かの悪党はヒーローへ   作:bbbb.

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八十一話

 

 エンデヴァーの灼熱と共にエンデヴァーや相澤達が一斉に霊安室になだれ込む。そこでヒーロー達の目に入ってきた光景は、なんとも言い表しがたい壮絶な光景だった。大量の脳無と未元体があちこちで戦闘を繰り広げ、霊安室の中は壊滅的な状態になっていた。相澤達が呆気にとられてる中、近くにいた一体の未元体が相澤達に呼びかけた。

 

 『エンデヴァー。イレイザー。あんたらは奥の部屋に行ってくれ』

 「テイトク!ミルコは?」

 『奥だ。殻木追って奥の部屋に行ってる』

 「分かった。任せろ!」

 

エンデヴァーが短く返事をすると、足から炎を噴射させ奥の部屋へと向かっていった。相澤達もエンデヴァーを後に続く。それを遠くから見ていた垣根はフッと笑いながら木原に言った。

 

 「どうやらエンデヴァー達が到着したらしい」

 「……」

 「殻木達の方にもまだ動きはねぇ上にこっちには相澤もいる。これはチェックだな」

 

垣根が得意げにそう言うと、木原は大きくため息をつき残念そうな様子で答えた。

 

 「確かに。これ以上はもう持ちそうにありません。私の可愛い子達がこんなに蹂躙されるなんて」

 

そう言いながら木原が辺りを見渡すと、霊安室の床にはハイエンドの死骸や肉片がそこら中に転がっていた。数では木原のハイエンド軍団の方が多かったはずだが、数の劣勢をものとせずみるみるハイエンドの死骸の山を築き上げていった未元体。木原は改めてこの兵隊達の恐ろしさをその身で感じた。

 

 「どうする?降伏するか?ま、したところでスクラップになんのは免れねぇけど」

 「ハァ…残念です…本当に」

 「…?」

 「出来ればアレを100%で覚醒させたかったというのに」

 「あ?」

 

垣根が聞き返すと、木原は車椅子の手すり部分にあったスイッチをポチッと押す。すると、ウィーンと音を立てながら車椅子の背後が開き、そのなかから小さな脳無が出現した。脳無は木原の膝の上に移動すると、その口を開けた。

 

 バシュッッッ!!

 

突如木原の近くに黒いモヤが出現した。これは垣根が以前見た、敵連合の一味である黒霧の個性、ワープを発動させたときに現れるものとまったく同じモノだった。垣根が目を見開いている中、木原が笑みを浮かべながら垣根に言った。

 

 「それではさようならです垣根帝督。また会えるときを楽しみにしていますよ」

 「テメッ…!?」

 「残念ながら今回はまだアナタと殺し合う時ではない。なので今回はここまでです」

 

そう言いながら木原は黒いモヤの中に入っていく。

 

 「ざけてんじゃねぇぞ木原ァ!!」

 

 轟ッッ!!

 

白翼をはためかせ、猛然と木原に迫る垣根。この距離ならば木原がモヤの中に消える前に捉えられる。そう垣根が考えたその時、

 

 ドンッッッ!!

 

大きな地響きと共に、突如頭上から大きなハイエンドが落下し木原と垣根の前に降り立った。

 

 「テメェッ…!」

 「そうそう、一つ私からありがたい忠告です」

 「!」

 「死にたくなければ一刻も早くこの院内から立ち去った方がいいですよー。この先私とまた死合いたいなら、ね」

 「待ちやがれぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

垣根の叫び声も虚しく、木原は謎の忠告を残して闇の中に消えてしまった。すると、

 

 「GAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

垣根の目の前に立ち塞がったハイエンドが、咆吼と共に垣根に対し襲いかかる。垣根は奥歯を噛みしめ、怒りの表情を滲ませながら目の前のハイエンドを睨み付けると六枚の翼を一斉に放った。

 

 ブシュッッッ!

 

鈍い音を鳴らしながら六枚の翼全てがハイエンドの身体を貫いた。「アッ…!?」とうめき声を漏らしながらハイエンドの足が止まる。そして、

 

 「消えろ」

 

垣根が小さく呟いた直後、

 

 ボォォォォォォォォン!!!

 

派手な音と共に目の前のハイエンドの肉体が盛大にはじけ飛び、上半身の肉片があちこちに飛び散った。残ったのはハイエンドの下半身だけだが、この状態から再生することは流石のハイエンドでも不可能だ。だが、垣根は爆散したハイエンドには目もくれず、翼をはためかせて飛び立つと奥の部屋へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (視界に入った瞬間に体が理解しやがった!兎の生存本能!ダメなやつだ!ダメだこれは!これは出しちゃいけねぇ!何を差し置いても!)

 

 ミルコは自身の右足を振り下ろしながら、目の前の死柄木を見つめる。全身の細胞という細胞が警鐘を鳴らす。死柄木を、目の前の生物を殺せと。今までのどの敵とも格が違う。もしこの怪物を世に放てば、想像を絶するような悲劇が生まれてしまうとミルコは肌で理解してしまったのだ。ミルコは自分の本能に従い、目の前の水槽を破壊するべく右足を振り下ろす。

 

 「やめろォォォォォォ!!」

 「ウォォォォォォォォ!!!」

 

 パリンッ!

 

ミルコの踵が水槽に触れ、触れた箇所にヒビが入る。このまま一気に足を振ろうとしたその時、

 

 ブシュッ!ブシュッ!

 

新たな骨の鞭がミルコの下へ飛来し、ミルコの左足と右腕を貫いた。その衝撃でミルコの右足が一瞬止まる。だが、

 

 「あああああああああ!!!」

 

激痛に耐え、骨の鞭によって引き戻されそうになる自分の身体を必死にこらえながらその右足を振り下ろした。

 

 「踵半月輪(ルナアーク)!!」

 

 ズドォォォンッッ!!!

 

水槽が大きなヒビが入り、中から水があふれ出る。と同時に、ミルコの身体が骨の鞭によって引っぱられ部屋から押し出されてしまった。

 

 「アァァァ!クッソォォォ!!」

 

自分の意志とは裏腹に、自身の身体が部屋から遠ざかっていくことに悪態をつくミルコ。そして一本道の入り口付近まで戻されると、ミルコの身体は空中へと投げ出された。

 

 「ぬぅぅぅぅぅ!!」

 

空中ですかさず受け止めたたエンデヴァーは衝撃を殺しながら床に着地すると、ゆっくりとミルコを床に降ろした。

 

 「ミルコ!」

 「うっ…うぅ…」

 「傷を焼く。耐えろ」

 (複数の喋る脳無を相手していたのか)

 

エンデヴァーはミルコがハイエンド相手に死闘を繰り広げていたことを察し、彼女の胆力に思わず舌を巻いた。

 

 「うぅぅ……!!」

 

傷が焼ける痛みに苦悶の声を上げるミルコを見ながら、エンデヴァーは改めて感謝の言葉を口にした。

 

 「九州に続き借りができた。死ぬなよ」

 「何かっ…貸したっけ…?」

 

ミルコが苦痛の表情を浮かべながらもなんとか絞りだすような声で呟くと、

 

 「No.1だ!」

 

突如エンデヴァーの頭上から声が聞こえる。エンデヴァーが上を見上げると天井近くに女型のハイエンドが貼り付きながらこちらを見下ろしている姿が目に入った。すると、女型のハイエンドは顔を歪ませ一直線にエンデヴァー目掛けて落下する。

 

 「もっとキモチ良くサセてくれソうっ!」

 「くっ…!」

 

まだミルコの治療が終わっていないこの状況下で戦いを仕掛けてくるハイエンドに苛立ちながらも、戦闘態勢を取ろうとしたエンデヴァーだったが、

 

 ドッッッッッ!!

 

 「ギャッ……!?」

 

落下してくるハイエンドの顔面が白い足で蹴り飛ばされ、短い悲鳴と共にハイエンドが吹き飛ばされる。エンデヴァーが視線をずらすとそこには一体の未元体の姿があった。

 

 『テメェの相手は俺だろ』

 「あれは…テイトクの個性か」

 

エンデヴァーがひとりでに呟くと、今度は足下のミルコが耳のインカムを弄り通信を行なった。

 

 「みんな聞け…死柄木はカプセルに入ってる。カプセルはおそらく起動装置だ。脳無のヤツら電気が走って動き始めた。バチッつって。死柄木を起こすな!あれはもうただの小悪党じゃねぇ!」

 「…エクスレス、マイク!行ってくれ!」

 「わかってんよ!」

 「任せろ!」

 

相澤の言葉を受けマイクとエクスレスが奥の部屋へと走って行くと、一体の二ア・ハイエンドがカプセルに貼り付きながら彼らの背中を見据える。そして、

 

 バチバチバチバチッッッ!!

 

激しい雷撃音を鳴らしながら口の中にエネルギーを溜めていき、二人の背中に放とうとしたその時、

 

 シュッ!

 

突如二ア・ハイエンドの雷撃が消失する。二ア・ハイエンドは戸惑いながら自分の身体を見るが特に異常は無い。だがどういうわけか、再び電撃の個性を使おうとしても自身の身体から電気が発生することはなかった。二ア・ハイエンドが困惑していると、

 

 シュンッッ!!

 

突然前方から大きなフリスビーのような盾が空を切り裂き、カーブを描きながらこちらに飛来する。個性消失に気を取られた二ア・ハイエンドは迫り来る盾への反応が遅れ、そして、

 

 グシャッ!

 

二ア・ハイエンドの剥き出しになった脳に盾が直撃し、二ア・ハイエンドは短い悲鳴を上げながら地面へと落下した。

 

 「よし!やったなイレイザー!」

 「えぇ」

 

盾を投げたヒーロー・クラストのグッドサインに相澤は短く答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガラッ…

 

 瓦礫の中から女型のハイエンドがユラリと立ち上がると、眼前の未元体を見つめる。そして、

 

 「もっト…キモチ良くサセてくれ!!」

 

叫び声と共にハイエンドの両太ももが一瞬で膨れ上がり、バシュッ!と盛大に炸裂した。弾けた太ももは無数の液体の弾丸へと変化し、一斉に未元体へと襲いかかる。

 

 『……』

 

立ち尽くす未元体の身体を液体の弾丸が次々と切り裂いていき、遂には頭部をも抉り取る。全て打ち終えたハイエンドは傷だらけの未元体の様子を見ると満足げに顔を歪ませた。だが、

 

 「!?」

 

ハインエンドの表情は一瞬で驚きの色に染まる。今し方ハイエンドが未元体の身体に付けたいくつもの傷がシュウゥゥゥ…と音を立てて塞がっていき、数秒後には時でも戻したかのような傷一つない未元体がそこに立っていた。ハイエンドが思わず驚きの声を上げる。

 

 「お前モ再生持チか!?」

 『そのセリフ、今日だけで何回聞きゃいいんだ俺は』

 

未元体がため息をつきながら面倒くさそうに言うと、ハイエンドは表情を歪ませ、そしてダッッ!と地面を蹴り上げた。

 

 「いいわ!いいワよアナタ!やっぱりアナタハ私たちと同ジ化物!」

 

狂ったように叫びながら未元体目掛けて走るハイエンド。未元体は無表情のままじっと見据える。

 

 「もっト…もっト!もっト!!!!」

 

ずば抜けた身体能力故の俊足を活かし、瞬く間に未元体の前に躍り出るとハイエンドは勢いよくその右足を振るった。

 

 ブゥンッッッ!!!

 

激しい風圧を伴うほどの蹴りが振り抜かれる。そのあまりの威力のせいか、直撃を喰らった未元体の上半身は跡形もなく消し飛ばされてしまった。一見ハイエンドの勝ちが決まったかのように思えたが、当のハイエンドはなぜだか首をかしげていた。

 

 (感触ガなかっタ…まるデ自発的二身体ガ消えタヨウナ…)

 

空中で足を振り抜いた体勢のまま、違和感の正体を探ろうと首だけを未元体の方へ向けようとしたその時、

 

 シュッ!

 

消え去った未元体の腰から上が瞬時に形を形成し、瞬く間に身体を元の状態に戻すと、未元体はハイエンドが振り向くより早くハイエンドの背中に手を当てた。すると、

 

 バシュッッッッ!!!

 

突然、ハイエンドの腹部から何本もの白い槍が出現する。まるで背後から刺されたかのように白い槍はハイエンドの背中から腹部を貫通し、傷口からは大量の体液が噴き出した。

 

 「ガハァ……ッッ!!」

 

ハイエンドは思わずうめき声を上げながら地面に倒れ込むと、苦しそうに頭上の未元体を見上げた。そこには先ほどと変わらず、何の感情も読み取れない表情を浮かべながら冷徹な眼差しで自分を見下ろす未元体の姿があった。そして、

 

 グシャッッ!!

 

未元体の翼がハイエンドの剥き出た脳を貫くと、ハイエンドは短く身体を震わせた後そのまま動かなくなった。

 

 「…終わったか」

 

未元体がハイエンドを倒したのを見届けると、相澤はゴーグルを外し眉間をつまみながら一息つく。さらにそこへちょうど垣根も到着し、ボロボロの状態で横たわるミルコの元へ近づいていった。すると、垣根の接近に気付いたエンデヴァー彼に声をかけた。

 

 「ちょうど良いタイミングだ。テイトク、ミルコを看ていてくれ。俺は皆の加勢に加わる!」

 

そう言い残すと、エンデヴァーは垣根の返事も聞かぬうちに足から炎のジェットを吹かせて飛んで行ってしまった。垣根はエンデヴァーを黙って見送った後、床に横たわるミルコへと向き直る。

 

 「……随分酷ぇ有様だが、なんとか生きてたか」

 「…へっ…ったりめーだッ…こんなとこでくたばってたまっかよ」

 「ハッ」

 

いつものように不敵に笑いながら言葉を返すミルコに垣根は口元をつり上げる。すると、

 

 「イレイザー!捕まえたぜ!」

 

奥の部屋へと繋がる廊下からマイクが姿を現し、陽気な声で相澤に言った。出てきたマイクの肩には一人の老人が担がれていた。相澤はその老人が殻木であることを認識する。垣根もまたその様子を見つめていたが、その表情はどこか険しさが残ったままだった。

 

 (なんだ?この嫌な感じは…)

 

垣根は心の中で自問する。ヒーロー達の加勢もあってか、戦況は垣根達ヒーロー側が優位な状況。それに加え、マイクが目標の一人である殻木を捕らえてきてみせた。まだ中からエクスレスが出てきていないがこの様子だと近いうちに死柄木も捕らえて出てくるだろう。負傷者は出したものの、作戦はこの上なく順調に進んでいると言って良い。そんな状況だというのに、なぜか垣根は心の中がザワつくような嫌な感覚を感じていた。垣根は再び木原との会話や先ほどのミルコの通信を思い出す。木原の言っていた『至極の一品』。奥の部屋にいたのは殻木と死柄木。そしてミルコの警告。それらを頭の中で組み合わせ、垣根はあらゆる可能性を探っていく。もし、この不利な状況を一手で覆せるようなナニカが奥の部屋にあるとしたら…

 

 「まさか――――」

 

垣根は呟きながら奥の部屋へと続く廊下を見つめた。すると、

 

 ズドドドドドドッッッッ!!!

 

突如奥へと続く廊下全体にヒビが入り、瞬く間に全てが塵になっていく。突然の事に呆気にとられていたマイクだが、いち早く反応したグラントリノがジェットを吹かしなんとかマイク達を回収すると、間一髪で崩壊の波から逃れた。

 

 (これは死柄木の崩壊!いやしかし接触するモノに伝播している!唯一情報のなかった死柄木の強化内容…このことか!?)

 「全員退避!ヒビに触れるな!死ぬぞ!」

 

グラントリノが叫ぶと、ヒーロー達も慌てて出口へと向かって走り出した。垣根も急いでミルコを抱えると出口へと飛び立った。

 

 パリン!パリン!パリン!パリン!

 ズガガガガガガガガガッッッ!!!

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッ!!!

 

崩壊の波が霊安室内全てを呑み込み、原子レベルから破壊していく。それはヒーロー達だけでなく脳無達にも及び、崩壊の波に触れた脳無達は一瞬で身体が崩れ去っていった。

 

 (これは…死柄木の『崩壊』…。なるほど。これが奴の言ってたものの正体か)

 

垣根は空を飛びながら後ろを振り返り、迫り来る崩壊の波を見つめながら木原の言葉の真意を理解する。木原と殻木が秘密裏に行なっていたことは死柄木弔の個性・『崩壊』の強化。死柄木の個性は五指で触れた箇所を崩壊させるという、元から凶悪な個性だったが範囲が限定的という短所もあった。しかし、木原と殻木によって改造された死柄木は触れた箇所から爆発的なスピードで崩壊を伝播させ、圧倒的広範囲に広げることが出来る。今の死柄木はその気になれば、一瞬で辺り一帯を更地に変えることが出来る、正真正銘の怪物へと変貌したのだ

 

 「…まさに起死回生の一手ってわけか」

 

垣根はひとりでに呟きながらも出口へと急ぐ。崩壊の波はあっという間に霊安室全てを更地にしたが、それでも破壊の連鎖は止まらない。霊安室から出たヒーロー達を追い立てるかのように崩壊の波も霊安室外へと広がり、轟音と共にみるみる院内の全てを崩壊させていく。

 

 「チッ…!」

 

院内の全てを塵にしながら迫り来る崩壊に垣根は思わず舌打ちをすると、

 

 轟ッッッッッ!!

 

六枚の翼を力強くはためかせ爆発的な加速と共に院内を駆け抜ける。そしてなんとか病院の外へ出ると、そのまま上空へと浮上し改めて眼下の蛇腔病院を見下ろした。すると、

 

 ズドォォォォォォォォォォン!!!!

 

地響きのような衝撃と共に蛇腔病院全体が崩れ落ち、崩壊の波が山を下っていく。病院の近くにあったビルや建物にも崩壊が伝播し、伝播した数秒後には轟音と共に崩れ落ちていった。今この瞬間、蛇腔病院一帯は壊滅したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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