かの悪党はヒーローへ   作:bbbb.

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七十八話

 

 ――――三月下旬。作戦決行日。

 

 群訝山荘にて。

 

 山の中で、木々に囲まれながらぽつんと立つ大きな館。その館は、敵連合の本拠地であり、今現在多くの敵が館の中に集結している。そんな敵のアジトである館を、少し離れた場所からヒーローの集団がじっと見つめていた。警察主導の下、急遽立案された敵連合のアジトを二方向から同時に奇襲する今作戦。その一端を担うのが、今ここにいるプロヒーロー達なのだ。名だたるヒーロー達が真剣な顔持ちで館を見据える中、彼らの先頭に立ち今作戦のリーダー的存在の内の一人であるエッジショットが低い声で呟いた。

 

 「超常解放戦線の隊長どもの集まる定例会議。それが今あの館で開かれている。敵にはワープを使う者がいるがその発動者は病院側にいるとのこと。逃がしてくれる者が捕らえられたら逃げ場は無くなるというわけだ」

 

エッジショットの言葉を聞きながら、ヒーロー達は気を引き締める。すると、

 

 「ねぇ、私たちここにいて大丈夫?」

 「小森?」

 「敵連合って雄英を狙ってたノコ…?」

 

学生でありながらこの前線に配置された雄英高校1年B組の小森が不安げに呟く。小森の他にも骨抜や常闇、上鳴達もまたこの前線に参加していた。彼らは皆、広範囲に及ぶ個性を持っておりその力を買われてここにいる。とはいえ、いきなりこんな最前線に送り込まれては小森のように不安に思ってしまっても無理はない。そんな不安げな様子の生徒の下に、同じくこの前線に参加していたミッドナイトがゆっくりと近づきながら声をかけた。

 

 「彼らは大きくなりすぎた」

 「ミッナイ先生…」

 「強大な力を手にした今、死柄木は最短で目的を達成するつもりよ。危ないのはもうあなたたちだけじゃない」

 「!」

 「大丈夫よ。初動で少し力を借りたいだけだから。すぐ後方に回します」

 「先生…」

 

ミッドナイトが小森の手をそっと包み込みながら優しく語りかけると、小森は安堵の表情を浮かべた。一方、

 

 「ってかなんで俺が最前線なんっすか!?わぁ~ん!みんなが恋しい!A組が恋しいよぉ~!」

 

A組生徒の方はと言うと、上鳴電気が己が状況を全力で嘆いていた。泣きそうな表情を浮かべながら上鳴は、自身の左隣にいる人物の腕にすがりつく。

 

 「なぁ垣根ェ!俺やだよぉぉぉ!みんなのところに帰りてぇよぉぉぉぉ」

 『黙れ。そして離れろ』

 

腕にすがりつく上鳴を、未元体の垣根は無情にも引き剥がす。すると、

 

 「ってか!お前なんで身体真っ白になってんだぁぁぁぁぁ!?」

 

上鳴が未元体を指指さし叫びながら尋ねると、未元体はため息と共に答えた。

 

 『今更かよ。さっき言ったろ?本体(オリジナル)が来れねぇから分身()が来てんだよ』

 「はぁ?オリジナル?どういうこと??」

 「…先日のインタビュー練習時に披露したあの分身術か」

 『そ』

 

常闇の言葉に頷く未元体。上鳴もようやく「あぁ~あれか」と言いながら納得しかけていたが、「いやマジかよ垣根ェェェ!!」などとまたもや横で騒ぎ出した。いい加減イライラしてきた未元体だったが、その時ちょうどエッジショットの指示が全体に響き渡る。

 

 「これより作戦を決行する。全軍、進軍開始!」

 

エッジショットの号令の下、麓に集まっていたヒーロー達が一斉に動き出し敵が集まる館に向かって進軍を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――エッジショット班 後衛。

 

 エッジショット達が館を見据えながら待機している中、その遙か後方には雄英高校一年の生徒達が待機していた。役割が前衛の後方支援なので、前衛が敵を討ち漏らしたり危機に陥らなければ基本的にやることはない。緊張感はあるが、前線の人達ほどではないというそれなりの緊張感の中、各自時を過ごしていた。すると、

 

 「あの~…ところでさ」

 

B組の拳藤が突然八百万達に話かける。八百万達が拳藤の方を向くと、拳藤は言いづらそうにある方向を指さし戸惑いながら尋ねた。

 

 「あそこに立ってる白い垣根らしきものは一体何なの…?」

 

拳藤の指の先には全身真っ白な垣根、未元体の姿があった。B組生徒は見るのが初めてなためか、拳藤だけでなく他のB組生徒達も戸惑っている様子だった。拳藤の質問に対して八百万が答える。

 

 「彼は垣根さんが作り出した分身、のようなものですわ」

 「分身?エクトプラズム先生みたいな?」

 「まぁそんな感じ?実は俺らもよく分からん」

 「へぇ~。アイツこんなのまで作れちゃうんだ。凄いね相変わらず」

 

拳藤が興味深そうに未元体に近づき、未元体の身体をジロジロと観察していると、

 

 『ジロジロみてんじゃねぇ』

 

突如未元体が不機嫌そうに口を開いた。

 

 「えっ!?うわっ!?喋った!』

 

未元体が喋ったことに驚く拳藤だったが、ちょうどその時、

 

 「始まった」

 

突然現場監督である虎ヒーローが一言呟いた。

 

 「えっ!?」

 「そんなヌルリと!?」

 

峰田が驚いている中、耳郎はイヤホンジャックを地面に差し込み、前線の音を拾う。

 

 「動いてる…」

 

虎ヒーローの言うとおり、イヤホンジャックからは前線の方角から集団が移動する音が聞こえてくる。それは前衛部隊が移動を始め、いよいよ作戦が始まったことを意味していた。皆の表情に緊張が走る中、虎ヒーローが生徒達に向けて語りかける。

 

 「今回かつてない規模でヒーローが集まった。だからといって決して気を抜くな。裏を返せばこれだけ集めなければならぬほど敵は強大ということだ」

 「常闇はともかく上鳴大丈夫かな…」

 「ダイジョウブダイジョウブ!」

 「上鳴も常闇も立派なヒーローだもん!」

 

不安げな耳郎に葉隠と芦戸が励ますように声をかけていたが、一方で八百万もどこか浮かない表情を浮かべていた。瀬呂がそれに気付き八百万に話しかける。

 

 「どした八百万。お前も上鳴が心配なのか?」

 「瀬呂さん…勿論お二人のことも心配ですが…」

 「垣根か」

 「!…はい」

 

八百万は一瞬目を見開くも、暗い表情で頷いた。

 

 「確かに、そりゃそうだよな。なんせアイツの居場所は…」

 「…蛇腔病院。脳無の製造拠点である可能性が高い場所ですわ」

 「一年(俺ら)の中で一人だけ病院の前線組。しかも上鳴達とは違って俺らんとこに戻ってくる訳でもないしな。まぁアイツの分身はいるけど」

 

そう言いながら瀬呂と八百万はチラッと未元体の方を見る。垣根はこの作戦が始まる前、病院以外の全ポイントに未元体を配置していた。なので垣根本体は病院の前線にいるが、病院組の後衛・エッジショット班の前後衛にはそれぞれ必ず未元体がいることになる。未元体の強さは八百万達も確認済みであり、彼の存在を頼もしいと思う気持ちもある一方で、やはりどこか拭いきれない違和感というのも確かに存在していた。複雑な思いを抱きながら八百万が未元体を見つめていると、瀬呂が再び口を開いた。

 

 「まぁでも大丈夫だろあいつは。垣根の強さは俺達が一番良く知ってんだからさ」

 「瀬呂さん…ええ、そうですわね」

 「そうそう。俺らは俺らで出来ることをしようぜ」

 「はい…!」

 

瀬呂の言葉に微笑みながら返事を返す八百万だったが、それでも一抹の不安は彼女の胸の内から完全に消え去ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――エンデヴァー班 後衛。

 

 群訝山荘のアジトと同様、蛇腔病院の居場所は山の中で周りを木々で囲まれている場所にある。山を下りた麓には一つの町が存在し、今回エンデヴァー班後衛チームはこの町の住民を避難させることだ。実際に後衛班が行動を開始するのは前衛が動いてからなので、現在彼らはは町を見下ろせる位置で待機している。その中には緑谷や爆豪などのA組生徒達の姿もあり、彼らもまた上からの指示を待っていた。

 

 「間もなく作戦の開始時間だ」

 

飯田がひとりでに呟くと、

 

 「クソが!なんでメルヘン野郎が前線で俺様が後方支援なんだよ!俺も前線行かせろや!」

 

待つことにしびれを切らしかけている爆豪が不満げに叫んだ。

 

 「爆豪、俺たちはまだ仮免の身だ」

 「うっせぇ黙ってろ!つかそれ言うならあいつも仮免だろォがァ!!!」

 「落ち着きたまえ!」

 

轟に食ってかかる爆豪を飯田が諫めている一方で、今度は少し離れた場所で緑谷が真剣な面持ちで呟く。

 

 「これだけの規模の作戦だ。連携が重要になる。僕たちは僕たちに与えられた任務を全うしよう」

 「「「うん!」」」

 『おー相変わらずいい子ちゃんだな緑谷』

 「「「!」」」

 

緑谷や麗日達が声の方向へ視線を向けると、一体の未元体がそこに立っていた。緑谷達は思わず目を少し見開きながら未元体を見つめる。

 

 『…ったく、いい加減慣れろよな』

 「ご、ごめん…つい…」

 「それは無理よ垣根ちゃん」

 「そうだよ~。イメチェンってレベルじゃないし」

 「」コクコク

 

未だに未元体の姿に慣れない緑谷達に未元体はため息をつく。すると麗日が未元体に尋ねた。

 

 「ねぇ白ていとくん。本物のていとくんは前線にいるんだよね?」

 『……いろいろツッコミてぇところはあるが、まぁそうだな』

 「アナタ達は垣根ちゃんが作った分身体ってことでいいのよね?」

 『あぁ』

 「達……」

 

そう呟きながら緑谷は視線を動かすと、ここより少し離れた場所にもう一人の未元体がいるのが見え、違う方向に目を向けるとまた別の未元体の存在が確認できる。この後衛班には全部で8体ほどの未元体が存在している。それぞれの未元体に目を配りながら緑谷は、改めて垣根の個性の力の凄さを実感した。

 

 「でも本当に凄いよ垣根くん。エクトプラズム先生の技も再現しちゃうなんて。応用が効くなんてレベルじゃない」

 「確か全部で70体程作れるって言ってた気がするけど…」

 『…作るだけならな。実際に実践で使える数はまだ多くて50くらいだ』

 「そうなんだ…いやでも凄すぎるよていとくん!」

 

緑谷達が垣根の未元体をじっくり観察しながら話していると、

 

 『!』

 

突然目の前の未元体が後ろを振り返った。何事かと緑谷達が怪訝そうに見つめていると、

 

 『始まるぜ』

 

未元体が静かに呟いた。すると、

 

 「前線が動いた!私たちも行くよ!」

 

前方にいたバーニンが後衛班に向けて言い放ち、そのまま崖を下っていく。緑谷達もすぐさまバーニンに続いた。

 

 「区画ごとに分かれて住民の避難!いいね!?」

 「「「はい!」」」

 

バーニンの指示に従い、学生やプロヒーロー達が各自自分の持ち場に散開していく。自分を含め、皆が慌ただしく動いていく様を見ながら緑谷は、戦争が始まったことを改めて肌で実感していた。

 

 (ついに始まる…!)

 

心の中でそう呟きながら、緑谷は持ち場へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――そして、エンデヴァー班 前衛

 

 蛇腔病院にて。

 

 

 

 

 バッッッ!!!

 

 

 エンデヴァー率いる選りすぐりの前衛チームが一斉に蛇腔病院に足を踏み入れた。いきなりの出来事に病院内の患者や看護師が困惑気味に声を上げる中、

 

 「エンデヴァー!こちらです!」

 

公安からのスパイとして蛇腔病院に潜入していた男がエンデヴァー達を誘導する。エンデヴァーはすぐさまそれを確認するとミルコに指示を飛ばした。

 

 「ミルコは霊安室へ」

 「おう!」ダッッ

 

ミルコは力強く返事を返すと一気に跳躍し、ロビーにいた一般人の頭上を悠々と超えて霊安室へと向かっていった。そして病院内の人達に向けてマンダレイがテレパスを使いながら呼びかける。

 

 「皆さん外へ避難してください!ここが戦場になる恐れがあります!」

 

マンダレイのテレパスを合図に、前衛班の一部のヒーロー達が人々の避難誘導を開始する。一方、エンデヴァーや相澤達は病院の奥へと進んでいく。奥へと続く廊下を黙々と進んでいくと、ついに標的となる人物の背中を視界に捉えた。そして、

 

 「貴様か」

 「!」

 

エンデヴァーの威圧的な声音に、その人物は身体を震わせながら、ゆっくりとこちらを振りかえった。

 

 「脳無の製造者、オール・フォー・ワンの片腕」

 「うぉぉおおおお!」

 「観念しろ。悪魔の手先よ!」

 

怯えながらこちを見るその老人の顔を、ヒーロー達は確認する。間違いない。この老人こそ今作戦の標的でありAFOの右腕、殻木球大である。

 

 「なんで…なんでぇ~!?」

 

ひどく狼狽した殻木はすぐさま振り返り逃げようとしたが、相澤の布によってバシッ!っと左足を絡め取られ、バランスを崩しその場で転倒した。そして相澤がその目で殻木を見つめると、

 

 「うぅ……」ゲホッゲホッ

 

老人が苦しそうに咳き込みながらうめき声を上げた。

 

 「やはり戸籍登録の通りではないようだな。イレイザーが抹消で見た途端老け込んだ。個性だな」

 「うぅぅ…」

 

うめき声を上げながらこちらを振り返る老人の顔は、エンデヴァーの言うとおり先ほどと比べてかなり老け込んでいた。

 

 「その個性がオール・フォー・ワンの長生きの秘訣か?黒い脳無にのみ搭載されていた超再生。決してありふれた個性じゃない。それを複製したのかあるいは人造したのか。お前はその技術をオール・フォー・ワンに提供していた」

 「……っ」

 

塚内の言葉に動揺の色を見せる殻木。するとそこへ、今度はプレゼントマイクが殻木の肩に手を置きながら静かに語りかけた。

 

 「すげぇじゃん。そういうのよォ再生医療とかよォ、そっちの方面で使えばハイパーチートなんじゃねぇの?なぁ!?」

 「ヒッ!」

 「なんでこんな使い方なんだよ?なんでこんな使い方だよジジイ!俺のダチに…何してくれてんだよジジイィィ!!!!」

 「ひぃぃぃぃぃぃ!!1」

 

激昂するマイクに怯える殻木。すると、

 

 「ちょっと!乱暴はやめてください!」

 「先生が一体何したって言うんですか!?」

 

医師と看護婦が慌ててマイクと殻木の間に入る。何も事情を知らない彼らからしたら、敬愛する理事長がヒーローに暴行を加えられている場面に見えたのだろう。

 

 「下がっていろ」

 

エンデヴァーの言葉と共にヒーローと塚内がその医師と看護婦を外へと連れ出しに行った。動揺する彼らをなだめながら塚内達がこの場から離れると、相澤がバシッ!と布で殻木の身体を縛り上げ静かに口を開いた。

 

 「今ヒーローたちがこの病院にいる人間全員を避難させている。脳無との戦闘に備えてな」

 「……」

 「だが無血制圧できるならそれに越したことはないだろう。脳無が特定の人間の指示でしか動かないよう脳をプログラミングされていること。指示がなければただの遺体であること。これまでに捕らえた個体を調べて分かったそうだ」

 

相澤はそこまで言うと、自身が握っている布を一層力を入れて握りしめた。そして、

 

 「お前たちが弄んでは捨ててきた数多の者が言ってんだ」

 「……」

 「次はこっちが奪う番」

 

相澤が静かな怒気を滲ませながら殻木に言い放つ。すると、

 

 『おいクソジジイ』

 

後ろから一人の青年が前に出ながら殻木に声をかける。その声は垣根帝督のものだが、声が発せられた元は垣根帝督ではなく、垣根帝督の姿をした白い人型・未元体によるものだった。皆が未元体を見つめる中、未元体が殻木に尋ねた。

 

 『木原はどこだ?いるんだろこの病院に』

 「……」

 『ダンマリかよ』

 「いやじゃ…」

 『あ?』

 「いやじゃ…堪忍しておくれぇぇ…」

 

命乞いをする殻木を冷めた目で見つめるヒーロー達。すると突然、殻木が気持ち悪い笑みを浮かべながらヒーロー達を見上げゆっくりと口を動かした。

 

 「堪忍―――…」

 「!」

 

 ドォォォォォン!!!

 

派手な轟音と共に廊下が破壊され、大量の脳無が現れる。驚愕するエンデヴァー達。そんなヒーロー達を殻木は、自身の脇腹が脳無の角によって貫かれているにも関わらず、得意げな顔で見下ろしていた。

 

 「二倍による生成物は末梢でも消えん。いいこと知ったわ。複製技術の存在が分かっていたなら警戒すべきじゃったな。いや無理な話か」

 「トゥワイスの個性!?複製だったか!」

 

脳無に刺された殻木が泥のような状態になり身体の形を崩していく。エンデヴァーの言うとおり、ヒーロー達が今まで相対していた殻木はトゥワイスの個性で作られたものだった。

 

 『ハッ、未元体()と似た力か。やってくれるぜ。いいね、面白くなってきた』

 

大量の脳無が襲い来るこの状況下で未元体は不敵な笑みを浮かべながら脳無達を見据える。こうして、エンデヴァー達と脳無の戦闘が開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――エンデヴァー達と脳無が会敵するほんの少し前。

 

 

 

 「フンッ!!」

 

 バゴッッッッ!!!

 

 ミルコは霊安室へ続く隠し扉を蹴り飛ばし破壊すると、そのまま隠し通路の奥へと進んでいく。そして跳躍しながら自身の後ろを振り返り、ニヤッと笑いながら言った。

 

 「へっ!お前、ヒーローのサポートがメインとか言われてなかったか?」

 「うるせぇ。一応何体かは残してきた。アレも垣根帝督()の一部みてぇなもんだ。文句はねぇだろ」

 「それ、屁理屈ってんだぜ」

 

ミルコが語りかけているのは、背から翼を生やしミルコの後を追っている垣根帝督。彼はエンデヴァーやマンダレイの方に未元体を何体か残し、本体である自分はミルコと共に霊安室へ向かっていた。木原が人から見られるような場所で活動しているとはまず考えられない。だとしたら木原の居場所は人目につかない場所、つまり、脳無の製造場所である霊安室にいる可能性が高いと垣根は推測していた。

 

 (今のところエンデヴァーの方では木原は見つかってねぇか……)

 

垣根は未元体の得た視覚情報から、まだ木原が見つかっていないことを掴む。すると、

 

 「エンデヴァ~~~~!動いてるぞォォォォ!!」

 

前方からミルコの叫びが聞こえ垣根が意識をそちらに向けると、ミルコの言葉通り薄暗い隠し通路の先に何体もの脳無が待ち受けている姿が視認できた。

 

 「「「GYAAAAAAAAA!!!!」」」

 

絶叫を轟かせ脳無の軍勢が二人に襲いかかる。常人ならば絶望し死を覚悟する場面。しかし、

 

 「おーおー、こりゃビンゴかもな」

 「おんもしれェェ!!!」

 

この二人に常識は通じない。ミルコと垣根はそれぞれ不敵な笑みを浮かべながら、襲い来る脳無の中に飛び込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――蛇腔病院 霊安室。

 

 

 

 

 

 「ハッハッ、ワシがマスターピース、死柄木弔に夢中で他事一切分身に任せているなど知らんものなァ」

 

 真っ暗な霊安室の中で不気味に光る巨大なカプセルの前で殻木が呟いた。カプセルの中には水が充満し、人らしき影が映っている。殻木は急いで移動式の椅子に座ると、その椅子を動かした。

 

 (しかし忌々しいヒーローめ。この病院を捨てていいものか。個性を1つ複製培養するのにどれだけの設備とどれだけの時間が必要か。これほどの個性ストックを揃えるのにワシがどれだけ苦労したか)

 

奥の部屋から開けた場所まで移動した殻木は、椅子から飛び降り目的の場所まで走った。殻木が移動してきたこの開けた場所には先ほどのような大きなカプセルがいくつもあり、また、小瓶ほどのサイズの小さなカプセルが無数に置いてある大きな戸棚があった。大きなカプセルの中には満タンの水と異形の怪物の数々。これら全て殻木と木原が生み出した脳無である。

 

 (ここには全てが詰まっておるんじゃ。ワシの人生全てが。AFOとの血香る睦まじい日々が全て)

 

殻木が心の中で今までの苦労の日々を思い返しながら、急いで戸棚からいくつかのミニカプセルを取り出そうとしていると、

 

 「おやおやドクター。そんなに急いでどうかしたんですか?」

 

車椅子に乗った一人の女性が駆動音と共に殻木の背後に現れ、彼に尋ねた。

 

 「おぉ木原君!実はヒーロー共がこの病院を嗅ぎつけたらしい。すぐにここから逃げるんじゃ!」

 「おやおや。それは大変ですねぇ」

 

殻木の言葉にわざとらしく目を丸くした木原だったが、言葉とは裏腹に彼女の表情には余裕そうな笑みが浮かんでいた。

 

 「そうじゃ!だから君も早く逃げる準備をするんじゃ」

 

殻木は木原にそう言いながら目的のカプセルを全て抱え込むと、急いで霊安室の入り口へと走りだした。そして、

 

 「お散歩は終わりじゃよ ジョンちゃん!今すぐワシと死柄木をワープさせるんじゃ!」

 

走りながら入り口付近にいた小さな脳無に指示する殻木。その声を聞き、小さな脳無が動き出そうとした瞬間、

 

 

 ドゴォォォォォォォォォォォォン!!!!!!!

 

 

凄まじい爆音と衝撃によって霊安室の入り口の扉が吹き飛ばされる。壊れた扉の一部が小さな脳無に直撃し、飛び散った扉の破片が戸棚にあるいくつものカプセルを破壊した。突然吹き荒れる破壊の嵐の中、二人の人間がこの霊安室に乗り込んでくるのを殻木と木原はしっかりと目で捉え、乗り込んできた二人、即ちミルコと垣根もまた、霊安室にいる殻木達の姿に気がついた。

 

 「へっ!テメェは本物かぁ!?」

 「ヒェェェ~~~~!!!」

 

不敵に笑いながら言い放つミルコに怯える殻木。そして、

 

 「よぉ、久しぶりだな。殺しに来たぜェ木原クン」

 「……これはこれは。思わぬ再会となりましたねぇ。垣根帝督」

 

垣根と木原。科学によって生まれた二人の怪物が今再び相まみえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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