4ヶ月の   作:めもちょう

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十二話

「茶番だな……」

 

 もうかれこれ10分が過ぎた。委員長VS発明家の試合が続いて……いや、委員長が発明家にずっと翻弄され続けていた。

 発明家の口車に真面目くさってるが故に騙されて乗った委員長。発明家は最初からそのつもりだったんだろう、拡声器で声を会場全体に聞こえるようにして、委員長に取り付けた自分の発明品の解説紹介をやっていた。自分の強みをプロ(この場合はサポートアイテム開発会社)にアピールしてやがる。もしかするとこの場の誰よりも、奴がこの体育祭を活用してんのかもしれねーな。

 こんな鬼ごっこ、早く終わってくれ。俺が見てぇのはお前らじゃねぇ。

 

「爆豪、お前吐移が出てから控え室行くのか?」

「アア? いつ行こうが俺の勝手だろ」

「まあまあ! 気になるよな。あいつの戦闘スタイル」

 

 話しかけてきたのはしょうゆ顔。さっき半分野郎に瞬殺されてたな。

 

「爆豪、あいつの“個性”って何なんだ?」

「? 聞いてねぇのか」

「訊きそびれてよ。で、何?」

「……“超回復”らしい」

「へえ、便利な“個性”だな! ただ……攻撃手段は身体一つか」

「地力が無きゃ……」

 

 どうしても“サンドバッグ”と称するのが自分の中で憚られた。しょうゆ顔も言いたいことは分かったらしく、だが続けなかった。

 

「でも、芦戸の個性は“酸”。吐移の個性なら、もしかすると一撃食らわせることは出来るかもしれないな」

「痛みさえ我慢できれば、な」

 

 そんな分析をしていたら、目の前の試合は終わっていた。満足にアピールした発明家が自分で白線の外に出て試合を降りる。結果、勝ったのは委員長だ。最初から最後まで利用されて振り回されただけだったな。

 

「で? 見るの? 見ないの??」

「……」

「やっぱ仲いいんだな!」

 

 勝手に言っとけ!

 

 

 

 そして始まったヘアバンVS黒目の試合。

 結論から言う。見てられねぇ。

 

「誰が野郎のエロ同人な恰好を見てぇんだよ!! チェンジ!!」

「峰田ちゃん、どちらもそんなつもりは無いはずだから、そう表現しないで」

「確かにそーだろーけどさァ!!」

 

 ヘアバンの動きは固く、鈍い。反応は出来ている、が、何分癖なんだろう。受け止めようとしやがる。頭では避けなきゃいけねぇと分かっているから動くが、いちいち遅く、袖や脇腹、外太ももあたりに掠る。酸で服は溶け、肌が見えている。見苦しい。

 本人たちも分かっているんだろう。黒目は「避けるならちゃんと避けてー!」と、ヘアバンも「それについてはごめーん!」なんて叫んでやがる。両者ともやり辛そうだ。

 

 勝負が続けば続くほど、黒目の溶解液によってステージの地面が溶け、黒目の移動速度は上がり、足元が滑るヘアバンは立つことも辛くなっていく。……よく見りゃあいつ、裸足じゃねーか。何してんだ。

 この試合はヘアバンが押し出されて負けだな。会場が苦笑で満ちる中、黒目がもう一度溶解液をヘアバンの足元に向かって撃とうとする。

 

 その時だった。組もうと黒目に近づこうと走り出したヘアバンが足を滑らせ、背中から倒れた。そこに打点の低い溶解液が飛ぶ。それは丁度、ヘアバンの目の位置と被っていて。

 

「あ゛あ゛あああああああああああっ!!!??」

 

 汚くて情けない叫び声が会場に響く。

 コンクリの表面を溶かすほどの酸が粘膜に直撃。そりゃ、あんな叫び声もあげるわ。実況も観客も、主審も、対戦相手の黒目でさえも心配の声を挙げている。オイ、しょうゆ顔。何でお前まで心配そうにしてんだよ。

 

『いくら不甲斐ねぇ戦いだからって、こんな不運があっていいのか神様ぁ!!』

 

 あいつの個性は“超回復”。痛みこそあれど、すぐ復活するに決まってる。

 

 罪悪感からか、黒目がヘアバンのもとへ駆け寄る。蹲って唸っているヘアバンは、膝をついた黒目の頭の角をひっつかんで、頭突きを食らわせた。

 

『ウソだろっ!? 目をつぶされた吐移、まだ戦う気だァーー!!?』

 

 鼻にモロに食らってひるんだ黒目に、ヘアバンは更に拳を入れ、素早く立ち上がると尻餅をつく黒目の腹に蹴りを入れた。ただの暴力。

 

『女の子に容赦が無いぞ吐移ーっ! それでも漢かー!?』

 

 道徳、倫理を一旦捨て置けって言ったのはあんただろ。実況や観客からのブーイングなんかまるで聞こえていないかのように、ヘアバンは黒目の両足を捕まえると、そのまま引きずって場外へと放り捨てた。引きずられている間、黒目も抵抗とばかりにヘアバンに溶解液を飛ばしていた。溶ける服の範囲から言ってそこそこ強力な酸のようだが、ヘアバンの肌は溶けるそばから治っていった。

 

『二回戦進出! 吐移 正ーっ!!』

 

 でかいモニターに映し出されたのは、まだ若干溶けていた左目の瞼が治っていく様子だった。

 

 場外に投げ飛ばした黒目を追いかけて、手を引いて起こしたヘアバン。会話は聞こえないが、モニターに映る様子から、黒目に謝罪しているようだった。

 

『アンチヒーローな暴力の数々だったが、そこはちょーっと甘く見て! 吐移は普通科だし、系統は似てるけどヒーローじゃなくて救急救命士とか、あまりヴィランと戦うことを想定してない職を目指してるからさ! 吐移は本当は非暴力主義者なの! じゃ、フォローも終わったし、二人の健闘を讃えて!!』

 

 実況がそう言えば、バラバラと拍手が起こる。

 

「ヒーローっぽくない勝ち方だったな」

「だからヒーロー目指してねェのかもな」

「……そうかもなー」

 

 あいつは自分が勝つ方法が、こんな暴力しかないってこと、知ってたんだろう。

 

「格闘技習ってりゃ、違う勝ち方、違う評価だったろうな」

 

 さ、俺は俺の準備をするか。

 

 

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