ドォォォン!!ズガッッッッ!!!ズドォォォォン!
霊安室内で激しい戦闘音が次々と鳴り響き、その度に重苦しい衝撃が室内を駆け巡る。霊安室内入り口付近では未元体と脳無による集団戦闘が開始され、それは時間を経るごとに苛烈さを増していた。ハイエンド及び二ア・ハイエンドは全個体個性複数持ちであり、その中でも特に厄介な個性が再生能力だ。個体ごとに持っている個性は違うものの、再生個性だけは全個体に常備されている。そのためヒーロー達がいくら攻撃を加えても、脳無の傷はすぐに治ってしまう。さらに、脳無の身体能力は個性に関係なくずば抜けたものであり、プロヒーローと比較しても遙か上を行く。それこそ脳無の身体能力に対抗できる人間など現役時のオールナイトくらいのものだ。そんな脳無の中でも最上級のスペックを持つハイエンドと二ア・ハイエンドは未元体との戦いにて暴虐の限りを尽くしていた。
「GYAAAAAAA!!!!」
獣じみた唸り声を上げ、丸太のような太い腕を未元体に振るう。ドッッ!!という衝撃と共に未元体が吹き飛ばされ、激しい音と共に霊安室の壁に激突した。壁が破壊され、土煙が立ちこめる中ハイエンドがじっと見つめていると、まるで何事もなかったかのように未元体が歩きながら姿を現した。ハイエンドがその白い身体を観察するも、傷らしい傷は一つも付いていないことに気付きスッと目を細めばがら尋ねる。
「無傷。お前も再生持チ?」
『…あぁ。そうかもな』
「…お前、厄介」
ハイエンドが低い声で呟くと、スッとその場で腰を沈め両腕部に力を込める。すると、
ボッッッ!!
突然ハイエンドの両腕が二回りほど肥大化する。素の状態でさえ丸太のように太く並外れたパワーを持つ腕が、身体強化の個性でさらに力を増したのだ。ハイエンドはそのまま未元体を見据えると、
「殴リ殺ス!」
醜く顔を歪ませながら叫び、力強く床を蹴った。
ダッッッッッッ!!!
常人ならざる脚力が爆発的加速を生み出し、黒い巨体が猛スピードで未元体目掛けて駆けていく。未元体との距離がみるみる縮まり、またたく間に眼前に迫るとハイエンドはそのまま大きく右腕を振り上げた。未元体は迫り来るハイエンドを冷徹な眼差しで見つめ返す。そして、
ブンッッッッッ!!
凄まじい風切り音と共に、ハイエンドの右腕が未元体目掛けて振り下ろされた。巨大な拳が迫る中、未元体は小さく左に跳ねハイエンドの拳を躱すと、そのまま右足をスッと上げ横一線になぎ払った。
スパンッッッッ!!!
放たれた未元体の右足はハイエンドの胴体を真っ二つにし、上半身と下半身が別々に地に落ちる。
「ナ、ナにガ…!?」
上半身だけの状態になりながらもハイエンドは困惑した様子で呟くと、未元体が上半身だけのハイエンドの前に立った。未元体は無表情のまま眼下のハイエンドを見下ろしている。そんな未元体を見上げながら視線を返すハイエンドだったが、ふと未元体の右足を見ると驚きの声を上げた。
「そノ足…剣…!?」
『……』
変わらず黙ったままハイエンドを見下ろす未元体だが、その右足はハイエンドの言う通り剣の形になっていた。未元体は右足を振り抜く直前に自身の足を剣へと変形させ、ハイエンドの胴体を切り裂いたのだ。
「分裂二再生二変形…人間デソコマデ個性複数持チハあり得ない。何者ダ?」
『今から死にゆくテメェに教える事なんざねぇよ』
そう言いながら未元体は再び右足を上げハイエンドの頭部に狙いを定めると、
ゴッッッ!!
轟音と共に剣の形となった右足が発射され、ズチャッ!と音を立てながら剥き出しになったハイエンドの脳を貫いた。
「ギャッ……!?」
頭部を貫かれたハイエンドは短い奇声を上げると、そのまま力なく倒れ込んだ。
◆
「ほうほう。なるほど。これは凄いですねぇ」
ハイエンドと未元体の戦いを見ながら木原が興味深そうに呟く。すると、
ヒュッッッッッ!!
風切り音と共に白い翼が木原へと襲いかかる。攻撃を察知した木原は、車椅子の蜘蛛のような脚部を素早く動かしその場を離れた。
ズガンッッッッッッッッ!!
白い翼が直撃し、轟音と共に床を崩壊させる。そして白い翼の持ち主である垣根はゆっくり床に降り立つと、攻撃から退避した木原をじっと睨めつけた。
「チッ、ちょろちょろとウゼェな」
「それにしても驚きました。まさか未元物質による人体精製を可能にするとは…」
「…」
「はじめは形を模しただけのハリボテかと思いましたが、いやはや流石は第二位といったところですか」
(こいつ…)
垣根は心の中で思わず呟く。木原に未元体を見せたのはこの場が初めてであるにもかかわらず、この短い時間で木原はその本質を理解している。垣根は改めて目の前の怪物に対し警戒心を高めていた。
「やはりあなたの能力は素晴らしい。是非私と一緒に…おっと!」
木原が言い終わる前に翼の羽が飛来するも、車椅子を動かし躱す木原。すると、
轟ッッ!!
垣根の翼がはためき、轟風と共に垣根の身体が射出される。そして瞬く間に木原との距離を詰めると、そのまま勢いよく右足を振り抜いた。
ガンッッッッ!!
垣根の右足を木原の車椅子の側部から出た鋼鉄の盾が受け止める。さらに、車椅子の背後から大きな機械のアームのようなものが出現すると、即座に垣根に襲いかかった。
「チッ」
舌打ちと共にその場を退避する垣根。垣根を捉えられなかったアームはそのまま床に直撃し、ガシャンッッ!!という派手な音と共に床を破壊した。木原はアームを自身の元へ戻すと、垣根の右足を受け止めた盾を見つめ、平坦な口調で呟いた。
「ふむ…未元物質による物理攻撃の強化。それも威力は上々。このようなスタイルはあまり記憶にありませんが、これもあなたの言う『成長』の内の一つなのでしょうか」
「いちいちうるせぇ野郎だな。黙って戦うって事が出来ねぇのかテメェはよ」
木原の言葉に悪態で返す垣根だが、内心では木原の態度に違和感を覚えていた。
(ちょくちょく迎撃してきてはいるがそれだけ。基本俺の攻撃をいなし、かつ常に俺を先に行かせないような位置取り…よほど俺を殻木の元へ行かせたくねぇのか?)
「?どうしました?」
「そんなに俺を殻木の元へ行かせたくねぇか?」
「えぇ。特に今は困ります」
「…テメェがそこまで拘る程のものか」
「……」フッ
「この先に何がある?」
垣根は木原に対し素直に尋ねる。すると、
「そうですねぇ…」
木原は顔に笑みを浮かべ、もったいぶりながらも言葉を続けた。
「言うなれば、私とドクターが手塩にかけて育て上げた至極の一品、といったところでしょうか」
「テメェと殻木が?」
「えぇ。凄いですよーアレは。もし完璧に起動したとなれば…」
「……」
「アレは
「!?」
木原の言葉に思わず目を見開く垣根。レベル5。垣根を含め、学園都市に7人しか存在しない最高位の能力者達のことを指す。その力は一国の軍隊にも匹敵するとまで言われる規格外の存在だ。そんな常軌を逸した存在と同等の存在がこの先にいるという木原の言葉に、流石の垣根も驚かずにはいられなかった。そんな垣根の様子を察したのか、木原はさらに満足そうな笑みを浮かべた。
「…レベル5だと?」
「えぇ」
「…ほぉ、随分と大きく出たな」
「フフッ…まぁあなたもすぐに分かりますよ」
木原は微笑みながら垣根に言葉を返すと、その態度を見て垣根は直感的に悟る。
(どうやら嘘やハッタリの類いではなさそうだな。少なくともこいつは本気でそう思ってやがる)
垣根は木原や周囲の脳無達を視界に入れつつ数秒の間思考を巡らせる、そして、
(今はあれこれ考えても仕方ねぇ。どの道こいつがここにいる以上、俺も先には進めねぇからな。となれば…)
思考を切り替えた垣根は、この先のミルコと未元体に意識を向けた。
(今はアイツらをあてにするしかねぇな)
そして垣根は再び翼を広げると、木原に向かっていった。
◆
「オォォォラァァ!!」
ミルコの右足が勢いよく繰り出されるも、身をよじることで難なく躱すハイエンド。すると、
「オォォォォォォ!!」
ミルコの背後に回った巨体のハイエンドがミルコに襲いかかった。しかし、
ヒュンッッッ!!
風切り音と共に、一枚の白い翼がハイエンド目掛けて一直線に伸びていく。
「!?」
自身への攻撃に気付き咄嗟に腕で防御するハイエンドだったが、翼による衝撃を殺しきれずそのまま後方の水槽に叩きつけられた。ガシャンッッ!!と音を立てながら水槽が崩れ落ちる。一方ミルコは、二、三度と後方へ大きく跳躍し体勢を整えると、目一杯足に力を乗せ再びハイエンドに向かって飛び出した。対するハイエンドも頭部から骨を伸ばしミルコに向けて放つ。
「ハァァァァァ!!!」
迫り来る骨の鞭を素早い跳躍で何度も躱し、ハイエンドの攻撃をくぐり抜けていくミルコ。そしてハイエンドの目の前まで迫ると、落下の勢いを乗せてその右足を振り下ろした。
「ウォォォラァ!!」
雄叫びと共に繰り出された踵落としだったが、ハイエンドは顔を逸らし間一髪の所でそれを躱す。ミルコは思わず口元をつり上げた。
(当たんなくなってきた…!)
その直後、背後から再び骨の鞭がミルコに襲いかかってくるも、察知したミルコは跳躍することでそれを躱すと、そのまま空中から三体のハイエンドを見渡した。
(私が削がれたからじゃねぇ。テメェの体はテメェが一番よく分かる。コイツらの目が覚めてきたんだ…!)
そして未元体もまた、先ほど吹っ飛ばしたハイエンドが何食わぬ顔で起き上がる姿を見ながら彼らの脅威的な能力に着目していた。
(この頑強さに再生を筆頭とした数多くの個性…時間が惜しい今、面倒くせぇことこの上ねぇな)
すると、ミルコが水槽の上にスタッと着地する。
(おもしれぇ。けど…しゃあねぇ」
ミルコがボソッと一言呟くと、再びハイエンドが骨の鞭をミルコに放つ。すかさず跳躍し、その場を離れたミルコは地面に着地すると、ダッッ!と力強く地面を蹴り上げハイエンド達との距離を詰めていった。ハイエンド達は思わず構える姿勢を見せるが、そんなハイエンド達を意に介すことなくミルコはハイエンド達を追い越していった。
(目標はジジイ!死柄木!)
ハイエンド達もすぐに後ろを振り返り、ミルコが猛スピードで駆けていく方角を見るとミルコの意図を即座に理解した。
「また博士のもとへ。バカな女!」
ハイエンドが即座に頭部から骨を伸ばし放つと、骨の鞭が無防備なミルコの背に迫る。そのままミルコの身体を貫かんとしたその時、
ドンッッ!!!
突然、目の前に白い塊が現れ骨の鞭を受け止めた。そして六枚の白い翼を勢いよく解放させると、未元体がハイエンド達と対峙した。
『テメェらの相手は俺だ。あの女止めたきゃ俺を殺してからにしな』
未元体がハイエンド達に言い放つ。未元体もハイエンド同様、ミルコの意図を一瞬で理解しミルコの代わりにハイエンド達を相手すべく即座に動き出していたのだ。攻撃を阻害されたハイエンドは忌々しげに大きく舌打ちした。
(サンキューテイトク!)
ミルコは背後で時を稼いでくれている未元体に心の中で礼を言うと、そのまま奥の部屋へと急ぐ。ミルコを追いかけるため、その行く手を塞ぐ未元体に対し三体のハイエンドが一斉に襲いかかった。
「「GYAAAA!!!!!」」
まず巨体・女型の二体のハイエンドが未元体に迫る。すると未元体は両手を前にかざし、それぞれを向かってくる二体のハイエンドに照準を合わせた。二体のハイエンドを十分引きつけると、
ドンッッッッッッッッ!!!
轟音と共に未元体の両腕が巨大な翼へと変化する。二翼の羽全てが鋭い槍へと変ずると次の瞬間、爆発的な射出が繰り出された。
「!?」
「ガァッ……!?」
二翼から発射された無数の槍は、一方は巨体のハイエンドの全身を貫き、もう一方は女型のハイエンドの半身をえぐり取った。
『まず一体』
串刺しになった巨体ハイエンドを確認しながらそう呟く未元体を、女型ハイエンドは驚愕の表情を浮かべなら見つめていた。
(何…?コイツの個性…体の変形?じゃああの個体数は?あの白い翼は?それらも個性の内の一つ?それとも私たちと同じ、個性の複数持ち?……ワカラナイ)
傷を負った箇所を再生させながら女型は思考を巡らせ未元体について考察するも、考えれば考えるほど頭の中に疑問符が増えていく。すると、未元体の視線が女型へと移り未元体の口から無機質な声が発せられた。
『さて、次はテメェかそれとも……』
バチバチバチッッッ!!
未元体の言葉を遮るかのように、突如激しい雷撃音が聞こえてきたかと思うと次の瞬間、眩い閃光が未元体に直撃した。
ズドォォォォォォン!!
轟音が鳴り響き、未元体周囲に土煙が舞い起こる。女型が上の方を見上げると、水槽の上部に蜘蛛のように貼り付きながら、大口を開けた二ア・ハイエンドがいることに気付いた。口の中から煙が立っているところを見るに、あの二ア・ハイエンドが未元体を急襲したのだろう。女型はこの機会を逃すまいと骨個性のハイエンドに合図を送ると、それに気付いた骨個性のハイエンドはすぐさま駆け出し、ミルコの後を追っていった。すると、
『痛ってぇな』
土煙の中から声が響いた次の瞬間、未元体は勢いよく煙の中から飛び出し骨個性のハイエンドの後を追う。しかし、
『!』
背後からの殺気を感じ、未元体が咄嗟に翼で身を包んだ直後、女型ハイエンドの回し蹴りが翼に激突し未元体の身体は三メートル程ふき飛ばされてしまった。どうにか勢いを殺し体勢を立て直した未元体だが、目の前には女型のハイエンドと先ほど自分に雷撃を放った二ア・ハイエンドが立ち塞がっていることに気付き、舌打ちをしながら二体のハイエンドを見つめる。
「今度は立場が逆ネ。行かせないワ、アナタ」
『…テメェら化物と遊んでる時間はねぇんだがな』
「化物?アナタだってソウじゃなイ」
そう言うと、女型ハイエンドと二ア・ハイエンドが同時に駆けだし未元体へ迫った。未元体も二体を迎え撃とうと構えたその時、
ドォォォォォォォォォォン!!!
霊安室の入り口が爆発音と共に爆炎に包まれた。
◆
「ハァ…ハァ…ハァ…」
息を切らしながらミルコは暗く狭い一本道を駆け抜ける。ここまでに至るハイエンドとの死闘でミルコの体力はそうとう消耗していた。体中至る所に傷を負い、血がコスチュームに滲んでいる。普通の人間なら歩くことすらままならない傷を負っていても、ミルコの足は止まらない。この先にいる殻木及死柄木を捕らえる、という意志だけがヒーロー・ミルコを突き動かしていた。すると、
「!」
ミルコの前方に光が指す。この一本道の出口らしきものであり、同時にこの先に殻木がいるとミルコは本能的に直感した。出口目前まで迫ったミルコは助走の勢いを足に乗せると、勢いよく跳躍しその出口に飛び込んだ。
「…ッ」
飛び込んだミルコが出た先は一つの部屋。いくつもの太いパイプが部屋の中央にある巨大な水槽に繋がり、その水槽の中には一人の人間らしきものが入っていた。そして唐突に部屋に侵入してきたミルコを殻木が怯えた表情で見上げ、その口から悲痛な叫びを轟かせた。
「いやぁぁああああ~!」
殻木が悲鳴を上げる中、ミルコの視界には既に中央の水槽しか捉えていなかった。水槽の中に入っているのは他でもない死柄木弔。とすればミルコのすることは一つ。
「あれかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
絶叫と共にミルコは右足を高くかかげ眼下の水槽に照準を合わせると、その右足を勢いよく振り下ろした。