六十九話
「うわぁ!凄いよエリちゃん!全問正解だ!」
「……//」
ミリオに声高に褒められ、その頬を赤くするエリ。エリの目の前の机上にはいくつもの赤い丸が付けられたテスト用紙があった。先ほど行なった算数のテストが採点され、エリの手元に帰ってきたのだ。満点を取った当の本人よりも嬉しそうな様子のミリオは目の前に座る垣根に身を乗り出しながら尋ねる。
「ね?そうだよね?垣根君もそう思うよね?」
「…あぁ、そうだな。だから取り敢えず離れろ」
顔を近づけてきたミリオをあしらいながら返事をした垣根は面倒くさそうに言葉を返した。
「大体な、なんで昼休み返上してまで俺がエリの勉強をみないといけねぇンだ?あんただけで充分だろ」
「まぁそう言わないでよ垣根君~。皆で一緒に勉強した方が楽しいじゃんね?」
「知るか」
垣根の言葉通り、垣根はなぜだか昼休みに突然ミリオに呼び出され、寮の一室でエリの勉強をみさせられていた。先ほどのエリの答案を採点したのも垣根である。勉強と言っても、字の書き方だったり足し算引き算だったりと本当に基礎中の基礎を扱っていた。治崎に捕らわれていたことにより、学校に通えていなかったエリは義務教育の義の字も受けていない。その遅れを取り戻すために普段は休学していて暇なミリオがエリに勉強を教えているのだ。いきなり自分を呼び出してきたミリオは一体何を考えているのかと思案していると、エリが不安げな視線を向ける。
「あの…ごめんなさい…また迷惑かけて…もし迷惑なら私、全然…」
「……」
「あーー!垣根君エリちゃんのこと泣ーかせたーー!」
「うるせぇ!!」
ヤジを飛ばしてくるミリオに怒鳴りつけると、小さくため息をつきながら垣根はエリに言葉を返した。
「別に迷惑とかじゃねぇよ。ただちょっと予想外だったってだけだ」
「…ほんと?」
「あぁ。つか、まだテスト残ってんだろ?ならちゃっちゃとやっちまえ。終わったらまた採点してやる」
「…!うん!!」
エリは笑顔で返事をすると残りの問題に取りかかっていく。その様子をしばらく見ていた垣根はふとエリの頭部へ意識を向ける。
(相澤の言ってた通り、伸びてんな…)
垣根はエリの角を見ながら心の中でそう呟く。この前のインターンでエリが緑谷に対して力を解放した後、エリの頭部の角は小さくなった、だがその角が再び伸び始めているということは、またいつか力を制御できなくなる日が来るかもしれないという事を意味している。もっとも、相澤がいればその暴発も防げるわけではあるが、もし相澤不在の状況で暴発したら…などと垣根がしばらく考えていると、エリが早くも二枚目のテストを解き終え、垣根に渡してきたので採点に取りかかった。こうしてエリの勉強に付き合っていると時間はあっという間に過ぎ、気付けば午後の授業開始15分前になっていた。時刻を確認した垣根は採点し終えたテストをエリに返却しながら席を立つ。
「じゃ、そろそろ授業あるから行くわ。ほれ」
「うん!今日はありがとね垣根君!じゃあエリちゃん、休憩した後は間違えた箇所の見直しからやろうか!」
「うん!…あ、あの…垣根さん!今日はありがとう!」
「あぁ」
「勿論また来てくれるよね垣根君?」
「……気が向いたらな」
そう言い残すと垣根は部屋をあとにした。
◆
「ついにこの時がキターーーー!!!ワクワクするね~!」
「葉隠寒くないの?」
「めっちゃ寒~い!」
「根性だね」
「私も冬仕様!かっこいいでしょーが!」
「ええ!」
A組生徒達はコスチューム姿に着替え、運動場γに集合していた。季節も移ろい、肌寒い頃合いになってきたことによって何人かの生徒は身に纏うコスチュームに変化が見られた。A組生徒達が各自のコスチューム仕様の変化について盛り上がっていると、そこへ水を差すかのように聞き覚えのある声が場に響く。
「おいおい。まぁ随分と弛んだ空気じゃないか。僕らをなめているのかい?」
「来たな!ワクワクしてんだよ!」
「そうかい。でも残念。波はいま確実に僕らに来ているんだよ」
切島をはじめ、A組生徒達は声のした方へ体を向ける。垣根達の視線の先にはこちらへ歩いてくる一つの集団がある。そしてA組とある程度距離を置いたところで歩みを止め、先頭の男が意気揚々と叫びを上げた。
「さあA組!今日こそシロクロつけようか!」
体をのけぞらす勢いで叫んだのはB組の物間。以前から何かとA組に因縁を付けてきていた男だ。そして彼の背後にいる集団は彼と同じB組の生徒達だった。何人かのB組の生徒は物間に冷ややかな視線を浴びせているが、物間は気にせず早速いつものようにA組を煽り始めた。
「ねえねえ見てよ!このアンケート!文化祭でとったんだけどさぁ!A組のライブとB組の超ハイクオリティ演劇どちらがよかったか!見える!? 2票差で僕らの勝利だったんだよねえ!入学時から続く君達の悪目立ち状況が変わりつつあるのさ!」
「マジかよ。見てねぇから何とも言えねぇ!」
「そして今日!A組vsB組!初めての合同戦闘訓練!僕らが…キュッ!」
「黙れ」
「物間!」
やかましく騒いでいた物間の喉を捕縛布で縛り上げ、強制的に口を閉ざさせる相澤。さらに相澤の後ろからB組の担任であるブラドキングも姿を現した。
「今回特別参加者がいます」
「しょうもない姿はあまり見せないでくれ」
「特別参加者?」
「倒す!」
「女の子!?」
「「一緒に頑張ろうぜ!!」」
皆の期待のまなざしの中、一人の生徒が向こうからゆっくりと歩いてくる。その姿を見ながら相澤が垣根達に紹介した。
「ヒーロー科編入を希望してる…」
「「あっ!」」
「普通科C組 心操人使くんだ」
「「あああああああ!!!」」
緑谷と尾白が特別大きな声を上げて反応する。他の生徒もひそひそと話を始め反応を示す中、垣根もその記憶をたどり目の前の人物の情報を呼び起こす。
(こいつは…体育祭のトーナメントで緑谷とやってたやつか。確か呼びかけに答えることで発動する精神系の個性だったか)
体育祭での出来事を思い出した垣根。すると相澤が心操に声をかける。
「心操、一言挨拶を」
「心操人使です。何名かは既に体育祭で接したけれど拳を交えたら友達とかそんなスポーツマンシップ掲げられるような気持ちの良い人間じゃありません。俺はもう何十歩も出遅れてる。悪いけど必死です。俺は立派なヒーローになって俺の個性を人のために使いたい。この場の皆が越えるべき壁です。馴れ合うつもりはありません。よろしくお願いします」
それは自己紹介という名の宣戦布告。心操の話が終わると生徒達は拍手を送った。
「お~ギラついてる」
「引き締まる」
「初期ろきくんを見ているようだぜ」
「そうか?」
「うん。いいね、彼」
「じゃ早速やりましょうかね」
心操と生徒達の顔合わせが終わると相澤は早速ブラドに話を振る。するとブラドが今回の演習について説明を始めた。
「戦闘訓練だ!今回はA組とB組の対抗戦!舞台はここ運動場γの一角!双方5人組を作り1チームずつ戦ってもらう!」
「5人1チーム?楽しそうだね」
「楽しそう!」
「心操を加えると41名。この半端はどう解決するのでしょうか?」
「心操は今回2回参加させる。A組チームB組チームそれぞれに1回ずつ。つまり4試合中2試合は6対5の訓練となる」
宍田の質問にブラドが答えると、反発の声が上がる。
「そんな!?5人が不利じゃん!」
「ほぼ経験のない心操を5人の中に組みこむ方が不利だろ。6人チームは数的有利を得られるがハンデもある。今回の状況設定はヴィラングループを包囲し確保に動くヒーロー!お互いがお互いをヴィランと認識しろ!5人捕まえた方が勝利となる!」
「ヴィランも組織化してるって言うもんね!」
「シンプルでいいぜ!」
「うおおお!?ヒーローであり相手にとってはヴィラン!?どちらに成りきればいいのだ!?」
「ヒーローでよろしいかと」
さらにブラドが続ける。
「双方の陣営には激カワ据置プリズンを設置。相手を投獄した時点で捕まえた判定になる」
「緊張感よ!」
「自陣近くで戦闘不能に陥らせるのが最も効果的。しかしそう上手くはいかんですな」
「5人捕まえた方…ハンデってそういうことか」
「確かにそれなら6人の方も面倒くせぇな」
「えっ?えっ?」
宍田や爆豪、垣根の発言の意図を汲み取りかねている上鳴を他所に相澤が頷きながら話す。
「あぁ。慣れないメンバーを入れること。そして6人チームでも5人捕らえられたら負けってことにする」
「お荷物抱えて戦えってか。クソだな!!」
「ひでぇ言い方やめなよ!」
「いいよ、事実だし」
「徳の高さで何歩も先行かれてるよ!」
「じゃ」
「くじな!」
そう言いながら相澤とブラドはそれぞれくじの入ったボックスを抱え上げる。A組は相澤のボックスから、B組はブラドのボックスからくじを引き、チームと対戦相手を決めた。
第一戦:(A)切島・上鳴・口田・蛙吹・峰田 vs (B)塩崎・宍田・円場・鱗・庄田
第二戦:(A)轟・尾白・飯田・障子・芦戸 vs (B)鉄哲・角取・骨抜・回原・小大
第三戦:(A)爆豪・耳郎・瀬呂・砂藤・麗日 vs (B)取陰・鎌切・泡瀬・凡戸・柳
第四戦:(A)垣根・八百万・常闇・葉隠・緑谷 vs (B)拳藤・黒色・吹出・小森・物間
各組でのチームが決まると今度は心操にくじを引くようブラドが促す。心操には相澤とブラド両方のボックスからくじを引かせ、引いた二つのチームに入ることとなる、心操が引いたのはAの1とBの4。つまり切島チームと物間チームに加わることとなった。各チームごと、メンバーで集まり顔合わせを行なう。
「皆さん、よろしくお願いいたします。私たちの相手は拳藤さんチームですが、力を合わせて頑張りましょう」
「御意」
「よろしくねー!このメンバー凄く心強い!」
「うん!頑張ろう!」
「ん」
垣根が八百万達と軽く話し終えると、ブラドと相澤が再び話し始めた。
「スタートは自陣からだ。制限時間は20分」
「時間内に決着のつかない場合は残り人数の多い方を勝ちとする」
「じゃあ第1試合!スタート!」
ブラドのかけ声と共にブザー音が運動場に鳴り響いた。クラス対抗戦第一試合、開始