かの悪党はヒーローへ   作:bbbb.

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五十一話

 第一次試験が開始された。早速敵と交戦している人達もいれば、いまはまだ様子を見ている人達もいる。この試験は先着順と言うことで一見早く攻めた者ほど有利という印象を受けるが、大体の受験者は学校単位で固まって動くことが多いため、団結力や連携、そして情報力が鍵を握る試験となっている。そしてもう一つ、各受験者は基本的に同校の生徒以外の個性は把握していないハズであり、逆に言えば自分達の個性は同校の人以外には知られていないというアドバンテージを有している事になるが、ある高校だけそのアドバンテージを放棄している。それは、全国放送で体育祭の様子を中継した雄英高校である。つまり、雄英生徒達の個性は既に他校の生徒にバレており、緑谷達はそのハンディキャップを背負った状態で試験に臨まなければいけないのだ。これらのことを踏まえると見えてくることが一つ。

 

 「雄英潰し・・・」

 

白い翼をはためかせ、高層ビル群の隙間を飛びながら垣根は呟く。まず最初に雄英生徒が集中的に狙われることはほぼ間違いないだろう。その証拠にこうして空中を移動している間にもかなりの視線を感じた。

 

 「ったく、人気すぎんのも考えものだな」

 

余裕の表れなのか、珍しく冗談めいたことを呟く垣根。そして、数ある高層ビルの中で一番高いビルに目を付けると、垣根は更に速度を上げビルの屋上まで上昇していった。

 

 (ここにすっか)

 

屋上に着地した垣根は、すぐに能力を発動させ、未元物質で偵察用の小型トンボを20体創り出すと、多方向に飛ばした。それに合わせて各トンボの視界に対応する小型鏡も20個創り出し、空中に設置する垣根。この鏡によって垣根がこのビルから動かなくとも、各トンボが捉えた視覚情報を一度に確認できる仕組みになっている。トンボを飛ばし終えた垣根は次に未元体を精製しにかかる。演算に神経を注ぎ、全部で六体の未元体を目の前に創り出すと、一体につき一つずつ赤いボールを渡した。

 

 「行け」

 

垣根から指示を受けた六体の未元体は一斉に屋上から飛び降ると、

 

 ドシンッ!

 

鈍い音と共にコンクリートの地面に着地する。普通の人間だったら間違いなくペシャンコになってしまうが、未元物質で構成されている未元体には何の問題もない。地上に着地した各未元体はそのまま一斉に散会し、それを見届けた垣根は片膝を立てながら座り込むと、各地の戦場の様子を映した鏡に目を向ける。

 

 「さぁて、じっくり見させてもらうか」

 

一通り鏡を見回した垣根が、まだ試験開始からあまり時間が経っていないこともあってか、動きがあるところは少なく、様子見をしている生徒が多い。しかし、その中でも早速戦闘が過熱している場所が緑谷達のいる場所。予想通り個性の割れている緑谷達は集中的に狙われていた。しかし相手側の果敢な攻めにも動じず、しっかりと対応できていた所を見ると早速脱落者が出るという状況にはならなそうだ。

 

 「何とか凌いでるじゃねぇか。まだ合格者は出そうにねぇなこりゃ」

 

そして垣根は他の鏡へ目を向ける。垣根は遠方へのみトンボを飛ばしたのではなく、自身の周囲にもトンボを配置していた。垣根がここへ移動する姿は多くの者に見られているハズなので、当然何か仕掛けてくるだろう。定石としては他の高層ビルの屋上に位置取って遠距離攻撃を仕掛けるか、真正面からこのビルへ入り、エレベーターでここまで上ってくるかの二択だろう。空を飛べる個性持ちがいれば垣根と同じく直接登ってこれるが、そのような個性持ちはどちらかと言えば少数派だろうし、集団行動が前提のこの試験を考えるとまずないだろう。なので垣根は周囲の建物の周りにもトンボを配置し、状況を確認出来るようにしていた。垣根の想定通り、ビルの屋上に陣取っている受験生の姿が何人か確認でき、いずれも垣根を照準に据えて構えている。そしてその中の、垣根から見て南西方面のビルの屋上に位置する受験生が垣根に対して攻撃を放つと、

 

 ドパンッ!

 

小さな爆発と共に垣根に直撃した。思わずガッツポーズを決める狙撃主だが、爆煙が晴れると撃たれる前と何一つ変わらぬ様子で座っている垣根の姿が確認でき、困惑した表情を浮かべる。

 

 「まぁそう来るよな。意味はねぇが」

 

遠隔攻撃は全て未元物質による自動防御が防ぐため、結局の所無意味なものに終わってしまう。となれば、垣根を狙う受験者の選択肢は一つ。真っ正面からこのビルへ入ってくるしかない。まだしばらくは遠隔攻撃を続けてくるだろうが、垣根には効かないと気付くとビルへ入ってくる受験者集団も現れるはずだ。

 

 「それはそれで却って好都合だがな。獲物を探す手間が省ける。それまで俺が残っていれば、の話だが・・・」

 (にしても緑谷のとこ以外、動きがなくてつまんねぇな・・・ん?)

 

垣根が退屈そうに鏡を見ていると、ふと一つの映像に目がいく。その鏡には、相澤がマークしておけと言っていた士傑学園高校の生徒の姿が映っていた。

 

 (こいつは確か・・・夜嵐イナサ、とかいったか?相澤曰く、推薦トップで合格したエリートらしいが・・・)

 

相澤の言葉を思い出しながらイナサの映る鏡を見る。イナサは建物の屋上に立ち、道路にいる人達を見下ろしていた。すると突然イナサが右腕を空に掲げ、辺り一帯に強風が吹き荒れる。イナサが生み出した風は受験生達の持っている赤いボールを全て巻き上げていく。風はイナサを中心に時計回りに回転し、その光景はまるで竜巻が発生しているかのようだった。ボールを取られた受験生達が唖然としながらイナサを見上げていると、突如イナサが掲げていた右腕を振り下ろした。するとイナサを取り巻いていた風とその風に乗っていたボールが一斉に受験者目掛けて襲いかかる。

 

 「「「うわああああああああああああ!!!!」」」

 

受験者は悲鳴を上げ、次々とターゲットにボールを当てられていった。その光景は正に圧巻。土煙の中、立っていたのはイナサ一人。その場にいたイナサ以外の受験者は誰一人何も出来ず、イナサ一人の手によって脱落させられてしまったのだ。これには目良もひどく驚いた様子でアナウンスする。

 

 《うぉー!?だ・・・脱落者120名!?一人で120名を脱落させて通過したぁ!!え~~~さて、ちょっとビックリして目が覚めて参りました。ここからドンドン来そうです。皆さん早めに頑張ってくださ~い》

 「ヒュゥ~♪派手にかますじゃねぇか」

 

イナサの力を見た垣根はご機嫌そうに口笛を吹きながらそう呟く。

 

 (学園都市(あっち)で言うところの『風力操作(エアロハンド)』か・・・それも大能力者(レベル4)相当。なるほど、相澤の言ってたことはあながち嘘でもなさそうだな・・・しかし、風を従える、か)

 

イナサの個性を見て垣根は学園都市第一位のことを思い出す。彼の能力はベクトル操作で風力操作(エアロハンド)ではないが、その性質上大気をも支配することができるため、イナサのように風も自在に操れるのだ。実際、一方通行と戦ったときも風を操りながら一方通行と空中戦を繰り広げた。そのことを思い出した垣根は思わず舌打ちをしながら悪態をつく。

 

 「チッ、ウゼぇこと思い出させやがって・・・まぁいい。にしても、そろそろだとは思うんだがな」

 

そう呟いた直後、垣根のターゲットがピコピコピコと音を立てながら青く点灯し、機械音声が流れる。

 

 《通過者は控え室へ移動してください。はよ》

 「おっ!終わったか。さっすがは俺のクローン。優秀だな」

 

垣根は先ほど放った未元体がしっかりと役目を完遂したことを確認すると上機嫌な様子で口にした。そして背中から翼を現出させると控え室に向かって飛び立った。垣根帝督、開始から一度も会敵することなく一次試験をクリア。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 垣根が控え室に入った時には既に何人かの受験生が室内にいた。その中には夜嵐イナサの姿もあり、元気に他校の生徒に話しかけていた。室内を一通り見渡しながら、近くのベンチに腰を下ろす垣根。試験の様子を映し出すモニターを眺めながら垣根は未元体について考えていた。

 

 (しっかし、便利なモンだよな未元物質の体ってのは。頑丈だの何だのメリットはいくつかあるが、何よりの利点はたとえ破壊されても俺の脳が機能してれば即再生可能ってところにある)

 

モニターに雄英生徒達の姿が映し出される。やはり個性がバレていて対策が練られていることもあってか、中々苦戦している様子だ。

 

 (今はまだ未元体に未元物質を実装できてないから俺がやるしかねぇが、もし各未元体に未元物質が実装できたとしたら肉体の再生も個体ごとに自動で行える。マジモンのゾンビ軍団の完成だな。流石に『自分だけの現実』(パーソナルリアリティ)そのものを実装するのは難しいが、能力の「噴出点」を設けてやることは出来るはずだ。そうすりゃ完全とは行かないまでも、それなりに未元物質の力を再現できる)

 

控え室にいる人の数が時間が経つにつれてどんどん増えていく中、垣根は一人思案する。

 

 (未元物質製の肉体・・・これがあれば、生身の肉体なんかもういらないかもな。そっちの方が便利だし、つぇーし。いっそ俺も全身未元物質人間にでもなっちまうかー)

 「なんつってな」

 「何がだ?」

 

唐突に声をかけられる垣根。思わず振り向くと、そこには轟の姿があった。

 

 「・・・盗み聞きとは趣味が悪ぃな」

 「いや、たまたま聞こえただけだ。悪ぃ」

 

そう言いながら轟は垣根の横に腰を下ろす。

 

 「随分遅かったな」

 「体育祭で個性バレてたからか、かなり対策練られてて苦戦した。流石にお前は早ぇな。一位通過って垣根か?」

 「いや。一位通過はアイツだよ。夜嵐イナサ」

 

顎でイナサの方を示す垣根。轟はイナサの方を黙って見つめる。

 

 「・・・」

 「そういやお前も推薦だったろ。会ったことあんだよな?」

 「・・・その筈なんだが、あんま覚えてねぇ」

 「覚えてねぇってお前、あんな強烈なヤツ、一回会ったら忘れねぇだろ」

 「・・・」

 「まぁいいけどよ・・・つか、お前以外誰も来ねぇけど大丈夫なのかアイツら」

 「やっぱ個性知られてんのは厳しいか・・・」

 

アナウンスによると現時点で70人の通過が確定したらしい。とすれば残りの枠は30。あまり悠長なことも言ってられない時間帯になってきた。垣根達がクラスメイト達の合否を案じ始めたとき、八百万・蛙吹・耳郎・障子の四人がこちらに歩いてくるのを確認する。八百万達もこちらの存在に気付き、ホッとした様子で話しかけてきた。

 

 「轟さんに垣根さん!通過していたのですね!」

 「流石ね!」

 「他の皆は?」

 「・・・来てない。一番最初が垣根で次が俺、その次がお前らだ」

 「そうか・・・まだか」

 「一緒に行動してたんじゃなかったのか?」

 「それが、傑物学園の方の個性で分断されてしまって・・・」

 「・・・」

 「残り30人・・・」

 「みんな通過できるといいんだけど・・・」

 

垣根達と八百万達が合流して少しすると緑谷・麗日・瀬呂、爆豪・切島・上鳴の二組が通過し、控え室で垣根達と合流する。さらに傑物学園の生徒が一気に8人通過したことで残席が9となり、もう全員通過は無理かと思われたが、最後の最後に残りのクラスメイト達が再び合流することに成功し、抜群の連携を見せた。結果、A組生徒残り八人全員滑り込み合格となった。

 

 「「いよっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 「雄英全員一次通っちゃったぁーーー!!!」

 「スゲェ!!こんなんスゲえよ!!!」

 「ケケロ~!!」

 「良かった・・・!」

 「ああ!」

 「マジかよ」

 

まさかあそこから全員通過するとは、これには流石の垣根も少し驚いていた様子だった。ともあれ、見事雄英生徒は全員合格という形で一次試験は幕を閉じた。

 

 

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