4ヶ月の   作:めもちょう

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十六話

 常闇戦が終わってから、吐移の様子がおかしい。

 試合が終わってから何か話していたが、内容を尋ねてみても、「“個性”の話と応援してるって言っただけ」と、あまり詳しくは教えてくれなかった。ステージ上でもないから“個性”を使うワケにはいかないしな……。吐移は笑顔を忘れ、ずっと口に左手を当て、俯いて動かない。眉は顰められ、表情は険しい。

 

「そろそろ決勝始まるぞ」

 

 そう声をかけて、ようやく吐移は顔を上げた。

 

「大注目だね」

 

 浮かべた笑顔はいつもよりぎこちない。

 

『さァいよいよラスト!! 雄英一年の頂点がここで決まる!! 決勝戦 轟 対 爆豪 !!!』

「うわぁ、緊張する!」

『今!! スタート!!!!』

「うお゛っ」

 

 合図と同時に、轟の大氷結がかまされた。瀬呂の二の舞か。どんまーい。

 

「いや、聞こえる!」

 

 爆発と共に大氷結の中から爆豪が出てきた。爆豪は“個性”の爆破で、大氷結の中をモグラのように掘り進めてきたようだった。どちらもド派手だ。

 

「ド派手だけど、轟くんはなんか、大雑把だ」

 

 爆豪を捕まえようと、同じ攻撃を繰り出した轟。それを弱爆破で身を浮かせ躱した爆豪が、轟がまだ使っていない左側を掴み、投げ飛ばした。

 

「……全力、か」

 

 投げ飛ばされた轟も、氷結で壁を作って場外アウトを回避。そのままついでに爆豪に攻撃を仕掛けるが、構わず爆豪は轟に飛び込んだ。近くで爆破するつもりか。

 

「全力……なら……」

 

 轟が自身へ飛び込んできた爆豪の右腕を掴んだ。掴んだその手からは炎が出せるはず。

 

「! 燃やされるっ」

 

 しかし吐移の不安は外れ、爆豪は只投げられただけだった。

 

「何で左側を使わないんだ?」

「……使いたくないくらいの、悩みでもあるんじゃない? さっき、エンデヴァーの激励無視してたし」

「家庭の事情、か」

 

 爆豪のフラストレーションは見るからに溜まっている。轟は飯田との三回戦でも左側を使わなかった。吐移の予想は、今度は当たっていそうだ。

 

「てめェ虚仮(こけ)にすんのも大概にしろよ!」

「!」

「ブッ殺すぞ!!! 俺が取んのは完膚なきまでの一位なんだよ! 舐めプのクソカスに勝っても取れねんだよ! デクより上に行かねぇと意味がねえんだよ!! 勝つつもりもねぇなら俺の前に立つな!!! 何でここに立っとんだクソが!!!」

 

 大技を繰り出す気か。爆豪が飛んだ。左右の手で違う方向に爆破をする。勢いを付けるようなそれは、爆豪自身を回転させていく。轟は動かない。

 

「負けるな、頑張れ!!!!」

 

 緑谷の応援の声がこちらまで聞こえてきた。当然、轟にも聞こえたはずだ。

 回転を早める爆豪。轟は、左側を燃やした。

 

榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)!!」

 

 鼓膜を痛いほど震わせる爆破音。飛び散る氷。凄まじい衝撃だった。

 

「ねぇ……今、氷使わなかった?」

 

『麗日戦で見せた特大火力に勢いと回転を加え、まさに人間榴弾!! 轟は緑谷戦での超爆風を打たなかったようだが、果たして……』

 

 轟は場外で氷に身を預けて倒れていた。

 勝ったのは爆豪だ。なのになんで、爆豪は轟の胸倉を掴んでんだ。

 

「ふざけんなよ!! こんなの……」

 

 怒りに震え、拳を構える爆豪が倒れた。ミッドナイト先生が“個性”で眠らせたからだ。

 

「轟くん場外!! よって──爆豪くんの勝ち!!」

『以上で全ての競技が終了!! 今年度雄英体育祭1年優勝は──A組 爆豪勝己!!!!』

「勝者も寝てるって、締まらないね」

「それ、お前が言うのか」

 

 お前爆豪に懐いてるくせに……。

 

 

 ステージは回収され、俺たち生徒は再びグラウンドに集まる。台の代わりに俺たちの前には表彰台。三位に常闇、二位に轟。そして一位の座には……。

 

「すごいなアレ……」

「起きてからずっと暴れてんだって。元気だなー」

「元気……?」

 

 何でお前は手も体も口も全て拘束され、コンクリの柱に括りつけられながら、それでも尚、轟に抗議しようと暴れている爆豪を見て、そんなのんきな感想が言えるんだ……?

 三位には常闇以外にもうひとり、飯田、足にエンジンを積んでる奴が居たはずだが、何かあって早退したらしい。

 

「メダル授与よ!! 今年メダルを贈呈するのは勿論この人!!」

 

 ミッドナイト先生が指差す、スタジアムの屋根には一つの影が。

 

「私が」

 

 その影は屋根から飛び、回転しながら着地する!

 

「メダルを持って来「我らがヒーロー オールマイトォ!!」

 

 ……被せないでくれ、ミッドナイト先生……。

 

 気を取り直して、メダルの授与が始まった。羨ましいな。オールマイトから言葉をかけてもらえるなんて。

 オールマイトからメダルをもらっても、爆豪は目を吊り上げたままだ。あれ、90°行くんじゃないか?

 

「後でおめでとう言ってこよー」

「悪意しか感じない」

 

 吐移は楽しそうでいいなぁ。

 

「さァ!! 今回は彼らだった!! しかし皆さん! この場の誰にも()()に立つ可能性はあった!! ご覧いただいた通りだ! 競い! 高め合い! さらに先へと登っていくその姿!! 次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている!! てな感じで最後に一言!! 皆さんご唱和ください!! せーの!」

 

「プルス「プル「お疲れ様でした!!!」ウル……えっ!?」プルス……」

 

 えー。

 

「「そこはプルスウルトラでしょオールマイト!!」」

「ああいや……疲れたろうなと思って……」

 

 ブーイングされても仕方ないって、オールマイト……。

 

 

 更衣室に戻る際、吐移が歩きながらよそ見をしていた。

 

「どうした?」

「ん? ああ……。全力の話、してたでしょ、俺。……俺、自分の限界を知らなくて……。俺の全力は、もしかしたら全力じゃないかもしれない。もしかしたら、自分の知らない“個性”があるんじゃないか、って……」

「それと、緑谷を見ていたのは、何か関係ある?」

「あ、バレてた。……いや、俺にも、リカバリーガールみたいな“個性”があったらいいなって。そしたら、ゲームで言ったら戦う回復術士みたいな、そんなヒーローになれるかも……って」

「それは、強いな」

 

 リカバリーガールみたいにと言うと、チューってすることになるが……。野郎にされるのは、色々絵ヅラが……想像するのは止めとこう。

 

「だから、怪我の多い緑谷くんに実験体になってもらおうと思ったんだけど……。あれでリカバリーガールに処置してもらった状態でしょ? なら無理だね」

「……怪我するのは、嫌なんだけど」

「別に頼んでないし、無理にお願いなんてしないですー。無いかもしれないしー」

「あるといいな」

「いいね!」

 

 帰るとき、吐移は有言実行していた。

 まだぎこちないなりに全力の笑顔で、「おめでとう!」と、爆豪の両手を持って言って、メダルの紐を咥えたままの爆豪に頭突きを食らっていた。うわヤバ、鼻血出てんじゃん吐移。すぐに止まってるみたいだけど。

 

「楽しそうだなぁ」

 

 吐移は走って逃げていった。遠ざかっていく笑い声には、疲れも、憂えも、一切無かった。

 

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