「シャチョー…」
「すいません。仕事できませんでした…やっぱ拘束用プロテクターは動きづらいですね」
(いや、プロテクターの問題ではない。炎の渦も緑谷の奇襲も見事だったが、何より驚嘆すべきはあの分身体の質。俺の部下達を一瞬で無力化するだけでなく、俺が押し込まれるほどの攻撃力…その証拠に)
突然、ギャングオルカが右腕に付けていたプロテクターが割れ、ズシンッ!と鈍重な音を立てながら地面に落ちる。緑谷の攻撃が決定打になったのだろう。他の箇所に付けていたプロテクターも、未元体に攻撃を受けた箇所はすべてヒビが入っていた。
(プロテクターに助けられていたのは俺の方かもしれんな…そして何より、垣根本人は
ギャングオルカは控え室へ戻っていく垣根の背中を静かに見つめていた。
◆
仮免試験が終わり、受験者一同は制服に着替えると再びフィールドに集まった。そして目良が合否に関してのアナウンスを始めた。
《え~皆さん、長いことお疲れ様でした。これより発表を行ないますがその前に一言、採点方式についてです。我々ヒーロー公安委員会とフックの皆さんによる二重の減点方式であなた方を見させてもらいました。つまり、危機的状況でどれだけ間違いの無い行動を取れたかを審査しています。とりあえず、合格者の方は五十音順で名前が載っています。今の言葉を踏まえた上でご確認下さい》
目良がそう言うと後方の大きな電光掲示板に合格者の名前が映し出される。皆不安そうな様子で自らの名前を探しだす。そして、
「あったぜ!峰田実!!!」
「あったぁ~…!」
「あるぞ!」
「よし!」
「麗日!」
「こぇ~…」
「フッ…」
「良かったぁ…」
「あったぜ!」
「わぁーーーー!!」
「…!」
「点滴穿石ですわ!」
「ケロォ~!」
「やったぁ~!」
「しぇ~い!!」
「あったァ!けど…」
「…ねェ!!」
「……」
「ま、当然だな」
A組生徒のほとんどは無事合格しており、歓喜の声を上げる。垣根も無事自身の名前を見つけ出す。すると士傑の夜嵐イナサが轟の名を呼びながらこちらにやって来た。しばらく無言で向き合う二人だったが、いきなりイナサが勢いよく頭を下げた。
「ごめん!あんたが合格逃したのは俺のせいだ!俺の心の狭さの…!!」
「……」
「ごめん!!!」
「元々俺が蒔いた種だし、よせよ」
「けど…!」
「お前が直球でぶつけてきて気づけたこともあるから」
轟とイナサの会話を聞いていたA組生徒達は驚きの表情で彼らを見つめていた。
「轟、落ちたの…!?」
「ウチのスリートップの内二人が落ちてんのかよ…!」
「暴言改めよ?言葉って大事よぉ?」
「黙ってろ殺すぞォォォ!!」
「」ガクブル
「両方ともトップクラスであるが故に自分本位な部分が仇となったわけである。ヒエラルキー、崩れたり!うぐっ…!?」
飯田が調子に乗り始めた峰田の口をすかさず塞ぐ。
「轟君…」
「轟さん…」
緑谷と八百万が心配そうに轟を見つめる中、目良が話を再開した。
《え~続きましてプリントをお配りします。採点内容が詳しく記載されてますのでしっかり目を通していて下さい》
目良がそう言うと黒服の人達が合格者達にプリントを手渡ししていく。各自配られたプリントの内容に目を通す。
「切島君」
「あざっす!」
「よぉこぉせぇやァ~…」
「そういうんじゃねぇからコレ」
「上鳴~見して~」
「ちょい待て!まだ俺見てない」
合格者達が手渡されたプリントに目を通していく中、目良が採点方式について説明する。
《ボーダーラインは50点。減点方式で採点しております。どの行動が何点引かれたなど、下記にズラーッと並んでいます》
「61点。ギリギリ…」
「俺84!見て俺スゴくね!?地味に優秀なのよね俺って」
「待って!ヤオモモ94点!?」
「ウフフ」
「飯田君どうだった?」
「80点だ。全体的に応用が利かないという感じだったな。緑谷君は?」
「僕71点。行動自体ってより行動前の挙動とか足止まってたりするところで減点されてる」
「こうして至らなかった点を補足してくれるのは有り難いな!」
「うん」
「ねぇねぇていとくん、何点だった?」
A組生徒達が各々の点数について共有し合っている中、麗日が垣根の下へ点数を聞きにやって来た。
「私74点。個性はちゃんと有効活用できてるけど、まだまだ状況判断が甘いって」
「まぁお前らしい点数だな」
「アハハ…で!ていとくんはどうだったの?」
「…ほれ」
そう言って垣根が見せてくれたプリントに目を通す麗日。
「どれどれぇ~……って97点!?高すぎやろーーーーー!?」
麗日が思わず大声を出すと、他のクラスメイト達もやって来て垣根のプリントを見出した。
「えっ!?垣根マジ!?どれどれ見せて~!うわホントだ!」
「97って…ヤオモモより高いじゃん…」
「流石ですわね垣根さん」
「逆に何で減点されたんだお前。どれどれ~…『救助者の声かけにイマイチ心がこもっていません。もっと熱意ある声かけを心がけましょう』……プッ!」
「おい上鳴、今笑ったか?」
「」ブルブルブル
プリントを受け取った生徒達が自分の点数や他の人の点数を見て一喜一憂している中、目良が話を続ける。
《え~合格した皆さんはこれから緊急時に限り、ヒーローと同等の権利を行使できる立場となります。すなわち、敵との戦闘・事件事故からの救助など、ヒーローの指示がなくとも君たちの判断で動けるようになります。しかしそれは、君たちの行動一つ一つにより大きな社会的責任が生じることでもあります。皆さんご存じの通り、オールマイトというグレイトフルヒーローが力尽きました。彼の存在は犯罪の抑制になるほど大きなものでした。心のブレーキが消え去り、増長する者はこれから必ず現れる。均衡が崩れ、世の中が大きく変化していく中、いずれ皆さん若者が社会の中心になっていきます。次は皆さんがヒーローとして規範となり、抑制できるような存在とならねばなりません。今回はあくまで仮のヒーロー活動認可資格免許。半人前程度に考え、各々の学舎で更なる精進に励んで頂きたい。え~そして不合格になってしまった方々。点数が満たなかったからとしょげてる暇はありません。君たちにもまだチャンスは残っています三ヶ月の特別講習を受講の後、個別テストで結果を出せば君たちにも仮免許を発行する予定です》
「「「おぉ~!!!」」」
《今私が述べた”これから”に対応するためにはより質の高いヒーローがなるべく多く欲しい。一次選考はいわゆる『落とす試験』でしたが、選んだ100名はなるべく育てていきたいのです。そういうわけで全員を最後まで見ました。結果、決して見込みがないわけではなくむしろ至らぬ点を修正すれば合格者以上の実力者になる者ばかりです。学業との並行でかなり忙しくなるとは思います。次回四月の試験で再挑戦しても構いませんが…》
「当然!!」
「お願いします!!」
不合格になってしまった爆豪達が気合いの入った返事を返す。
「やったね轟君!」
「やめとけよぉ。取らんでいいよ楽に行こ?ヒエラルキ…」パン
「待ってるぞ!」
「うん!」
「すぐ…追いつく」
緑谷達から暖かい声援を受ける轟に、ふと垣根が尋ねた。
「お前、あの士傑の奴と何かあったのか?」
「まぁ、ちょっとな」
「ふーん…」
しかし、轟ははっきりと答えはしなかった。垣根も特に言及はせず、今回の試験について自分なりに振り返った。
(今回の仮免試験は未元体の実践的運用を試すことが俺の目的のメインだったが、その意味では上出来だな)
垣根は今後の更なるステップアップを決意しながら会場を後にした。こうしてようやく、仮免試験の全日程が終了。垣根達にとっての長い一日が終わった。
◆
仮免試験が終わるとA組生徒達は学生寮に帰った。夜になり、食事や風呂を済ませた後は一階の共同スペースでくつろぐ生徒が多かった。しかし、その中に垣根の姿はない。それは、垣根が一人相澤の部屋に向かっていたからだ。垣根は部屋の前に着くとコンコンとノックをする。
「入れ」
相澤の返事と共にドアを開ける垣根。中には部屋着の相澤とオールマイトがソファーに腰掛けていた。垣根は二人の姿を確認すると部屋の中に入っていく。するとオールマイトが怪訝そうに相澤に尋ねた。
「相澤君、これは一体…?」
「仮免試験場から寮に着いたとき、垣根に頼まれましてね。俺とオールマイトさんに話したいことがあると」
「話したいこと?」
「ええ。その内容は俺もまだ知りません。それを今から話してくれるんだろ?」
「ああ」
「一体、何を話してくれると言うんだい?」
オールマイトが垣根の顔を見つめながら質問し、相澤も黙って垣根の顔を見つめている。二人の視線を受けながら垣根はその口を開き、言葉を発した。
「俺の『個性』の話だ」
そう言って垣根は自身の能力や学園都市について話し始めた。
◆
バタン
相澤の部屋から出た垣根は扉を閉めると自分の部屋へと歩を進める。歩きながら垣根は先ほどまでの出来事を回顧していた。垣根は仮免試験が終わり宿舎に戻ると相澤に頼み、相澤とオールマイトに話をする場を設けてもらったのだ。そして垣根は二人に話した。自分の出自と能力について。垣根の話を聞いた二人は終始呆気にとられていた様子だったが、いきなり自分の生徒が「実は自分、この世界の人間じゃありません」などと言ってきたら誰でも面食らってしまうだろう。しかしそれでも垣根は今まで隠していたことの大体を二人に話したのだ。理由としては先日の神野区事件だ。そこで垣根は『木原』という脅威の存在を知った。敵側に木原が関わっている以上、もしこのまま情報を隠していたらそのうち取り返しのつかない被害がヒーロー側に出てしまうかもしれない。木原とは
(さて、いつ話すかねぇ・・・)
彼らに話すタイミングについて頭を悩ませる。どのタイミイングで話すのがベストか色々考えている内に自身の部屋までたどり着いてしまった垣根。
「・・・ま、ウダウダ考えてても仕方ねぇな。なるようになるってやつだ」
ひとりでにそう呟きながらドアに手をかけ部屋に入ると、静かにドアを閉めた。
仮免編終わり~