かの悪党はヒーローへ   作:bbbb.

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六十一話

 

 リューキュウが天井を突き破り、地下に落ちてくる様を緑谷は驚きの表情で見上げていた。また、よく見ると地下へ乱入してきたのはリューキュウだけではなく、麗日と蛙吹も一緒にいることに気付く緑谷。一体どういう状況なのかイマイチ測りかねていた緑谷を差し置き、地下を見渡していた蛙吹が突然声を上げる。

 

 「ウラビティちゃん!」

 「!ナイトアイ!?」

 

二人の視線の先には地面に転がる瀕死の状態のナイトアイの姿があった。治崎との戦闘の結果、ナイトアイは体に重度の怪我を負ってしまったのだ。二人がナイトアイの存在に気付いたことを知ると緑谷は今回の作戦の救助対象であるエリの方を向く。

 

 「ナイトアイの保護頼む!」

 

緑谷は蛙吹達にそう伝えると少女の下へ走り出した。すると突然、

 

 ドッッッッ!!!

 

少女の足下の地面が隆起し少女の体が宙を舞う。治崎が個性を発動させ、地面を隆起させる形へと作り変えた。

 

 「治崎ィィィィィィィィ!!!」

 

緑谷が治崎に怒号を浴びせるも、治崎は構いもせず自身の足下の地面を隆起させるよう変形させることで地上へ逃れようとしていた。

 

 「滅茶苦茶だ!ゴミ共が!!」

 「させるかぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

治崎を逃がさぬようワンフォーオールを発動させ、緑谷は高く飛ぶ。足場と共に上昇していく途中で治崎は宙を舞うエリを捕まえると異形の腕に抱え直した。

 

 (掴め!今度こそ!!!!!)

 「しつこい・・・!」

 

下から迫ってくる緑谷に悪態をつく治崎が目線を横に向けると、治崎の個性によって岩ごと巻き上げられ宙に舞う赤いマントが目に入る。これは緑谷やナイトアイが治崎と交戦する前、たった一人で治崎を追い詰めたヒーローが身につけていた物。忌々しいものが視界に入り、思わず舌打ちをする治崎だったが、それは同時に治崎に抱えられていたエリの目にも入った。

 

 (あれは・・・)

 

呼び起こされる鮮烈な光景。自分を守ろうと治崎の攻撃を体を張って受け止めたヒーローの姿。体中から血を流しながらも決して膝を折らなかったヒーローの姿が鮮明に思い起こされる。

 

 (もう・・・いいの。誰にも・・・死んで欲しくない!望んでなんかない。なのにどうして・・・!)

 

自分のせいで何人もの人が傷ついていく。ミリオだけではない。ナイトアイも緑谷もみんなエリを助けようとして、その度に多くの血を流していく。エリにはもうそんな現実に耐えられなかった。そして一体なぜ彼らがそこまでして自分を助けてくれるのか全く分からなかったのだ。しかし、エリが宙を舞うミリオのマントを見上げていたその時、エリの頭の中にミリオがかけてくれた言葉が響き渡った。

 

 『俺が君のヒーローになる!決して君を悲しませない!』

 

ふと空へ向かって手を伸ばすエリ。それは無意識的に動いた行動。だがエリの伸ばした手は確かにミリオのマントを掴みに行っていた。自身の頭部に生えている角から光があふれ出していることにも気付かずにエリは彼のマントをつかみ取った。そして下から必死に自分を救いに来る緑谷の姿を見てようやく気付いた。

 

 (この人達は諦めない。私が助からないと死んでも諦めない・・・!助からなきゃ・・・もう一度!)

 

エリは自らが助かる覚悟を決め、その場で立ち上がる。そして緑谷をしっかりと見つめ、力強く緑谷の下へ飛び込もうとした直前、治崎が勢いよく振り返りエリに手を伸ばす。

 

 「行かせるかエリィィィィィィィィィ!!!!」

 

必死に伸ばした手はエリの肩をしっかりと捕らえる。

 

 「キャッ!?」

 

自身の服に手が掛かり、強い力で自身の体が引き戻されていくのを感じたエリ。もうダメだと諦めかける。力強い声が上空に響き渡るまでは。

 

 「治ィィィィ崎ィィィィィィィィィィィ~~~!!!!」

 

ゴフッ!!っと鈍い音が後方ですると同時に、エリは自分を引っ張っていた力がなくなるのを感じた。だが急に引っ張る力がなくなったため、エリはバランスを崩しふらつきながら後方へ移動する。そして気付いたときには自分の体が足場ギリギリの場所に位置し、重心が完全に外側へ傾ききっていることを感じるエリ。これではもう自由落下は避けられない。

 

 (やっぱり、ダメだったのかな。私は助かっちゃいけないのかな。もう一度、あの優しい手に抱かれたかったなぁ)

 

心に諦観の念を抱きながら、エリは足場から落下していった。

 

 「エリちゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」

 

落下していくエリを見て緑谷は必死に叫ぶ。エリが落下したのは自分が今位置する場所から見てほぼ反対側の面。落石を足場に軌道を修正し手を伸ばす緑谷だったが、あと一歩エリには届かない。緑谷の必死な叫びを嘲笑うかのようにエリの体は緑谷の目の前で下へと落ちていく。緑谷の顔が絶望に染まるかと思われたその時、一条の白い光が緑谷の目の前を通り過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エリは目を閉じながら違和感を感じていた。足場から落下した際に死を覚悟したエリだったが、いつまで待っても地面に激突する衝撃も痛みもやってこない。こんなにも落下時間が長いものなのか。というか、落下しているという感覚も無い。そして何より、自分はまだ生きている。何が起きたのか分からないエリは状況を確認しようと恐る恐る閉じていた目を開く。目を開いた先にまず目にした光景は一人の青年の顔。金髪で整った顔をした青年がエリのことをじっと見つめている。そしてエリはその次に自分が今、目の前の青年の腕に抱かれていることに気付いた。全く状況が呑み込めていないエリは困惑気味に青年に尋ねる。

 

 「あなたは・・・?」

 「お前がエリか?」

 「え・・・?う、うん・・・」

 

突然名前を聞かれ、戸惑いながらも頷くエリ。

 

 「そうか」

 

垣根はエリの答えを聞くと一言そう呟きながら、ゆっくりとエリを地面に降ろした。

 

 「ったくあの野郎…もう少しスマートに出来ねぇのかよ」

 

上を見上げながらミルコに対して悪態をつく垣根だが、そこへ緑谷が上から現れた。

 

 「エリちゃん!!」

 

垣根達から少し離れた場所に着地した緑谷はエリの名を呼びながら視線を向ける。その声に反応し、二人は緑谷の方へ体を向けた。見たところ、特に怪我も無くエリが無事そうであることを確認した緑谷はホッと息を吐き出す。垣根達の下へ近づこうとしたとき、緑谷は自身の視線の先にゆらりと揺れる人影を確認した。そして、

 

 「エリをォ返せぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 ガッッッッ!!!

 

治崎は叫びながらコンクリート地面を瞬時に分解し、いくつもの鋭い槍状の塊に修復するとそれらを一斉に射出した。コンクリートの塊が垣根に一斉に襲いかかる。

 

 「エリちゃん!垣根君!!」

 「ひっ!!」

 

 ズガァァァァァァァン!!!

 

轟音が鳴り響く。緑谷が叫び声を上げて僅か一秒もしないうちに、治崎の攻撃が垣根達が立っていた場所へ直撃した。静かに見つめる治崎。しかしここですぐ異変に気付く。土煙が晴れ見えてきた光景は、白く巨大なドーム状のナニカに治崎の攻撃全てが突き刺さっていた光景だった。それを見た治崎は警戒心を高める。

 

 (何だアレは・・・)

 

治崎が訝しげに見つめている中、突如白いドームが開放される。中から出てきたのは先ほどと何ら変わらぬエリと、巨大な白い翼を背中から生やしている垣根の姿。先の白いドームは垣根がこの翼で自分とエリの周りを覆うことで出来たものだった。またもや何が起きたのか分かっていないエリだったが、口を半開きにし目を丸くしながら眼前に広がる純白の翼を見つめていた。

 

 「!」

 

そんなエリの様子を見た垣根は脳裏にある少女の顔が思い起こされる。それは少ない時間ではあるが垣根帝督と行動を共にし、垣根帝督に憧憬を抱き、そして垣根帝督が救えなかった一人の少女の顔。思わず彼女を想起しながらエリの顔をじっと見つけていると、そこへ緑谷が駆け寄ってきた。

 

 「二人とも大丈夫!?」

 

緑谷の声によって我に返った垣根は緑谷へ言葉を返す。

 

 「・・・当たり前だろ」

 「そ、そっか。良かった・・・!」

 「あ・・・」

 「エリちゃん・・・本当に無事で良かった!」

 

緑谷はエリを見ながら心底安堵した様子でそう言った。黙って見ていた垣根だったが、くるりと身を翻すと緑谷に言葉をかける。

 

 「緑谷。そのガキを頼んだぜ」

 「え・・・?う、うん!」

 

緑谷が戸惑いながらも返事を返す一方で、垣根の背中を不安そうに見つめるエリ。するとそんなエリの視線を感じたのか、振り返りはしなかったものの垣根は一言、エリに言い聞かせるように呟いた。

 

 「心配するな。すぐに終わる」

 「!」

 

そう言い残すと垣根は歩き出し、こちらを睨めつける治崎と対峙した。

 

 「さてと。待たせたなマスク野郎。こっからは俺が相手してやるよ」

 「・・・エリを渡せガキ共。そいつは俺のものだ」

 「ハッ、極道のトップがまさかのロリコンかよ。つくづく救えねぇ野郎だな」

 「お前達はエリの力を知らないからそんな正義面が出来る。そいつはな、呪われた子なんだよ」

 「違う!エリちゃんは呪われた子なんかじゃない!」

 

緑谷が大きな声で反論すると治崎はため息をつきながら右方向へ歩き出す。そして先ほど麗日達と一緒に地上から落ち、今は気絶して伸びている活瓶の下へたどり着くと治崎はその手で活瓶の体に触れた。治崎の手が触れた瞬間、血をまき散らしながら活瓶の肉体が消滅する。その血の雨を浴びながら空を見上げていた治崎だったが、突如その体に異変が起きる。治崎の体からこの世のモノとは思えない、巨大な赤黒い蜘蛛のような体が出現したのだ。何本もの巨大な手足が肉体から伸び、その頭部に治崎の体が埋まっているのが見える。恐らく治崎の個性で活瓶と融合したのだろう。活瓶と融合した治崎は巨大蜘蛛の頭部から垣根達を見下ろしながら話を再開する。

 

 「エリの角からあふれ出るその光・・・力を抑え切れていない証拠だ。そうだろ?エリ」

 「・・・・・っ!」

 「人間を巻き戻す。それがエリだ。使いようによっては人を猿にまで戻すことすら可能だろう。触れる者全てが無へと巻き戻される。呪われてるんだよそいつの個性は」

 「・・・・・・」

 「俺に渡せ。分解するしか止める術はない。消滅したくなければエリを渡せ」

 「絶対ヤだ!」

 

治崎の言葉に断固拒否する緑谷。治崎の話はまだ続く。

 

 「お前達もエリも力の価値を分かっていない。個性は伸ばすことで飛躍する。俺は研究を重ね、エリの力を抽出し到達点まで引き出すことに成功した。結果、単に肉体を巻き戻すことに留まらず、もっと大きな流れ・・・種としての流れ、変異が起こる前の状態へと巻き戻す。エリにはそういう力が備わっている。個性因子を消滅させ、人間を正常に戻す力だ。個性で成り立つこの世界を、理を壊すほどの力がエリだ!」

 

治崎はそう言いながら巨大蜘蛛の腕から個性を発動させ、コンクリートの地面を分解する。そして、

 

 「エリの価値も分からんガキに利用できる代物じゃない!!」

 

鬼の形相で叫びながらコンクリートの槍を生成し、垣根の向けて一斉に放った。個性を発動させ、エリを抱えていち早く退避する緑谷。対しては迫り来る攻撃を見つめながら、心の中で静かに呟いた。

 

 (・・・結局この世界も学園都市(あっち)と同じか。自分(テメェ)の都合しか頭にないクソ野郎どものせいで、何の罪もないガキ共が犠牲になる世界・・・エリや林檎(アイツ)のように。俺だって治崎(コイツ)と同じクソ野郎だ。アイツを救えなかった半端者。だがな、それでも・・・・・・)

 

 ドゴォォォォォォォォォン!!!

 

コンクリートの槍が垣根が立っていた場所に直撃し、轟音と衝撃が発生する。土煙が晴れ、治崎が垣根の立っていた場所を見下ろすがそこに垣根の姿はなかった。攻撃が回避されたことを確認した治崎は周囲を見渡し、垣根の姿を探す。すると突然、上空からヒラリヒラリと一枚の白い羽根がゆっくり落ちてくる。そのまま顔を上に向けるとそこには六枚の翼を広げ、宙で静止している垣根の姿があった。日光を背に受け、より煌びやかに輝く純白の翼はどこか神秘的なオーラを放っている。

 

 「……」

 

黙って治崎を見下ろしていた垣根は演算を開始する。すると垣根が纏う六枚の翼はグググッと音を立てながらどんどん大きくなっていき、全ての翼の大きさが二十メートル程にまで達した。治崎の巨大化した体にも引けを取らない大きさだ。

 

 (なんだこの翼は…?)

 

目を丸くしながら頭上の垣根を見上げていた治崎に対し、垣根は挑発するように言葉を放つ。

 

 「さて、スクラップになる覚悟はできたか?治崎ィ」

 「…ガキがァ、図に乗るなァァァァァァァァァァ!!!」

 

激昂と共に治崎が個性を発動させる。無数のコンクリートの棘が一斉に射出され、頭上の垣根に襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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