「おかえり、吐移」
「ただいま」
「あれ、ジャージ……」
「うん、もらった。エロ同人みたいになってたからねー」
「自分で言うのか」
ヒーローらしいとは言い難い勝ち方をした、我らが普通科の星、第二号。クラスメイト達からも「ヒデェ勝ち方」だとか、「カッコ悪かった!」だとか、散々な評価を食らっていた。まぁ、皆笑いながらだけど。
ヒーロー達の講評はまとめると、「自己回復出来る強個性」「普通科だし、戦闘センスはこれから磨けばいい」「本人も“個性”も、これからが楽しみだ」等だった。安心した。吐移だって、プロから見込まれる人間なんだ。
エリート同士の対決と、暑苦しい同士の対決(決着つかず)が終われば、一回戦最終試合。麗日さん対、吐移がなぜか懐いている爆豪。あの乱暴者と、女子が戦うのか……。吐移の時よりも激しい戦いが予想される。
「ついに始まるね」
「ああ」
選手宣誓であんな啖呵切ったのに、未だに一位を一回も取っていないお前の実力、少しくらい見せてみろよ。
『START!!』
速攻を仕掛けたのは麗日さん。爆豪に向かって走り出した。
「彼女は浮かす“個性”だったな。短期決戦で勝ちに行くつもりだ」
「バクゴー君はきっとスロースターター。エンジンが温まれば最強に近いけれど、それまでに叩くことが出来れば……」
右の大振りで繰り出された爆破は、派手な音を鳴らして麗日さんに直撃する。中央には爆煙と砂煙が立ち込めている。その中から、爆豪の左から影が急接近する。見逃さない爆豪。だが本物の麗日さんは奴の右後ろから現れた。
『上着を浮かせて這わせたのかぁ。よー咄嗟に出来たな! NINJA!』
「あぶない!」
マジか吐移、お前爆豪応援か。
浮かそうと手を伸ばした麗日さん。だが爆豪は反応する。ステージの地面を削りながら、奴はまた彼女を爆破で吹き飛ばした。
「……見てから動けるほどの反応速度」
「麗日さんの“個性”は触れなきゃダメなんでしょ? あの反射神経には、かなり分が悪いよ……」
いや、お前はどっちの応援なんだ。
煙幕を払って現れた爆豪は、鋭い目つきで麗日さんを捉えている。麗日さんはまだ走る。
『麗日、間髪入れず再突進!!』
「でも、それじゃぁな……」
会場に爆破の音が響き渡る。回を重ねるごとに、その大きさは増していくように思える。
麗日さんの咆哮が聞こえる。だがその声もすぐに爆破の音に上書きされた。
「まだまだぁ!!」
『休むことなく突撃を続けるが……これは……』
実況でさえもドン引きの試合。変わり身が通じなくてヤケを起こしているんだろう。他に手はないんだろう? なぜ、麗日さんは諦めない? そして何故、となりのこいつは鼻息を荒くしてんだ。
「麗日さん……かっこいい!」
そうですか。
「おい!! それでもヒーロー志望かよ! それだけ実力差あるなら早く場外にでも放り出せよ!!」
ついに起こったな、ブーイング。
「女の子いたぶって遊んでんじゃねーよ!!」
「そーだそーだ!」
『一部から……ブーイングが! しかし正直俺もそう思……わあ肘っ』
『今遊んでるっつったのプロか? 何年目だ?』
実況マイクが相澤先生に渡ったみたいだ。
『シラフで言ってんならもう見る意味ねぇから帰れ。帰って転職サイトでも見てろ』
どういう意味だ……?
『ここまで上がってきた相手の力を認めてるから、警戒してんだろう。本気で勝とうとしてるからこそ、手加減も油断も出来ねぇんだろが』
……最大限の、敬意、だったのか。
「お前なら、爆豪と戦えるか?」
何気なしに聞いた質問。吐移は試合から目を離さず返してきた。
「やってみないと分かんない! 耐えられる爆破なのか分からないし。まあ、肉弾戦でも勝てないから、今は無理!」
「そ」
「麗日さんのような手、俺は使えないからな!」
「……?」
ワクワクしている吐移から試合に目を戻すと、麗日さんの両手が、合わせられていた。
「バクゴー君の近さを利用した作戦だよ。低姿勢の突進でバクゴー君の打点を下に集中させ続けて、武器を蓄えてた。そして絶え間ない突進と爆煙で視野を狭めて……悟らせなかった!」
「勝あアアァつ!!」
『流星群ーー!!!』
「油断を誘えた俺と違って、警戒されているからこそ出来た作戦!! なんてかっこいいんだ麗日さん!!!」
BOOM!!!
今日一最大の爆音が、衝撃波が会場を襲った。さっきまで興奮していた吐移も、顔を青白くさせている。
『会心の爆撃!! 麗日の秘策を堂々――正面突破!!』
「あんなの……あんなの俺だって木っ端微塵だ!」
作戦が通じなかった麗日さん。あれが限界だったんだろう。また立ち上がって、一歩進んで、膝から崩れ落ちた。
駆け寄ったミッドナイト先生が告げる。
「麗日さん、行動不能。二回戦進出、爆豪くんー!」