六十四話
いつの間にか9月も終わり10月を迎え、夏の気配はすっかり消え去り寒暖の差も激しくなってきた。あれから垣根達インターン組はオールマイト、相澤引率のもとナイトアイの葬式へ参列した。インターンは学校とヒーロー事務所の話し合いの末 しばらく様子を見ることになり、ナイトアイの事務所はサイドキックのセンチピーダーが引き継ぎ、ミリオの帰りを待つことになった。また、エリはようやく意識が戻ったものの、まだ精神的に不安定でいつまた暴走してしまうか分からないため面会はできない。しかし、巻き戻す個性を放出していたエリの額の角は熱が引いていくにつれ縮んでいき、今はコブくらいの大きさになったそうだ。インターンで慌ただしい日々を送っていた垣根や緑谷達もようやく平穏な日常に戻ることが出来た。そこにはいつも通り授業に励むA組生徒達の姿があった。
「アマリ美シイ問イデハナイガ コノ定積分ヲ計算セヨ。正解ノ分カル者は挙手ヲ」
(エクトプラズム先生たまに趣味走るよなぁ)
「うぇ、わからね~」
「………………」ピタッ
(学力2位の八百万が止まるか。これは闇の問いかけだ)
エクトプラズムが出した定積分の応用問題に頭を悩ませる生徒達。上鳴のように完全に思考を放棄している生徒もいれば、緑谷のように懸命に問題に取り組む生徒もいる。そんな中、垣根はというと頬杖をつき、退屈そうな顔をしてあらぬ方向を眺めていた。そんな気の抜けた姿を見せている垣根の姿にエクトプラズムが目を付ける。
「ム。授業中ニ余所見トハ随分ト余裕ダナ垣根。デハコノ問題ヲ解イテミロ」
いきなりエクトプラズムに指名された垣根は黒板を一瞥し、エクトプラズムの指す問題を確認すると考える素振りすら見せずに答えを出した。
「107/27」
「……正解ダ」
「「おぉ~……!!」」
静かに感嘆するA組生徒達。エクトプラズムは若干気まずそうにしながらも授業を進めていった。そして四限目の授業が終わり、昼休みの時間になると垣根は緑谷達と食堂へ向かっていた。
「ていと君凄いねぇ~!私あの問題全然分かんなかったよぉ。デク君分かった?」
「僕はあとちょっとで答えが出そうだったんだけど……でも結局計算ミスしてた」アハハ
「え!それでも十分凄いよ~!いいなぁ二人とも頭良くて」
「しかし!授業中に余所見をするのは先生に失礼だ!もっと気を引き締めて………」ピシッピシッ!!
飯田の説教を聞き流しながら食堂に着いた垣根はいつも通り昼食を済ませる。こうして学生としての日常生活を送っていると自分が学生であるという実感がわいてきて何だか不思議だった。学園都市時代にも学校には通っていた垣根だったが、活動のメインは暗部組織としてだったため、ほとんど学校には通っていなかったのである。なのでこうしてまっとうに学校生活を過ごすという体験は、すごく新鮮なものだと改めて感じていた垣根だった。最初は戸惑いを覚えたりしたが、今ではそういったことも少なくなっている。
(これが慣れってやつか)
緑谷達の雑談を聞きながら垣根は心の中で呟いた。
翌日、垣根が朝学校に行くと上鳴がネットニュースの記事について盛んに話していた。
「おい峰田!知ってる!?これ!」
「Rは?」
「全年齢よ!マウントレディがエッジショットとチーム結成!シンリンカムイもいるぜ!」
「マウントレディ…だと!?」
「チーム・ラーカーズだよね。前々から噂あったよ」
「チームアップ多いよな!ここ最近!」
「レディの躍進すげぇ!」
「おい垣根ェ!見ろよこの記事!」
「朝からうるせぇな。聞こえてたわ。チーム組むんだろ?誰か知らねぇけど」
垣根が席に着きながら返事を返す。今日は一限から体育館γで必殺技の特訓があるのでコスチューム等の準備を始めた。
「マウントレディがエッジショットな!あ、あとシンリンカムイ」
「へー」
「興味薄っ!」
「私たちもプロになったらチーム組もう!麗日がね 私を浮かしてね酸の雨を降らす!」
「エグない?」
「私を瀬呂のテープで操作するんだよ!」
「は?何の話してんの?」
「口田と障子と耳郎が偵察ね。名付けてチーム・レイニーデイ!」
「オー」
「俺達は!?」」
「いらない」
「「…………」」ズーン
「チームアップは個性だけじゃなく性格の相性も重要ですわ」
「ヤオモモ それ追い打ち」
芦戸にいらないと言われショックを受けた上鳴と峰田は近くにいた垣根に泣きついた。
「垣根ェェェェ!あいつらひでーよぉぉ!」
「こうなったら俺達で一緒にチーム組もうぜ?な?」
「は?嫌に決まってんだろ」
「なんでだよぉぉぉぉぉ!!お前まで俺達を見捨てんのか!?」
「俺達親友だろォ!?」
「誰が親友だ。あ、けど……」
「「??」」
「部下としてなら雇ってやってもいいぜ。それなりに使えそうだしな」
「「……ふざけんなーーーー!!」」
体育館に着くとセメントスの指示の下、各自で必殺技の開発・向上に向けて取り組みを開始した。垣根は取り敢えず未元体の生成スピードの向上と生み出せる個体数の増大を目指すことにした。未元体は生み出すだけなら何体でも生み出すことが出来るが、それら全てを一律に制御できるかについてはまた別問題だ。未元体は各個体ごとに自立した行動が可能で、未元物質の行使も出来るようになったが、だからこそ大本である垣根本体が全ての個体をしっかりと制御しなければならない。もし垣根の制御外の個体が出現すれば何をしでかすか垣根ですら分からないからだ。なので個体数の増加というよりは”制御可能な”個体数の増加、という言葉の方が正しいかもしれない。
(取り敢えず当面の目標は50体だな)
目標数を定めた垣根は早速特訓に取りかかった。