「ひ、ひえ~~~~……」
「女子に容赦ないのは良いとして……まだまだ余裕そうなのが恐ろしいな」
「流石、選手宣誓で大口叩いただけのことはあるね」
先ほどの爆豪の試合を振り返って慄いている間に、少し前に保留になっていた試合の決着が着いた。暑苦しい者同士の腕相撲。制したのは、A組の切島だった。
「次は轟くんと緑谷くんか。どっち応援する?」
「さあ?」
「さあって」
俺負けたし。関係ないな。
『そろそろ始めようかぁ!』
「来るぞ、トップ同士の戦い!」
A組の轟と緑谷の戦い。それは冷気と衝撃波を絶えず観客席に提供してくる戦いだった。すごいな緑谷、氷結を壊すあのパワーを何度も……。だが、指が壊れていないか? 変色してやがる。隣りの吐移はまだ青ざめている。勝ち進めたら当たるかもしれないし、シュミレーションでもしているんだろう。その結果が、この青ざめなんだが。
「近寄れないのは、もう、どうしたら……」
「常闇って奴も、なかなか近寄れないぞ」
「彼の間合いは中距離。その中に入ればなんとかなるけど、そうさせてくれるか……。影を消すには光を! だけど太陽光しかない!!」
「……あれ、影なんだ」
「ダークシャドウって言ってたし。でも俺ライトなんて持ってない!」
暴力しかない……! って言ってワッと泣き出した吐移。二回戦進出者の中で戦えそうなの、あの飯田ってやつだけだと思うぞ。
試合は進み、緑谷の左腕も変色してしまった。
「……もう、終わりか」
勝ち負けはどうでもいい。せめて。
「みっともない負け方すんなって、言っただろ……」
『圧倒的に攻め続けた轟!! トドメの氷結を――』
轟の氷結は、壊れた指で起こされた爆風と衝撃波で壊された。
「何か、喋ってるね」
「……轟のやつ、震えてないか?」
「寒いんじゃない? いくら“個性”だからって、緑谷くんの指が壊れてるみたいに、轟くんにだって体に限界あるでしょ」
「……」
「皆、本気でやってる。勝って……目標に近付く為に……っ一番になる為に!
緑谷の叫びは、俺にも刺さった。
「かっこいいな」
ついには轟に一発入れやがった。
「……ヒーローだね」
「?」
緑谷はもう一度、衝撃波で氷を飛ばす。
「期待に応えたいんだ!」
緑谷は走り出す。
「笑って応えられるような……
体が冷えて動きが鈍い轟は、緑谷の頭突きを腹に食らう。
「だから全力で! やってんだ皆!」
「相手が何かの理由で弱体化してくれてるのに、それを乗り越えさせようと言葉をかけている。只敵を捕まえる職業ヒーローなんて、目じゃない」
「だから……僕が勝つ!!」
「煽って、煽って……。相手の力を引き出そうとする」
「君を超えてっ!!」
「只勝つことを目標にしてちゃ、そんなこと、出来やしない」
「君の! 力じゃないか!!」
会場に炎が立ち上がった。
『これはーー……!?』
「ヒーローにしか、出来やしない」
「焦凍ォォオオ!!!」
No.2ヒーロー、エンデヴァーが突然、彼の名を呼んだ。あ、親子なのか。
「やっと己を受け入れたか!! そうだ!! いいぞ!! ここからがお前の始まり!! 俺の血を持って俺を超えて行き……俺の野望をお前が果たせ!!」
「……」
轟は返事しない。
「……」
「……」
会場が静まり返った。
『エンデヴァーさん、急に“激励”……か? 親バカなのね』
言ってること、親としてやばい気がしたんだが……。あれを全力スルーの轟、多分父親大嫌いだな。
右も左も力を解放した轟が、ついに動き出す。
「霜は溶けた! 早いぞ!」
緑谷も足に力を込めている。主審やセメントス先生が動き出す。これ、危ないってことか!?
氷結をジャンプで正面から突っ込む緑谷。壊れたはずの右腕が光を放つ。緑谷が力を放つと同時に、轟も左の炎で迎撃する。爆豪以上の爆風、爆音が観客席を襲った。何が、起こった……!?
『何今の……お前のクラス何なの……』
『散々冷やされた空気が瞬間的に熱され、膨張したんだ』
『それでこの爆風て、どんだけ高熱だよ! ったく、なんも見えねー。オイこれ試合はどうなって……』
煙が晴れて見えたのは、緑谷。
会場の壁に体を打ち付け、崩れ落ちた緑谷の姿だ。
「緑谷くん……場外」
歓声が上がる。
「轟くん――……三回戦進出!!」
「すごかったね、この試合」
「……ああ」
「俺、緑谷くんのファンになりそ! あんなに焚きつけて……すごいよなぁ。あんなの、その人の“心”を救いたいと思わなきゃ、出来ないことだ。ふたりはクラスメイトだし、何かしらあって、事情を知ってたんだろうねー」
「そうなんだろうな」
ステージは大崩壊。しばらく補修タイムに入るらしい。
「俺みたいに瞬時に自己回復できれば、もっといいのに」
「……なんか、ゲームの中ボスみたいだな」
「なにそれ、俺が噛ませ犬って言いたいのそれ!」
「そう」
「ひどい!」
少し時間が空いたとは言え、もうすぐ吐移も試合のはずだ。
「吐移。リラックスもいいが、そろそろ集中してこい。勝ち目が限りなく0に近くても、一発くらい入れてこい」
「なんで負けること前提かなぁー? 勝ちを狙うのが男の子だぜ!」
ならさっさと控え室行けよと言うと、じゃあそうするか、と言って、吐移は立ち上がる。
「吐移」
「何?」
「全力でやって来い」
「……うん!」
……なんでだ?なんで一瞬、ぎくりとしたんだ?
自然になってきた笑顔を浮かべて、吐移は席を離れた。C組の奴らも声をかけ、激励を送る。受ける吐移は、ずっと笑顔で応えていた。
……分からない。分からないよ、吐移。お前が、分からない。