かの悪党はヒーローへ   作:bbbb.

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七十六話

 脳無による襲撃事件から翌日。街ではヒーロー達による復旧作業が行なわれていた。街を襲った脳無の数は総勢二十体を超していたという。建物のあちこちが脳無によって破壊され、負傷者も多く出したが幸いなことに死者は一人も出なかった。これは現場に居合わせたヒーロー達の迅速な対応のおかげであり、特にミルコが地上のほとんどの脳無を無力化してくれたことが大きい。彼女らヒーロー達の活躍によって被害は最小限に抑えられたのだ。そんなミルコ、そして垣根帝督はと言うと、他のヒーロー達と同様に街の復旧作業に勤しんでいた。復旧作業はその日丸一日かかり、明日以降もまだ続くそうだ。その日の作業を終え、見回りも済ませた二人は帰路に就く。しばらく黙って歩いていた二人だったが、突然前を歩くミルコが口を開いた。

 

 「なぁテイトク」

 「あ?何だよ」

 「お前、一体何モンだ?」

 

ストレートに垣根に尋ねるミルコ。垣根は前を歩くミルコに視線を向けるが、ミルコは振り返ることなく続ける。

 

 「お前、ただのガキじゃねぇだろ」

 「そりゃあれか?女の勘ってやつか?」

 「馬鹿言え。お前が普通じゃねぇってことくらい、見てりゃ誰でも分かる」

 「フッ、まぁそれもそうか…いいぜ、教えてやっても」

 「あ?」

 

垣根の言葉に思わず振り返るミルコ。その顔には珍しく驚いている表情が浮かべられていた。

 

 「何だよその顔は」

 「いや、意外とあっさりしてたからよ…てっきりはぐらかされると思ってたぜ」

 「まぁそうしても良かったんだが、既に相澤やオールマイトには言ってるしな。そんな秘密ってもんでもねぇ。それに、一応俺のインターン担当アンタなら知っといた方が良いと思ったんだよ」

 

そして垣根は話し始めた。自分自身について。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ほぉー、なるほど。要はお前はこの世界とは全く別の世界からきた人間だと」

 「あぁ。そういうこったな」

 「ガッハッハ!やっぱお前最高にぶっ飛んでんなァ!いいぞ!流石私が見込んだ奴だ!」

 

垣根の話を聞き、ミルコはひどく楽しそうに笑う。そんなミルコに垣根は尋ねた。

 

 「信じんのかよ、こんな荒唐無稽な話を」

 「あ?嘘なのかよ?」

 「いや、そうじゃねぇけどよ…」

 

あまりにもあっさりと垣根の話を受け入れるミルコに対し、若干の戸惑いを見せる垣根。普通はもっと疑われたり信じてもらうのに時間がかかるものだろうが、こういうあっさりした所がミルコらしさなのかもしれない。すると、

 

 「おっ!そうだ」

 

ふと何か思いついた様子のミルコ。垣根が怪訝そうな様子でミルコを見つめていると、

 

 「おい!ちょっと付き合え」

 

ミルコが垣根に対して言う。

 

 「あ?何だよ」

 「今日は早く仕事終わったしな。寝るにはまだ早ェだろ。だからちょっと付き合え」

 「付き合えって…何すんだよ」

 

ミルコの言葉の意図を図りかねている垣根に対し、ミルコはニヤリと笑いながら一言伝える。

 

 「何ってそりゃお前…生徒指導ってやつだ!」

 「はぁ?」

 

困惑した表情を浮かべている垣根を他所に、ミルコは先を歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「んで、これは何だ?」

 

 垣根は目の前で準備運動をしているミルコに尋ねる。垣根は今、体育館のような施設の中にいる。突然ミルコに付き合えと言われ、何が何だか分からぬまま此処へと連れてこられたのだ。学校の体育館と呼ぶには少し小さい気もするが、それでも人二人で使うには充分すぎるほどの広さだ。中には機材などは何もなく、ただ広い室内空間が広がっているのみ。こんな所で一体何をするのかと考えていた垣根に対し、ミルコは「これ着けろ」と言いながらいきなりいくつかの防具を垣根に放ってよこした。理由を聞いてもまともに答えてはくれず、仕方ないので言われたとおりに防具を着ける垣根。防具を着け終わり先ほどの質問を投げかけたわけだが、相変わらずミルコは答える素振りを見せない。まさか今からミルコと戦り合うのか、などと考えていると、ついにミルコが口を開いた。

 

 「お前の個性、何つったっけ?確か、ダーク…マン?」

 「未元物質(ダークマター)だ」

 「あ、そうそうそれだ!まぁ正直そのダークマターとやらについてはよく分かんねぇけど、要はアレだ、お前は戦闘スタイルは遠距離型だ!」

 「…まぁ中・遠距離型が主体なのは否定しねぇが、それが何だよ」

 

ミルコの言葉を否定せずに答える垣根。確かに自分の得意とする戦闘スタイルは遠距離系が主体だが、それと今のこの状況に一体何の関係があるのか。その答えについて垣根が頭を巡らせていると、ミルコが再び話し始める。

 

 「テイトク。お前は確かにまぁまぁ強い。そこら辺の根性ねぇプロなんかよりはよっぽどよくやる。それは認めてやる」

 「はぁ…」

 「だがな、お前には致命的な欠点がある!!」ドンッ!

 

声を張り上げ、ビシッ!と垣根を指さしながらミルコは堂々と宣言する。

 

 「欠点?」

 

眉をひそめ、思わず聞き返す垣根。そんな垣根を見てミルコはニヤリと顔に笑みを浮かべた。

 

 「そう。欠点だ」

 「…ほぉ、是非ともお聞かせ願おうじゃねぇか。一体この俺のどこに欠点があるってんだ?」

 「お前の欠点…それは、近接戦闘だ!」

 「近接戦闘?」

 

ミルコの答えにまたも眉をひそめる垣根。そして面倒くさそうにため息をつくと、今度は垣根がミルコに言葉を投げる。

 

 「確かに俺は緑谷やアンタみたいに敵と殴り合う戦闘スタイルじゃねぇけどよ、それイコール欠点とはならねぇだろ。というかそもそも、近接が弱点となる場面なんてなかったはずなんだが?」

 「テイトク、アタシはお前のインターン担当としてお前の行動をそれなりに見てきた。そして気付いた。お前は咄嗟の時、遠距離攻撃で場を凌ぐクセがあるってことになァ」

 「…それが?」

 「咄嗟に遠距離攻撃出す奴ァ近距離弱ェと決まってンだよ!!」ビシッ!

 

またしても垣根を指さし、高らかに宣言するミルコにた対し、呆れた表情を見せる垣根。

 

 「いやいや、意味分かんねぇよ。なんだその意味不明な理論。大体、ソースはどこなんだよ」

 「んなモン私の経験だ」

 「ふざけんな」

 「っつーわけだ、構えろテイトク。今日から私がお前に近距離戦闘のイロハを一から叩き込んでやるからよォ!」

 「いや待て待て待て!」

 

勝手に話を進めていくミルコを止めようとする垣根だったが、ミルコは聞き入れる素振りを見せず、ストレッチを進めていく。

 

 「あ、それとお前、個性使うの禁止な」

 「は?」

 「ダークマターとやらは使うなっつってんだよ」

 「何でだよ」

 「訓練にならねぇだろ。翼や超現象のことだけ言ってんじゃねぇぞ?お前が常時展開してる自動防御も含めて禁止だ」

 「はァ!?」

 

思わず声を張り上げる垣根だったが、ちょうど準備運動を終えたミルコは構わず垣根に告げる。

 

 「人に一番良く効く教訓は痛みだっつぅからなァ…よし!準備完了だ。んじゃ行くぞテイトク!」

 「おい待て。さっきから勝手なことばっか言いやがって。ふざけんじゃねぇ。俺はやらねぇぞ。大体、能力アリならまだしも、能力ナシでテメェみたいな筋肉ゴリラとガチで戦り合えるわけねぇだろ!流石に死ぬわ!」

 「安心しろ。最低限の加減はしてやる。それにさっき防具渡したろ。それがありゃ死ぬことはねェ」

 「信用できるか!とにかく俺はやらねぇ!」

 「ほォー、私に逆らうってのかァ?いいのかー?そんなことして。もし私の指示に従えねぇってんなら…」

 「…」

 「お前の親父に言いつける」ニヤリッ

 「なっ…!?汚ェぞテメッ…」

 「行くぞォッ!!」

 

垣根が最後まで言い終わらぬうちに、ミルコの足が床を蹴り瞬く間に垣根との距離が縮まっていく。

 

 

 

 

 「ガァァァァァァァァァァ!!!!!」

 

その日の夜、ある施設内で少年の悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 インターンに明け暮れていた垣根達の冬休みはあっという間に過ぎ、三学期が始まった。怒濤の一年時も気付けばもう、残り三ヶ月。

 

 「諸君!あけましておめでとう!」

 「おめでとうございます!」

 

三学期登校初日、朝のHR前に飯田と八百万が教壇に立ち、皆に挨拶する。A組生徒達はいつも通り席に座って二人の話を聞いていた。

 

 「今日の授業は実践報告会だ。冬休みの間に得た成果・課題などを共有する。さぁみんな!スーツを纏い、グラウンドαへ!」

 「おい!いつまで喋って…」ガラッ!

 「先生あけおめ~!」

 「」ペコリ

 「今朝伺ったとおり本日の概要を伝達済みです!」

 「そうか…」

 

呑気に喋っていると思い込み教室に入ってきた相澤は、生徒達の準備・行動の速さに思わず言葉を飲み込む。

 

 「飯田が空回りしてねぇ!」

 「あぁ!インターン先のヒーロー、マニュアルさんが保須でリーダーをしていてね。一週間ではあるが学んだのさ。物腰の柔らかさをね…あっソレ!あっソレソレソレ!はい!」

 「おっ、空回った。すぐチェーン外れる自転車みてぇ」

 「飯田の場合バイクじゃね?エンジン付いてるし」

 「…」

 

グラウンドへと行く生徒達の背中を無言で見送る相澤。相澤が教室にふと視線を戻すと、グラウンドへ行かず未だに机に突っ伏している生徒が約一名いることに気づく。それを見た相澤はその生徒の下へ行き、声をかけた。

 

 「何してる垣根。みんなとっくにグラウンドへ行ったぞ。お前も早く行け」

 「あぁ…?あぁ、相澤か。分かってる…すぐ行く…ンギッ!?」

 「先生を付けろ…ってお前大丈夫か?」

 

相澤は垣根をたしなめながらも、苦痛の表情を浮かべる垣根に思わず声をかける。見たところ、身体の節々が痛んでいるように見える。

 

 「珍しいな。お前がそんな苦しそうにするなんて。何か事件にでも巻き込まれたのか?」

 「事件?あぁ…確かにあれは事件だな…敵退治なんかより遙かに凶悪な事件だ…」

 

そう言いながら垣根は席を立ち、コスチュームの入ったスーツケースを持つとフラフラと歩きだした。

 

 「あの(アマ)…いつか絶対殺す…」

 

なにやらとても物騒なことを呟きながら垣根は教室を出て行った。

 

 (なるほど。どうやらインターン先で相当ミルコにしごかれたと見える)

 

垣根の苦しみの原因を何となく察した相澤は小さく笑った。すると、

 

 ピンポンパンポーン!

 

 『相澤先生。至急職員室までお越し下さい』

 

と放送がかかった。何の呼び出しか怪訝そうにしつつも、相澤は職員室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ひょえ~!?あの暴走をものにした!?」

 「うん!」

 「マジか!はえぇ!」

 

 男子更衣室にて、A組男子生徒達はコスチュームに着替えながら、インターンでの出来事について話し合っていた。その中で、緑谷があの謎の黒い力をモノにした聞き、注目を集めていた。

 

 「暴走ってアレだろ?緑谷の腕からバーッと出た黒いやつ!」

 「うん。黒鞭って名付けた」

 「なんだよソレ、カッケーじゃんか」

 「やっぱNO.1のところでインターンすると違うな!成長が早いっつ~か」

 「って言ってもまだ一瞬しか出せなくて用途は限られるんだけど、強い…!」ブスリッ

 「み、緑谷君!?」

 「爆豪!?何してんだ!?」

 「不快ィ!」

 

爆豪が投げたコスチュームのトサカの部分が緑谷の頭に刺さり、緑谷の頭部から変な汁が飛び出す。皆が慌てて緑谷の様子を心配する中、更衣室の扉が開かれ、

 

 「ウィーッス」

 

気怠げな声と共に垣根が入ってきた。

 

 「遅かったじゃねぇか垣根ェ」

 「何やってたんだよ。もうすぐ授業始まっちまうぞ」

 「あー、わぁってる。ギャーギャー喚くな」

 

心底鬱陶しそうに切島達をいなすと、自身のロッカーまで行きコスチュームに着替え始める垣根。すると上鳴がうわずった声で垣根に話しかける。

 

 「そういや垣根!ニューズで見たぞ。脳無の群れに襲われた街をミルコと一緒に救ったそうじゃねぇか!」

 「あ?」

 「あっ!それオイラも見たぞ!すんげェ数だったんだってな」

 「別にそんな大した数じゃねぇよ」

 「いやいやスゲェって!脳無が二十体くらいいたんだろ?想像するだけでも恐ろしい…」

 

あの事件のニュースについては垣根も後日見た。地上を襲った量産型の脳無が街を襲撃したことは報道されていたが、なぜか垣根が戦った上位個体(ハイエンド)についてはどこも報道していなかった。街に被害が出ないよう垣根は早々に上空へと移動し、あの上位個体と戦っていたせいか、人々には認知されていなかったのだろうか。だとしたらそれは垣根にとっては不幸中の幸いであった。

 

 「報道でもあったろ?襲撃に来た脳無のほとんどはミルコが片付けちまった。俺は何もしてねぇよ」

 「カッケェよなぁ~ミルコ!女性ヒーローなのにあの荒々しさ!漢として憧れるぜ!」

 「ミルコといやぁあの褐色で筋肉質の腕や足がとんでもなくエロ…」

 「峰田君!不適切な発言は慎むように!さぁみんな!そろそろ授業が始まる!グラウンドへ向かおう!」

 

飯田の一言で、A組生徒達は盛り上がっていたインターンの話を切り上げると、ロッカールームから出てグラウンドαへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グラウンドαへ向かうと、そこにはジャージ姿のオールマイトが垣根達を待っていた。なぜか相澤が不在で、その理由をオールマイトに聞いたところ、なにやら急用が出来てしまい授業には来られないそうだ。そういうわけで、実践報告会はオールマイトのみの主導の下行なわれることとなった。形式は至ってシンプル。毎度おなじみの訓練用ロボットに対し、インターンで培った技術や成果をぶつけるというものだ。生徒達への説明が終わると、オールマイトは早速ロボ達を出現させた。

 

 「去ねヤ人類。俺タチがこの世界のスカイネットだ!」

 

なにやら物騒な事を言いながら、こちらへと向かってくるロボ達。そんなロボ達に対し、生徒達は遺憾なく成長っぷりを見せつけた。

 

 「光の屈折をグイッとできちゃうんです!」

 「粘性MAX!アシッドマン!」

 「「手数と!先読みの力!」」

 「「策敵強化中!」」

 「「「最短効率チームプレイ!」」」

 「レシプロ・エクステンド!(物腰!)」

 「円滑なコミュニケーション!」

 「総合力向上。深淵暗躯・夜宴!」

 「いかに早く戦意喪失させるかや!」

 「「コンビネーションと!決定力!」」

 「予測と効率!」

 「能力の底上げ!」

 「スピードの強化!」

 「経験値を増やす!」

 

訓練用ロボ達の哀しき悲鳴を聞きながら、垣根はクラスメイト達のパフォーマンスをボーッと見ていた。成長度合いは人それぞれだが、皆インターン前とくらべると確実に力を付けている。特に、NO.2ヒーロー・エンデヴァーの下へインターンに行っていた三人組は、目に見えて力を付けたように見える。緑谷なんかは冬休み前は全然扱えていなかった黒い力を、今では完全に自分のモノとしている。

 

 「成長期ってやつだな~」

 

などと呑気に呟いていると、オールマイトに声をかけられる垣根。

 

 「垣根少年。次は君の番だよ」

 「あいよ」

 

オールマイトに軽く返事を返すと、垣根はゆっくり前に出る。

 

 「おのれ人類…!貴様ラのような邪悪ナ種族は我ラが必ず滅ぼしてみせる!」

 

最早敵なのでは?と勘違いするようなセリフを吐きながら垣根に突撃するロボの群れ。その内の一機が天高く跳躍し、急降下しながら垣根に迫る。

 

 (仕方ねぇ。ガラじゃねぇが、やるしかねぇな)

 

心の中でそう呟くと、

 

 キュインッ!

 

突然甲高い音が鳴り、同時に、

 

 バキッッ!!

 

垣根の足下の地面が砕ける音が鳴る。そして、垣根は地面を力強く蹴り上げると、一気に急降下してくるロボの下へと跳躍した。

 

 「去ねヤァァァァァァ!!!」

 

ロボが絶叫しながら、振急接近してくる垣根に自身の右装甲を振り下ろす直前、垣根の右足がロボの胴体を横一線に薙ぐ。

 

 グシャァァァァァァン!!!

 

垣根の蹴りをまともに受けたロボのボディは、派手な音を立てながら粉々に砕け散ってしまった。一撃でロボを屠った垣根はそのまま地面に着地すると、再び足に力を入れる。

 

 バキンッ!

 

またしても甲高い音を立て、地面が砕ける。その地面を力強く蹴り上げ、迫り来るロボの群れに突っ込んいく垣根。まるで、肉体強化の個性を使っているのではないかと思うほどの加速力を見せ、一気に一機のロボの懐に入ると、今度はその右拳を力強くボディに叩きこんだ。

 

 ガシャァァァァァン!!!

 

またしても派手な音を立て、一撃で木っ端微塵になるロボ。すると、横にいたロボが垣根に対し左装甲を振るう。

 

 ヒュルン!

 

垣根は身をよじりロボの攻撃を躱すと、がら空きになったボディに左足で蹴り込み、三度一撃で粉砕した。

 

 「よくも我ラの仲間を!!許サン!!」

 

声高に叫び、二体のロボが同時に垣根に攻撃を仕掛ける。四つの機械の装甲が垣根の肉体を穿とうと連撃を繰り出していく。だが、

 

 ヒュン!ヒュン!ヒュン!

 

繰り出された拳が鳴らす音は風切り音ばかり。二体のロボによる同時攻撃の全てを垣根は身をよじり躱し続けていた。

 

 「ちょこまかとぉぉぉ!!!」

 

機械でも感情があるのか、攻撃が当たらないことにイラついたロボが垣根の顔面に右装甲を放つ。しかし、

 

 ヒュン!

 

またしても空振り。だがそれだけではない。目の前から突然垣根の姿が消えたのだ。慌てて垣根の姿を探すも見つからない。すると、

 

 「上ダ!」

 

隣のロボがそう叫び、慌てて上を向くロボ。しかし気付いたときには既に時遅く、ロボの視界に入ってきたのは垣根の踵。それに気付くと同時に、そのロボの頭部に垣根の踵が振り下ろされた。

 

 ゴシャンッッッッッ!!!

 

ロボを縦一閃に粉々にすると、垣根はすぐさま身体を起こし、右隣のロボとの距離を詰める。慌てて左装甲を振るうロボだったが、垣根は右腕を立て上半身を軽くひねることでギリギリで拳を躱し、カウンター気味に力一杯その左腕を振り抜いた。

 

 ガシャァァァァン!!!

 

派手な音と共に頭部が吹っ飛ぶ。さらに、

 

 グシャァン!!!

 

垣根の回し蹴りによってボディまでも粉々に砕け散っていった。

 

 「もう充分だろ。あとは一気に片付ける」

 

そう言うと垣根は地面に手をつく。すると、

 

 ゴゴゴゴゴゴゴッッッッッ!!!

 

と地鳴りのような音が鳴った直後、

 

 ドンッッッッッッ!!!

 

轟音を響かせ、無数の白い槍が一斉に地面から放たれる。

 

 「「「うおおおおあああああああ!!!」」」

 

ロボット達の断末魔がグラウンド中に響き渡る。土煙が晴れると、グラウンドに残っていた全てのロボが、無数の白い槍によって串刺しにされている光景が露わとなった。

 

 「ま、近接戦闘力の向上、といったところだな」

 

皆が唖然とする中、眼前のとんでもない光景を生み出した人物である垣根は、涼しげにそう言って実践報告を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おいバクゴー!テメェ冬を克服したのか?」

 「するかアホが!圧縮撃ちだ!」

 「轟くんついに速いイケメンになっちゃったねぇ」

 「いや…まだエンデヴァーには追いつけねぇ」

 「緑谷 黒いの使えてんじゃん!」

 「うん。ご迷惑かけました」

 「やったな!」

 「お前なァ!俺の個性がアレになっちゃうよお前!」

 

報告会を終えると、生徒同士互いの成長っぷりについて感想を言い合っていた。しっかりとお互いを褒め合い、成長し合っていく雰囲気を能動的に生み出しているのがこのクラスの良いところだと言える。

 

 「垣根ェ!お前ミルコから近接習ったのかよ!マジビックリしたぜ!」

 「えぇ。本当に驚きましたわ」

 「いや、習ったっつぅか、ただただタコ殴りにされてただけだけどな」

 

悪夢のような時間を思い起こしながら、思わず苦々しげに呟く垣根。

 

 「でも足技とかミルコのそれっぽかったし、結構イケてたぜ!」

 「垣根に近接も加わるとか、マジで隙なくなっちゃうね」

 「勘弁しろよな~。俺の立場ねぇじゃん」

 「スッゴいね~垣根!あんなパワーあったなんて私知らなかった~。緑谷みたいにロボぶっ壊してたね」

 「…ま、ミルコの野郎にちょっとコツを習ってな」

 

サラッと答えた垣根だが、それは嘘だった。垣根がミルコに、近接戦闘での立ち回り方・相手の動きの読み方など主に技術的な面を実践形式で教わったのみで、パワーの底上げなどは教わっていない。先ほどのロボを破壊したパワーは未元物質を応用させた使い方によるもの。これは学園都市時代、暗部組織『アイテム』の所属メンバーである絹旗最愛の能力を参考にしたのである。彼女の能力は『窒素装甲(オフェンスアーマー)』。大気の窒素を自在に操る能力であり、圧縮した窒素の塊を制御することで自動車を持ち上げるほどのパワーを得たり、弾丸を受け止める壁を生成したり出来る。垣根はその原理を未元物質で応用し、自身の拳や脚力をさせたというわけである。

 

 (あの野郎、近接戦闘レッスンと言う名の後輩イジメだけに飽き足らず、日中敵と戦うときでさえ「近接戦闘以外禁止だ!」とか言ってきやがったからな。イカレてるぜマジで。おかげでこの戦法を編み出す羽目になったわけだが)

 

垣根は能力の性質上、確かにこれまで中・遠距離型スタイルだったが、だからといって近接戦闘が全くダメというわけではなかった。学園都市の暗部時代、幾人もの人間と戦り合っていく中で時には能力を使わずステゴロで相手をぶっ飛ばすこともあったからだ。さらに言えば、学園都市というこの世界に引けを取らないほど治安が世紀末な場所で生活していた垣根は、暗部組織に関係なく日頃からそこらのチンピラに絡まれることも多々あった。そんな相手をボコボコにするなどしていたので、少なくともそれなりの戦闘スキルは持ち合わせていたのだ。しかし、相手がミルコとなるとそんなものは何の役にも立たない。能力を持たない垣根など近接戦闘のプロであるミルコからしてみれば、そこいらのゴロツキとなんら大差無く、ただひたすらミルコの体術をその身で味わうこととなった垣根。

 

 (まぁあのクソ兎に比べりゃ、ロボの動きなんざ止まってるみてぇなもんだけどよ)

 

垣根がミルコとの地獄の日々に思いをはせていると、唐突にオールマイトが生徒達全員に声をかけた。

 

 「よーし!片付けも終わったことだし、実践報告会はこれにて終了!教室へ戻ろうか」

 「「「はぁーい」」」

 

元気よく返事をし、A組生徒達はグラウンドを去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「では”インターン意見交換会兼始業一発気合入魂鍋パだぜ会”をぉぉ始めよう~!」

 「「「イェーーーーイ!!!」」」

 

 寮のロビーに歓声がが響き渡る。実践報告会を終えた日の夜、飯田の言葉の通りインターンの意見交換会を兼ねた鍋パーティがA組生徒達全員によって行なわれた。

 

 「それねえまだ火通ってないよ!フフフッ…」

 「わざとやってるでしょ…」

 「く~!寒い日は鍋に限るよなぁ!」

 「暖かくなったらもうウチら2年生だね」

 

耳郎の言葉に他の生徒達ももう一年が終わってしまうことを実感する。

 

 「あっという間ね」

 「怒濤だったぁ」

 「後輩出来ちゃうねぇ」

 「ヒーロー科部活ムリだからあんま絡みないんじゃね?」

 「有望なコ来ちゃうなぁ!やだ~!」

 

来年度についてあれこれ話していると、

 

 「君たち!まだ約3か月残ってるぞ!期末が控えていることも忘れずに!」

 

飯田の言葉が一部の生徒達に現実を突きつける。

 

 「やめろ飯田!鍋が不味くなる!」

 「味は変わんねぇぞ」

 「お、お前それもう天然とかじゃなくね!?」

 「皮肉でしょ。期末慌ててんの?って」

 「高度!」

 「俺は味方だぞ峰田~。一緒に八百万と垣根に教えてもらおうな!」

 「私で良ければいつでも大歓迎ですわ」

 「ざけんな。自分で何とかしろ」

 「「そりゃないぜ垣根~!!」」

 

 「「「ハハハハハッッッ!!」」」

 

ロビーにA組生徒達の笑い声が響く。楽しそうなクラスメイトの顔を見ながら、垣根も珍しく心が和むような心地がした。だが同時に、垣根の心には一抹の不安感も芽生えていた。確証も根拠もない。ただ、”皆と笑い合えるのはこれが最後なのではないか”という漠然とした不安感が心の中に生まれるのを垣根はしっかりと感じていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




インターン2終わり

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