4ヶ月の   作:めもちょう

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十七話

 体育祭が終わって、二日間の休校が与えられた。

 

「シンソー君、シンソー君! 俺声かけられちゃったよ! お疲れ様とか! やっぱすごいね、雄英体育祭!」

「俺も声かけられたよ。……これでヒーロー科なら、ヒーロー事務所へ職場体験に行けるのにな……」

「まぁまぁ。俺たちも普通の職場体験行こーや」

 

 二日間の休校を経て、疲れも癒えた。あの体育祭の影響力は大きく、特に見せ場の無かったはずの俺でさえ、電車に乗ったら声をかけられた。吐移はバイト先でかけられたんだろうか。吐移は雄英の近くで一人暮らしをしていたはずだから。

 そんなこんな話をしていると、一限目が始まった。普通科の授業は、至って普通だ。

 

 今日の七限目はLHR(ロングホームルーム)。職場体験の件が話題だ。雄英側からオファーされて受けてくれた職場先に、生徒が希望を送る。人気の職場は抽選になるだろうな……。

 リストを眺めていたら、薄い体の人影がこちらに向かってきているのが視界の端に映った。

 

「シンソー君はどこ行くの?」

「吐移。俺は、警察が第一志望だよ。吐移は?」

「実はさ、俺、オファー来てて……」

「え?」

 

 普通科でオファー? どこの事務所だ!?

 

「あ、ヒーロー事務所からじゃないよ?」

「……なら、どこだよ」

「へへ……東京の消防署からだよ! 災害救助のプロから、どういうワケかオファーが来てさ! まぁ多分、体育祭の時にマイク先生が話してくれたからだと思うけど……」

「すごいな、夢の職からオファーなんて」

 

 俺たちの話が聞こえたんだろう、他のクラスメイト達も吐移に「すごいじゃん!」「おめでとう」等の言葉を送っていた。

 

「頑張ってきてね、吐移くん!」

「ありがとう! 俺、行ってきます! 皆も行きたいところに行けるように、応援してるね!」

 

 アイドルしてるな、吐移は。

 

 第二、第三希望を選ぶのに時間がかかりそうで、俺は希望を後日出すことにした。そして放課後。俺は朝から気になっていたことを聞くことにした。

 

「吐移」

「何?」

「昨日か一昨日、何か良い事あったか?」

「! 分かっちゃった?」

「一日中笑ってりゃな」

 

 いくら笑顔を心がけているとは言え、授業中なんかは流石に無表情だ。その大きい口の端がいつもは下がっているのに、今日はほんのり上がっていた。何か良いことがあったとしか思えない。

 

「実はさ、母さんに会ってきたんだ」

「……」

「ずっと、……嫌いだけど、好きだった母さんに。今まで、会えてなかったんだ。俺自身も大変だったから。……俺が、片足とは言え、医療の、ヒーローの道に進んでいいのか、聞きに行ったんだ」

「……」

「なんて言ってくれたと思う?」

「……さあ」

「“全力で応援するわ”、だって! 体育祭も見てくれたらしくて、“危ない戦い方はしないで”って。でも、“あなたの夢は多くの人を救う。だから、応援するわ”って……言ってくれて……。シンソー君。俺、愛されてた。俺の母さんは、とっても優しい、強い人なんだよ!」

「……そうだな」

 

 語る吐移の目には涙が溜まっていた。よほど嬉しかったんだろうなと思わざるを得なかった。

 

 

 

 昨日。外国のニュースで、妊娠中絶を禁止にする法案を通そうとしている国で、その法案に反対している集団を取り上げる報道があった。

 

「女性の人権を無視するな」

「育てられない子供を産んでも、両者不幸になる」

「国に個人の体を好きにする自由はない」

「望まない子を産みたくない」

 

 声高に言われる主張に、俺も納得はした。只、思ったんだ。

 レイプにより望まない妊娠をしてしまった女性。中絶出来ず、仕方なく生まれた吐移。あいつがこのニュースを見たら、何を思うだろうと。

 主張自体はあいつも賛同するだろう。だが、コメントする女性たちの目が、態度が、俺にはとても冷たく思えた。

 「愛せない」といった女性もいた。「愛したくない」とも。分かる。分かってしまう。

 

 ……だから、今のこいつを見て、俺も安心した。

 

「あと少しで出てこれるんだって。俺、まだ稼げる人間じゃないけど、夢を叶えて、母さんを楽させてあげるんだ」

「いい話だな」

「でしょ!」

 

 今日一番の笑顔だった。

 

「じゃあ俺、バクゴー君と稽古があるから!」

「まだ続いてたのか、その関係」

「切島くんと上鳴くん、瀬呂くんもいるよ! あ、シンソー君もどう!? トレーニング室で筋トレなんだけど」

 

 機嫌のいい吐移からの誘い。せっかくだし、乗ってみようか。

 

 

 

 アポ無しできた俺に舌打ちした爆豪。その他三名は歓迎してくれるらしい。

 

「えっと、心操だっけ?」

「ああ。よろしく。切島、上鳴、瀬呂」

「よろしく!」

「よろしくな!」

「頑張ろうぜ!」

「あと、……よろしく、爆豪」

 

 歓迎してくれない爆豪は不機嫌さMAXで、吐移曰く柔らかいはずの口元は奴の感情を表すように歪められていた。

 

「よくその面ァ下げてこれたなぁ……!」

「体育祭終わったんだから、敵視やめて。俺の笑顔に免じてさ!」

「-100万点」

「9900万点加点!!! よっしゃあ!!!」

「……」

 

 鳩が豆鉄砲を食らったような顔してるな、爆豪。俺もびっくりしたけど。

 

「前より笑顔自然になったもんな! 加点する気持ち、分かるわー」

「残り100万100点、頑張ろうぜ!」

「うん!」

 

 一連のセリフは爆豪の方をチラチラ見ながら言われていた。見られている本人には、さぞかしストレスだろうな。

 

「……これからやんのは、筋トレだぞ」

「こめかみピクピク言ってんな、爆豪」

「るせぇ!! てめェは帰れっ!!!」

「世話になる」

「ウゼェー!!!」

 

 へー。案外、爆豪って弄りがいがあるんだな。

 

 爆豪監督の筋トレメニューは、初日の俺にはキツかった。

 

「あ゛っ!? 振り子みてぇな反動つけてんじゃねぇぞ青髪!! ダンベルしっかり持ち上げろ!!」

「っウス」

「ヘアバン! テメェもだ!」

「はいっ!!」

 

 爆豪は面倒見のいい、スパルタだった。

 いままでは少し心配だったが、この様子なら、任せてもいいかもな。俺もちょくちょく世話になろう。

 

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