『緑谷完全停止!? アホ面でビクともしねぇ!! 心操の“個性”か!!?』
困惑のざわめきの中から、気色の違う叫び声。「よっしゃ決まったぁあ!!」と叫ぶ吐移の声が一際目立って聞こえた。声、大きくなったな。
『全っっっっっっ然、目立ってなかったけど彼、ひょっとしてやべぇ奴なのか!!!』
身体も頭も“個性”も、上なのは向こうだ。
「お前は……恵まれてて良いよなァ緑谷出久」
だから、勝てる手使って、初めてフェアだろ?
「振り向いてそのまま、場外まで歩いていけ」
洗脳された緑谷は言われた通り振り向き、歩いて行った。
『ああー! 緑谷! ジュージュン!!』
「分かんないだろうけど……こんな“個性”でも、夢見ちゃうんだよ。さァ負けてくれ」
もう一歩。そう、あと一歩。
そう思ったのに。
緑谷から強い風と衝撃波が巻き起こった。なぜ……!? 何が起こった!? 緑谷お前、何をした!?
『――これは……緑谷!! とどまったああ!!?』
「何で……身体の自由はきかないはずだ。何したんだ!」
……答えない。ネタわれたか……いや、
「何とか言えよ」
緑谷は左手を庇ったまま何も答えない。“個性”が効かねぇじゃねぇか!
「~~~~! 指動かすだけでそんな威力か、羨ましいよ!」
煽りに答えろよ。
「俺はこんな“個性”のおかげでスタートから遅れちまったよ。恵まれた人間にはわかんないだろ」
答えろよ。
「誂え向きの“個性”に生まれて、望む場所へ行ける奴らにはよ!!」
お前の答えを聞かせろよ!!!
緑谷はやっぱり答えないまま、俺を掴んで押してくる。
「なんか言えよ!」
その面を殴って外そうとする。でも、そいつの目は燃えていて。
「ぁああ!!!」
「押し出す気か? フザけたことを……!」
個性使わず勝つつもりかよ! 使えよ、その増強型の“個性”!!
体を捩って緑谷の拘束から逃れる。バランスを崩して前のめりになる緑谷の顔を押してやる。
「お前が出ろよ!」
なのに緑谷はその腕をつかんで、叫ぶ。
体が浮く。世界が反転する。背中と踵を強く打ったら、青空が見えた。
「心操くん、場外!!」
ああ、負けた。
「心操くん洗脳~~!? すげぇ初めて聞いた!」
「うらやまし~~」
自己紹介の度、「悪いことし放題」だとか、「私たちを操ったりしないでよ」なんて、ずっと言われ続けた。そりゃ俺も「洗脳」なんて“個性”、他人が持ってたらまず悪用を思いつく。犯罪者……“ヴィラン”向きだねって暗に言われるのは慣れっこだ。そういう世の中。仕方のないこと。
「でもさぁ……」
『二回戦進出! 緑谷出久――!!』
立っていたのは、緑谷だ。
『IYAHA! 初戦にしちゃ地味な戦いだったが!! とりあえず両者の健闘をたたえて、クラップ ユア ハンズ!!』
負けた。個性使って、負けた。ロクに使わなかった奴に。……負けた。
ヒーローはこんな結果を残した俺を、評価してはくれないだろう。
「……心操くんは、何でヒーローに……」
「憧れちまったもんは仕方ないだろ」
もう戻ろう。今は、何も、考えたくない。
「かっこよかったぞ、心操!」
俯いて戻る俺にかかった声は、頭上から。その声は、C組の奴らだった。
「正直ビビったよ!」
「俺ら普通科の星だな!」
「障害物競争一位の奴といい勝負してんじゃねーよ!!」
「吐移なんて感動して泣いてるぞ!」
「どちゃくそかっこよかったぁあああ!!!!」
みんな……。
「この“個性”、対ヴィランに関しちゃかなり有用だぜ、欲しいな……!」
「雄英もバカだなー。あれ普通科か」
「まァ受験人数ハンパないから、仕方ない部分はあるけどな」
「戦闘経験の差はなー……どうしても出ちまうもんなぁ……もったいねぇ」
スカウト目的のヒーローたちの声……?
「聞こえるか。心操、おまえ、すげェぞ」
「…………」
認めてもらえる。目指す存在に。
だらりと力無く垂れていた手で握り拳を作る。そのまま緑谷に背を向けた状態で、俺は宣言してやる。
「結果に寄っちゃ、ヒーロー科編入も検討してもらえる。覚えとけよ?」
緑谷。俺は諦めないからな。
「今回は駄目だったとしても……。絶対あきらめない。ヒーロー科入って、資格取得して……絶対お前らより立派にヒーローやってやる」
「――――うん」
マジか。ここで効くか。
「フツー構えるんだけどな、俺と話す人は……」
馬鹿みたいにまっすぐだな。おまえは。
「そんなんじゃすぐ足を掬われるぞ?」
洗脳を解いてやる。せっかく俺に勝ったんだ。
「せめて……みっともない負け方はしないでくれ」
「っうん……」
「……」
いや、だからなぁ……。
観客席に戻れば、C組の皆から拍手が起こった。皆口々に「お疲れ様」とか、「凄かったぜ」なんて言葉をかけてくれる。それらにありがとうと返しながら、俺は自分の席に着く。隣は、吐移だ。さっきまで泣いていて、濡れた目で笑っている。出会った頃より、ずっと柔らかい。
「お疲れ様、シンソー君。おかえり」
「ただいま」
「凄かったよ、あの先制攻撃。うん。惜しかった!」
「そうだな」
「……ねえ、実感できたでしょ?」
「何の?」
「君の力は、ヒーローに認められたでしょ?」
「……そうだね」
吐移が初めてだったかもしれない。
「え、君の“個性”、洗脳なの!?」
「……そうだよ」
「すっげぇ!! 発動条件は!?」
「……俺の問いかけに答えること」
「お手軽!! じゃあ君の言葉一つで、多くの人を避難誘導出来たりするってこと!? きゃーーっ!!」
「……は?」
皆が悪用をすぐ思いつく中で、こいつはすぐに“人助け”の方向でこの“個性”を捉えた。今思えば、
「ありがとう」
嬉しかった。
「