七十三話
時は移ろい十二月。寒さもより本格化し、いよいよ今年最後の月を迎える中、A組には嬉しい知らせが届いた。それは、爆豪と轟が見事仮免補講を合格し、仮免を取得できたことだ。これでA組の全員が仮免を取得したこととなった。さらに、爆豪と轟は仮免を取得した僅か三十分後に町で遭遇した敵を捕まえることに尽力し、そのことがメディアの間で話題を呼ぶ。将来有望なこの二人を取材しようと、今まで三回ほど取材が申し込まれることなった。しかし、
「「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」」
「1時間もインタビュー受けてwwwwwwwwww」
「爆豪丸々カット!画面見切れっぱなしwwww」
瀬呂と上鳴が先日行なわれた爆豪と轟のインタビュー映像を見ながら腹を抱えて爆笑する。爆豪のあまりの態度の悪さに、爆豪のシーンがほとんどカットされ、実質轟のインタビューみたいになってしまっていた。
「ぐぬぬぬぬぬ・…!!使えやぁぁぁ…!!」
爆笑する二人の側で爆豪は歯が砕け散りそうな勢いで歯ぎしりしながら不満を露わにする。
「ある意味守ってくれたんやね…」
「もう3本目の取材でしたのに…」
「仮免事件の好評価が台無し」
相変わらずの爆豪の態度に呆れる麗日達。爆豪のインタビューカット件が教室の後ろで盛り上がっている一方で、垣根は携帯で朝のニュース番組を見ていた。そこで報道されていたのは、近頃テレビや新聞で取り上げられていない日はないと言っても過言ではない、九日前に起きた泥花市事件についてである。二十人もの暴徒によって泥花市という一つ地区が壊滅状態に陥った事件だ。その被害規模はあの神野事件以上だという。この事件を受け、世間ではヒーローの社会に対する更なる貢献を期待する機運が高まっているという。以前ではこのような事件が起きようものなら、世間ではヒーローへの非難一色であったろうが、時代と共にヒーローへの風向きは変わってきている。
「”見ろや君”から皆の見方がなんか変わってきたよね」
「エンデヴァーが頑張ったからかな!?」
「……」
麗日や芦戸の言うとおり、福岡でのエンデヴァーの勇姿がこの流れを創り出したと言っても過言ではないだろう。ヒーロー達は今、まさに時代の転換点にいるのだ。一通りニュースを見終えた垣根が携帯を閉じると、それとほぼ同時にガラガラっと音を立てながら教室の扉が開いた。
「楽観しないで!良い風向きに思えるけれど裏を返せばそこにあるのは”危機”に対する切迫感!勝利を約束された者への声援は果たして勝利を願う祈りだったのでしょうか!?ショービズ色濃くなっていたヒーローに今、真の意味が求められている!」
決めポーズと共に二人の女性プロヒーロー、ミッドナイトとMt.レディがA組の教室に入ってきた。
「Mt.レディ!?」
「わあああああああああ!!!!」
緑谷が驚きながらその名を口にし、峰田はなぜかその顔に恐怖の表情を浮かべていた。すると、
「特別講師として彼女を招いた。お前ら露出も増えてきたしな。ミッドナイトは付き添いだ」
完全に寝袋にINした状態の相澤も教室へ入ってきて生徒達に説明する。
「露出増えてねんだよ!!!」
「次から頑張ろうぜ!」
「オイラが言うのもアレだけど一番ショービズに染まってんだろ!」
「お黙り!」
峰田のツッコミをピシャリと跳ね返すと、Mt.レディが話を進める。
「今日行うは”メディア演習”。現役美麗 注目株であるこの私Mt.レディがヒーローの立ち振る舞いを教授します!」
「何するか分かんねぇが!みんなプルスウルトラで乗り越えるぜ!」
「「「おお!!」」」
切島のかけ声に呼応し気合いを入れるクラスメイト達。一方で垣根は、
「マジかよ……」
と、嘆息と共に小さく呟いたのだった。
◆
「授業内容は”ヒーローインタビュー”の練習よ!」
「緩い!」
コスチューム姿で運動場に集まったA組生徒達に対し、どうやって用意したのか分からないヒーローインタビュー用の舞台の上からMt.レディが授業内容を伝える。さらに、
「ヒーロー”ショート”こっちに」
轟を手招きし、舞台の上に上がるよう促すMt.レディ。
「はい」
皆が見つめる中、轟は言われたとおりに舞台に上がり、Mt.レディの横に立った、そんな轟にMt.レディはマイクを向ける。
「凄いご活躍でしたねショートさん!」
「?何の話ですか?」
「なんか一仕事終えた体で!はい!」ヒソヒソ
「…はい」
Mt.レディに小声で注意された轟は小さく返事をすると、模擬ヒーローインタビューが再開する。
「ショートさんはどのようなヒーローを目指しているのでしょう?」
「俺が来て…皆が安心できるような…」
「素晴らしい!あなたみたいなイケメンが助けに来てくれたら私逆に心臓バクバクよ!」
「!心臓…悪いんですか?」
「(やだなにこの子…カワイイ!欲しい!)どのような必殺技をお持ちで?」
Mt.レディに必殺技の質問をされた轟は一度舞台から降りると、右手を勢いよく振り抜き、ピキピキピキッッ!!という甲高い音と共に巨大は氷塊を出現させた。
「穿天氷壁。広域制圧や足止め、足場づくり等幅広く使えます。あとはもう少し手荒な膨冷熱波という技も…」
「あれ?B組との対抗戦で使ったヤツは?」
「あれな。エンデヴァーの…」
「赫灼熱拳!」
「赫灼熱拳は親父の技だ」
「ん?」
「俺はまだアイツに及ばない」
技を披露し終えた轟が再び舞台に戻ると、Mt.レディは轟にアドバイスを送った。
「パーソナルなとこまで否定しないけど安心させたいなら笑顔をつくれると良いかもね。あなたの微笑みなんて見たら女性はイチコロよ」
「俺が笑うと…死ぬ…!?」
「もういいわ!」
とりあえずここで、轟の天然っぷり全開のインタビューが終了する。
「技も披露するのか?インタビューでは?」
皆の気持ちを代弁するかのように常闇がMt.レディに尋ねると、
「あらら!ヤだわ雄英生。皆があなたたちのことを知ってるワケじゃありません!必殺技は己の象徴。何ができるのかは技で知ってもらうの。即時チームアップ連携、ヴィラン犯罪への警鐘、命を委ねてもらうための信頼。ヒーローが技名を叫ぶのには大きな意味がある」
Mt.レディが真面目な顔で必殺技を公表する意義について語った。皆がインタビューの必要生について認識を改めている中、垣根は心の中でぼやく。
(相変わらずかったりぃ職業だなヒーローってのは)
「さぁバンバンインタビューしちゃうよ!」
こうしてMt.レディによってA組生徒達のインタビュー練習が始まった。だが意外なことに、一部(緑谷・爆豪)を除いた多くの生徒はしっかりとインタビューに答えられており、練習はスムーズに進んでいった。インタビューを終えた切島が垣根の隣に来て、緑谷のインタビューを見ながら垣根に話しかける。
「緑谷の奴めちゃくちゃ緊張してんな…」
「ああ。論外だな」
「まぁこういう舞台慣れてなさそうだもんなぁアイツ。別に俺だって慣れてるわけじゃねぇけど」
「聞かれたこと答えるのに慣れる慣れないもねぇだろ」
「そりゃそうだけどよ…なんかやけに自信あり気だなお前」
「あのポンコツ共よりはな。仕方ねぇ。俺が手本ってやつを見せてやるよ」
「おっ!」
そう言いながら緑谷のガチガチインタビューが終わると、垣根は舞台へと上がった。そしてMt.レディが垣根にマイクを向ける。
「『テイトク』さん!事件解決おめでとうございます!素晴らしいご活躍でしたね!」
「どうも」
「今回のご活躍、ご自身ではどのようにお考えですか?」
「そうですね。事件を解決できたことは勿論嬉しいですが、なにより怪我人を出さずに終われたことが一番の収穫だと思います」
「本当にその通りですね!町の皆さんもきっと感謝していると思います!」
「ハハハ、そう言っていただけると嬉しいですね」
(やだなにこの子…爽やか!イケメン!!超欲しい!!!)
いつもの様子からは考えられないくらい爽やかな雰囲気でインタビューをこなしていく垣根にクラスメイト達も注目する。
「なんかすげぇ違和感あんだけど……」
「なんだあの笑顔…悪寒がする…」
「へぇ、言うだけあって慣れてんな~」
「ていとくんは人気出そうだよね~」
「うん。主に女子人気エグそう」
「ほら爆豪、あれだよあれ」
「うるせぇ醤油顔!!!」
クラスメイト達が垣根のインタビューに様々な印象を受ける中、Mt.レディのインタビューは必殺技の話に入った。
「ところで、テイトクさんはどういった必殺技をお持ちなんですか?」
「ま、強いて挙げるなら…」
そこで垣根は言葉を切ると、脳内で演算を開始する。するとものの数秒後、ステージの端から端に全部で七体もの垣根そっくりの白い分身体、通称『未元体』が瞬時に出現した。呆気にとられるMt.レディに垣根は言葉を続ける。
「コレだな」
「これは…凄いですね!分身のように見えますが、これはエクトプラズムの個性と似たような感じなのでしょうか?」
「まぁそんな感じですかね」
「なるほど。そうなんですね。しかし驚きました。まさかこんな凄いものまで創り出してしまうなんて!ちなみに、この分身は一度にどれくらい生み出せるんですか?」
「まだムラはありますが、今の段階では最大で七十体ほどといったところでしょうか」
「えっ!!??」
「「「七十!?」」」
Mt.レディとクラスメイト達が思わず声を上げ驚く。しかし垣根は気に止めることなく、出現させた七体の未元体を消滅させるとMt.レディに問いかけた。
「もう終わって良いか?」
「えっ…?あ、えぇ、いいわよ。お疲れ様」
呆気に取られていたMt.レディだったが、垣根の言葉でハッと我に返ると垣根のインタビューを終了する。その光景を生徒達の後ろから眺めていたミッドナイトが驚きながら呟いた。
「相変わらず凄いわね彼。どんな指導してるのよあなた」
「……俺は何もしちゃいないよ。あいつが勝手に成長してるだけだ」
ミッドナイトの問いに相澤が短く答えた。
◆
数日後、雄英高校一年A組の寮にて。
「せ~の…」
「「「Merry Christmas!」」」
皆のかけ声と共にクリスマスパーティーが始まった。テーブルには豪華な食事が用意され、赤か緑のサンタコスをした生徒達はそれらの食事を美味しそうに食べながら互いに談笑し、パーティーを楽しんでいた。その中には垣根の姿も見られ、垣根は赤色のサンタコスをしていた。勿論最初は断った垣根だが、芦戸のしつこい圧力に屈し、仕方なく用意された服を着た垣根。その芦戸はと言うと、この中で唯一コスプレをしていない爆豪の下へ行き、なんとかサンタ服を着せようとトライしていた。垣根は自身のサンタ服を見ながら、ふと学園都市時代のある出来事を思い出す。あれは垣根が暗部時代のことで、ちょうどクリスマス当日に任務が入り、とある企業のパーティーに潜入したことがあった。そのパーティー会場に潜入する際、垣根と心理定規は会場の人々の格好と同調させるためにサンタのコスプレをして潜入したのだが、まさかこっちの世界に来てもサンタの格好をさせられるとは夢にも思ってもみなかった垣根。垣根がそんな過去のことを思い出していると、横から麗日が声をかけてきた。
「どうしたのていとくん?」
「ん?」
「なんかさっきから黙ってるから…大丈夫?」
「あぁ。別になんでもねぇよ。ちょっと昔のこと思い出してただけだ」
「そっか。良かった!あ、これ食べる?」
「いらねぇ」
「えー、美味しいのに」
垣根にチキンを勧めるも断られた麗日はそのままパクッとチキンを口に運び、幸せそうな表情を浮かべた。
「ん~~~おいひぃ!」
「…お前、そんなにバクバク食ってると太るぞ?」
「……ッ!?」ゲホッゲホッ
垣根の指摘に思わず喉を詰まらせ、派手にむせる麗日。なんとかチキンを飲み込むと、麗日は頬を赤くし鋭い目つきで垣根のことを睨んだ。
「そんなに食べとらんし!!!」
「いや、食ってるだろ。俺が見てるだけでも既に5,6個はいってるぜお前」
「そんなに!!食べてない!!!!」
「…垣根ちゃん、女の子にそういうこと言うのは良くないわ」
「はぁ?」
憤慨する麗日に加え、麗日の隣に座っている蛙吹にも苦言を呈され困惑する垣根。するとそこへ食事を一通り食べ終えた切島のつぶやきが聞こえてきた。
「インターン行けってよ。雄英史上最も忙しねぇ1年生だろコレ」
切島の発言に皆意識を向ける。今日の朝のHRで相澤から話があり、近いうちに生徒達全員にインターンに行ってもらう事が学校の方針として決定されたとのことだった。前までの任意参加のインターンとは違い、今回は参加が義務付けられているらしい。切島の発言をきっかけに、そのインターンについて皆話し始めた。
「2人はまたリューキュウだよね?」
「そやねぇ。耳郎ちゃんは?」
「緑谷くんはどうするんだい?その…ナイトアイ事務所」
「あそこはセンチピーダーが引き継いでるんだろ!?久々に会えるじゃねェか!」
「うん。僕もそう思ってたんだけど…」
そう切り出しながら緑谷が話し始める。なんでも、ナイトアイがやっていた業務を引き継ぐのに手が一杯らしく、今回のインターンは厳しいらしい。
「職場体験でお世話になったグラントリノもダメだから今宙ぶらりん…」
「そっか…」
「へぇ、ジジイに断られたのか」
「うん。今は忙しいから無理だって。でも任意参加だった前回と違って今回は課題だから学校で紹介してくれるって」
「ほぉ~。あぁ、じゃあ…爆豪はジーニストか!?」
「あァ!?」
芦戸とサンタ服を着るか着ないかのせめぎ合いを行なっていた爆豪は、切島の言葉に切れ気味に反応する。その隙に上鳴によってサンタの帽子をかぶせられた爆豪だったが、一瞬なにか考え込む素振りを見せた後静かに答えた。
「決めてねェ」
「でもまぁオメェ指名いっぱいあったしな!体育祭で!行きてぇとこ行けんだろ!」
「今さら有象無象に学ぶ気ィねェわ」
上鳴にかぶせられた帽子を脱ぎ去り、そう言いながら踵を返す爆豪。そこへ、今度こそ服を着せるチャンスだと悟った芦戸は爆豪へと飛びかかるも爆豪に動きを察知される。
「着せんじゃねェよ!」
「着なよ~。同調圧力に屈しなよ~」
芦戸と爆豪のやりとりを笑いながら見る切島達。すると、
「インターン先か…垣根はどうすんだ?」
轟が垣根に尋ねる。
「あ?俺か?俺はまぁ、あの女のとこだろ」
「ミルコだよな確か」
「あぁ」
垣根は切島の言葉に頷きながら答える。
「しっかし意外だよなぁ~。お前とミルコって全然合わなそうなのに」
「ね。それウチも思った。意外と相性良かったりするの?」
「いや、全然。全く合わねぇよ」
「えぇ…そうなんだ…」
「でも、全く違うタイプだからこそ逆に良いのかもしれないわね。互いに補完し合えるという意味では」
「あ~なるほど!確かになんとなく分かるかも。凹凸コンビ、みたいな?」
「なんだそりゃ」
垣根達がインターンの話に花を咲かせていると、突然峰田がテーブルを叩きながら垣根達に叫んだ。
「おい!清しこの夜だぞ!いつまでも学業に現抜かしてんじゃねぇ!」
「斬新な視点だなオイ」
「まぁまぁ峰田の言い分も一理あるぜ。ご馳走を楽しもうや!」
「「「料理もできるシュガーマン!」」」
砂藤が新たに焼き上がったチキンを運んでくると、突如寮の扉がガチャリと開き相澤が姿を見せた。
「遅くなった。もう始まってるか?」
相澤の方へ振り返る緑谷達。すると、
「とりっくぉあとり~と?」
「違う。混ざった」
サンタコスをしたエリが相澤と一緒に入ってくるのが見え、緑谷達は歓喜の声を上げた。
「「「サンタのエリちゃん!!!」」」
「かっ可愛い~!」
「似合ってるね!」
「おにわそとおにわうち」
「違う。それは2か月先」
緑谷や蛙吹、切島や麗日が一斉に駆け寄り、嬉しそうな様子でエリに話しかける。エリの同伴者であるミリオはいないのかと切島が相澤に尋ねると、ミリオは三年のクラスでパーティーをしているらしい。相澤に優しく背中を押され、皆の輪の中に入っていくエリ。女子達に囲まれながら楽しそうに話すエリの姿をソファーに座ったまま黙って見ていた垣根だったが、不意に切島に声をかけられる。
「いいのか?行ってやらねぇで。エリちゃん喜ぶぜ?」
「…面倒くせぇ」
「面倒くせぇってお前なぁ…」
「ガキらしく楽しそうにやってんだ、水差す方が野暮ってもんだろ」
そう言いながら垣根は席を立ち、新しいドリンクを取りに行った。
「ったく、素直じゃねぇな相変わらず」
切島は垣根の後ろ姿を見て、小さく笑いながらそう呟いた。
インターン編はどうするか考え中。映画ネタとかやるかも