かの悪党はヒーローへ   作:bbbb.

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七十一話

 

 「で、どうする?」

 

 Bチームの黒色支配がその場にいるチームメイト達に問いかける。クラス対抗戦最終試合に備え、両チームはスタート位置で待機していた。試合開始の合図が鳴るまでの間、作戦を詰めておこうという意図の下発せられた黒色の言葉に拳藤が答える。

 

 「んーとりあえずはさっき話したプランAかな。ダークシャドウを乗っ取って奇襲攻撃!向こうがダークシャドウを飛ばして私たちを探す可能性はかなり高い。リスク低くて強い手だからね。ダークシャドウを操られるとは思ってないだろうし、パーッと誰か捕まえちゃってよ!」

 「簡単に宣う。俺が失敗したら?こっちのリスクは?」

 「お前を相手にするなら必ず”光”を使う。私たち5人はその”光”で居場所が分かる。光あるところではダークシャドウは強い行動を取れない。黒色がミスっても私たちが包囲してたたみかける!」

 「ふむ。なるほど」

 「でもぉ、爆豪()の戦い見ると緑谷が厄介そうノコね?」

 「確かに。機動力と戦闘力で言えば爆豪と同等かそれ以上。最近では遠距離も習得したらしい。こっちがちょっとでも綻んだらさっきと同様、あいつに突破口開かれるよ」

 

小森と吹出が緑谷について懸念していると、そこへ心操が口を挟む。

 

 「じゃあ緑谷を優先的にって感じか。何としてもまず緑谷をいただく。ただ…あいつには洗脳を自力で解かれてる。けど物間の力を合わせれば抑えることは可能だと思うよ」

 「アテにされすぎるとこわいな。僕の方は『スカ』の可能性がある。何にせよ、動きを止めなきゃ始まらない。頼むぜ心操君」

 「…」コクリ

 「んで、最大の問題は…」

 「垣根だね」

 

拳藤が物間の言葉を引き継ぐように言うと他の五人も頷く。

 

 「翼による空からの索敵能力や機動力、そして八百万と同系統の創造系個性を用いた圧倒的な制圧力。轟みたいな強力な範囲攻撃も持ち合わせてるし、一言で言っちゃえば何でもアリ」

 「一人で全部の役割こなせるとかどんなチートだよっつう話」

 「ねぇねぇ拳藤、ダークシャドウじゃなくていきなり垣根が突っ込んできたらどうするノコ?」

 「その時は全員で垣根を叩くよ。一番の脅威だけど、逆に言えば垣根を捕らえられればこっちが一気に有利になるからね」

 「それでその垣根だが、どう抑える拳藤?」

 「うーん…心操の洗脳でワンチャンス狙うのもかなとは思ったけど、緑谷と同時に相手取れるほど甘い相手じゃないし、やっぱり分断しかないかな。結局どんな作戦を立てても。最後にネックになるのは垣根の存在。だから八百万達と分断した上で、小森以外の全員で垣根を叩く!どう?」

 「賛成ノコ!」

 「異論無し」

 「おっけー!じゃ、物間と吹出頼んだよ!」

 「おう!」

 「やれやれ。相変わらず人使いが荒いな拳藤は」

 

物間がため息と共にそう言った直後、ブラドの声が会場に響き渡る。

 

 「第5セット目!本日最後だ!準備はいいか!?最後まで気を抜かずに頑張れよ!!スタートだ!!」

 

本日最後の試合開始の合図が今鳴らされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スタッ!

 

 垣根は静かに煙突の上に着地する。試合開始直後、早速Aチームは動きを見せた。常闇がダークシャドウを発現させ、斥候と偵察を兼ねて前方へと飛ばす。そしてダークシャドウの動きに追従するように緑谷も出撃していった。元々はダークシャドウだけ突撃させ、様子見、あわよくば誰か仕留める算段だったが、心操に自由に動かれるとAチームとしては非常に面倒なのでBチームがばらける前に心操を仕留めるという方針になった。その役を買って出たのが緑谷だった。それになぜだか今回の緑谷はいつもより特に張り切っている様子に見えたので、開始早々ダークシャドウと共に先行させることにしたのだ。八百万達が先行組の後を追う中、ダークシャドウと緑谷は早速Bチームと会敵した。

 

 (早速戦闘開始か。緑谷の方は心操じゃなく物間とらしいが、まぁいい。ここまでは概ね計画通り。あとは相手の出方次第だな)

 

垣根は黙って眼下の運動場を見据える。この位置からだと運動場余す所なく見渡すことが出来るので、全ての戦況を大まかに把握することが出来る。当然これにはデメリットもあり、それは敵にもこの場所は見つかりやすいということ。しかし、だからこそ垣根はこの位置取っていた。垣根を集中的に狙ってくるならそれはそれでやりやすくなるからだ。だが、今のところBチームが垣根に攻撃を仕掛けてくる気配はない。

 

 (仕方ねぇ。こっちから動くか)

 

垣根は翼を広げながら心の中で呟くと、早速翼を広げた垣根は右耳に着けたインカムから八百万に通信を入れた。

 

 「八百万、そっちの状況は?」

 「垣根さん!それが…先ほど先攻していった常闇さんのダークシャドウがB組の黒色さんの個性によって操られてしまいました!今交戦中ですわ!」

 

八百万の報告を受けた垣根はすぐに八百万達の方角に視線を向け、さらにダークシャドウが逆走してきたであろうルートを目でたどると、その先にはちらほらと動き回る影を視認した。

 

 (なるほど…常闇のダークシャドウを操り、八百万達の注意を引いている間に包囲網を敷く気だな。んで俺の事は完全に無視と。いや、むしろ逆か?)

 

垣根は拳藤達の動きを見てしばし何やら考えていたが、やがて八百万に指示を出す。

 

 「八百万、とりあえずお前らはその場で黒色を迎撃しろ。俺は拳藤達を叩きに行く」

 「はい!」

 

八百万の力強い返事と共にインカムの通信は切れる。このインカムは試合開始前、八百万が自身の個性で創り出したものだ。これにより、Aチームは離れていても通信によって連携を図ることが出来る。複雑に入り組んだフィールド・集団戦という状況下において、遠方の仲間とのコミュニケーションを図る手段があるということは大きなアドバンテージになる。垣根は小さく笑うとゆっくり宙へ浮上する。

 

 (さて、行くか)

 

ようやく垣根が動こうとしたその時、

 

 ボンッッッ!!!!!

 

突然彼方から爆発音が聞こえた。垣根が音の方角を見ると、ここから少し離れた場所から黒いナニカがいくつも出現していた。その形状は細長い直線形で、まるで黒い鞭のようなモノだった。垣根が目をこらしながらその正体を探っていると、突如その黒い鞭が垣根目掛けて飛来する。

 

 「!」

 

少し驚きながらも翼をはためかせ、直撃を避けた垣根。垣根に避けられた黒い鞭のようなナニカは派手な音と共に垣根の後方の建造物に直撃した。

 

 「なんだこりゃ?貼り付いてる……?」

 

黒い鞭が直撃した建造物を見ながら垣根は訝しげに呟くと、黒い鞭が飛んできた方角へ目線を向けた。

 

 (あの方角は……緑谷のとこか)

 

緑谷が戦っている方角から謎の攻撃が飛んできたことを確認した垣根はインカムで緑谷に通信を試みるも、返答は無かった。すると垣根のインカムに八百万から通信が入った。

 

 「垣根さん!今しがた突然謎の黒い物体が……」

 「ああ、分かってる。ちょうど俺のとこにも来たとこだ」

 「垣根さんのところにも!?」

 「だが問題ねえ。お前らは?」

 「はい。私を含め全員なんとか回避しましたわ。ですが、これは一体……」

 「俺にも分からんが、発信元は緑谷の戦場付近だ。とりあえず俺が様子見てくる。そっちは頼んだぞ」

 「え!?ちょ…」

 

八百万が言い終わらないうちに通信を切ると垣根は緑谷の下へ向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バンッッッッッ!!!

 

 派手な音と共にタンクに体を叩きつけられる緑谷。物間と戦っている最中に突然緑谷の右腕から噴射されたいくつもの黒い鞭はフィールドの至る所に伸びていき、ついには緑谷の体の自由を奪い、その体をタンクに叩きつけたのだ。

 

 「止まれ!止まれ!」

 

緑谷は必死に叫びながら自身の右腕からあふれ出る黒い鞭を抑えようとする。しかし黒い鞭は収まるどころか、むしろどんどん勢いを増していっていた。

 

 (何だよ!痛い痛い痛い!何で――!)

 

全神経を個性の暴走を鎮めることに注ぎながら緑谷は心の中で悲痛の思いを叫ぶ。

 

 (憧れの人(オールマイト)から譲渡してもらえて、大怪我しながらわかんないことだらけで…それでもようやくモノになてきて。これからだっていうのに…!もう誰にも心配させたくないのに!止まれ!ワン・フォーオール!!)

 

歯を食いしばりながら懸命に右腕を押さえる緑谷。そしてこの目の前の異様な光景を心操は間近で見上げていた。

 

 (なんだこれは……)

 

見たことのない緑谷の変貌ぶりにただ呆然と眺めることしか出来なかった心操だったが、

 

 「おーおー凄ぇなこれ。どうなってやがんだ緑谷の奴」

 「!」

 

突如自分の左側から声が聞こえ、急いで振り向くとそこには翼を生やした垣根帝督が心操の近くに着地していた。

 

 「お前は……!?」

 「あ?あぁ……」

 

一瞬心操の姿に反応するも、すぐに興味を無くしたのか空中の緑谷に視線を戻す。

 

 「個性の暴走か。仕方ねぇ。色々聞きたいことはあるが、とりあえず…」

 

ひとりでに呟きながら垣根は右腕を前にかざす。すると、

 

 「待て!」

 

心操が垣根に叫んだ。垣根は動きを止め、横目で心操の方を見る。

 

 「……」

 「あ、いや…緑谷(あいつ)をどうするつもりだ?」

 

心操が言葉に詰まりながらも垣根に問う。数秒間黙ったままじっと心操を見つめていた垣根だったが、やがて口を開いた。

 

 「…どうするもこうするもねぇだろ。あいつは今、自分の意志で個性を制御出来ない暴走状態だ。このまま放置してたら被害が広がる一方。だから強制的にでもあいつの意識を奪い、行動不能にさせる」

 「意識を奪う…」

 「ああ。この試験が終わるくらいまでは寝ててもらうが」

 「えっ!?」

 「?当たり前だろ。この先緑谷(こいつ)の個性がまた暴走しないっつう保障はねぇ。そんな危険要素を放置できるわけねぇだろ」

 「……ッ!」

 

垣根の返答を聞いた心操は思わず下を向く。そんな心操に垣根はさらに言葉を放つ。

 

 「分かったらとっととそこ退け。巻き込まれ―――」

 「俺が!」

 「!」

 「お、俺が緑谷を洗脳するってのはどうだ?」

 「…あぁ?」

 

垣根の話を遮り、大きな声で発せられた心操の言葉に垣根は疑問符を投げかけると、心操は言葉を続けた。

 

 「俺の個性なら緑谷の意識を一時的に支配下に置くことが出来る。それであいつの個性の暴走が収まるかもしれない」

 「…かもな。だがそれがどうした?別に俺がやったってそれは変わらねぇ。それに、どうして俺が敵チームであるお前の言葉を聞かなきゃならねぇんだ?」

 「そ、それは……」

 

垣根に指摘され、心操は思わず口籠もる。しかし、口をキッと結ぶと意を決したかのように話し始めた。

 

 「…俺は体育祭で緑谷に負けた」

 「は?いきなり何言ってんだテメェは」

 

いきなり違う話をし出した心操に眉をひそめる垣根だったが、心操は構わず続けた。

 

 「ワクワクしてた。あの時と違う俺を見せてやれるって。また戦えるって楽しみにしてたんだ」

 「……」

 「だから頼む!もう一度あいつと戦えるチャンスをくれ!俺の洗脳は衝撃を与えればすぐに解けるから――」

 

 ビュンッッッッ!!!

 

心操が垣根に言葉をぶつけている最中、突如黒い鞭が空を切り裂き、心操と垣根目掛けて飛来する。

 

 「なっ……!?」

 

不意を突かれた心操は動くことが出来ず、腕で顔を覆いながら目をつむり直撃を覚悟した。だが、

 

 ズダンッッッッッッ!!!

 

心操達目掛けて伸びてきた黒い鞭はまるで何か見えない壁にぶつかったかのように、激突音と共に心操達の目の前で静止する。その後何本もの黒い鞭が追い打ちをかけるかのように心操達に向かってくるも、すべて心操達の目の前で止まってしまった。不可思議な目の前の光景に目を見開く心操だったが、ふと何か気付いたかのように自身の左側に立つ垣根の方へ振り向いた。

 

 「これ、お前が……!」

 「俺はあまり気が長くねぇ」

 「えっ?」

 「やるなら早くしろ。ただし、妙な真似したら即座にお前をしとめる」

 「!あ、あぁ!」

 

心操は慌てて返事をすると、空中の緑谷を再び見上げた。そして口元のペルソナコードを外し、深く息を吸うと緑谷に向かって力いっぱい叫んだ。

 

 「緑谷ァ!俺と戦おうぜ!!!」

 「……ッッッ応!!!」

 

緑谷が心操の呼びかけに答えた瞬間、全ての黒い鞭がピンっと伸びきり、その後緑谷の腕の中に収束していった。そして全ての黒い鞭が無くなり、個性の暴走が収まるとそれまで緑谷を支えていた浮力も無くなり、緑谷の体は自由落下に任せて地面へと落ちていく。垣根は翼をはためかせその場を飛び立つと、落下途中の緑谷の体をキャッチし、無造作に近くの足場に降ろした。

 

 「おい起きろコラ」

 「はっ!」

 

垣根の蹴りと声によって目を覚ます緑谷。ぼんやりと辺りを見回し、垣根と目線が合うと急に我に返り、慌てて距離を取ろうとする。

 

 「垣根君!?離れて!危ないよ!」

 「落ち着けアホ。もう収まったわ」

 「えっ!?……あっ、本当だ」

 

垣根の言うとおり、先ほどまで自身の右腕から出ていた正体不明の黒い鞭が無くなっていることに気付く緑谷。個性の暴走が止み、とりあえず一安心していると再び垣根から質問が投げかけられる。

 

 「で?」

 「えっ?」

 「え、じゃねぇよ。さっきのアレは何だ?説明しろ」

 「えっと…それは…」

 

緑谷が答えに詰まっているその時、突如緑谷の背後から物間が襲いかかる。

 

 「え!?まだ終わってないんだけど!!」

 「!?」

 

そう言いながら物間は自身の巨大化させた拳を勢いよく振るった。すんでの所で物間の存在に気付いた緑谷は体をよじって直撃は避けようとしたものの、少し顔にかすめてしまった。

 

 「物間君!!」

 「雑魚は引っ込んでろ。今取り込み中だ」

 

鬱陶しそうに言いながら垣根は物間に翼を繰り出す。しかし、

 

 「おっと!」

 

背後に大きく跳躍することで垣根の翼から逃れた物間。さらに、

 

 「物間!!生きてるー??」

 「拳藤!ナイスタイミングだ!」

 

拳藤を初めとするBチームの面々がこちらに駆けつけてきている。しかしそれはAチームも同様であった。

 

 「垣根さん!緑谷さん!」

 「二人とも大丈夫ー!?」

 

八百万達もまた、垣根と緑谷の下へ向かってきていた、

 

 「拳藤さん達も八百万さん達もこの場に集まった…!」

 「こりゃ…乱戦になるな」

 

すると、

 

 ヒュア!!

 

空を切る音と共に緑谷の下に一本の布が飛来する。対する緑谷もそれに反応しガッシリとその布を掴み、その布の送り主である心操の方をじっと見つめた。しばらく見つめ合っていた両者であったが、その均衡を心操が破る。

 

 「わっ」

 

心操が手元の布をグイッと引き寄せたため、緑谷がバランスを崩した。体勢を崩された緑谷は足場から落ちそうになるのを寸前でこらえながら、咄嗟に背後の垣根に叫ぶ。

 

 「垣根君!僕を心操君の所まで飛ばして!」

 「あ?」

 

思わず言葉を返した垣根だったが、舌打ちをしながら即座に翼を振り抜き、緑谷に対して烈風をぶつけた。

 

 轟ッ!!

 

自身の背後から大気が唸る音が聞こえたと同時に緑谷は足下を思いっきり蹴り、心操目掛けて跳躍した。本来なら届くはずもない跳躍だが、垣根が生み出した烈風が緑谷の背中を後押しすることでその飛距離を充分なものとする。一気に心操の目の前に躍り出た緑谷は、そのまま物間と取っ組み合うようにして奥へと消えていった。二人が奥へと消えていくのを見た垣根はとりあえずこちらに向かってきている八百万達と合流しようと体の向きを変える。しかし、

 

 「今だ!吹出!物間!」

 

拳藤の声が響き渡った直後、、

 

 ドドドドドドドドドドドド!!!!!!

 

凄まじい音と共に巨大なナニカが出現する。現れたのは巨大なカタカナの文字列。周りの建造物と同じくらいの大きさの文字列が突如出現し、周囲の建造物や地面を抉りながら垣根達に襲いかかった。

 

 「なっ……!?これは……!」

 「なんかでたーーーーー!!!」

 「これは……!?」

 

八百万ら三人が驚愕の様相を浮かべながら叫ぶ。迫り来る衝撃に耐え終え、八百万達が改めて前に視線を向けるとそこには巨大なカタカナの文字列がそびえ立つ壁のように目の前に立ちはだかっていた。これにより、八百万達は垣根と完全に分断されてしまった。さらに、

 

 ポムッ!

 

突如周囲の建物や地面からもの凄い勢いでキノコが生え始めた。さらに、

 

 「い、いや……!」

 「うわっ!シルエット見えちゃう恥ずかしい!」

 

八百万達の衣服や肌からもキノコが次々と生えていった。

 

 「うわぁぁああああ!」

 「この繁殖力は…!」

 「菌茸類が大地を埋め尽くしていく」

 

一瞬にして辺りがキノコまみれになってしまい、八百万達は驚愕の表情を浮かべる。

 

 「次から次へと生えてくる~!もう~!」

 (垣根さんと私達を分断、そして小森さんの範囲攻撃を同時に仕掛けてくるとは…流石ですわ拳藤さん。垣根さん……)

 

体に生えてくるキノコを払いながら、八百万は擬音の壁の向こうを見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「チッ、『スカ』かよ」

 

タンクの横に立ちながら物間は思わず悪態をつく。先程緑谷に触れた際、コピーしたので早速発動させようとしたが、稀にある『スカ』の個性だったらしく発動させることは叶わなかった。その場で大きくため息を吐いていた物間だったが、突然、

 

 ドォォォォォォン!!!

 

派手な爆発音と共に、巨大な擬音の壁が崩れ去る。そして土煙の中から垣根がその姿を現した。垣根が辺りを見渡していると

 

 「あれ?もう出てきちゃったよ。ちゃんと直撃したはずなんだけどなぁ」

 

前方右斜め上方向から軽いトーンの声が聞こえて、声の方角を見上げると、タキシード姿に似た格好をした物間がニヤリと笑いながらこちらを見下ろしていた。さらに、

 

 「ま、そう簡単にはいかないでしょ。なんせ相手は垣根だし」

 

新たな声と共に、物間の立っている隣の建築物の影から拳藤が姿を現した。垣根は二人の姿を確認した後、自身の後方にそびえ立つ巨大な擬音の壁を振り返る。そして再び前に向き直るとその口を開いた。

 

 「なるほど。八百万達と俺を分断。んで、まずは全員で俺を仕留めようってか」

 「全員ではないけどね。心操君は緑谷君とどこかへ行っちゃったし、小森と黒色には八百万達を足止めしてもらってるから」

 

垣根の言葉に物間が答える。物間を見上げる垣根に対し、物間はさらに言葉を続ける。

 

 「こっちも色々考えたんだけどさ。どう作戦を練っても、最後には君の存在がネックになる。だから、まず最初に一番面倒くさい君を叩く。ほら、君のクラス担任の相澤先生がよく言ってる、『合理的』ってやつさ」

 「……」

 「あぁそうか!僕が心操君の個性をコピーしてるかもしれない以上、迂闊に反応出来ないよねぇ。まぁいいさ。僕と拳藤、そしてどこかに隠れている吹出の三人で君を捕らえる。卑怯だなんて言わないでくれよ?それだけ君のことを認めている証なんだから」

 

まるで垣根を挑発するかのように笑みを浮かべながら物間は言うと、その両手を巨大化させる。そして近くの拳藤も拳を巨大化させ、臨戦態勢に入る二人。その姿を垣根は黙ってじっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「まじかよ……範囲攻撃2人はキツすぎる。あと吹出のオノマトペ海外だとどうなるんだ?」

 「知らん。それに物間がいるから実質3人だろ」

 「あ、そっか」

 

 モニターで垣根達の試合を見ていた砂藤と瀬呂が呟く。砂藤達だけではなく、モニター越しで垣根達の試合を見ている生徒達はクラスの垣根を越えて口々に試合について語り合っていた。

 

 「おいおい体にまで生えるのかよあのキノコ……ホラー過ぎんだろ」

 「彼女のキノコは2~3時間で全部消えるから後に引かないんだ。そのせいでぶっぱ癖がついてるけど」

 「カメラにまでキノコが!」

 「キモッ!」

 「しかしやっぱり物間の個性は厄介だね。ムカつく奴だけど、立派な脅威だ」

 「うん。しかもあれ…」

 「あぁ、うん。文字の壁で垣根がチームから分断された。垣根の方は三対一。大丈夫かあいつ」

 

麗日と瀬呂は分断された垣根の身を案じる。一方、

 

 「アッという間に有利な状況を作り出しやがった!ありゃ恐らく拳藤の作戦だぜ。作戦ドンピシャ。言ったろ?頭の回転早くて咄嗟の判断も冷静だって。これがうちの拳藤さんよ!」

 

モニターから見ていた試合経過を見ていた鉄哲は腕を高く掲げながら嬉しそうに声を上げていた。するとそこへ、同じく鉄哲の側で試合を見ていた轟が小さく呟く。

 

 「それが最善手かはわかんねぇな」

 「えっ?」

 

轟の言葉に素っ頓狂な声をあげながら轟の方を見る鉄哲。そんな鉄哲に構わず、轟は言葉を続けた。

 

 「垣根を警戒し、あいつに人数をかける気持ちは分かるが、小森と黒色だけで抑えられるほど八百万達は甘くねぇ。それに…」

 「それに?」

 

鉄哲が轟に聞き返すと、轟は鉄哲の方へ顔を向け、そして、

 

 「垣根を相手取るのにあれじゃ全然足りねぇだろ」

 

静かにそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 物間は事前にコピーしていた拳藤の個性を発現させ、両拳を巨大化させながら眼下の垣根を見下ろす。その口元には小さな笑みが含まれていた。

 

 (さっき僕が言ったことの中には一つ嘘が混じってる。八百万達の相手は小森と黒色がしていると言ったが、実際に八百万達を足止めしているのは小森一人。つまり…)

 

そこまで考えると、物間は背後の文字の壁の影の部分がゆらりと揺れるのを視認する。その揺れは移動していき、垣根の立つ位置までどんどん迫っていく。

 

 (さっきの僕の言葉と今の僕らの臨戦態勢を見て、背後から黒色が忍び寄っていることなんて意識していないはず。その隙をつかせてもらうよ)

 

物間の思考とリンクするように動く黒い影はあっという間に垣根の背後に到達し、同時に物間と拳藤も垣根との距離を詰めにいく。対する垣根はゆっくりと左手を前にかざした。するとその直後、垣根の背後の影から黒色が飛び出した。

 

 (もらった!)

 

黒色が勝利を確信しながらその両腕で垣根の身体を拘束しようとしたその時、

 

 ズドンッッッッ!!!

 

閃光のようなスピードで白い翼が放たれ、黒色の体を穿つ。翼の先端が腹部に直撃した黒色は肺から思いっきり息を吐き出しながら後方へと吹き飛ばされた。

 

 「「なっ!?」」

 「?」

 

黒色がやられたことに驚く物間達。垣根も何か後ろで異変を察したようだが、構うことなく能力を発動させた。

 

 スゥ…

 

先ほど垣根が爆破し、周囲に飛び散った文字の壁の破片が一斉に宙へと浮かび上がる。そして浮かび上がったいくつもの文字の破片を、物迫り来る物間と拳藤に向けて一斉に放った。

 

 ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!

 

無数の破片が空を切り、スピードを上げながら物間達を襲う。対する二人は巨大化させた拳を振り回し、迫り来る破片を次々と砕いていった。

 

 「鬱陶しいなこれ!」

 「でもこんなんじゃ私たちには効かないよ!」

 

拳藤の言うとおり、放たれる破片の数は多いものの、二人に直撃するはずの破片は次々と巨大な拳によって砕かれているため、二人にダメージはほとんどない。そして一際大きな破片が拳藤と物間に放たれるも、

 

 「「ハァ!!」」

 

二人の気合いの入った掌底によって、大きめの破片も粉々に砕けてしまった。しかし、

 

 「そろそろだな」

 

なぜかニヤリと笑みを浮かべている垣根。すると、

 

 ボボボボボボボボンッッッッ!!!!

 

突然物間と拳藤達の周りの破片が一斉に爆発し始めた。

 

 「「うわああああああああ!!!」」

 

思わず悲鳴を上げる二人。一つ一つの爆破は大したことのない威力でも、これだけの数の爆破を連続して喰らえばかなりのダメージになる。全ての破片を起爆し終えた垣根は二人が地に伏すと、垣根は後ろを振り返った。すると、黒色が少し離れた場所で白目を剥き気絶していることに気付き、垣根は先ほど背後で何が起きたか察した。

 

 「あぁなるほどな。俺に奇襲でも仕掛けようとしたのか。だが残念だったな。俺にそんな小細工は通じねぇよ」

 

そう言いながら垣根は一体の未元体を瞬時に創り上げると、未元体に黒色を抱えさせ。

 

 「連れてけ」

 

一言垣根が未元体に命じる。未元体は背中から翼を出現させ牢へと飛び立った。それを見送った垣根は耳のインカムのスイッチを入れ、八百万達に連絡を入れる。

 

 「聞こえるかお前ら」

 「!垣根さん!!」

 「無事か?」

 「あぁ。問題ねぇ。そっちは?」

 「こっちは今キノコと激闘中~!」

 「あ?キノコ?」

 

葉隠の返答に思わず眉をひそめる垣根だったが、八百万が補足して説明する。

 

 「小森さんの個性ですわ。キノコを生やす個性で、今手を焼いていましたの」

 「ほぉ、よく分からんが、なんか面白そうなことになってんな。で?どうなんだよ」

 「?と、申しますと?」

 「そっちは何とかなりそうかよ、八百万」

 

垣根に問われた八百万は一瞬ハッと息を吸い込むも、次の瞬間には力強い声音で答えた。

 

 「えぇ!私、考えがございますわ!」

 

八百万の返事を聞いた垣根は、短く伝える。

 

 「ならそっちはお前に任せる」

 「えっ!?」

 「えっじゃねぇよ。考えがあんだろ?お前の策で小森と吹出捕まえてこい」

 「は、はい!!」

 

甲高い声音で返事をする八百万。すると葉隠が横から尋ねてきた。

 

 「でも垣根君は?そっち数的不利でピンチでしょ?」

 「孤立無援…」

 「誰がピンチだ。もう片づく」

 「えぇ~!?早すぎィ~!!でもさっすがぁ~!」

 「集合場所は牢の前だ。いいな?しくじるんじゃねぇぞ」

 「「「了解!!」」」

 

八百万達の返事と共に通信が切れた。そして垣根は物間達の方へと再び向き直る。

 

 「さてと…」

 「「くっ…!!」」

 

垣根の眼下には必死に身を起こそうとする物間と拳藤の姿があった。全身ボロボロだが、致命傷というわけではない。

 

 「威力は抑えたハズだ。ババアの個性で治癒してもらえば問題なく動けるようになるくらいにはな。降伏すりゃこれ以上手は下さねぇでやる」

 「へぇ…そう…かい。それは随分お優しいことで…」

 「諦めろ。お前らに勝ち目はねぇよ」

 

垣根が忠告を他所に物間と拳藤はなんとか立ち上がる。膝は震え、もう立っているだけでやっとのハズなのに、それでも二人の目から光は消えていなかった。

 

 「生憎、こちとら毎日ウンザリするくらい聞かされててね…君も知ってるだろ?『Plus Ultra』ってやつさ」

 「まだ…やれる…!負けてない!」

 「…その意気込みは買うがよ、勇敢さと蛮勇さを履き違えない方がいいぜ。今のお前らは間違いなく後者だ」

 「どう、かな?それに、忘れてないかい?僕たちの仲間はまだいるってことをさ!」

 

物間が大げさに叫んだ途端、

 

 「『ゴンッ』『ガンッ』『ドガッ』『ズドッ』『ズンッ』!!!」

 

 ドドドドドドドド!!!!

 

垣根から見て右方向から轟音が鳴り響く。そして音の発生から数秒後、巨大な擬音が姿を現し、道中の建造物をなぎ倒しながら凄まじい勢いで垣根に迫っていった。先ほどと同様、吹出による擬音攻撃が垣根に向けて放たれたのだ。今までで一番大きな擬音は垣根を轢き殺さんばかりの勢いで垣根に迫っていく。放たれた擬音が垣根とぶつかる直前、垣根はその場で小さくため息をつくと、自身の右腕を真横にかざした。そして、

 

 ドパンッッッッッッッ!!!!

 

何かがひしゃげたような衝突音がその場に響き渡る。擬音が垣根と衝突した音かと思われたがそうではない。垣根に向けて放たれた一列の巨大な擬音群は、垣根のかざした左手の数十センチ手前で静止していた。まるで何か見えない壁に激突したかのように、一番先頭の位置にある、真っ先に垣根に衝突しに行った『ゴ』という文字は見事にひしゃげていた。絶句する物間達にを見ながら垣根は静かに言葉を発する。

 

 「それで?」

 「馬鹿な……!?受け止めただって…!?」

 「何トンあると思ってんのよ…!」

 

目を見開く二人を前に、垣根は右手の指をパチンと鳴らす。すると、巨大な擬音群が右から順にその形を崩していく。パラパラパラと音を立てながらどんどん分解され、最後には粉状となりあっという間に全ての擬音が跡形も無く消滅してしまった。驚愕の光景の連続に言葉をなくす物間と拳藤。すると突然、物間が苦々しそうな表情を浮かべ垣根に言葉を投げつけた。

 

 「さっきから気になってた…」

 「あ?」

 「どうして…どうして心操君の個性が効かない!?一体君の個性はなんなんだよ!?」

 

心操の個性は自分の言葉に反応した者の意識を支配する『洗脳』。物間は事前に心操の個性をコピーし、垣根に対してもずっと『洗脳』を発動させていたのになぜだか垣根には全く効いていなかった。訳が分からないといった様子で垣根に叫ぶ物間に対し、垣根は静かに呟いた。

 

 「問いかけに反応した者を洗脳し操る能力…よくて強能力者(レベル3)ってとこだな」

 「は?何を言ってる?」

 「その程度の精神系能力じゃ俺には効かねぇっつってんだよ」

 

垣根の言葉によってさらに困惑する物間だったが、垣根はそれ以上のことは説明しなかった。そして、

 

 「あまり時間もかけてられねぇし、そろそろ終わらせっか」

 

そのつぶやきと共に演算を開始し能力を展開していく垣根。物間と拳藤は再度個性を発動させ、垣根に対して構えた。すると、

 

 グラッ…

 

突如物間と拳藤の視界がグニャリと歪み、体が倒れそうになる。なんとか地面に膝をつき、倒れることを防いだ二人だったが、どんどん頭がボーッとしていき意識が遠のいていく感じがした。

 

 「…ッ!?何……これ……意識が…!」

 「何を……した…?」

 

飛びそうになる意識を必死につなぎ止めながら、物間は垣根に問いかける。、

 

 「さぁな」

 

答えをはぐらかす垣根にまだ何か言いたそうな物間だったが、突然隣からバタリと音がしたのでそちらに顔を向けると、拳藤が意識を失いうつ伏せで倒れてしまっていた。

 

 「拳…藤……」

 

なんとか拳藤の名を紡いだ物間だったが、ふと自分の鼻元に違和感を感じ、手を当てて確認すると、鼻血が出ていることに気付く。

 

 「な…ん…この…力…っ…」

 

必死に言葉を紡ぎ出そうとした物間だったが、ついに力尽きバタリと地面に倒れ込む。二人の意識が途切れたことを確認した垣根は能力を停止させた。

 

 「ったく、調整難しいんだよなコレ。あんまりやりすぎると死んじまうし」

 

垣根はひとりでに呟くと、再度能力を発動させ、またもや一体の未元体を出現させた。そして未元体に物間を担がせ、自分は拳藤を抱えると白い翼をはためかせ牢へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あ!垣根さん!緑谷さん!」

 「八百万さん!皆も!」

 

 八百万が一足早く牢で待っていた垣根と緑谷に気付き声を上げる。緑谷がその声に反応し、垣根も彼女らの方を見た。八百万を先頭に、後ろには恐らく八百万によって創り出された拘束具を取り付けられた小森と吹出の姿、そして小森達を横で誘導しながら歩いてくる葉隠と常闇の姿があった。

 

 「お二人ともご無事でなによりです!」

 「心配したんだからねぇ~」

 「なにやら大変そうだったが、体の方は大丈夫なのか?」

 「うん!大丈夫。皆心配かけてごめん!」

 

緑谷の個性暴走について心配する八百万達だったが、どうやら心配なさそうだということが分かり一安心する八百万達。小森と吹出を牢へ入れる際、奥の方で拳藤と物間が横たわったままでいるのを見て葉隠が慌てて垣根に尋ねる。

 

 「ちょっと垣根君!あれ大丈夫なの!?やりすぎてないよね!?」

 「…心配いらねぇよ。ちょっと気絶してるだけだ」

 「…本当にぃ~?」

 「本当だっつぅの。どんだけ信用ねぇんだ俺」

 「ハハハ」

 

葉隠からしつこく問い詰められる垣根を見て笑う緑谷。すると会場にミッドナイトによるアナウンスが響き渡った。

 

 

 「第5セット!なんだか危険な場面もあったけど、5-0でA組の勝利よ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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