仮免試験当日。場所は今回の仮免取得試験会場である国立多古場競技場。A組生徒達は相澤の引率の下、スクールバスでこの地に到着した。全員バスから降り、会場を眺める。多くの受験生が会場へ入っていく姿を見ながら不安そうな様子を見せる雄英生徒達。
「うぅ・・・緊張してきたぁ~」
「試験て何やるんだろう・・・?はぁぁ・・・仮免取れっかなぁ」
「峰田、取れるかじゃない。取ってこい」
「お、おう!モロチンだぜ!!」
相澤は峰田に発破をかけると、全体に向けても彼なりの激励の言葉を伝える。
「この試験に合格し仮免許を取得できれば、お前ら卵は晴れてヒヨッ子セミプロへ孵化できる。頑張ってこい」
「っしゃあ!なってやろうぜヒヨッ子によ!」
「いつもの一発決めて行こーぜ!せーの、プルス・・・」
「ウルトラァ~!!!!!」
突然見知らぬ男が切島のかけ声に合わせて割って入ってきた。身長はかなり大きく、ガタイもいい。雄英生徒らが誰だコイツ的な視線を向けていると、
「勝手に他所様の円陣へ加わるのは良くないよイナサ」
その男と同学校の生徒らしき人物が注意する。すると、
「あっ!しまった!どうも、大変、失礼いたしましたぁぁぁぁぁぁ!!」
イナサと呼ばれる大男が唐突に地面に頭をこすりつけながら謝罪し始め、呆気にとられる雄英生達。
「な、なんだこのテンションだけで乗り切る感じの人は!?」
(!?この男・・・)
「待って!あの制服・・・」
イナサの制服を見て何かに気がつく耳郎。すると、他の何人か生徒達も察し始める。
「あれか。西の有名な・・・」
「・・・東の雄英、西の士傑」
(数あるヒーロー科の中でも、雄英に匹敵するほどの難関校・・・士傑高校!)
彼らが雄英高校と並び立つほどの難関校である、士傑高校の生徒だと気がつく緑谷達。そんな緑谷達の様子を他所に、イナサは依然変わらぬ調子のまま、一人で元気よく喋っていた。
「一度言ってみたかったッス!プルスウルトラ!自分、雄英高校大好きッス!雄英の皆さんと競えるなんて光栄の極みッス!よろしくお願いします!」
「あ、血」
「行くぞ」
先ほど大男に注意した生徒がイナサにそう促すと、彼らは会場の方へ去って行っていく。その後ろ姿を見ながら、
「・・・夜嵐イナサ」
相澤がボソッと呟いた。
「先生、知ってる人ですか?」
「ありゃあ、強いぞ」
「「「!?」」」
相澤が珍しく生徒の実力、それも他校の生徒をそこまで認めていることに驚くA組生徒達。生徒達の視線を集める中、相澤は言葉を続ける。
「夜嵐。昨年度・・・つまりお前らの年の推薦入試、トップの成績で合格したにもかかわらずなぜか入学を辞退した男だ」
「えっ!?じゃあ、一年!?」
(っていうか推薦トップの成績って・・・実力は轟君以上!?士傑高校の夜嵐イナサ・・・!)
「へぇ・・・」
イナサの意外な素性に垣根も少し興味を示す。
「夜嵐イナサ、だっけ?雄英大好きとか言ってた割に、入学は蹴るってよくわかんねぇな」
「ね~変なのぉ~」
「変だが本物だ。マークしとけよ」
イナサについて不思議に思っている様子の瀬呂と芦戸の注意を促す相澤。するとそこへ、
「イレイザー?イレイザーじゃないか!」
どこからか相澤を呼ぶ女性の声が聞こえる。思わず体をビクッ!と震わせる相澤がゆっくり振り向くと、向こうからバンダナを頭に巻いた快活そうな女性がこちらに歩いてくるのが見えた。
「テレビや体育祭で姿は見てたけどこうして直で会うのは久しぶりだな!」
「うっ・・・」
その女性に話しかけられ、思わずうめき声を上げる相澤。彼の顔にはいかにも嫌そうな表情が浮かんでいた。
「結婚しようぜ」
「しない」
「ブッハー!しないのかよ!ウケる!」
「相変わらず絡みづらいな、ジョーク」
相澤が話しかけてきた女性のヒーロー名を口にする。どうやら二人は旧知の仲らしい。
「スマイルヒーローMs.ジョーク!個性は爆笑!近くの人を強制的に爆笑させ、思考・行動共に鈍らせるんだ!彼女の敵退治は狂気に満ちているよ!」
例のごとく、緑谷が嬉しそうに彼女についてのヒーロー知識を解説すると、
「私と結婚したら笑いの絶えない幸せな家庭が築けるんだぞ!」
親指を立て、満面の笑みを浮かべながらジョークは宣言する。
「その家庭、絶対幸せじゃないだろ」
「ブハハッ!」
相澤のツッコミに腹を抱えて笑い出すジョーク。何が面白いのか全く分からなかった垣根だが、二人の間ではいつものことなのだろう。
「仲がいいんですね」
「昔事務所が近くてな。助け、助けられを繰り返す内に相思相愛の仲へと・・・」
「なってない」
「いいな!その速攻のツッコミ!いじりがいがあるんだよなイレイザーは!」
ジョークのあまりのテンションの高さに、相澤は疲れた様子でため息をつく。そして、一息ついたところで今度は相澤がジョークに尋ねた。
「ジョーク、お前がここにいるって事は・・・」
「そうそう!・・・おいで皆!雄英だよ」
ジョークの合図と共に、彼女の後ろから生徒達とおぼしき集団が現れた。
「おお!本物じゃないか!」
「すごいよすごいよ!テレビで見た人ばっかり!」
突然現れた生徒達が、A組生徒達を見てテンションを上げる中、ジョークは垣根達に彼らの紹介を行う。
「傑物学園高校二年二組!私の受け持ち。よろしくな」
「俺は真堂!今年の雄英はトラブル続きで大変だったね。しかし君たちはこうしてヒーローを志し続けているんだね。素晴らしいよ!不屈の心こそこれからのヒーローが持つべき素養だと思う!」
(まぶしい・・・!)
(ドストレートに爽やかなイケメンだ・・・)
傑物学園高校の真堂が早速緑谷達と親しげに接してくる。その爽やかさに好印象を持つ緑谷達だったが、その真堂は垣根を見つけると、
「その中でも神野事件を中心で経験した垣根君。君は特別に強い心を持っている。今日は君たちの胸を借りるつもりで頑張らせてもらうよ」
言葉に含みを持たせながら、垣根に手を差し伸べた。握手の意だろう。垣根は黙ってその手を見つめるも、握手を返すことなく真堂に返事を返した。
「そうか。ま、せいぜい頑張れよ」
「・・・・・・」
「ねぇ轟君!サインちょうだい!体育祭カッコよかったんだ~。あっ!あと垣根君も!」
「やめなよ。ミーハーだな」
「オイラのサインもあげますよ」
「おい!コスチュームに着替えてから説明会だぞ。時間を無駄にするな」
「「「はい!」」」
傑物高の生徒達と親しげに交流していた緑谷達だったが、相澤の指示により会場へと移動し始めた。
◆
「え~・・・では、アレ・・・仮免のヤツをやります。あ~・・・ヒーロー公安委員会の目良です。好きな睡眠はノンレム催眠。よろしく」
受験者達は説明会場にいた。会場には会場がギッチリ埋まるほどの人数が集い、かなり居心地の悪い状況となっていた。そんな中、今回の試験の責任者らしき人物である目良から試験の説明が行われた。試験内容は簡単に言えば勝ち抜けのサバイバル演習。なんでも、現代社会において、ヒーローに求められているモノは迅速さであり、そのスピードに対応できない人材は求められていない。よって今試験では、スピードという素養を測るためにこの方式を導入したらしい。条件達成者は全受験生1540名中、先着100名。つまり合格率は一割を切るということだ。そしてその条件についてだが、受験者は体の常にさらされている部分三箇所に丸い形をしたターゲットを取り付ける。そして各受験者は赤い色をしたボールを六つ保持し、ターゲットにボールが当たるとそのターゲットは赤く発光する仕組みになっている。三つのターゲットが発光した時点でその受験者は失格となり、逆に三つ目のターゲットにボールを当てた人はその人を倒したこととする。このルールの下、二人倒した者が勝ち抜けとして認められる、ということだ。
(なんだよ、ただのボール当てゲームじゃねぇか・・・)
予想外の試験内容にいささか拍子抜けした様子の垣根。すると、
「え~じゃあ展開後、ターゲットとボール配るんで全員に行き渡ってから一分後にスタートとします」
「展開?」
目良から不可解な言葉が聞こえた直後、会場の天井と壁が突然開いていく。完全に開ききった後、辺りを見回すと高層ビル群や工業地帯、岩場など多様なステージが用意されていた。
「各々苦手な地形、好きな地形あると思います。自分の個性を活かして頑張ってくださ~い」
目良による説明が終わり、各位にターゲットとボールが行き渡ると学校ごとに移動し始める。雄英生達は岩場の場所に位置していた。
(先着で合格なら同校でつぶし合いは無い。むしろ手の内を知った仲でチームアップが勝ち筋!)
そう考えた緑谷はクラスメイトに声をかける。
「みんな!あまり離れずかたまりで動こう!」
「うん!」
「そうだな!」
皆が緑谷の提案に賛同している中、
「フザけろ。遠足じゃねぇんだよ!」
「バカッ!?待て、待て!」
「かっちゃん・・・」
「切島君!」
緑谷の提案に即反対した爆豪は一人でどこかへ行ってしまい、それを追った切島も緑谷達とは離れてしまった。そして、
「俺も抜けさせてもらう。大所帯じゃ却って力が発揮できねぇ」
「轟君!」
轟も緑谷達から離れる選択を取った、さらに、
「つーわけだ。お前らも頑張れよ」
「垣根君まで!?」
垣根も轟達と同様に一人で戦う選択をし、緑谷達から離れていく。そしてしばらくすると、甲高い音と共に試験開始の合図が発せられた。
《第一次試験、スタート》