かの悪党はヒーローへ   作:bbbb.

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八十五話

 

 ――――――――――未元体とギガントマキアが激突した同時刻、蛇腔病院跡地一帯にて。

 

 蛇腔病院から数㎞離れた開けた場所で死柄木弔と相対するヒーロー達。目覚めた直後、まるで何かを求めるかのようにこの場所へ向かってきた死柄木をグラントリノやリューキュウらが迎撃し、さらに後方から追いついたエンデヴァーと共に死柄木を攻撃していく。今や崩壊だけでなく数多の個性を内包する死柄木だが、マニュアルとロックロックに支えられながらイレイザーヘッドが遠方から死柄木をその眼で捉え、全ての個性の発動を阻害している。イレイザーヘッドによる抹消の後押しを受け、ヒーロー達やその場に居合わせた緑谷と爆豪が一斉に死柄木にたたみかける。殻木と木原によって改造されたのは個性だけでなく、肉体強化も施されており今や死柄木の肉体性能は脳無のそれと同等のものに進化していたが、それでもヒーロー達は数的有利を利用し着実にダメージを与えていった。

 

 「ヤロウ…まだ生きてやがる…!」

 

爆豪が籠手から放った爆破が直撃し、地面に伏す死柄木。今まで蓄積されたダメージもあってか、流石にすぐには立ち上がれない様子だ。

 

 「終わりだ死柄木弔。いくら力を得ようとも信念なき破壊に我らが屈することはない」

 

そう言いながらエンデヴァーがうずくまる死柄木に歩み寄る。すると、

 

 「ハァ…ア…お前らヒーローは…他人を助ける為に家族を傷つける……父の言葉だ…。信念ならある…あったんだ…!」

 

苦しそうな呼吸と共に死柄木は再び立ち上がり、喉を震わせながら怨念を言祝いでいく。

 

 「なんじゃ…あれは」

 「ハァ…お前達は…社会を守るフリをしてきた…。過去…何世代も守れなかったものを見ないふりして…痛んだ傷の上から蓋をして…浅ましくも築き上げてきた…」

 「……」

 「ハァ…ハァ…結果中身が腐って蛆が沸いた…。小さな…小さな積み重ねだ…。守られることに慣れきったゴミ共…!そのゴミ共を生み出すマッチポンプ共…。これまで目にした全て、お前達の築いた全てに否定されてきた!だから壊す。だから力を手に入れる!シンプルだろ?」

 「…っ!」

 「理解できなくていい…出来ないからヒーローと(ヴィラン)だ!」

 「フンッ!!!」

 

 ブォォォォォ!!!

 

エンデヴァーが両手がら炎を噴射し、死柄木の身体が灼熱に包まれる。

 

 「わざわざインターバルをどうも!貴様ももう虫の息だろ!観念ッ…!?」

 

 ボッッ!!

 

跳躍によって死柄木が炎の渦から抜け出し、見上げるエンデヴァーと死柄木の視線が交錯する。

 

 (なぜ動ける!?)

 

エンデヴァーの戸惑いを他所に、グラントリノが即座に動き死柄木の後頭部を掴むとそのまま地面に叩き落とす。

 

 (轟の火力が下がっとる…。大技を撃ちすぎた反動か。こやつも満身創痍…限界を超越して動いとる。崩壊はない)

 

自身を抑えつけるグラントリノに対し、腕を振り抜いた死柄木。即座に後ろに飛ぶことで躱したグラントリノだが、死柄木はその勢いでグラントリノの左足を掴むと、

 

 グチャリ

 

尋常ならざる握力でグラントリノの左足を握りつぶした。

 

 「あぁッ!?」

 「グラントリノォォ!!!」

 「がは…っ!?」

 

 ズドォォォン!!

 

激しい衝撃と共に地面に叩きつけられ、グラントリノの身体から鮮血が迸る。

 

 「うわああああああああ!!!」

 「出るなデク!!」

 「力を…」

 

エンデヴァーの制止を振り切り、一直線に死柄木に向かっていく緑谷だが死柄木はポケットから何かを取り出すと逆にエンデヴァーや緑谷達の方へ飛び出した。

 

 「「「!?」」」

 

咄嗟に黒鞭を放った緑谷だが、爆発的に加速した死柄木を捉えることは出来ず彼らとすれ違うように駆け抜けていく柄木。

 

 (さらに…!)

 (疾く!)

 

緑谷と爆豪が慌てて後方を振り返る中、死柄木は瞬く間にイレイザーヘッドとの距離を詰める。すると、

 

 「ぬぅ!!!」

 

リューキュウが巨大な竜の手で死柄木の身体を掴み取り、彼の進行を止めた。しかし、死柄木は咄嗟に自身の左手をリューキュウの掌に突き刺し腕ごとねじ込むと、そのまま頑丈な鱗を突き破った。

 

 「くっ…!?」

 

痛みに思わず声を上げるも、もう一方の手で死柄木を押さえ込み身体の自由を奪う。さらに、後方から追いついた緑谷も黒鞭を展開させながら死柄木の首を強く掴み、完全に死柄木の行動を封じた。

 

 「死柄木ィィ!!お前だけは!許さない!!」

 「俺は、誰も許さない」ブンッ!

 「がは…っ!?」

 

死柄木の振るった肘が緑谷の腹部を直撃し、思わず血を吐く緑谷・それでも、目の前でグラントリノを潰した死柄木に対する怒りが緑谷の全身を支配し、その力をさらに強めていた。

 

 (怒りを…力にィ!締めろ黒鞭ィィ!!」

 

緑谷の激昂に呼応するかのように、黒鞭が死柄木の全身を締め上げていくが、死柄木もまた全力で自身の拘束に抗っていた。

 

 (死柄木の方が速い!逃げられなくして確実に止める!)

 「そのまま踏ん張れデク!」

 (振り絞れ…!これがあることを、こいつらはまだ…)

 

緑谷とリューキュウの拘束に抗い意識を保ちながら死柄木は、左手の指と指の間に個性消失弾を忍ばせる。すると、

 

 「!消失弾を!」

 「!?」

 「消失弾!?」

 

リューキュウがその存在に気付き、相澤や緑谷も死柄木の左手を注視した。

 

 (通形先輩の個性を奪ったあれが…撃たせるな!撃たせるか!ワン・フォー・オール100%!)

 「ワイオミング・スマッシュ!!!」

 

 ブオォォォォォォン!!!

 

凄まじい衝撃と主に、緑谷の全力の一振りが死柄木の頭部に振り下ろされる。まともに直撃すれば再起不能になってもおかしくない程の威力だ。赤く光る左腕を思いっきり振り下ろした緑谷だったが、眼下の死柄木を見て一瞬目を見開く。死柄木は緑谷の左手を口で受け止めていたのだ。

 

 「くっ……!」

 (あぁ…今なら…どんな困難にも立ち向かえる気がする。この胸に夢とオリジンが在る限り)

 

 ビュッ!

 

死柄木が指で放った消失弾は綺麗に相澤の左足に撃ち込まれる。

 

 「先生ェェェェェ!!!」

 

緑谷の絶叫が響き渡る中、相澤は即座に袖から短刀を取り出すと、

 

 (助かったよリューキュウ…おかげで淀みなく、合理的に対処出来る!)

 

 ブチッ!!

 

消失弾の効果が全身に広がる前に、相澤は自身の左足を切断した。激痛が全身を駆け巡っているにも関わらず、相澤は死柄木から視線を逸らさない。

 

 (ほんっとカッコいいぜ。イレイザー。とは言え流石に、一瞬綻ぶ)

 

死柄木の考え通り、相澤の瞼が下がり抹消の効果が切れる。すると、

 

 ボォォォォォン!!!

 

 「「うわああああ!!」」

 

突如凄まじい衝撃波が死柄木の周囲に発生し、緑谷とリューキュウが吹き飛ばされる。爆発的な加速で飛び出た死柄木は一層高く跳躍し、眼下の相澤に襲いかかった。

 

 (ようやくクソゲーも終わりだ!)

 「く…っ!」

 

 グチャッ

 

死柄木の指が相澤の顔の肉に食い込み、そのまま両目を抉ろうとしたその時、

 

 ドシュッ!!!

 

死柄木の顔に右足が叩き込まれ、死柄木の身体が後方まで一気に吹っ飛ばされる。相澤が思わず顔を上げると、見慣れた白いの翼を従えた垣根帝督の姿があった。さらに、

 

 「先生ェ!!」

 

遅れて相澤の名を呼ぶ轟の声が聞こえる。どうやら彼もこの場に駆けつけてきたらしい。

 

 「先生…!」

 

緑谷が涙を堪えながら向こう側から飛んでくる。そして気を失う相澤をそっと支えると、マニュアル達が処置を施せるよう地面にそっと寝かせた。

 

 「デク、逃げろ」

 「嫌です!」

 

目にはいっぱいの涙を浮かべながらも、憤怒の怒りを顔に刻み込む緑谷。もはや彼の頭にはこの場で死柄木を倒すことしかない。緑谷が怒りと憎悪が入り交じった目で死柄木を睨み付ける中、垣根が彼の側に歩み寄ると静かに尋ねた。

 

 「緑谷」

 「……」

 「ジジイは…グラントリノはどこにいる?」

 「!」

 

グラントリノの名を聞き、唐突に我に返った緑谷は垣根の方を振り返る。数秒の間、垣根と視線が交錯する緑谷だったがやがて暗い表情で俯くと申し訳なさそうに一言呟く。

 

 「ごめん」

 「……死んだのか?」

 「いやそれは!……多分大丈夫。でも、死柄木にやられて…」

 「そうか……なぁ緑谷」

 「?」

 「ワン・フォー・オールって何だ?」

 「!?」

 

垣根から問いに緑谷は思わず目を見開く。言葉に詰まりしどろもどろする緑谷を見た垣根は、それ以上詮索することはせずクルリと背を向ける。

 

 「まぁいい。轟とお前はまだ動けるな。ジジイを頼む」

 「待って垣根君!」

 

緑谷の声を無視し、垣根は死柄木の方へ歩を進めていく。先ほど蹴り飛ばされた死柄木はすでに立ち上がっており、こちらに歩いてくる垣根をその目でじっと見据えていた。

 

 (氷の奴はあのとき付いてきてた奴…だがこいつは?サーチには反応が無かったハズだが…)

 「いや、思い出した。木原さんが言ってたっけ。お前の力は俺達の個性とは別物なんだって。だからサーチに反応が無かったのか」

 「死柄木、やっぱりテメェ、木原にも改造されんのか」

 「あぁ。ドクターと木原さんのおかげで俺はこの素晴らしい力を手に入れた。これでヒーロー共を全員皆殺しに出来る」

 「ついこの間までしょうもない小悪党だったってのに、今じゃ笑えねぇ化物になってやがる。殻木って奴の腕は知らねぇが、流石は木原マジックと言ったところか」

 

 バサッ!!

 

垣根が背中の翼をいっぱいに広げる。さらに、垣根がスッと手を掲げると上空から一機の白いカブトムシが側に降りてきた。そして垣根の手が合図を出すと同時に白いカブトムシが勢いよく死柄木目掛けて突撃した。

 

 「!」

 

不意に現れたカブトムシの突撃に一瞬戸惑う死柄木だったが、素早く身体を捻りカブトムシの角を躱すと破滅の五指でその角を掴んだ。

 

 バリバリバリッッッ!!

 

掴んだ箇所から崩壊が伝播し、白いカブトムシが塵と化す。しかし死柄木が再び顔を前に向けると、いつの間にか垣根が距離を詰めておりお互いが近接の間合いに入っていた。

 

 (こいつ、カブトムシをデコイにして…)

 

 シュッ!!

 

至近距離から二枚の翼が勢いよく放たれる。死柄木は肉体改造によって磨かれた超人的な反応速度で咄嗟に放たれた翼を掴むと、先ほどと同様『崩壊』を発動させ破壊の波を伝播させる。しかし、垣根は掴まれた両翼を瞬時に分解(パージ)させ、地面に着地するや否や力強く大地を蹴る。未元物質によって強化された脚力は踏み込んだ地面を砕き、爆発的な加速を生み出すと一瞬で死柄木の懐に入った。そして、

 

 ゴシュッ!

 

垣根の右足が死柄木の腹部を思いっきり蹴り上げ、死柄木の身体が宙に舞う。

 

 「がはっ……!?」

 

あまりの威力に思わず息を吐き出す死柄木。垣根は瞬時に翼を再生成すると勢いよくはためかせ、一気に空へと駆け上る。対する死柄木も空中で体勢を立て直し、落下のスピードに乗りながらこちらに接近してくる垣根を正面に捉えた。さらに、

 

 バシュッ!

 

両手掌から衝撃波を打ち出し、弾丸のようなスピードで垣根目掛けて急降下する。瞬く間に距離をゼロにした死柄木は垣根の顔に手を伸ばす。死柄木の加速に垣根は全く反応出来ていない。垣根の身体が崩壊する未来を死柄木が確信したその瞬間、

 

 シュンッ!

 

突如目の前から垣根の姿が消え、死柄木が伸ばした手は空を掴む。死柄木の手が触れる直前、垣根は翼を一際大きくはためかせて死柄木の頭上を飛び越えるように上に飛び上がったのだ。右腕を使って死柄木の頭を支点にし、綺麗に飛び越えると垣根はそのまま死柄木の背後を取る。そして、

 

 「ガッ……!?」

 

白い翼が死柄木の背中を穿ち、派手な音と共に再び地面へと叩きつける。それでも素早く立ち上がると、死柄木は自身の右手を垣根に照準を合わせて掲げた。

 

 (「空気を押し出す」+「電波」…!)

 

 ボッッ!!

 

死柄木の右掌から電波の塊が広範囲に放射される。対する垣根も即座に六枚の翼を弓のようにしならせ、轟ッ!と烈風を繰り出した。

 

 ドォォォォォォォン!!!

 

両者の攻撃が衝突し、凄まじい衝撃が辺り一面に広がる。吹き荒れる風と共に砂埃が舞い上がり、視界が遮られる中で死柄木は神経を研ぎ澄ます。すると、

 

 「確かに、個性と身体能力のレベルは格段に上がってるな。特に身体能力に関しちゃ脳無並だ」

 「!」

 

自身の背後から垣根の声が聞こえ、急いで振り返ろうとする死柄木。しかし、

 

 ゴッッ!!

 

死柄木の脇腹に強烈な回し蹴りが炸裂し、何メートルもバウンドしながら飛ばされる。しかし、死柄木はすぐさま受け身を取ると足で衝撃を殺しながら体勢を立て直した。

 

 ヒュン!!

 

死柄木が顔を上げた瞬間、死柄木の頬を何かが掠める。頬の擦り傷の認識した直後、再び前方に意識を戻すと無数の白い礫が死柄木に向けて飛来した。

 

 「チッ、鬱陶しいな」

 

 ブゥン…

 

左手で空気の壁を生成した死柄木は迫り来る礫から身を守る。すると垣根は死柄木との距離を詰めながら、ギュルッ!と右三翼を絡め蕾のような形にすると、

 

 ドッッッッ!!

 

派手な炸裂音と共に死柄木に向けて撃ちだした。

 

 「…ッ!?」

 

翼の刺突が死柄木の作る空気の壁を粉々に砕き、そのまま死柄木の腹部に直撃する。意識が飛ばしかけながら死柄木の身体は勢いよく後方へと吹き飛ばされ、派手な音と共に岩壁に激突した。

 

 「だが、いくら魔改造されたところで戦闘経験は誤魔化せない。ミルコに比べりゃテメェの単調な動きは手に取るように読めるぜ」

 「……」

 「流石にタフだな。普通ならもう数回は死んでるハズだが」

 

コツコツと音を鳴らしながら垣根が死柄木の下へ歩み寄る。死柄木はしばらく黙って地面に座り込んでいたが、垣根が十分近づいてくるとゆっくりと立ち上がった。

 

 「あー、面倒だ。やっぱやめだ」

 「あ?」

 「ちまちま真面目に戦うのはやめだ。もうイレイザーのクソゲーは終わってる。俺が地に触れさえすれば全て終わりだ」

 「……」

 「死柄木!」

 

すると、垣根の下に緑谷やエンデヴァー達が到着する。一通り、負傷者の手当が終わって加勢に来たのだろうか。死柄木が個性を発動する気でいることに気付き、緑谷達は臨戦態勢を取った。しかし、スッと垣根が右手を挙げ彼らに手を出さぬよう合図を送ると、皆は驚いたように垣根の方を見つめた。皆の視線を浴びる中、垣根はさらに一歩前に出る。

 

 「触れた箇所だけでなく、連なるものにも崩壊を伝播させる力。まさに破壊の究極。俺の力とは対極に位置する力だ」

 「あァ?」

 「破壊力という一点だけで見れば超能力者(俺達)にも並びうる。確かに大した力だ。だがな、それでもお前じゃ俺は殺せねぇ」

 

 ヌンッ!

 

突如、十体の未元体が出現する。垣根を含め、未元体は死柄木を囲い込むよう等間隔で円状に配置され全員が死柄木の方を向いて立っていた。

 

 「俺の未元物質にこの世の常識は通用しねぇ」

 「そうかよ。なら死ね!」

 

死柄木がその手を地面に当てた瞬間、

 

 ドドドドドドッッッッ!!!

 

蛇腔病院を更地にした大崩壊が再び周囲に伝播する。崩壊の波に少しでも触れたら最後。一瞬で全身が崩壊し、命を落とすこととなる。死柄木を中心に崩壊の波が全方位に広がり、またもや蛇腔の再現が為されるかと誰もが考えた。しかし、

 

 ドンッッッッッッッッ!!!

 「!?」

 

轟音が鳴り響き、死柄木は思わず顔を上げる。崩壊の波が垣根より先に伝播していない。否。垣根と未元体によってせき止められていると言った方が正確だ。死柄木が崩壊を発動させたと同時に、垣根と未元体は地面を浸食する勢いで大量の未元物質を生成した。360°全方位から未元物質の波を生み出し、外へ広がる崩壊の波とぶつけることで崩壊の伝播を防いでいる。

 

 「俺の崩壊をせき止めるだと!?」

 

死柄木が驚愕の声を上げると、未元物質を生成し続ける垣根が不敵な笑みを浮かべながら顔を上げた。

 

 「蛇腔の時とさっきのカブトムシで一つ確信したことがある。それは崩壊の伝播速度だ」

 「速度?」

 「確かにお前の個性は俺の未元物質すらも崩壊させる。だが、未元物質に対する崩壊の伝播速度は他の物質に対するそれよりも僅かに遅い(・・)

 「!」

 「その僅かな差異があれば、俺なら崩壊が伝わるより速く新たな未元物質を生成出来る」

 「まさか…!」

 「個性は身体機能の一部、だったよな。つまりテメェの崩壊も無制限に発動させ続けることは出来ねぇはず。覚醒して間もない上、ダメージが蓄積している今なら尚更だ」

 「......!」

 「だったら話は簡単だ。テメェの限界点まで未元物質()崩壊(お前)を凌駕し続ければいい。な?簡単だろ?」

 「テメェェェェェェェ!!!!」

 

死柄木の感情に合わせて崩壊の出力が更に上がる。だが垣根達もさらに未元物質の生成スピードを上げ崩壊の波を先へと進ませない。垣根は歯を食いしばりながら自身の両手に力を込めた。

 

 (つっても限界があるのは死柄木だけじゃねぇ。俺の脳が焼き切れる前に、コイツを……!)

 

力の使用に限度があるのは能力についても同様だ。『自分だけの現実(パーソナル・リアリティ)』を実現させるために能力者は演算処理を行なうが、一度に大量の演算を行なえばそれだけ脳に負荷がかかることとなる。ましてや未元体を操りながら崩壊を上回る速度で未元物質を生み出し続けるなど、普通の能力者ならばとっくに脳が処理速度に耐えきれず焼き切れているだろう。並外れた演算能力を持つ超能力者(レベル5)、その中でも第二位に君臨する垣根帝督だからこそ出来る所業だ。

 

 「あいつ、一体何を…」

 「垣根のヤロウ、死柄木の崩壊と同規模の物質生成をぶつけて崩壊を相殺させてやがる…!」

 「!?」

 

死柄木の崩壊の威力の高さを間近で体感したからこそ、その崩壊を食い止めている垣根の異常さに爆豪や轟は絶句する。確かに垣根の言うとおり、未元物質と他の物質とで崩壊の伝わる速度に差は存在するが所詮微々たるものでしかない。一秒間に一体どれだけの質量を生み出しぶつければ崩壊を食い止めることが出来るのか、垣根以外の人間には想像も付かない。目の前で繰り広げられる異次元の攻防に言葉を無くしていたのは緑谷とエンデヴァーも同様だった。

 

 「死柄木の崩壊を相殺させるなんて、一体どれだけのスピードで個性を発動しているんだ…」

 「だが、それだけの個性を使えばテイトクの身体もタダでは済まないだろう」

 「えっ!?」

 

思わずエンデヴァーを振り返る緑谷。その直後、

 

 「ガハッ…!?」

 

垣根の口や鼻血から出血する。さらに頭には割れるような痛みと燃えるような熱を感じ、垣根の意識が朦朧とし始めた。未元体の高速大量生成や未元体生成による処理負荷によって身体が悲鳴を上げ始めたのだ。

 

 「垣根君!」

 「あいつ…!身体が!」

 「やはり…」

 

エンデヴァーの懸念が的中し、垣根の流血はどんどん進んでいく。それでも垣根は一切手を緩めることなく、残された気力全てを演算に回し洪水のように未元物質を生成し続けていった。そして、

 

 「うおおおおおおおおおおお!!!」

 「死ねェェェェェェェェェェ!!!」

 

 ドドドドドドドドドドッッッッッ!!!

 

死柄木と垣根の力のぶつかり合いが最高潮に達し、地震のような揺れが一帯を支配する。崩壊と創造が威力を増してせめぎ合い、ついに、

 

 バシュッ!

 

死柄木の腕に亀裂が生じ、鮮血が飛び散った。死柄木が限界を迎え、個性の発動が出来なくなったのだ。しかしそれと同時に、垣根の未元物質の創造も止まり死柄木を囲んでいた未元体達も一斉に消失した。

 

 「ハァ……ハァ……ハァ………!くッ……!?」

 

激しく肩で息をしながら垣根は地に膝をつく。死柄木同様、垣根も能力の使用に限界を迎えかなりの体力を消耗していた。

 

 (序盤から未元体を使いすぎたことが仇となったか……にしても、この程度でへばるたァ……情けね…ェ…)

 

垣根がここまで消耗しているのは、死柄木の崩壊を防ぐために未元物質を大量生成したこともあるが、それとは別に未元体の存在があった。この戦いにおいて、垣根は序盤から未元体をほとんど制限いっぱいの数を生成し制御し続けていた。未元体自体、かなり緻密な演算を必要としそれを複数制御するとなると多大な演算リソースを割かねばならない。元々、対ギガントマキア用に制御可能限度数50体を生成していたが、死柄木の崩壊対策に新たに10体もの未元体の生成し、さらに死柄木の崩壊スピードを上回るだけの演算処理をこなせば、流石の垣根をもってしても脳への高負荷は避けられず今のように身体にも影響が出てしまう。死柄木も個性を限界まで使いきったことは同じだが、人間離れした強靱な耐久力と超再生の個性がある分、垣根より負荷による反動は少ない。

 

  (俺も摩耗していたとはいえ、本当に俺の崩壊を止めやがった。これじゃ崩壊はしばらく使えねぇ…)

 《弔…》

 「!」

 

突然、死柄木の頭の中からAFOの声が響く。AFOの個性を死柄木に移植したことによって、二人は内面での意識の共有が可能となったのだ。

 

 《垣根帝督。木原君の言っていたとおり彼は危険だね。ここで殺しておかなければ、この先僕たちにとっての最大の障壁になるかもしれない》

 「先生…」

 《だから…わかるね?弔。力を使い果たし消耗した今が好機だ。ワン・フォー・オールの前にまず…》

 「あぁ。分かったよ先生。今ここでコイツをォ!!」

 

 ダッッッ!!!

 

死柄木が勢いよく地面を蹴り上げ、垣根との距離を詰める。そして反応すら出来ていない垣根の無防備な身体に拳をたたき込もうとしたその時、

 

 ボォォォウン!!!

 

一帯に大きな爆発が起きる。土煙が吹き荒れ状況把握が困難だったが、やがて視界がクリアになると死柄木は自分の身体が上空に浮いていることが分かった。身体には黒鞭が巻き付けられていて目の前には同じく浮遊した緑谷が対峙していた。

 

 《ワン・フォー・オール 七代目(セブンス)。浮遊!!》

 「!」

 「これ以上、大切な人をお前に傷つけさせはしない!ここでお前を止める!僕の全てを懸けて!!!」

 (緑谷……)

 

緑谷が空中で死柄木と対峙する姿を、垣根は力なく見上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

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