職場体験。俺は東京都内に事務所を構えている、No.4ヒーロー ジーニアスのもとに来ていた。初日から“矯正”するとかなんとか言われてムカついたが、選んじまったもんは仕方ねぇ。ここで吸収出来ることはしてやる。
パトロール中。さすが都内。小競り合いが多く出動回数も多い。ただ、俺の監督をするのは品行方正を求めるジーニアス。いつものスタイルで戦おうとすれば“個性”で引き留められる。それがストレスだった。二日目にしてフラストレーションがやべぇ。
ジーニアスの無線に、また連絡が入った。
「──了解。急行しよう」
「何て?」
「言葉遣い。──ここから約10km離れた場所で、トラックと大型バスが事故を起こした。負傷者多数。重傷者もいる。行くぞ」
「ああ」
人命救助もヒーローの本質。また『派手じゃねぇ』とか言ってられねぇ。
現場にはまだ救急車は到着していないようだった。既に有志とヒーローによってバスから何名か救出されているようだが、頭を打っている可能性もある。慎重に、尚且つバスかトラックが発火する恐れから、急いで救出するべきだ。
「水か氷系の“個性”を持つヒーローがいれば、その不安はねぇんだがな……」
「有利な“個性”が来るのを待つ間、私たちは私たちの出来ることをしよう」
「ういっす」
俺は野次馬の対処。ジーニアスは重傷者を看に行った。
「車の炎上の可能性があるから、離れてくれ。ヴィランとの戦闘じゃないし、見せもんじゃねぇ。下がってくれ」
「いいじゃん……あれ、君、雄英体育祭の一年の優勝者!?」
「そういうのはいいんだよ! 怪我人を撮してやるな」
「テレビで見た印象より、ずっとまともなこと言うんだねぇ!」
「さっさと下がれ! 怪我人の負担だっつってんだろーが!!」
何で危機感を持たねーんだ
「お、おい! もう無理すんな!」
そんな時だった。怪我人の中から声が上がったのは。俺はその声に反応した野次馬たちに「車の爆発の可能性は無いわけじゃねぇ! 巻き込まれたくないなら下がれ!」と牽制して、下がったのを見届けた後さっきの声のところに向かった。
怪我人が無理をするはずはない。するならヒーローか、俺のような職場体験生か。
駆けつけた俺は、自分の目を信じることが出来なかった。
「もういい。君のおかげで、重傷者はいなくなった。もういいんだ」
「……まだ、いるんじゃ……」
「ありがとう。命に別状のある怪我人は、君のおかげでもういない。休むんだ」
「……はい」
ジーニアスに説得されている男は、地面にへたりこんで、フラフラの身体を支えられている。雄英の制服を着ているそいつは血にまみれながら、肩で息をしている。赤が強すぎるから相対的にそう見えるだけか? いや、違う。その顔はしっかり青白い。
どういうことだ。何で、お前が、ここに。
テメェの“個性”は、自分の傷にしか対応していなかったハズだろ!
「オイ! ヘアバン!!」
「! バクゴー、君……?」
「なんでテメェ、ここに──」
「と~~い~~!!!」
「うわっケンさん」
「勝手に動くなっつったろ! その“個性”、まだ発覚したばかりで、限界も条件も何も分かっちゃいないだろ! それになァ!」
「分かってます……キケンな人が助かれば、俺、は、下がります……」
「そうしてくれ……」
俺の後ろから来た男は、ヘアバンの肩を叩くと、労うように頭を掴んでかき回した。
発覚したばかりの“個性”。それが、お前が息を切らせている原因か、ヘアバン。何がどうなって、んな全身血まみれになるんだか。
ようやくやってきた救急車。怪我人は全員で30名。軽傷者が19名に、そこそこ重傷者は11名。頭を打っている可能性を考えて、全員運ばれていった。重傷者の中にはすぐ命に関わる大怪我を負った奴も居たらしいが、ヘアバンの“個性”で何とかなったらしい。
何とかしてもらった怪我人から礼を言われ続けるヘアバン。それがひと段落したところで声をかける。
「どういうことだ、ヘアバン」
「あ、バクゴー君。もう次の現場に行ったと思った」
「全員見送ってからだわアホ」
「そっか」
俺に気がついたと思ったら、ヘアバンはなんとも間抜けな受け答えをしてきやがった。なんだお前。それで追求から逃れられるとでも思ってんのか。
「で?」
「でって……。あ、“個性”の話? あのね、昨日分かったんだ! 俺、他人の傷も治すことが出来るんだって!!」
「それで調子に乗って、5人分の怪我を吸収したんだな。この未熟者め!」
「ケンさん!」
話に割り込んできたのは、さっきヘアバンを労っていた男。もしかして、ヘアバンの職場体験先の……?
「野次馬の対処、感謝する。俺は東京消防隊員の花形健吾だ。コイツの一週間の保護者ってとこだ」
「どうも……。ジーニアスオフィスに職場体験に来てます、爆豪っす」
「君がか! 見たよ雄英体育祭! 豪快な戦い方は見てて痛快だった! とまぁ、俺たちも行かなきゃならん。お前さんも頑張ってな!」
「うっす。……ありがとうございます」
「“個性”のこと、後でメールするから! またね!」
血まみれのヘアバンは、水系の“個性”のヒーローに水をぶっかけられ、血を落としてから去っていった。
「君の知り合いか」
「ジーニアス……さん。はい。同級生っす」
「体育祭で見た顔だ。彼はヒーロー科ではないのか」
「あいつは普通科だ……です。ヒーロー科編入は狙ってるみたいっすけど」
「そうか……。他人を治癒出来る“個性”。彼には是非ヒーローになってもらいたいものだ。ヒーローでなくとも、個性が活用出来る職に」
「……そうっすね」
“矯正”する必要はないってか。クソが。
「もちろん、自己犠牲が何たるかを、学んでからだが」
「それは、そうっすね」
他人を治すたび自分の血が流れてちゃ、救けてもらった相手も安心出来ねぇ。何とかなれ。
夜。奴から長文のメールが入った。内容は、奴の新たに発覚した“個性”のこと。
・他人の傷も治せると気づいたのは職場体験初日。怪我人に人工呼吸をした際に傷が移ったことに気づいた。
・今日5人相手にして理解したのは、口同士でなくていいこと。傷を受けたいと意識しながら傷付近を吸うと、吸収出来る。
・一度自分に出現させてから自分の傷を治す為今まで血が流れていたが、毒抜きの要領で出来ないか試したところ、最後可能性を感じた。
・雄英に報告したところ、貴重な個性だから言いふらさないように、なるべく秘密にするようにとのことだった。君も言いふらさないでね。
「自身の治癒力にブーストをかけるだけのリカバリーガールより、有能な“個性”だからな……。悪用されないよう、保護してェんだろ」
一々顔を近づけてくるのは、リカバリーガールと同じだがな。
「災害救助の即戦力だな」と返信してやれば、『本気でヒーロー目指していいかもしれないって初めて思えた。俺、リカバリーガールを目指すよ』なんつー、宣言が返ってきた。