かの悪党はヒーローへ   作:bbbb.

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七十四話

 「フンッ!!」

 「ぶべらっ!?」

 

 褐色で筋肉質な右足が男の顔に直撃する。顔面に蹴りがクリティカルヒットした男は気を失い、そのまま地面に倒れ込んだ。

 

 「ハッ!私に楯突こうなんざ1000年早ぇんだよ!」

 

伸した男を見下ろしながら、蹴りを入れた張本人、ラビットヒーロー・ミルコは高らかに叫ぶ。ミルコは警察に通報し終えるとそのまま後ろを振り返り、ミルコから少し距離を置いた場所に突っ立っている一人の青年に声をかけた。

 

 「おいテイトク!何ボサッと突っ立ってんだ。こっち来てお前も手伝え」

 「…はいはい、分かってるよ」

 

ミルコに呼びつけられた青年・垣根帝督は気怠げな様子で返事をすると、ミルコの元へ近づき現場の処理を手伝う。それから程なくその場に到着した警察に敵の身柄を明け渡し終えると、ミルコはからかうようにニヤニヤしながら垣根を見つめる。

 

 「なんだよテイトク、随分大人しいじゃねぇか。もしかしてもうバテちまったのか?」

 

今の時刻は午後3時30分。本日、垣根とミルコは朝9時から今に至るまで、ひたすら街の中を駆け回り敵退治に奔走していた。昼食も5分程度で済ませている。これはまだ本格的にヒーロー活動を行なっていない学生からすれば、とてつもなくハードなことである。加えて、ミルコのスピードについて行かなければならないことも考慮すれば、今の時点でも体力の限界を迎えていてもなんら不思議ではないのだ。しかし垣根は小さくため息をつくと、面倒くさそうに言葉を返した。

 

 「別にバテてなんかいねぇよ。ただ、いい加減雑魚狩りすんのも飽きてきただけだ」

 「クハハ!言うじゃねぇか」

 

垣根の発言に思わず吹き出すミルコ。そして大きく伸びをしながらミルコは垣根に言う。

 

 「ま、気持ちは分からんでもねぇが、どんな奴だろうと悪さしてる奴らは全員蹴り飛ばす。それが私らの仕事だからな。忘れんなよ」

 「ああ、分かってるよ。別に手抜いたりするつもりはねぇ」

 「ならいい。じゃ、次行くぞ」

 

そう言って次の現場に向かおうとするミルコ達。すると突然、

 

 バンッッッ!!!

 

爆発音がその場に響いた。そしてその直後、ここから100m程離れた、道路を挟んで向かい側の店の中から何人かの悲鳴と叫び声が聞こえてきた。

 

 「宝石強盗よー!!誰か捕まえてー!!」

 

声のした方角へ二人が視線を向けると、二人の男が店から逃げるように遠ざかっていく姿を視認する。そのうちの一人は黒い鞄を抱きかかえながら走っている。瞬時に状況を把握したミルコと垣根は同時に動き出す。ミルコは地面を力強く蹴り上げ、垣根は白銀の翼を勢いよくはためかせ、轟ッッ!!という風圧と共にその場から一瞬で姿を消した。

 

 「待ちやがれェェェェェェ!!!!」

 

怒号と共にミルコが二人の強盗犯を追いかける。最初はかなり開いていた距離だったが、ミルコと垣根の尋常ならざるスピードによって、強盗達との距離はぐんぐんと縮まっていく。すると逃げている二人の強盗の内の一人、アフロの男が走りながらミルコ達の方へ振り向くと、頭からアフロの一部をちぎり取るとミルコ達に投げつけた。

 

 「!」

 

ミルコと垣根は咄嗟に身を躱した直後、二人の背後でバンッッ!!と派手な爆発音がする。

 

 「っぶねぇなァ~」

 

ミルコが呟いた直後、今度はもう一人の、黒い鞄を持ちリーゼントの髪型をした男の方が個性を発動させる。

 

 ヒュオォォォォォ!!!

 

風切り音を響かせながら、リーゼントの男の体の周りに風が収束していき、竜巻のようなものが発生した。その竜巻を身に纏ったリーゼントの男は、宙を浮きながら加速し、前方にあった曲がり角を右に曲がる。一方のアフロの男は曲がり角を曲がらず、そのまま直進していった。二手に分かれたことを確認したミルコは垣根に右手で合図する。垣根は頷くと、曲がり角で右に曲がり、リーゼント男の方を追いかけた。

 

 「キャアアァァ!!!」

 

通行人達が悲鳴を上げながら道を空けていく。垣根はリーゼント男を追いかけながらふと前方に視線を向けると、そこには多くの人々がいる広場があることに気付く。リーゼント男を広場に出させてしまえば、一般人に危害が加わる危険性があると判断した垣根は、翼にグッと力を込め目一杯翼をはためかせた。

 

 轟ッッッ!!!

 

膨大な風圧をその場に発生させ、爆発的な加速を得た垣根は瞬く間にリーゼント男の真横に躍り出る。突然の垣根の出現に、リーゼント男が慌てて顔を真横に向けた瞬間、その顔を手でガシッと掴まれた。

 

 「なっ!?」

 

リーゼント男は思わず声を上げる。そして同時に自身の身体が沈みゆくのを感じた直後、頭部に凄まじい衝撃が走った。

 

 「ゴアアアァァ!!」

 

垣根によって頭部から地面に叩きつけられたリーゼント男は鈍い悲鳴を上げ、そのまま気を失う。垣根は男が気を失った事を確認すると、顔面から手を放しその男を見下ろした。

 

 「俺から逃げ切ろうなんざ、100年早ぇんだよ」

 

そう言葉を吐き捨てると、垣根は男が持っていた黒い鞄を回収した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あ、垣根君!こっちこっち~」

 「あ?」

 

 予想外の人物の声に垣根は思わず声が漏れる。リーゼント男を警察に引き渡し、奪われた宝石を宝石店に返し終わった垣根がミルコの元へ戻ると、そこにはかつて職場体験で垣根が訪れたヒーローであるホークスが自分に手を振っている姿が見えたのだ。

 

 「…なんでテメェがここにいんだ?」

 「いやぁ、偶然この辺りを通りかかったら、ちょうどミルコさんが敵追ってるのが見えてね~。まさか君までいるとは思わなかったけど…って、あれ?今テメェって言わなかった?」

 「コイツ、私の獲物横取りしようとしてきやがったんだぜ」

 「だからそんなんじゃないですって。後輩なりに先輩をサポートしようと思ってですね」

 

ホークスは頭を掻きながらヘラヘラした表情でミルコに言い訳をする。そんなホークスに垣根は更なる疑問をぶつけた。

 

 「常闇は?あいつは確か、アンタのとこでインターンやってんだよな?」

 「それ、今日緑谷君にも同じ事聞かれたよ。ツクヨミには地元でサイドキックと仕事してもらってる。いや~俺も一緒に仕事したかったんだけどね。俺が立て込んじゃってて悪いなァって思ってるよ」

 「…相変わらずクソ適当だな。で、緑谷にも会ったのかよ?」

 「うん。今日の午前中にちょっとね。焦凍君や爆豪君も一緒だったかな。三人ともエンデヴァーさんとこでインターン頑張ってたよ」

 

ホークスが垣根の質問に愉快そうに答えた。すると、今度はミルコがホークスに話しかける。

 

 「そんなことよりおいホークス、敵連合の居場所はまだ見つかんねぇのか?」

 「そうッスねー。探してはいるんですけど。これがなかなか…」

 「チッ!九州じゃ荼毘の野郎に逃げられちまったからな。次会ったら絶対ぶっ飛ばす!」

 「ははっ、そっスねー」

 

と、ここでミルコとホークスの会話を聞いていた垣根が疑問を口にした。

 

 「九州?」

 「ん?ああ。この前九州でエンデヴァーとコイツが脳無とやりあった事件あったろ?」

 「あぁ、テレビでやってたやつだな」

 「そうだ。私もテレビ観て知ってよ、即九州まですっ飛んで行ったんだが、その時に連合の荼毘って野郎に出くわした」

 「荼毘…蒼炎使いか。あの顔面ツギハギの」

 「うん。あの時はエンデヴァーさんは勿論、俺も割と満身創痍でさー。荼毘に襲われそうになって結構ピンチだったんだけど。そこにミルコさんが駆けつけてくれて助かったってわけ。いやぁ、あの時は助かりましたわー。ミルコさんが来てくれてほんと良かった」

 「全然よかねぇんだよ!ぶっ飛ばせなきゃ意味ねぇだろうが!」

 「なるほどね」

 

垣根は彼らの説明を聞いて納得する。九州での事件といえば記憶にも新しく、一般市民にとっては脳無という脅威がどれだけ恐ろしいか身をもって体感したことだろう。しかし、あの事件をきっかけに今までエンデヴァーのNo.1に不信感を抱く声が多かった世論だが、徐々にエンデヴァーをNo.1ヒーローとして認める声も増えるようになってきたのだ。垣根も寮のテレビから中継を観ていたので、当然事件については把握していたが、まだ続きがあったとは思いもしていなかった。

 

 (エンデヴァーとやり合ってたあの脳無…少なくとも俺が今まで戦ってきた個体とは明らかに別物だった。確実に進化してやがる…ハッ、どっかのクソマッドサイエンティストが入れ知恵でもしたか?)

 

そう思案しながら垣根はある人物を想起させていると突然、バサッ!!っと音を立て、赤い羽をはためかせながらホークスは空へ浮上していく。

 

 「じゃあミルコさん、俺はそろそろ行きますわ。久々に垣根君の顔も見れたことだしね。あ、いつでもインターン待ってるからね垣根君」

 「行かねぇよ。とっとと帰れ」

 「二度とくんじゃねぇ!」

 「酷っ!?」

 

最後まで軽口を叩きながらホークスは空高く上昇していき、そのままどこかへ飛び立っていった。ホークスの姿が見えなくなると、ミルコは垣根に話しかける。

 

 「んじゃ、仕事再開だ。いけんな?」

 「ああ」

 

垣根の返事と共に、二人は再び街の中を奔走した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は午後8時30分。日はとうの昔に落ちきっており、街の中は夜の暗闇が支配する。垣根とミルコは一日のパトロールを終え、宿泊先にホテルに向かっているところだ。そんな二人の姿をあるビルの屋上から双眼鏡で覗く一人の女性の姿があった。彼女は車椅子に座りながら、双眼鏡に目を通し二人を、特に垣根帝督の姿を注視していた。

 

 「ふーむ。見たところ今日の仕事は終わったようですね。いやー、まさか本当に彼がヒーローなんてものをやっていようとは。今でも信じられません。人間とはこうも変わるものなんですねー。ま、それはさておき…」

 

そこまで言うと、車椅子の女は双眼鏡を下げ、目を細め薄笑いを浮かべながら呟いた。

 

 「まだ今日の仕事は終わってませんよー垣根帝督。ドクターの試作品、上位個体(ハイエンド)から街を、市民達を守るという大仕事が残っているのですから」

 

木原病理のつぶやきは誰に聞かれることもなく闇の中に消えていく。その直後、街の中で大きな爆発が起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




とりあえず。まだ何も決めていないけど
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