常闇戦が終わってから、吐移の様子がおかしい。
試合が終わってから何か話していたが、内容を尋ねてみても、「“個性”の話と応援してるって言っただけ」と、あまり詳しくは教えてくれなかった。ステージ上でもないから“個性”を使うワケにはいかないしな……。吐移は笑顔を忘れ、ずっと口に左手を当て、俯いて動かない。眉は顰められ、表情は険しい。
「そろそろ決勝始まるぞ」
そう声をかけて、ようやく吐移は顔を上げた。
「大注目だね」
浮かべた笑顔はいつもよりぎこちない。
『さァいよいよラスト!! 雄英一年の頂点がここで決まる!! 決勝戦 轟 対 爆豪 !!!』
「うわぁ、緊張する!」
『今!! スタート!!!!』
「うお゛っ」
合図と同時に、轟の大氷結がかまされた。瀬呂の二の舞か。どんまーい。
「いや、聞こえる!」
爆発と共に大氷結の中から爆豪が出てきた。爆豪は“個性”の爆破で、大氷結の中をモグラのように掘り進めてきたようだった。どちらもド派手だ。
「ド派手だけど、轟くんはなんか、大雑把だ」
爆豪を捕まえようと、同じ攻撃を繰り出した轟。それを弱爆破で身を浮かせ躱した爆豪が、轟がまだ使っていない左側を掴み、投げ飛ばした。
「……全力、か」
投げ飛ばされた轟も、氷結で壁を作って場外アウトを回避。そのままついでに爆豪に攻撃を仕掛けるが、構わず爆豪は轟に飛び込んだ。近くで爆破するつもりか。
「全力……なら……」
轟が自身へ飛び込んできた爆豪の右腕を掴んだ。掴んだその手からは炎が出せるはず。
「! 燃やされるっ」
しかし吐移の不安は外れ、爆豪は只投げられただけだった。
「何で左側を使わないんだ?」
「……使いたくないくらいの、悩みでもあるんじゃない? さっき、エンデヴァーの激励無視してたし」
「家庭の事情、か」
爆豪のフラストレーションは見るからに溜まっている。轟は飯田との三回戦でも左側を使わなかった。吐移の予想は、今度は当たっていそうだ。
「てめェ
「!」
「ブッ殺すぞ!!! 俺が取んのは完膚なきまでの一位なんだよ! 舐めプのクソカスに勝っても取れねんだよ! デクより上に行かねぇと意味がねえんだよ!! 勝つつもりもねぇなら俺の前に立つな!!! 何でここに立っとんだクソが!!!」
大技を繰り出す気か。爆豪が飛んだ。左右の手で違う方向に爆破をする。勢いを付けるようなそれは、爆豪自身を回転させていく。轟は動かない。
「負けるな、頑張れ!!!!」
緑谷の応援の声がこちらまで聞こえてきた。当然、轟にも聞こえたはずだ。
回転を早める爆豪。轟は、左側を燃やした。
「
鼓膜を痛いほど震わせる爆破音。飛び散る氷。凄まじい衝撃だった。
「ねぇ……今、氷使わなかった?」
『麗日戦で見せた特大火力に勢いと回転を加え、まさに人間榴弾!! 轟は緑谷戦での超爆風を打たなかったようだが、果たして……』
轟は場外で氷に身を預けて倒れていた。
勝ったのは爆豪だ。なのになんで、爆豪は轟の胸倉を掴んでんだ。
「ふざけんなよ!! こんなの……」
怒りに震え、拳を構える爆豪が倒れた。ミッドナイト先生が“個性”で眠らせたからだ。
「轟くん場外!! よって──爆豪くんの勝ち!!」
『以上で全ての競技が終了!! 今年度雄英体育祭1年優勝は──A組 爆豪勝己!!!!』
「勝者も寝てるって、締まらないね」
「それ、お前が言うのか」
お前爆豪に懐いてるくせに……。
ステージは回収され、俺たち生徒は再びグラウンドに集まる。台の代わりに俺たちの前には表彰台。三位に常闇、二位に轟。そして一位の座には……。
「すごいなアレ……」
「起きてからずっと暴れてんだって。元気だなー」
「元気……?」
何でお前は手も体も口も全て拘束され、コンクリの柱に括りつけられながら、それでも尚、轟に抗議しようと暴れている爆豪を見て、そんなのんきな感想が言えるんだ……?
三位には常闇以外にもうひとり、飯田、足にエンジンを積んでる奴が居たはずだが、何かあって早退したらしい。
「メダル授与よ!! 今年メダルを贈呈するのは勿論この人!!」
ミッドナイト先生が指差す、スタジアムの屋根には一つの影が。
「私が」
その影は屋根から飛び、回転しながら着地する!
「メダルを持って来「我らがヒーロー オールマイトォ!!」」
……被せないでくれ、ミッドナイト先生……。
気を取り直して、メダルの授与が始まった。羨ましいな。オールマイトから言葉をかけてもらえるなんて。
オールマイトからメダルをもらっても、爆豪は目を吊り上げたままだ。あれ、90°行くんじゃないか?
「後でおめでとう言ってこよー」
「悪意しか感じない」
吐移は楽しそうでいいなぁ。
「さァ!! 今回は彼らだった!! しかし皆さん! この場の誰にも
「プルス「プル「お疲れ様でした!!!」ウル……えっ!?」プルス……」
えー。
「「そこはプルスウルトラでしょオールマイト!!」」
「ああいや……疲れたろうなと思って……」
ブーイングされても仕方ないって、オールマイト……。
更衣室に戻る際、吐移が歩きながらよそ見をしていた。
「どうした?」
「ん? ああ……。全力の話、してたでしょ、俺。……俺、自分の限界を知らなくて……。俺の全力は、もしかしたら全力じゃないかもしれない。もしかしたら、自分の知らない“個性”があるんじゃないか、って……」
「それと、緑谷を見ていたのは、何か関係ある?」
「あ、バレてた。……いや、俺にも、リカバリーガールみたいな“個性”があったらいいなって。そしたら、ゲームで言ったら戦う回復術士みたいな、そんなヒーローになれるかも……って」
「それは、強いな」
リカバリーガールみたいにと言うと、チューってすることになるが……。野郎にされるのは、色々絵ヅラが……想像するのは止めとこう。
「だから、怪我の多い緑谷くんに実験体になってもらおうと思ったんだけど……。あれでリカバリーガールに処置してもらった状態でしょ? なら無理だね」
「……怪我するのは、嫌なんだけど」
「別に頼んでないし、無理にお願いなんてしないですー。無いかもしれないしー」
「あるといいな」
「いいね!」
帰るとき、吐移は有言実行していた。
まだぎこちないなりに全力の笑顔で、「おめでとう!」と、爆豪の両手を持って言って、メダルの紐を咥えたままの爆豪に頭突きを食らっていた。うわヤバ、鼻血出てんじゃん吐移。すぐに止まってるみたいだけど。
「楽しそうだなぁ」
吐移は走って逃げていった。遠ざかっていく笑い声には、疲れも、憂えも、一切無かった。