かの悪党はヒーローへ   作:bbbb.

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八十三話

 

 「ハァ…ハァ……くっ…!」

 

 苦悶の表情を浮かべ、肩で息をしながらミッドナイトは周囲に視線を配る。自身の周りには四人の敵が円を描くように自分を囲んでいる。先刻、ギガントマキアを眠らせようとマキアに近づいたミッドナイトだったが、近くに潜んでいた敵連合の存在に気付かず、奇襲を受けてしまった。空中から落下したため、その体へのダメージは決して軽いものではなかったが、そこへさらにミッドナイトの落下に気付いた敵の襲撃にあってしまったのだ。

 コスチュームの薄いタイツはあちこちが破れ、立っていることもやっとな状態でもなんとか敵の攻撃をいなし続けていたミッドナイトだったが、ついに体力の限界が近づいてきた。ミッドナイトの視界が霞んでいく中、敵の内の一人がゆっくりと前に出ると、エネルギーを集約させた右手を力一杯振るった。

 

 「死ね!ヒーロー!」

 (ここまでか……)

 

ミッドナイトは自身の死を悟り、諦観と共に瞼を閉じる。すると、

 

 ドゴッッ!

 

突然鈍い音が聞こえ、さらに、

 

 「ごはっ……!?」

 

敵の男のうめき声も遅れて聞こえてきた。思わず目を開けたミッドナイトの視界に入ってきたのは、真っ白な後ろ姿と六枚の翼。あまりにも突然の出来事に言葉を無くしていたミッドナイトだったが、特徴的な外見から目の前の人物が垣根の生み出した未元体であることをすぐに理解した。さらに、彼女がふと視線をずらすと先ほどミッドナイトにトドメを刺そうとしてきた敵が気絶して横たわっている姿が目に入る。

 

 「あなた…どうして、ここに……?」

 『クソ真面目な副委員長の命令でね。アンタを助けに来た』

 「助けにって…」

 

ミッドナイトが言葉を詰まらせながら未元体を見上げていると、

 

 「助けに来た?たった一人で?馬鹿かお前」

 「お前みてぇなガキ一人来たところで、何が出来るんだよ」

 

ミッドナイトを囲む敵達が嘲笑と共に戦闘態勢に入る。そして、

 

 「ガキが!あの世で後悔しやがれ!」

 

三人の敵が一斉に未元体に襲いかかった。敵達が距離を詰めてくる中、未元体は左右三枚の翼をそれぞれ一つ重ね合わせ、形を変形させる。二対三枚の翼は一瞬で人一人掴み取れるような巨大な手へと変貌し、後方から迫り来る二人の敵へ襲いかかった。

 

 「なにっ…!?」

 

完全に不意を突かれた敵二人は未元体の攻撃に反応出来ず、どちらもその体を巨大な白い手によって掴み取られてしまった。捕まった敵達は必死にもがくも、拘束する力は一向に緩まない。未元体は後ろが片付いたことを察すると前方より迫る敵に意識を向けた。

 

 「死ねやァァァ!!」

 

敵は絶叫しながら個性によって生えた鋭いかぎ爪を振り下ろし、対する未元体は右腕を盾のように前にかざした。

 

 パキンッッ!!

 

甲高い音とともにかぎ爪を振り抜いた敵が邪悪な笑みを浮かべたその時、振り下ろしたかぎ爪の切っ先が視界に入る。

 

 「!」

 

敵は目を見開いて自身のかぎ爪を見つめる。未元体目掛けて振り下ろしたかぎ爪の切っ先が綺麗に折れてしまっていたのだ。敵は慌てて視線を上げると、未元体の無傷な右腕が目に入った。先ほど自分は確かにかざされた右腕を斬りつけたハズだが、なぜだか目の前の男の腕は無傷で斬り掛かった自身のかぎ爪が折れてしまっている。まさか、鋼鉄のかぎ爪が人間の腕に負けて折られたとでもいうのか。呆気にとられた敵は一瞬無防備な姿を未元体の前にさらす。その隙を未元体は見逃さない。

 

 ドッッッ!

 

鈍い音と共に敵の身体が宙に舞う。下顎部を蹴り上げられた敵はあまりの衝撃に、視界がブラックアウトする。その直後、同じく宙まで飛んだ未元体が敵の顔面をガシッ!と掴むと、そのまま勢いよく地面に叩きつけた。

 

 ガシャンッッ!!

 

派手な音共に地面が砕かれる。叩きつけられた敵は一瞬で意識が刈り取られ、力なく地面に横たわった。

 

 『……』

 

未元体は無言で眼下の敵を見下ろしながら、静かに右手をかざす。すると、白い縄のようなものが掌から出現し、敵の身体に巻き付いていった。さらに、背中越しに捕まえている二人の敵も巨大な手ごと背中から切り離す。

 

 「がはっ……!」

 

うめき声を上げながら地面に落ちる敵二人。必死に身体を捩りながら、二人は未元体を睨み上げるが未元体は無感情な眼差しで見下ろした。すると、

 

 「そこの二人!大丈夫か!?」

 

向こうからヒーローとおぼしき人達が未元体とミッドナイトの元へ駆けつけてくる。未元体は近づいてくる彼らに向き直った。

 

 『こいつらを頼む』

 「敵だな。よし!分かった」

 

ヒーロー達が頷きながら返事をすると、未元体は捕らえた敵の身柄を明け渡した。

 

 (なんて子…たった一人、しかも分身体で四人の敵を倒すなんて…この子が来てくれなかったら私はきっと…)

 『おい』

 「!」

 

突然未元体に声をかけられ、ミッドナイトは顔を上げると未元体は短く彼女に尋ねた。

 

 『怪我は?』

 「え、えぇ。落下したときの打撲がいくつかあるけど、それ以外は大したことないわ。それと、ありがとう。あなたが来てくれなかったら正直かなり危なかった。本当に助かったわ」

 『そうか。まぁそれはそれとして…見たところ、そんな大丈夫そうには見えねぇな』

 「……」

 『あの高さから落ちたんだ。骨も数本逝ってんだろ。つーわけで、あんたはこのまま戦線から離脱しろ』

 「っ!ダメよ!それは出来ないわ!」

 

未元体の言葉にミッドナイトは強く反対する。未元体の言うとおり、先の落下やその後の敵との戦闘によって確かにミッドナイトの身体は弱っているが、それでも前線を離れるわけにはいかなかった。なぜなら、ギガントマキアの存在があるからだ。アレを市街地まで行かせては未曾有の大災害になる。プロヒーローとして、黙って見過ごすわけにはいかない。それに何より、ギガントマキアの進行方向には雄英1年生が待機している場所があった。八百万達がどうのような選択をしたかは分からないが、彼女達の無事を確かめるまで教師である自分が前線を離れるわけにはいかないと、ミッドナイトは強く心に抱いていた。

 

 「ギガントマキアを野放しには出来ないわ。急いで後を追わないと…」

 『マキアなら八百万達が対処してる』

 「えっ…!?あの子達が!?どうして…っ?」

 『敵を前に尻尾巻いて逃げられねぇってよ。あんたが委ねた八百万がそう決めた。尤も、アイツら全員同じ考えだったようだがな』

 「八百万が……」

 

ミッドナイトは静かに呟くと、八百万へ通信したときのことを回顧する。緊急事態だったとはいえ、八百万には大きな重荷を背負わせてしまった。相手はプロが何十人束になっても抑えきれない化物だ。教師としては生徒達を一刻も早く退避させるべきだし、彼女達が退避する選択をしても何ら恥ずべき行動ではない。しかし、生徒達は化物相手に立ち向かうという選択肢を選んだ。なんと勇敢な生徒達だろう。ならば自分も、生徒達を導く教育者として彼らの元へ行かないわけにはいかなかった。

 

 「それなら尚更ここから離れるわけにはいかないわ。教師として、私にはあの子達を生かす責任があるのよ」

 『あんな雑魚共にすら勝てねぇほど弱ったあんたが駆けつけたところで、何が出来るってんだよ?』

 「…それは…」

 『八百万に…アイツらに委ねたんだろ?なら、最後まで信じてやるのも教師の務めなんじゃねぇのか』

 「垣根くん…」

 

悔しいが、確かに未元体の言うとおり今の自分が生徒達の下へ駆けつけたところで、彼らの役に立てそうにない。それどころか、かえって足を引っ張ってしまう可能性だってある。結局自分は生徒達に責任だけ押しつけたまま、なにも助力することが出来ない。そんな自分の不甲斐なさに、ミッドナイトは悔しくて仕方がなかった。すると、

 

 『心配するな』

 「えっ?」

 『この俺がいる限り、アイツらは誰一人として死なせねぇよ』

 「!」

 

不敵な笑みを浮かべる未元体をミッドナイトは驚いた様子で見返す。そしてミッドナイトが何か言葉を返す前に未元体は身を翻し、バサッと翼を広げた。

 

 『悪いがあんたら、ついでにミッドナイトも病院まで連れてってやってくれ』

 「ちょっ…!」

 

敵を連行していこうとしているヒーロー達に未元体が声をかけると、ミッドナイトの言葉を待たずに背中の翼を広げ飛び立って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――side A組・B組対ギガントマキア共同戦線

 

 

 

 ミッドナイト救出のため未元体が皆のもとを離れた直後、八百万達は迫り来るギガントマキアと相対することとなった。八百万は、骨抜の個性を中心にしてマキアの動きを封じ、その間に麻酔液を経口投与することでマキアを眠らせるという作戦を立てた。途中マキアの背中に乗っていた敵連合からの攻撃に苦戦するも、切島の活躍によってなんとか一瓶分の麻酔液を飲み込ませることに成功した。荼毘によって燃やされた森を骨抜が消火している間、生徒達は急いでマキアから離れていき、崖の上から戦況を俯瞰していた八百万はインカムでマジェスティックに無線を繋いだ。

 

 「暴れるほど麻酔の回りが早まるはずです!マジェスティック!」

 「委細承知した!さすが百ちゃん俺の見込んだ女だよ!」

 

八百万からの連絡に意気込んで答えた魔法ヒーロー・マジェスティックは、個性によってリング状のエネルギーをいくつも出現させ、自分含め多くのヒーローをリング状に乗せる。そして、

 

 「さぁ皆さん!インターン生に頼りっぱなしはここまでにしよう!」

 

マジェスティックのかけ声と共に、リングに乗った多数のヒーローがマキアに対し一斉に向かっていった。雄英に入学してまだ1年の生徒達がこれだけ頑張ってくれたのだ。プロや年長である自分達が奮起しないわけにはいかないと、ヒーロー達の闘志に火が灯る。だが、

 

 「小蝿はキリがない。だが払うが最短」

 

突如低い声で呟くマキア。その直後、

 

 ガゴンッ!

 

と音を立て、マキアの顎部を覆っていた分厚い板が額の場所までスライドし仮面のように装着される。顎を覆っていた板がスライドしたことで、マキアの口から生える巨大な牙が露わとなった。

 

 「なんと!」

 

突然のマキアの変化にマジェスティックは思わず進行を止める。さらに、

 

 ゴゴゴゴゴゴッッッ!!!

 

地鳴りのような音を響かせ、次々と身体を変形させていくギガントマキア。背中の岩のような筋肉がさらに肥大化し、両手の指からは長く分厚く鋭い爪が伸び、巨大なかぎ爪に変化する。まるでロボットのように、マキアの身体の様々な部位が変形していく様をヒーロー達は呆然と見つめていた。

 

 「そんな…」

 「マジかよ…」

 「おいおいおい…なんなんだよこいつはぁ!?」

 

生徒達も唖然としながら目の前の怪物を見上げる中、マキアがその左手を掲げ横一線に勢いよくなぎ払った。

 

 ブゥゥゥゥゥゥン!!!

 

爆発的な烈風が辺り一帯に吹き荒れる。左手のかぎ爪に触れた森の木々は木っ端微塵に消し飛ばされ、その余波としての暴風がヒーロー達に襲いかかった。

 

 「なに…っ!これ…っ!?」

 「嘘だろッ…!たった一振りで…!!」

 「この威力かよ…っ!?」

 「今まで全然本気じゃなかったってこと…!?」

 「どうすりゃいいんだよこんな化け物!?」

 「くっ……」

 

吹き荒れる暴風の塊から必死に身を守る生徒達。なんとか自分の身体を飛ばされないよう近くの岩にしがみつきながら、八百万は打開策を模索していた。

 

 (先ほどまでとは違い、明らかに私達やヒーロー達を狙った攻撃…切島さんが投げ入れてくれた麻酔が効くまであの巨人を抑えなければ。ですが…)

 

吹きすさんでいた風がようやく止み、八百万がゆっくりと立ち上がりながら辺りを見渡すと、眼下の木々の悉くが根こそぎ吹き飛ばされ、ほとんど更地のような状態になっていた。腕を一振りするだけでこれだけの被害を出す敵など聞いたことがない。それこそ全盛期のオールマイトでもなければ不可能である。目の前に立ちはだかる規格外の巨人を前に、八百万達はただ呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。

 

 (こんな怪物…私達でどうやって止めれば…)

 

八百万がどれだけ頭を働かせても、戦闘態勢を取ったギガントマキアを抑える策は何一つ浮かんでこなかった。もうダメだと目を閉じ諦めかけたその時、

 

 『聞こえるか、お前ら』

 「!!」

 

突如八百万のインカムに聞き慣れた声が響く。それは、今ミッドナイト先生を救出に行っているはずの者の声。蛇腔病院で敵と戦っているはずの物の声。そして、八百万が最も信頼している者の声だった。

 

 「垣根さん!」

 

八百万は声を弾ませながら垣根の名前を呼ぶ。他の生徒達もインカムから聞こえた声が垣根だと気付くと、嬉しさと驚きが入り混じった反応を見せた。

 

 「垣根ェ!お前遅ぇよォ!」

 「ミッナイ先生は?無事か?」

 『…ミッドナイトは無事だ』

 「「「!」」」

 『だが、俺はミッドナイト救出に行った個体じゃねぇ。蛇腔からテメェらへの増援に来た』

 「えっ?」

 「増援?」

 

インカムから聞こえる未元体の説明に戸惑う生徒達。しかし、そんな彼らを他所に未元体は話を続ける。

 

 『詳しく説明してる時間はねぇ。八百万、とりあえずそっちの状況を聞かせろ』

 「は、はい!先ほどまで私達は超巨大敵とその背中に乗る敵連合と交戦。超巨大敵に対し、経口投与による麻酔の投与に成功いたしました」

 『…麻酔か』

 「はい…しかし、つい先ほど超巨大敵の外観が急速に変化し、戦闘能力の大幅な向上を確認。恐らく私達を明確な攻撃対象として認識したためだと思われます。正直、私達ではもう…」

 『…なるほど。大体分かった』

 

八百万からの報告を聞いた未元体は一呼吸挟むと、再び全員に向けて話し始めた。

 

 『とりあえずお前らは安全なところまで退避しろ。あとは俺達(・・)が引き継ぐ』

 「垣根さん?」

 「俺達って…?」

 「っ!みんな!あれ!」

 

突然上空に浮く取蔭が声を上げ、皆の視線が取蔭に集まる。しかし取蔭の視線は八百万達ではなく、上空の別方向に向けられていた。八百万達が取蔭の視線の先を辿ると、

 

 「「「!!!」」」

 

目を丸く見開いた彼らの視線の先には、数多の未元体と白い翼が広がっていた。彼らはその白い翼をはためかせ、みるみるこちらまで迫ってくる。

 

 「あれって、垣根の!」

 「白垣根じゃん!!」

 「あんなにたくさん…でも何で…?」

 「恐らく先ほど通信で仰っていた通りです。蛇腔病院にいる垣根さんがこちらに増援を寄越してくれたのでしょう」

 「あいつ…マジかよ…」

 「垣根…」

 

八百万達が見上げる中、未元体達は瞬く間に彼女たちの頭上を飛び抜け、そのままギガントマキアに向かってスピードを上げる。一方ギガントマキアもまた、空から迫る未元体の存在に気付くと意識を上空へ向けた。

 

 「新たな小蠅か。だが所詮は些事。全てなぎ払う」

 

ドシン!ドシン!と地を響かせながら、ギガントマキアが走り出す。一歩踏み出すごとに大地が震え、木々が紙細工のように踏み砕かれる。圧倒的な力の塊が迫り来る中、未元体の顔にはいつものように不敵な笑みが浮かんでいた。

 

 『よォデカブツ。選手交代だ。こっからは俺達が相手をしてやる。覚悟はいいか?スクラップになる覚悟はよォ!』

 

猛スピードで走る巨人と風を切りながら空を駆ける数多の白が今、激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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