4ヶ月の   作:めもちょう

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十一話

『緑谷完全停止!? アホ面でビクともしねぇ!! 心操の“個性”か!!?』

 

 困惑のざわめきの中から、気色の違う叫び声。「よっしゃ決まったぁあ!!」と叫ぶ吐移の声が一際目立って聞こえた。声、大きくなったな。

 

『全っっっっっっ然、目立ってなかったけど彼、ひょっとしてやべぇ奴なのか!!!』

 

 身体も頭も“個性”も、上なのは向こうだ。

 

「お前は……恵まれてて良いよなァ緑谷出久」

 

 だから、勝てる手使って、初めてフェアだろ?

 

「振り向いてそのまま、場外まで歩いていけ」

 

 洗脳された緑谷は言われた通り振り向き、歩いて行った。

 

『ああー! 緑谷! ジュージュン!!』

「分かんないだろうけど……こんな“個性”でも、夢見ちゃうんだよ。さァ負けてくれ」

 

 もう一歩。そう、あと一歩。

 

 そう思ったのに。

 

 緑谷から強い風と衝撃波が巻き起こった。なぜ……!? 何が起こった!? 緑谷お前、何をした!?

 

『――これは……緑谷!! とどまったああ!!?』

「何で……身体の自由はきかないはずだ。何したんだ!」

 

 ……答えない。ネタわれたか……いや、最初(ハナ)からあの猿の奴に聞いてたハズなんだ。また口開かせるしか――……

 

「何とか言えよ」

 

 緑谷は左手を庇ったまま何も答えない。“個性”が効かねぇじゃねぇか!

 

「~~~~! 指動かすだけでそんな威力か、羨ましいよ!」

 

 煽りに答えろよ。

 

「俺はこんな“個性”のおかげでスタートから遅れちまったよ。恵まれた人間にはわかんないだろ」

 

 答えろよ。

 

「誂え向きの“個性”に生まれて、望む場所へ行ける奴らにはよ!!」

 

 お前の答えを聞かせろよ!!!

 

 緑谷はやっぱり答えないまま、俺を掴んで押してくる。

 

「なんか言えよ!」

 

 その面を殴って外そうとする。でも、そいつの目は燃えていて。

 

「ぁああ!!!」

「押し出す気か? フザけたことを……!」

 

 個性使わず勝つつもりかよ! 使えよ、その増強型の“個性”!!

 

 体を捩って緑谷の拘束から逃れる。バランスを崩して前のめりになる緑谷の顔を押してやる。

 

「お前が出ろよ!」

 

 なのに緑谷はその腕をつかんで、叫ぶ。

 

 体が浮く。世界が反転する。背中と踵を強く打ったら、青空が見えた。

 

「心操くん、場外!!」

 

 ああ、負けた。

 

 

 

 

「心操くん洗脳~~!? すげぇ初めて聞いた!」

「うらやまし~~」

 

 自己紹介の度、「悪いことし放題」だとか、「私たちを操ったりしないでよ」なんて、ずっと言われ続けた。そりゃ俺も「洗脳」なんて“個性”、他人が持ってたらまず悪用を思いつく。犯罪者……“ヴィラン”向きだねって暗に言われるのは慣れっこだ。そういう世の中。仕方のないこと。

 

「でもさぁ……」

 

 

 

『二回戦進出! 緑谷出久――!!』

 

 立っていたのは、緑谷だ。

 

『IYAHA! 初戦にしちゃ地味な戦いだったが!! とりあえず両者の健闘をたたえて、クラップ ユア ハンズ!!』

 

 負けた。個性使って、負けた。ロクに使わなかった奴に。……負けた。

 ヒーローはこんな結果を残した俺を、評価してはくれないだろう。

 

「……心操くんは、何でヒーローに……」

「憧れちまったもんは仕方ないだろ」

 

 もう戻ろう。今は、何も、考えたくない。

 

 

 

「かっこよかったぞ、心操!」

 

 俯いて戻る俺にかかった声は、頭上から。その声は、C組の奴らだった。

 

「正直ビビったよ!」

「俺ら普通科の星だな!」

「障害物競争一位の奴といい勝負してんじゃねーよ!!」

「吐移なんて感動して泣いてるぞ!」

「どちゃくそかっこよかったぁあああ!!!!」

 

 みんな……。

 

「この“個性”、対ヴィランに関しちゃかなり有用だぜ、欲しいな……!」

「雄英もバカだなー。あれ普通科か」

「まァ受験人数ハンパないから、仕方ない部分はあるけどな」

「戦闘経験の差はなー……どうしても出ちまうもんなぁ……もったいねぇ」

 

 スカウト目的のヒーローたちの声……?

 

「聞こえるか。心操、おまえ、すげェぞ」

「…………」

 

 認めてもらえる。目指す存在に。

 

 だらりと力無く垂れていた手で握り拳を作る。そのまま緑谷に背を向けた状態で、俺は宣言してやる。

 

「結果に寄っちゃ、ヒーロー科編入も検討してもらえる。覚えとけよ?」

 

 緑谷。俺は諦めないからな。

 

「今回は駄目だったとしても……。絶対あきらめない。ヒーロー科入って、資格取得して……絶対お前らより立派にヒーローやってやる」

「――――うん」

 

 マジか。ここで効くか。

 

「フツー構えるんだけどな、俺と話す人は……」

 馬鹿みたいにまっすぐだな。おまえは。

「そんなんじゃすぐ足を掬われるぞ?」

 洗脳を解いてやる。せっかく俺に勝ったんだ。

 

「せめて……みっともない負け方はしないでくれ」

「っうん……」

「……」

 

 いや、だからなぁ……。

 

 

 

 観客席に戻れば、C組の皆から拍手が起こった。皆口々に「お疲れ様」とか、「凄かったぜ」なんて言葉をかけてくれる。それらにありがとうと返しながら、俺は自分の席に着く。隣は、吐移だ。さっきまで泣いていて、濡れた目で笑っている。出会った頃より、ずっと柔らかい。

 

「お疲れ様、シンソー君。おかえり」

「ただいま」

「凄かったよ、あの先制攻撃。うん。惜しかった!」

「そうだな」

「……ねえ、実感できたでしょ?」

「何の?」

「君の力は、ヒーローに認められたでしょ?」

「……そうだね」

 

 

 

 吐移が初めてだったかもしれない。

 

「え、君の“個性”、洗脳なの!?」

「……そうだよ」

「すっげぇ!! 発動条件は!?」

「……俺の問いかけに答えること」

「お手軽!! じゃあ君の言葉一つで、多くの人を避難誘導出来たりするってこと!? きゃーーっ!!」

「……は?」

 

 皆が悪用をすぐ思いつく中で、こいつはすぐに“人助け”の方向でこの“個性”を捉えた。今思えば、雄英(ここ)はそういう場所であるし、こいつの夢が夢だけに、その方向に思いついただけだったんだろう。だとしても。

 

「ありがとう」

 

 嬉しかった。

 

心操(シンソー)くん。君は、ヒーローになれる!!」

 

 

 

 

 

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