちゃにする気ぐらいでやってくれ」
「・・・承知した。緑谷、仕掛けるぞ!」
「う、うん!」
常闇は緑谷に声をかけると、緑谷もそれに呼応する。常闇はダークシャドウを身に纏い、訓練で身につけた必殺技を披露する。
「
そして緑谷もワンフォーオールを発動させ、二人同時に飛び出すと無防備な未元体に攻撃を放った。
「宵闇よりし穿つ爪!」
「ワンフォーオール・フルカウル、シュートスタイル!!」
巨大化したダークシャドウの手が、緑谷の蹴りが未元体を直撃し、再び後方まで吹っ飛ばされた未元体は激しく壁に激突した。それを見ていたクラスメイトは感嘆の声を上げるも、二人の顔に安堵の様子は無く、以前警戒態勢のままだ。そして二人の予想通り、またもや何事もなかったかのように土煙の中から未元体が姿を現す。
「くっ・・・!?」
「連携攻撃でもダメか・・・!」
「あれだけの攻撃を受けながら効いている素振りすらないとは・・・にわかには信じがたいな」
「ええ。気味悪いわね」
観戦しているセメントスとミッドナイトですら驚いている様子だった。その場にいる全員が固唾を呑んで見守っている中、今度は未元体が動いた。いきなり走り出し、緑谷達との距離がみるみる縮まっていく。
「緑谷!来るぞ!」
「うん!」
常闇と緑谷は再度構え、迎え撃つ姿勢を整えた。しかし、
「「!?」」
驚きべき事に未元体は緑谷達の目の前まで迫るとその場で勢いよくジャンプし、二人を通り越したのだ。
「「なっ!?」」
慌てて後方を振り返る二人。しかし未元体は緑谷達の背後を取ったわけではなく、そのまま切島達の下へ向かっていく。迫り来る未元体を視認した轟はすかさず氷結攻撃を繰り出し、未元体にぶつける。未元体は走りながら腕を体の前でクロスさせ、その勢いのまま迫り来る氷結にツッコんだ。
バリバリバリバリッッッッッ!!!!!!
未元体が轟の氷結を砕き散らしながら走る。次々と氷結を生み出し未元体にぶつけるもそれらは全て、突進してくる未元体とぶつかった瞬間に砕かれてしまい、その足を止めることが出来ない。
「オイオイオイオイ流石に冗談だろ!?やべぇってこれ!?」
「くっ・・・・・・!?」
轟が歯ぎしりしながらも必死に未元体を止めようするも、その努力を嘲笑うかのように未元体は氷結から抜け出し、切島の目の前に躍り出る。
「切島ぁ!!!」
「おう!!」
未元体が右腕を振り上げると同時に腰を沈め、硬化した両腕をクロスし防御姿勢を取る切島。そして未元体は切島に向かって右腕を振り下ろした。
「が、はっ・・・・・・・・・!!??」
凄く重い衝撃が切島を襲う。未元体の拳を受けた切島は吹っ飛ばされ、そのまま後方の壁に激突した。あまりの衝撃的な光景に一同唖然とする。近接戦闘にはめっぽう強く、その頑強さはクラス一の切島が一撃で吹き飛ばされてしまったのだ。驚くのも無理はない。
「そんな・・・!相手は切島だぞ!?」
「なんつーパワーだよ・・・」
「な、なんなんだよあの化け物はぁ!?」
「ヤオモモ、どうなってんのあれ?」
「私にもまるで分かりません。構成要素、原理、法則・・・私の持ちうる知識を総動員しても、あの創造物に関しては何一つ説明できるものがありませんわ・・・!」
戦慄するA組クラスメイト。特に八百万はどのクラスメイトよりも困惑気に戦いを見つめていた。昔から知識を蓄え続け、知識量では誰にも負けない自信があった彼女が、目の前で起きている事象について何一つ原理が解明できないのだ。八百万は生まれて初めて『理解不能』という壁に出会う。一方相澤も少し焦った様子で垣根の方へ振り向いた。
「垣根!」
「大丈夫だ。ちゃんと出力は抑えてる。あいつの頑丈さだったら問題ねぇはずだ」
(・・・あれで抑えてる、だと!?)
垣根の言葉に驚きを隠せない相澤。それはオールマイトも同様だった。一方フィールドではまだ戦いは続いており、未元体にまたもや攻撃を仕掛ける轟。今度は氷結攻撃を放ちながら同時に左腕から炎も噴射した。轟はこの圧縮訓練で氷と炎の同時使用をこなせるよう訓練していたため、その成果が出る形となった。しかし、
「くっ…!」
氷と炎を同時に喰らっても平然としている未元体に轟は思わず歯ぎしりする。そして未元体は氷結を砕き、炎の噴射をモノともせずに轟との距離を詰め、またもや跳躍すると轟の顔を踏みつけるように落下してきた。轟はすかさずその場から離れ回避したが、その直後、
ズガンッッッッ!!!
派手な音がしたので今さっき自分のいた場所を見ると、未元体が踏みつけた場所にクレーターのようなへこみが地面にで出来ていることに気付く。もしあれをまともに喰らっていたら・・・と考えると背筋が寒くなる轟。するとそこに、ボンッ!!と爆発音が聞こえ、音の方向を見ると爆豪が爆発で宙を飛んでる姿が見えた。ここまで静観していた爆豪だったが、とうとう参戦しにきた。
「人形のクセにいつまでも調子乗ってんじゃねェぞ!!!」
未元体に向かって怒鳴り散らしながら爆豪は左手で小さな丸の形を作り、掌を開いた右手をそばに添える。そして照準を未元体に定めると出来たばかりの新技を放った。
「
掌全体ではなく一点に集中させて放った爆発が未元体を襲う。一点集中の爆発にすることで貫通力をあげることに成功し、その威力は分厚いコンクリートの塊を貫通する程だ。
ボン!ボン!ボン!ボン!ボン!ボン!
爆豪は連続で何発もA・Pショットを放ち、未元体に反撃の隙を与えない。立ちこめる黒煙の中、未元体が後ろへ跳躍しながら姿を現す。しかしそのタイミングを狙っていたかのように緑谷と常闇が未元体の後ろから攻撃を仕掛ける。爆豪も未元体を追っていたため、緑谷・常闇と爆豪で挟撃する形となった。
「SMAAAAASH!!!」
緑谷が右足で力一杯蹴りを放つ直前、未元体は緑谷の方へ向き直ると左腕を立ててガードの姿勢をとった。ドンッ!!という衝撃が未元体を襲い、未元体の体が一瞬右に揺れるもすぐに体勢を立て直し、逆に緑谷の右足をがっしりと掴んだ。
「えっ!?・・・うわぁぁぁ!!!」
戸惑う緑谷をよそに、未元体は腰を回転させて緑谷を投げ飛ばした。
「な…っ!デク…!」
緑谷が投げ飛ばされた先には、驚きの表情を浮かべながら爆破でこちらに進んでくる爆豪の姿。爆豪は緑谷のあまりに急な飛来に反応出来ず、二人は空中で激突した。そして未元体が常闇へと標的を移したところで、ちょうど相澤の声が掛かる。
「そこまでだ」
すると全員の動きが止まり、戦いが止まる。先ほど激突した爆豪と緑谷は呻きながら立ち上がる。
「クソデクテメェ・・・!!!」
「ご、ごめんかっちゃん!!」
慌てて謝罪する緑谷。一方相澤は垣根に確認を取る。
「もう十分だろ?終わるぞ」
「ああ、十分だ。サンキューな」
垣根も満足そうな様子で相澤に礼を言った。その後、切島は念のため医務室に連れて行かれたが、リカバリーガールの治療を受けた後、無事復帰してきた。特に問題はないようなので明日の仮免にも普通に行けるそうだ。こうして仮免試験前最後の圧縮訓練が終了した。