いよいよ文化祭当日。時刻は午前8時45分。A組生徒達はもうすぐ行なわれるライブの準備を進めていた。
「そろそろだな!ソワソワしてきた!」
「明鏡止水、落ち着きましょう上鳴さん」
「明鏡止水…」
「っつか爆豪Tシャツ着なよ。作ったんだから」
「ダンスの衣装もバッチシ!既製品に手加えただけだけど!」
「くしゃくしゃになっとるよ」
「エロけりゃいい!」
バンド隊や演出隊は『A』と書かれたTシャツを着て、ダンス隊は専用の衣装を着用していた。同じく垣根もクラスTシャツを着て轟と一緒に演奏で使う小道具を体育館へと運んでいた。すると突然轟が口を開く。
「緑谷いねぇな」
「ああ。あいつなら朝早く買い出しに行ったぜ。何買いに行ったかは聞きそびれたが」
「こんな時間まで何してんだ?アイツ」
「さぁな。迷子にでもなったんだろ」
垣根と轟が荷物を運び終わりA組生徒達の下へ戻ると、突然学校中にプレゼントマイクの声が響き渡った。
『グッモーニング!ヘイガイズ!準備はここまで!いよいよだ!今日は1日無礼講!学年学科は忘れてはしゃげ!そんじゃ皆さんご唱和ください!雄英文化祭開催!!!』
いつものような騒がしいマイクの合図と共に雄英文化祭が開幕した。だが、9時になっても緑谷は戻ってこなかった。
「緑谷が戻ってない?」
ロッカールームにて相澤が思わず聞き返す。時刻は午前9時25分。そろそろ本番の時間だというのに朝早くに買い出しに行った緑谷はまだ戻ってきていなかった。
「買い出し一つで何やってんだアイツ……!?」
「もーーーーー!!!」
「……まさか本当に迷子か?」
さすがに遅すぎる緑谷の帰還に不安そうな様子を見せる生徒達。そしてその横でようやく上鳴にクラスTシャツを着せられた爆豪は垣根と目が合うと無言で睨み、垣根もまた睨み返す。
「「ケッ!」」
「大丈夫かなあの二人…」
二人の様子を見ていた耳郎が心配そうに呟くと、八百万が「心配ないと思いますわ耳郎さん」と声をかけてきた。
「ヤオモモ!」
「普段からいがみ合いばかりですけれど、お二人ともいざとなったらもの凄く頼りになる人達ですから」
「そうそう。喧嘩するほど仲が良いって言うし、それになんだかんだキメてくれる奴らっしょ!」
「うむ。ただ信じるのみ」
「…うん!そうだね!」
バンド隊達の言葉を受けた耳郎は抱いていた一抹の不安が消え、本番に向けて完全に気持ちを切り替えた。そうこうしている内に気付けば時刻は開演直前まで迫っていた。舞台袖から館内を覗くと予想より遙かに多い人が体育館に集まっていた。
「思ったより人集まってるよ!」
「朝からご機嫌な連中だぜ」
「楽しみにしてくれてんだよバカチン」
「デク君はまだ!?」
「この期に及んで何してんのじゃ!スットロが!」
そして時刻は午前10時を指し示す。館内の照明が落ちると同時にステージの幕が上がった。
「おおおおおおおお!!!」
「キターーーーーーー!!!」
「一年頑張れ~!!」
「ヤオヨロズ~!!」
「キャーー!!垣根君~!!!」
「「ヤオヨロズ!ヤオヨロズ!」」
「「カキネ!カキネ!!」」
A組生徒達が姿を現すと館内のボルテージも上がっていく。職業体験の時のCM効果か故か、男性客からは八百万人気が凄まじく、八百万コールが館内に響き渡る。逆に女性客からは垣根人気が高く、垣根に対する黄色い声援が館内を飛び交っていた。飛び交う声援の中、突然ステージの明かりが消え、館内に静寂が訪れる。暗闇の中、爆豪の怒号にも似たかけ声が館内全体に響き渡った。
「いくぞコラァァァァ!!」
「掴みはド派手に!」
「雄英全員、音で殺るぞォォォォォ!!!!」
ボォォォォォォン!!!
爆豪の爆破と共にA組生徒達による演奏が始まった。観客がバンド隊の奏でる音圧に圧倒されている中、
「よろしくお願いしまぁぁぁぁぁぁす!!!!」
ボーカルの耳郎が高らかに叫び上げた。
◆
ライブ演奏を終えたA組生徒達は撤収作業に移っていた。結果的にライブは予想を遙かに上回る大盛況となった。最初はA組に不満を抱いていた生徒達も曲の終盤にはノリノリでダンスを踊っている始末。A組の出し物が更に彼らの不満感を煽るのではないかという懸念事項はまったくの杞憂に終わったのだ。大成功となったA組の文化祭だったが、その余韻に浸る時間は今はまだ無く、生徒達はライブで使ったセットや演出で作られた轟の氷結の片付けに勤しんでいた。垣根も片付けを手伝っており、爆豪が個性で氷結溶かし係をしている水道まで氷結を運んでいた。すると、
「A組!」
「楽しませてもらったよ!」
おそらく先のライブを見てくれた人達が次々と暖かい言葉をかけてくれた。
「やった!あざっす!」
思わず嬉しそうに返事をする切島だったが、そこへリーゼントの男がヌッと現れる。
「あぁ。楽しかった。よかったよ」
「」ギロ
「ごめん!」
「こき下ろすつもりで見てた!ホントにすまん!」
「言わなくていいのに…」
(勝ったァ……)
謝罪の言葉と共になぜか逃げ去るようにこの場を去って行くリーゼント男とツインテール女子。そんな二人の姿を見ながら切島がぽつりと呟いた。
「先生が言ってたストレスを感じてる人だったんかな?だったら飯田!通じたってことだな!」
「しかし理由はどうあれ見てくれたからこそ!見てない人もいるはずだ!今日で終わらせず気持ちを…!」
「いいんじゃない?」
「!」
「君らがどういう思いで企画したか聞いてるし」
「俺たちには伝わった。今度は俺らからそいつらに」
「本当に楽しかったもん!」
「君らの思いは見た人から伝播していくさ!」
周囲の人達の言葉に胸を打たれる飯田達。自分達があの演奏に込めた思いがきちんと伝わったことが彼らにとっては凄く嬉しいことだった。
「嬉しいね~!!」
「ご厚意痛み入ります!」
「スカッとしねぇ…!見なかったヤツ炙り出して連れてこい!」
「いい。やめろ。やめろもう」
爆豪を抑える尾白や他の生徒達を見ながら垣根は、
(取り敢えず一件落着…ってことでいいのか?)
若干疑問符が付く形ではあるが、そう締めくくる。するとそこへ氷を抱えた峰田がかなりイライラした様子でこちらに走って向かってきた。
「早く氷全部片付け済ませろや!!」
「ああ悪ぃ!峰田さっきからカリカリだな」
「早くしねぇと……ミスコンの良い席取られっぞ!!!」クワッ!!
「「うおおおおおおおお!!!!」」
時は少し過ぎ、場所はミスコン会場。会場は男の熱気によって大盛り上がりを見せていた。今舞台に上がっているのはB組の拳藤。水色のドレスを身に纏った彼女は自慢の腕っ節を披露していた。
「はっ!!!」
気合いの一声と共に目の前に置かれた四枚の大きな板を一気にたたき割る拳藤。その力強さに会場はさらなる盛り上がりを見せた。
《華麗なドレスを裂いての演舞!強さと美しさの共存!素晴らしいパフォーマンスです!》
「ふぅ~……」
するとそこへピンクのドレスに身を包んだ金髪の謎の女性が見たこともない機械と共に舞台へと躍り出た。
「地味!何も分かっていないようですわね!その程度でこの私と張り合おうなんて!」
《3年サポート科ミスコン女王!高い技術で顔面力アピール!圧巻のパフォーマンス!》
(何なんだコイツは……)
「絢爛豪華こそ美の終着点!オーッホッホッホッホ!」
機械に乗り、コマのようにくるくる回っていた彼女はそう叫びながら舞台奥へと引っ込んでいった。ある意味圧巻とも言えるパフォーマンスを前に流石の垣根も言葉を無くしていた。そして絢爛崎が下がると次の候補者がアナウンスされる。
《続いてヒーロー科3年 波動ねじれさんです!》
「「フォオオオオオオオオオオ!!!」」
大きな歓声と共にステージに登場すしたねじれは、個性で波動を生み出しながら青い空を優雅に舞う。それは見る者全員を魅了し、絶えず笑顔で楽しいそうに舞うねじれの姿は純真無垢な妖精のようだった。美しい舞を披露し終えたねじれは静かにステージに降り立った。
《幻想的な空の舞!引き込まれました!》
「「おおおおおおおお!!!」」
実況のアナウンスと共に会場が歓声に包まれた。以上でミスコン出場者全員のアピールが終わり、次は投票タイムへと突入する。
《投票はこちらへ!結果発表は夕方5時!締めのイベントです!》
投票のアナウンスが終わるとミスコンは一旦解散となった。
「ルンタッター!今夜は捗るぞー!」
「C組の心霊迷宮やばそー!行かね!?」
「行くーーー!!」
「ウチやだ」
「アスレチックあるんだ!爆豪!垣根!行こうぜ!」
「今度こそ叩き潰してやっから覚悟しろやメルヘン野郎ォ!!」
「上等だコラ。格の違いってやつを教えてやるよ」
「クレープ!」
「まだまだ楽しもうね!」
「うん!」
垣根や緑谷達はその後色々な場所を回り、文化祭を満喫した。同伴したエリも終始楽しそうな様子で、その顔には絶えず笑顔が浮かんでいた。
◆
楽しかった文化祭もあっという間に時間が過ぎ、あたりはもうすぐ日が暮れそうな時刻になっていた。文化祭もそろそろ閉幕となり、エリともお別れする時間だ。校門の外で相澤、緑谷、垣根がエリとミリオの見送りに来る。
「今日はありがとう!楽しかった!」
「うん……」
楽しかった文化祭が終わり、緑谷達ともお別れしなければならなくなり、寂しそうな表情で俯くエリ。そんなエリを見て緑谷は優しく声をかける。
「エリちゃん、サプラーイズ」
「リンゴ飴!売ってた!?俺探したよ!?」
「プログラムを見て無いかもと思ったんで買い出しの時に材料買っといたんです。作り方意外に簡単で。食紅だけコンビニにはなかったんで砂藤君に借りて」
「お前、まさかそのせいで朝遅刻したのか?」
「えっ!?あ、いや、それは、その……」
垣根の質問にどもりながら誤魔化す緑谷。エリは緑谷から渡されたリンゴ飴を不思議そうに眺めると、カリッと一口囓った。
「さらに甘い…!」
「また作るよ!楽しみにしてて!」
「うん!」
「まぁ近いうちにすぐまた会えるはずだ」
「そうですね!」
相澤の言葉にミリオが元気よく反応する。そんな様子を黙って垣根は見ていると、ふとエリが垣根の前にゆっくりと歩いてきた。
「あの、カキネさん」
「ん?」
「えっと……カキネさんの羽、キラキラしててすっごく綺麗だった!あと、ヒューって飛んでてすっごくカッコよかったの!」
「…あ、ああ。そうか」
いきなりライブのことを言われ、垣根は少々面食らいながら返事をすると、
「えっと…だから、その…」
口ごもりながら気まずそうに俯いてしまうエリ。そんなエリの様子を見た垣根は小さく笑うと、エリの小さな頭にポンッと手を置いた。
「!」
「じゃあな。風邪引くんじゃねぇぞ」
「…っ!うん!」
パァッ!と顔を輝かせるとエリは笑顔で頷いた。こうして垣根達一年A組の文化祭は幕を閉じた。