かの悪党はヒーローへ   作:bbbb.

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五十二話

 

 無事一次試験は全員合格した雄英生だったが、その喜びに浸る余韻もなく目良のアナウンスが控え室に響き渡る。

 

 《え~一次選考を通過した100名の皆さん、コレをご覧下さい》

 

すると画面には先ほどの一次試験で使ったフィールドが映し出された。皆怪訝そうに画面を見ている中、突如フィールドのあらゆる造形物が派手な音を立てて爆発した。

 

 (((なぜ!?)))

 

あまりに突然の出来事に動揺を隠せない受験生達。そんな中、目良が説明を開始する。

 

 《次の試験でラストになります。皆さんにはこれから、この被災現場でバイスタンダーとして救助演習を行ってもらいます》

 「「パイスライダー??」」

 「バイスタンダー!現場に居合わせた人のことだよ。授業でやったでしょ!」

 「一般市民を指す意味でも使われたりしますが・・・」

 《一次選考を通過した皆さんは仮免許を取得していると仮定し、どれだけ適切な救助が出来るか試させてもらいます》

 

目良の説明を聞きながら画面を眺めていた受験生達だったが、ふとあることに気付く。

 

 「ん?人がいる…」

 「!?老人に子供・・・!」

 「危ねぇ何やってんだ!?」

 

なぜか爆発したフィールドにいる一般人とおぼしき人達。皆が訝しげに見つめていると、目良が解説する。

 

 《彼らはあらゆる訓練において今引っ張りダコの要救助者のプロ。Help us company、略してフック(Huc)の皆さんです!》

 「・・・要救助者のプロって何だよ。ピンポイントすぎねぇか」

 

垣根は目良の説明にツッコミを入れるも、説明はまだ続いていく。

 

 《フックの皆さんは傷病者に扮して被災現場の全域にスタンバイ中。皆さんにはこれから彼らの救助を行ってもらいます。なお、今回は皆さんの救助活動をポイントで採点していき、演習終了時に基準値を超えていれば合格とします。10分後には始めますのでトイレなど済ましといて下さいね~》

 

目良による二次試験の説明が終わると、試験開始時刻まで自由に過ごす受験生達。垣根は用意されていた飲み物を適当に手に取り飲みながら時間を潰していると、そこへ八百万がやって来た。

 

 「垣根さん、少しよろしいですか?」

 「あ?何だよ」

 「その、垣根さんの個性についてなのですが…」

 

八百万が遠慮がちに切り出し、垣根は八百万の方へと向き直る。しばらく迷っていたみたいだが、意を決して八百万は垣根に質問を投げかけた。

 

 「単刀直入にお聞きしますわ垣根さん。垣根さんが作り出すあの白い物質は一体何なのでしょうか?」

 「…」

 「垣根さんの個性は『作製』。そう仰ってましたわよね?」

 「ああ。言ったな」

 「作製、つまり個性発現の仕組みは違えど、私と同系統の個性。創造系の個性は特段珍しくもないので垣根さんの話を聞いても、最初は『やや変わった個性』、程度の感想しか抱きませんでした。しかし…」

 「・・・」

 「どう考えても辻褄が合わないのです!垣根さんが生み出してきたモノは全て、私の知っている原理や法則に当てはまらないモノばかり。先日のあの人型造形物だってそうです。どれだけ考えても理論のりの字すら分かりませんでした。分かっていることと言えばただ一つ。それは、垣根さんの造形物は全てあの白い物質によって構成されているということ。ですから…」

 「それが何なのか解明できれば全ての謎が解ける、か?」

 「えっ…?えぇ、そうですわ」

 

垣根に言葉を先取りされ、一瞬驚いた様子の八百万だったが、垣根の言葉を肯定する形で返事を返した。八百万から疑問をぶつけられた垣根であったが、彼の表情には特に驚いた様子は無かった。すると、

 

 「聞いてどうすんだ?」

 「え…?」

 

垣根は逆に八百万に質問を返した。

 

 「俺からその答えを聞いて、どうするんだよ?俺が隠し事してるっつって相澤にチクりでもすんのか?」

 「そ、そんなこと致しませんわ!私はただ、気になってだけで…」

 

垣根の意地の悪い質問に戸惑う八百万。シュンとした様子の八百万があまりにも面白く、垣根は思わず吹き出してしまった。

 

 「冗談だよ。真に受けんな」

 「…!も、もう!からかわないでくださいまし!」

 「ハイハイ悪かったよ。だが今はどっちにしろ無理だ。もうすぐ試験始まるしな。だからまぁ、俺の気が向いたらいつか話すわ」

 「はい!ではその時までお待ちしておりますわ!」

 

垣根の答えに満足そうな様子を見せる八百万だったがその時、控え室中にけたましいサイレンが鳴り響き、目良のアナウンスが流れた。

 

 《敵により大規模テロが発生。規模は○○市全域。建物倒壊により傷病者数多数!》

 「これは…演習のシナリオ!?」

 「開始のゴングだな」

 

そして目良のアナウンス中に先ほどの一次試験の時と同様に控え室の天井と壁が開いていく。

 

 「また開くシステム!?」

 《道路の損壊が激しく、救急先着隊の到着に著しい遅れ。到着するまでの救助活動はその場にいるヒーロー達が指揮を執り行う。一人でも多くの命を救い出すこと。それでは…スタート!》

 

目良のかけ声と共に一斉に受験者達が走り出す。

 

 (人命救助…!それこそがヒーローの本懐!)

 (ちゃんとやるんだ!ちゃんと!)

 (採点とは言っていたが基準は一切明かされず…)

 (分からん以上は訓練通りやるだけだ)

 (まぁとりあえずは様子見だな)

 「やるぞやるぞやるぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

一次試験の時と同様、各学校単位で固まって動く生徒達。A組生徒達も固まって走っており、その中でクラス委員長の飯田が皆に指示を出す。

 

 「取り敢えず一番近くの都市部ゾーンへ行こう!なるべくチームで動くぞ!」

 「「「おお!!」」」

 

だが爆豪は一次試験の時と同様に一人チームから離れていき、その後を切島と上鳴も追っていった。開始からしばらく救助者を探して走っていたA組だが、緑谷が子供の泣き声らしき音を聞いたというのでその場へ直行するA組。すると瓦礫の真ん中に泣きじゃくっている救助者の姿を確認した。

 

 「いた!あそこだ!」

 「うぇ~ん助けてぇ~!!おじいちゃんが潰されてぇ~!!」

 「え!?大変だ!どっち!?」

 「なんだよそれ!減点だよォ!」

 「えっ!?」

 

今さっきまで泣きじゃくっていた救助者役のフックが急にしかめっ面で緑谷にダメ出しする。あまりの豹変っぷりに面食らうA組生徒達。だがフックは構わず続ける。

 

 「まず、私が歩行可能かどうか確認しろよ!呼吸の数もおかしいだろ!?頭部の出血もかなりの量だぞ!仮免持ちなら被害者の状態は瞬時に判断して動くぞ!」

 (この演習…フック自身が採点するのか!?)

 「こればかりは訓練の数が物を言う!視野広く、周りを見ろ!救出救助だけじゃない。消防や警察が到着するまでの間、その代わりを務める権限を行使し、スムーズに橋渡しを行えるように最善を尽くす。ヒーローは人々を助けるためあらゆる事をこなさなきゃならん!何よりアンタ…私たちは怖くて痛くて不安でたまらないんだぜ?かける第一声が『え!?大変だ!』じゃダメだろ?」

 「あ…」

 

緑谷だけでなく、その場にいたA組生徒達全員がこの試験の本質を理解する。求められるのは的確な判断力・素早い状況判断・臨機応変な対応。そして救助者を勇気づけるヒーローとしてのあり方。それらを各々が発揮した上での周りとの適切な連携。この訓練には文字通り、ヒーローとしての素質が試されているというわけである。

 

 (これまた面倒くせぇ試験だなオイ)

 

心の中でため息交じりにそう呟きつつ、垣根は未元体を作成し始める。そして、未元体を創りながら飯田達に声をかけた。

 

 「おい。とりあえずこのまま固まってても効率が悪い。何チームかに分かれるぞ」

 「なら、私は得意な川の方へ行くわ」

 「俺も行こう」

 「私も!」

 「よし!俺達も!」

 「ああ」

 「おー!口田、要救助者動物を使って探せる?」

 「…」コクリ

 「俺も探そう。峰田、手伝ってくれ」

 「オッケー」

 「私たちはこの辺を中心に救助活動を行っていきましょう!」

 「うん!」

 「よし!状況によっては他校ともコミュニケーションを取り、より多くの命を救わん!」

 「「「おう!」」」

 

飯田のかけ声に力強く応じるA組生徒達。そして垣根も未元体を四体作り終えると背後から翼を出し、宙に浮かんでいく。

 

 「各チーム一体ずつやる。好きに使え」

 「うぉい!何かと思えばあのトンデモ分身体じゃねぇか!!!」

 『うるせぇぞ峰田。さっさと行くぞ』

 「って喋ったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」

 「会話も出来るのか・・・!」

 「垣根はどうするんだ?」

 「俺は(これ)があるからな。上空から手が足りてねぇとこ見つけてヘルプに入る。オラ時間ねぇぞ。とっとと散れ。緑谷は・・・」

 「うん!僕はこの子を救護所まで運んでくるよ!」

 

そして各チームごと自分達の分担地域目指して一斉に散っていった。垣根は先ほど自分で言ったように上空からフィールドを俯瞰し、手が足りていない所やまだ救助が行われていない場所を見つけて救助活動に当たった。その際に特に役立ったのは、I・アイランドで見せた、未元物質の疑似オジギソウとしての力だ。対象物の分子をむしり取り、無音で跡形もなく塵にしてしまう為、どれだけ大きい障害物に挟まれていようともいとも簡単に救助者を助け出すことができた。

 

 (クソジジイ…テメェの死は無駄じゃなかったぜ。おかげでコイツを知れたからな)

 

垣根は学園都市での暗部抗争の際に葬った『メンバー』の博士に心の中で礼を言う。そして負傷者を救護所に運ぶのにも垣根の翼による飛行能力は大いに役立ち、垣根の立ち回りは全体的に良好だと言えよう。しかし、そんな垣根にも苦戦していた部分があり、それは救助者への声かけだ。救護所へ運ぶ最中などに励ましの言葉をかけることが一般的なのだが、垣根の場合はそこがイマイチだった、特に子供のコスプレをしたおっさんを抱えて飛んでいるときに、垣根の無愛想対応に散々小言を言われた挙句、垣根の引きつった笑顔をしかめっ面で見つめた後、「心がこもってない。減点」と言われたときには思わず空中から投げ捨ててやろうかと思ったくらい腹が立った。そういうわけで全てが順調かと言われればそんなことはないのだが、概ね上手く対応できていた垣根は、再び上空から旋回し救助ポイントを探していた。すると突然、

 

 ボォォォン!!!

 

フィールドの複数の場所で同時に爆発が起きる。受験者のほとんどは困惑した表情を浮かべ、垣根も一旦地上に降り立つ。すると目良のアナウンスがフィールドに響き渡った。

 

 《敵により大規模テロが発生。敵が姿を現し追撃を開始。現場のヒーロー候補生は敵を制圧しつつ、救助を続行して下さい》

 「戦いながら救助を続行・・・」

 「あーーーもう正気かよ!?ハードル高くねぇ~か!?」

 

近くにいた峰田が頭を抱えながらその場で絶叫する。しかし叫びたくなるのも無理はない。敵と戦いつつ救助を続行するなどプロヒーローでも難しいことだ。それを仮免候補生にこなせと言うのだから、運営はなかなかのスパルタっぷりだ。しかし、多くの受験生が戸惑う中、ただ一人その口角を上げる者がいた。

 

 「いいね。中々気合い入ってるじゃねぇか運営さんよ。慣れねぇ人助けとグチグチうるせぇおっさん共のせいで、いい感じにストレス溜まって来たところだ。俺が行くまでやられんじゃねぇぞ?」

 

垣根は不敵に笑いながらその場で能力を発動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ぐっ…あっ…!?」

 

ギャングオルカの大きな手によって首を掴まれた轟はうめき声を上げる。突如、敵役として試験に乱入してきたギャングオルカとその部下達から救護所を守るために轟とイナサはギャングオルカと交戦した。しかし、二人の間の確執は互いの足を引っ張り合う形となり、あろうことか戦闘中だというのに二人は口論を始めてしまったのだ。そんな隙をギャングオルカが見逃してくれるはずもなく、超音波攻撃によって二人の体は自由がきかなくなってしまった。二人が戦闘不能になっている隙に敵達が救護所を襲いに行く。

 

 「ヤバい!突破されてる…こっち来る!」

 

芦戸が後ろを振り返りながら慌てて叫ぶ。まだ救護者達の避難は完了しておらず、さらには傑物学園の真堂もノックアウト状態であるため、ヒーロー側としては大変マズい状況ということになる。真堂を抱えて移動していた緑谷だが、追っ手がすぐ側まで迫っているのを確認すると真堂を地面に降ろし戦闘態勢に入ろうとする。

 

 (距離的に僕が戦線を作らないとマズい…!)

 

緑谷が個性を発動させようとしたその時、突然脇から白の大群が緑谷と敵達の間に割って入ってきた。

 

 「えっ!?」

 「な、何だコイツら!?」

 

予想外の横やりに思わず敵達の足が止まる。緑谷も一瞬驚いた様子だったが、よくよく目の前の軍勢を見るとそれらが見覚えのあるモノだということに気付く。

 

 「これは、垣根君の…!?」

 「お、ギリ間に合ったな」

 

空から垣根の声が聞こえると、翼を広げながらゆっくりと緑谷達の下へ降りてきた。

 

 「垣根君!?」

 「おう緑谷。悪いな遅くなって。ちと数作るのに時間食っちまってよ」

 「これ、全部個性で作ったの!?」

 

驚愕の声を上げながら目の前の未元体の軍勢を見る緑谷、その数はざっと見積もっても30はあり、敵達とほぼ同数くらいだ。緑谷が目を丸くしていると、

 

 「ここは俺が受け持つ。お前は救護所の避難手伝ってこい」

 

垣根が緑谷に言う。

 

 「で、でもこの数相手に一人は流石に…」

 「大丈夫だ。一匹たりとも通さねぇよ。いいから行ってこい」

 「わ、分かった!避難が完了したら必ず加勢に来るよ!」

 

そう言って緑谷は真堂を抱えながら救護所の方へ向かった。すると敵達の奥からギャングオルカが姿を現す。

 

 「ほぅ・・・分身体か。それだけの数をこの短時間でよく作り上げたものだな」

 「光栄だね。No.10からお褒め頂けるとは」

 「だが結果は同じだ。お前も轟達と同様、この手で沈めるまで!」

 「あ?轟?…って何だよアイツ、負けてんじゃねぇか…あれ?それに確かアイツは士傑の…へぇ、流石はNo.10ってとこか。中々出来そうだな」

 

ニヤリと笑う垣根と鋭い目つきのギャングオルカがにらみ合い、同時にかけ声を放った。

 

 「「行け」」

 

途端に未元体達が一斉に動き出し、敵達に向かって走り出す。一方の敵達はセメントガンを構えながら発砲の叫びを上げた。

 

 「撃てぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!

 

大量のセメントガンが未元体に飛来する。放たれたセメントガンの何発かが未元体に直撃し、未元体の動きを止めることに成功した。しかし数秒後、未元体にこびりついたセメントがだんだん白く変色していき、ドロドロの状態になりながらベチョリと音を立てて地面に落下した。そして再び走り出す未元体。敵達は困惑したように声を上げる。

 

 「お、おい!セメントガンが溶けちまったぞ!?どうなってんだ!?」

 「わ、分からねぇ!!とにかく撃ちまくれぇ!!」

 「うわああああああああ!!!」

 

未元体の群れがとうとう敵達の下へ到達し、一斉に襲いかかった。対人戦闘で未元体が敵達を圧倒し、次々と敵を戦闘不能へ追いやっていく。敵達も諦めずにセメントガンを撃っているがそれでも未元体は止まらない。そして敵の最深部までたどり着いた二体の未元体がギャングオルカに襲いかかった。

 

 「舐めるなァ!!!」

 

迫り来る未元体に一喝しながらギャングオルカは超音波攻撃を繰り出した。

 

 キュィィィィィィィィィィン!!

 

甲高い音を立てながら激しい超音波が未元体を襲い、その衝撃で後方へ軽く飛ばされる。そしてギャングオルカは全力で駆け出し、されに三体の未元体を超音波の衝撃で退けると思いっきり跳躍し、一気に垣根本体を射程に捉える場所まで距離を詰める。すると突如、上空から二体、何かが飛来し、

 

 ズドンッッッ!!

 

という衝撃と共に垣根の両隣に降り立った。それは全長五メートル程の緑色の目をした大きな白いカブトムシ型の兵器だった。その二体のカブトムシの装甲がパックリと開き、巨大な薄い羽を展開すると空中のギャングオルカの方へ体を向ける。対するギャングオルカは空中から再び超音波攻撃を放った。

 

 キュィィィィィィィィィィン!!

 

甲高い音と共に発せられた超音波が垣根達を襲う。すると、

 

 「!」

 

二機のカブトムシが展開した巨大な羽根を高速振動させ始め、空気に振動を生み出す。まき散らされた空気の振動はギャングオルカ超音波とぶつかり合い、相殺させることに成功した。

 

 「なんだと!?」

 「やっぱ音波の類いか。けどよ、残念ながらそんなんじゃ俺には届かねぇ。いや、俺どころかアイツらにもな」

 「!?」

 

ギャングオルカは急いで自分の後ろを振り返ると、先ほど倒したはずの未元体達がゆっくりと起き上がってくる。ギャングオルカは目の前の尋常ならざる光景に思わず声を漏らす。

 

 「馬鹿な…!?俺の超音波を喰らいながらもう動けるようになるなど…ありえん!!」

 「超音波ねぇ・・・脳に振動を起こして体の自由を奪う仕組みなんだろうが、生憎とそいつらの脳は特別製でな。せいぜいちょっと強めの衝撃波程度にしかならねぇよ」

 「何を言っている・・・!?」

 「理解する必要はねぇよ。そんなことより、アンタは自分の心配をした方がいい。なんせ、俺の兵隊共はまだピンピンしてるからな」

 「くっ…!?」

 

再起した未元体がギャングオルカに対して一斉に襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おいおいイレイザー、こいつは何の冗談だ?」

 「…」

 

 観覧席で試験の様子を見ていたジョークは同席していた相澤に目の前の光景の説明を求めるも、相澤も黙ったままだ。今回の二次試験、要救助者を救助すると同時に敵とも対敵し、救助者に敵による被害が出ないように適切な対応をしなければならないという非常に難解な試験となった。しかもその敵役がプロヒーローの中でも指折りの実力者であるギャングオルカとその部下達。はっきり言ってプロがこの試験を行なったとしても、その合格率は高くはないだろう。それを仮免も取得していない学生達がこなさなければならないのだからその難易度は言うまでも無い。特にギャングオルカという強敵の対応を行った者への評価の基準としては、「どこまで善戦できたか」という枠の中で行なわれるはずである。しかし、ジョークや相澤が目にしている光景はその前提を覆すものであった。No.10ヒーロー・ギャングオルカが垣根の生み出した5体の白い人型造形物に押されている。ギャングオルカの部下達はとっくに制圧されており、部下達一人一人を未元体が押さえ込んでいた。何回地に伏せさせても何度でも立ち上がりギャングオルカに迫っていく未元体達。そして彼らの振るう拳は壁に穴を開け、彼らの繰り出す蹴りは地面にクレーターを生み出すほど強烈で、それが5体分ともなれば流石のギャングオルカも劣勢になるのは必至。さらに、垣根の両隣にある二機のカブトムシもその砲撃によってギャングオルカを追い詰めている。そして当の垣根本体は突っ立ったまま、ただギャングオルカが追い詰められていくのを黙って見つめている。この異様な光景についてジョークは相澤に説明を求めたのだ。

 

 「相手はNo.10だぜ?それを一生徒がここまで圧倒するとか、おかしいでしょどう考えても。しかも一年坊と来た」

 「…ああ。俺もそう思うよ」

 

相澤が噛みしめるように言葉を発する。この光景に驚いていたのはジョーク達だけではなく、別室でこの試験を監督していた目良までもが驚きを隠せない様子でいた。

 

 (どーなってんのコレ…ギャングオルカがこうも一方的に押されるなんて、流石に予想できませんよ。垣根帝督…先の神野区事件の当事者。体育祭での活躍から優秀な生徒であることは認識していましたが、まさかここまでとは…残りのフックの数も僅かとなってきたのでそろそろ試験も終わりですが、これは最後まで目が離せませんよぉ~)

 

画面に映し出された映像を見ながら目良は心の中で呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「チッ!鬱陶しい…!」

 

 ギャングオルカが思わず悪態をつく。ギャングオルカは五体の未元体を相手にしていた。こちらがいくら攻撃しても全く効いている様子は無く、攻撃の手は一向に緩まなかった。加えて一体ごとの攻撃力がかなり高く、一撃一撃をガードする度に重い衝撃がギャングオルカを襲った。

 

 (それにしても、俺の部下達を一人残らず制圧し、その上で俺の相手をする余力があるとは…なんという少年だ…!)

 

未元体の攻撃を躱しながら、ギャングオルカは垣根帝督の実力に瞠目する。未元体達は休むことなくギャングオルカに攻撃を仕掛けていく。ギャングオルカに殴り飛ばされても、超音波攻撃を食らっても、次の瞬間には立ち上がり、再び攻撃体勢に入るのだ。最早ゾンビのようなものである。一体相手取るだけでも厄介なのに五体同時に来られては流石のギャングオルカも防戦気味になり、ジリジリと後退していく。ギャングオルカがハンデとして身につけさせられている拘束用プロテクターは未元体の絶え間ない攻撃により、あちこちにヒビが入っていた。さらに、定期的に放たれるカブトムシ砲撃もかなり面倒で、未元体を相手取りながらこちらにも注意を払い続けなければならない。そんな劣勢の中でギャングオルカは打開策を考える。

 

 (やはり垣根本体を叩くしかない。超音波が通じない以上、直接拳をたたき込む!)

 

ギャングオルカは指針を決めると迫り来る五体の未元体達の足下に向けて超音波攻撃を放った。すると、

 

 ガシャンッッ!!

 

超音波を受けた地面が崩落し、未元体達はバランスを崩した。その隙を狙い、ギャングオルカは一気に未元体達を飛び越えると、ジグザグな軌道を描きながら垣根に迫っていく。カブトムシは、

 

 ドォン!!ドォン!

 

轟音を響かせながら砲撃でギャングオルカを撃ち続けるも、不規則な走りをするギャングオルカには中々命中しなかった。そして垣根とギャングオルカの距離が残り五メートル程になったその時、

 

 「!」

 

突如片方のカブトムシが羽を広げながら飛び出し、ギャングオルカに突進した。

 

 「何…!?」

 

意表を突かれたギャングオルカだったが、その両手でカブトムシの角をガッシリと受け止める。しかしカブトムシの勢いは止まらず、みるみるギャングオルカを後方へ押し戻していく。

 

 「なんという力だ!?」

 

両手で角を受け止め、必死に足に踏ん張りをきかせているギャングオルカだったが、どんどん押し込まれていく。するとギャングオルカはカブトムシの角を自身の脇に締めながらガッチリと固定し更に腰を落とすと、

 

 「舐めるなァァァァァァ!!!!!」

 

雄叫びをあげなが渾身の力で白い巨体を持ち上げ、そのままバックドロップをかますかのようにカブトムシを後ろの地面に叩きつけた。ズシンッッッ!!と大きな衝撃が辺り一帯に響き渡る。

 

 「おーおーすげぇ力だな。大したもんだよ。だが、これで隙だらけだ」

 

垣根の言葉の直後、ドォォォォォォォン!!という轟音が鳴り響き、砲撃がギャングオルカを襲う。

 

 「ガハッ……!?」

 

砲撃はギャングオルカの足下に炸裂し、その衝撃でギャングオルカの体は宙を舞い、後方へ吹き飛ばされた。

 

 「やーっとまともに当たったか?デカい割に俊敏で面倒かったぜ」

 

やれやれと言わんばかりにそう呟くと、吹き飛んだギャングオルカに追撃するため垣根は歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「くっそっ…!!」

 「ちっくしょう…!!」

 

 轟と夜嵐は地に伏し、呻きながら垣根とギャングオルカの戦いを見ていた。自分達を打ち負かしたギャングオルカ相手に一人でタメ張っている垣根のスゴさは勿論感じていたが、それ以上に自分達が犯した失態に腹を立てていた二人。最初からきちんと連携を取れていればこんな事態になっていなかったかもしれない。垣根が出張るまでもなく、二人で何とか抑えられていたかもしれない。小さなつまらない意地をお互いが張り合い、試験に集中出来ず、その結果がこの醜態だ。こんなことでプロになることなど到底出来はしない。二人は垣根の戦いを見ながら己の愚かさを痛感していた。

 

 (嫌だったモノに自分がなっていたよ…!)

 (俺のしてきたことがこの事態を招いた…!俺が!)

 ((取り返さねぇと!!))

 

その時、凄まじい轟音が聞こえ、ギャングオルカがこちらに飛ばされてくることに気付く。ギャングオルカはそのまま轟達の近くの地面に激突し、呻きながら立ち上がる。それを見た轟はある策を思いつく。だがそれは同じく地に伏しているイナサ次第の策でもあった。

 

 (無駄に張り合って、相性最悪・・・連携ゼロ・・・こんなんで、トップヒーローに敵うわけがねぇ・・・もしお前もそう思ってんなら・・・下から掬い取れ!!)

 

突如、轟の体から激しい炎が吹き荒れる。それを見たイナサは瞬間的に轟の考えを理解し、個性を発動する。

 

 (痺れて力が入らない…!しかし!やるっきゃない!!)

 

イナサの体からも烈風が吹き出し、轟の炎へと向かう。イナサの烈風によって掬い取られた轟の炎熱がギャングオルカに襲いかかった。

 

 「!?」

 (炎と!)

 (風で!)

 ((閉じ込めろ!!!))

 

烈風によって下から掬い上げられた炎はギャングオルカの体を覆うように渦を巻き、その体を閉じ込める。それはさながら、炎の竜巻のよう。ギャングオルカは炎の渦の中で轟とイナサの方を見ながら冷静に分析する。

 

 (体は動かせずとも・・・。威力精度は減退しているが、麻痺の効きが充分ではなかった。かろうじて個性をコントロールできている。一方で、完全に動けない轟は炎をくべることで夜嵐の威力をカバー。先ほどまでの愚行が消えるわけではない。だが・・・いいじゃないか!雨降って地固まる。過ちに気付き、取り返さんとする。そういう足掻きは嫌いじゃない)

 

轟とイナサの連携をギャングオルカなりに評価すると、唐突にポケットからペットボトルを一本取り出し自らの体にかける。そして、

 

 「炎と風の熱風牢獄か。いいアイデアだ。並の敵なら泣いて許しを請うだろう。ただ・・・そうでなかった場合は?打ったときには既に次の手を講じておくものだ!」

 「くっ…!?」

 「うっ…!?」

 

キュィィィィィィィィン!!と甲高い音と共に突如熱風牢獄がはじけ飛ぶ。ギャングオルカの超音波攻撃によって炎の渦が打ち消されてしまった、牢獄の中から姿を現したギャングオルカは鬼気迫る表情で轟達に問う。

 

 「で?次はァ!?」

 (ねぇよ…)

 「オイオイ、よそ見してんじゃねぇよ」

 「!?」

 

ギャングオルカが垣根の声に反応しハッとした様子で顔を上げると、五体の未元体が一斉に跳び蹴りしてくる光景が視界に入る。急いで防御態勢を作るも、

 

 「ぐ……っ!?」

 

衝撃を殺しきれず後ろへ吹っ飛び壁に激突した。

 

 「垣根ェ・・・!!」

 「何勝手におっぱじめようとしてんだよ。お前の相手は俺だろ」

 「いいだろう・・・!まずは貴様からだ垣根ェ!!」

 

ギャングオルカは全速力で駆け出し、垣根に向かっていく、だが、

 

 「!」

 

不意にナニカを目の端で捉えたギャングオルカは無意識に右腕をあげる、するとその直後、右腕に衝撃が走った。

 

 「SMAAAAAAAASH!!!」

 (緑谷ァ…!)

 

緑谷の乱入に目を見開くギャングオルカ。しかし驚いていたのは垣根も同様だった。

 

 「緑谷、お前なんで…」

 「救護所の避難が終わったから手伝いに来たよ!」

 「俺達もな!」

 

垣根の背後からも声が聞こえ、振り返るとそこには尾白や芦戸、常闇や蛙吹などの姿。士傑や傑物学園の生徒の姿もある。

 

 「垣根が敵全員食い止めてくれてたおかげで早めに避難を完了させることが出来た!サンキューな」

 「ここからは私たちも加勢するわ」

 「…ああ、そう」

 「むぅ…これは厄介だな」

 

ギャングオルカvs受験生達が始まろうとしていたその時、ブザー音のような音が鳴り響くと共に目良のアナウンスが響き渡った。

 

 《え~只今をもちまして配置された全てのフックが危険区域より救助されました。誠に勝手ではありますが、これにて仮免試験全行程終了となります》

 「終わった…?」

 《集計の後、この場で合否の発表を行ないます。怪我をされた方は医務室へ、他の方は着替えて暫し待機でお願いします》

 

会場に響く試験終了のアナウンス、これにて仮免試験、終了。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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