4ヶ月の   作:めもちょう

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二話

 いくら感謝されようとも俺にとっては一つのキャリアでしかないし、アイツにとっても礼を言って終わる関係だと思っていた。

 んな考えは、次の日も俺たちの隣に座りやがったコイツにぶち壊された。

 

「何勝手に俺の隣に座ってんだお前」

「いいじゃん。友達だろ、爆豪くん!」

「ダチだと思ってねーよ。ヘアバン」

()()(しょう)!」

 

 覚えてな! と今日も口の端しが引き攣った下手くそな笑顔を貼り付けてヘアバンは弁当の包みを開いた。今日もか。

 奴を無視して、台湾ラーメンに小袋の七味を振りまくる。辛ければ辛いほど、飯は旨い。熱されて立つ刺激と香りに誘われるがまま、箸で麺を持ち上げ、息で冷まし啜る。……悪くねぇ。咀嚼しながら二口目の為に麺を持ち上げる隣では、ヘアバンがカツ丼を食っているクソ髪に弁当の中身を指摘されていた。恥ずかしそうに肩を竦めて空笑いする奴のそれを見れば、昨日と全く変わらない内容の弁当がそこにあった。

 

「朝って忙しいからさ。一人分作るのに凝ったものは出来ないし、決断の回数は少ない方が疲れないって聞いたから」

「嘘だろ!? これから毎日、昼飯これ!?」

「材料が同じならね」

 

 鶏そぼろの乗った白米、野菜炒め、卵焼き。本当に昨日と全く変わらない。

 

「そんなことよりさ、俺、爆豪くんに頼みがあるんだ」

「やるかアホ」

「俺に稽古つけてくんない?」

「やらねーつってんだろ」

「君みたいに、俺も声を大きくしたいんだよ!」

 

 よりにもよって、声量の稽古かよ。くだらなすぎて、返事するのもめんどくさい。無視して麺を啜れば、「その頬っぺたも柔らかそうでいいよね! どう鍛えてるの?」と、しつこい。確かにコイツは声が小せぇし、口角がつり上がった笑顔を維持している表情筋は引き攣ってんだから固ぇだろうな。

 

「ヒーローにとって、声の大きさと笑顔ってのはすごく大事だろ? オールマイトがその筆頭! 声が大きければ遠くまで届く。それは、人々の避難を呼びかけたり、安心させたり、ヴィランへの威圧感にもなるだろ? 笑顔だってそうだ。人々の希望になり、ヴィランの絶望となる。ヒーローにとって、声と笑顔は大切なんだよ」

「俺らの担任は笑顔で安心させてくんねーぞ?」

「え、あ、そこは、ほら……実力で安心させてくれるでしょ」

 

 違ってんじゃねーか、と突っ込む前に、ヘアバンは「少なくとも俺の憧れはそーなの!」と、口をへの字にして不貞腐れた。そもそもあの担任はアングラ系ヒーローだから笑顔いらねーだろ。アホ面はやっぱアホだな。

 

 まぁ話を聞いてみりゃ、納得出来る部分はある。クソデクみてぇにボソボソ喋るヒーローなんざ気色わりーし、人気のヒーローになるのに笑顔ってのも捨てきれねー要素だ。No.2ヒーロー エンデヴァーなんかはそうでもねーが、武器はいくつあっても困らねぇ。

 

「入試落ちて今は普通科だけど、近いうちにヒーロー科に編入して、免許取って、俺はナンバー1救急救命士になる!」

「ヒーローじゃないんかい!」

「俺、戦闘能力皆無なもんで。でも、個性使用許可証さえ手に入れれば、職業ヒーローじゃなくても個性が使える。そうすればどんな災害現場でも、息さえ出来れば俺は人々を救える! だから爆豪くん、俺に稽古をつけてください!」

「俺が講師かよ」

 

 てっきり「一緒にやろう!」とか言うのかと思ってた。「最初にそう言ったじゃん」と言われてしまえば、確かにそうだったと思い出して、げんなりする。やったことねぇことの講師とか、何から始めていいか分かるかよメンドクセェ。

 

「やったことなんかねーぞ、こちとら」

「そうなの? あの大声は発声練習の賜物だとばかり」

「吐移、そんなに爆豪の声聞いたことあんの?」

「あるよ。実は俺があのケガをする前。入試の実技で俺と爆豪くん同じ会場だったんだ。覚えてる?」

「んなわけねーだろ、ザコ」

「ザコっ!?」

 

 ヒーロー科入試に落ちたザコによれば、俺が技をぶっ放す際の「死ねっ!」とか「殺ォす!!」とかが遠くからでもよく聞こえてたらしい。爆破音でもかき消されない声量に驚いたとかなんとか。

 いや近くに居ただろコイツ。他の受験者のロボットを破壊する音もある。そんな中で30メートルも離れたら声なんざ聞こえねぇはずだ。

 とりあえず俺は発声練習なんかやったことはねぇ。故にだ。

 

「放課後までに考えてやる。死にてぇくれぇきついの用意してやるから、覚悟すんだな」

 

 挑発的に言ってやれば、奴は驚いた間抜け顔を晒した後、下手な笑顔でこう返した。

 

「望むところだよ、バクゴー君!」

 

 

 

 その後の話だが、午後に行ったUSJでのヒーロー基礎学で、ヴィラン連合なんつーチンピラどもの襲撃にあった俺達。ほぼ無傷で消耗もねぇつってんのに、「大事件があった後にのんびり発声練習なんて出来ない! 今日は帰ろう? 帰って!」とヘアバンは譲らなかった。

 「明日こそ覚悟しとけよ」と言い残して家に帰れば、ババァと親父に心底心配されていた。ありがてェけどウザい二人を避けて風呂に入る。

 

 

「ふぅ……」

 

 熱い湯が張られた湯船に浸かる。心地よさに思わず声が出た。

 この気持ちよさも、安心も、先生が、ヒーローが、オールマイトが助けてくれたから存在すんだ。

 

「……」

 

 湯船に浸かりながら、体から更に力を抜いて目を閉じる。瞼の裏に映るのは、あの場所で目に焼き付いた光景だ。

 

 目の前で繰り広げられた脳無とオールマイトの戦闘。ヒーローがヒーローたる覇気。実力に裏付けされた絶対的な信頼感。「衰えた」と自分で言うが、それを感じさせない戦い。そして勝利。何よりも、その笑顔。

 プロの世界をまざまざと見せつけられ、体感させられた。敗北が幾多の死に繋がる世界でトップが魅せる力強い笑顔に、勝利宣言に、どれほどの人間が救われてきたことか。

 

「あいつの言う通り、だな」

 

 ヒーローに必要なのは、実力・笑顔・声。(もちろん他にもたくさんある)その中の二つを鍛えることを提案してきたあいつに、本格的に乗ってみてもいいかもしれねぇ。

 

 湯を掬って顔にかぶる。さァて、発声練習のメニューの見直しでもすっか。

 

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