4ヶ月の   作:めもちょう

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二十一話

「吐移くんに近寄らないでくれる」

「あ゛?」

 

 早朝、登校した俺の席の前に現れたこいつ。名乗りもしない失礼極まりない女に、いきなりそんな事を言われた。しかも返事をしただけなのに「あー怖い怖い」と自分を抱きしめて嫌な顔をする。こっちの方が気分悪なっとんじゃこらぁ。

 

「目付きもしゃべり方も態度も悪い。なんでこんなヤンキーが吐移くんと仲良いのか、ワケ分かんないんだけど」

「あ゛ァ? あいつが勝手に俺に懐いてるだけだろーが」

「自意識過剰」

「事実だろ」

 

 事実を言っただけで何で鼻で笑われなきゃなんねーんだよ。ナメてんじゃねーぞコイツ!

 

「あんたみたいに過去に虐めをしていた人間がヒーローを目指してんの、受け入れられないんですけど。直接関係なくても、虐めの加害者と被害者が仲良く出来てるなんて、ホント信じらんないんだけど?」

 

 座っている俺を見下ろして、威圧的に文句を言ってくるこいつも態度わりぃだろ。メンドクセェ。

 

「出来てんだから、どうでもいいだろ」

「それは吐移くんがあんたを虐めの加害者だって知らなかったからよ」

「テメェのリサーチ不足じゃねえか」

「誰が、仲良くなりたい人間の負の面なんて見たいと思うわけ? あんたは今まで見逃されてただけよ」

「……」

「あんたの虐めのことは、とっくに吐移くんに伝えてあるから。吐移くんのこと本当に分かってるなら、何をするべきか分かるわよね? もう二度と、吐移くんに話しかけないで。クズ」

 

 抑えろ。ここで反応したら、つまらないこいつの話を長引かせるだけだ。

 反応しない俺が肯定したとでも思ったのか、言いたいことを言い終わった女は、深い赤色の髪をなびかせて帰って行った。いったいなんだってんだ、朝っぱらから。

 

「かっちゃん……」

「うるせぇ、黙れデク」

 

 教室内には当然、俺以外の生徒もいるわけで。デクも、ヘアバンと交流がある奴らも登校していた。いや、そういう時間を狙ったんだ。周りへの印象を下げる為に。

 

「き、気にすんなよ! 爆豪は吐移を虐めてたわけじゃないし……」

 

 クソ髪が目を反らしながら言う。その態度は、「デクを虐めていた事実は変わらない」と言ってるようなもので、その通りだ。

 予鈴が鳴る。あの女のせいで息のしづらい空気の中、今日も授業が始まる。

 

 

 

 

「さすがに来ないだろうなー、吐移」

「来ないっつーか、止められてそうだよな。あの子多分、吐移が好きなんだろうな」

「だから、いつも一緒にいる爆豪に嫉妬して?」

「ハンッ! やり方がクズすぎんな」

「うーん、否定は出来ないな」

 

 あの空気が晴れないまま時間は過ぎ、昼休みになった。いつも通り大食堂へ向かい、たまに選ぶ温かい蕎麦を買い、いつも通り席に着き、いつも通り吐移が来た。

 

 ……!?

 

「はっ!? 吐移!?」

「嘘っ、俺の名前覚えてたの!?」

 

 んなこたぁどうでもいい。あいつがよくこっちに来ること許したな。そう思って見渡し、あいつを探せば、「記見さんは皆に引き止めてもらってるよ」と、ヘアバンが申し訳なさそうに言った。

 

「ごめんね。記見さんがお騒がせしたみたいで」

「そうだな」

「……でさ、バクゴー君、今日の放課後さ、筋トレの前に、話出来ない?」

「……」

 

 あの話を気にしてはいるのか。それもそうか。そうだ。当たり前だ。

 

「俺にとって大事な事を確認したいんだ。お願い」

「……わかった」

「ありがとう」

 

 なんでだ。逃げてぇ。

 

 

 

 

 集中出来ねぇ午後の授業を終えて、放課後。あいつは俺より先にトレーニングルームに来ていた。

 

「あれっ、他の皆は?」

「テメェとの話に集中して来い、だとよ」

「気遣ってくれたんだ……。場所を変えるから、別にいいのにな」

「あ? どこにだよ」

「ド定番の校舎裏! ……とは行かず、このすぐ裏だよ」

 

 じゃあ行こう。ヘアバンは俺を先導して歩き出した。ついでに俺の後ろにつけていた奴らもついてきた。ヘアバンは気づいていないらしい。気づいてねぇフリかもしれないが。証人を増やそうって魂胆か?

 

 

 

「バクゴー君への話っていうのはさ、君がどうしてヒーローを目指すのか。それを聞きたかったからだ」

 

 ヒーロー目指す理由、か。

 

「理由によっちゃあ、俺は……君を、尊敬出来なくなる。……教えて」

「……」

 

 連れ込まれた体育館裏で、俺はヘアバンに詰め寄られていた。突っぱねることは出来ねェ。さすがにこの質問に答えられなきゃ、ヒーローを目指している理由が無いのと同じだからな。

 

「まさか、有名になることが目的だとか言わないよね? 虐めっ子がさぁ」

「早とちりすんなバカ。聞け」

「ごめん」

「俺は……」

 

 ヒーローになって活躍してぇ。目立ちてぇ。カッコよくありてぇ。

 何より、ガキの頃から憧れてたんだ。

 

「オールマイトみたいになりてェからだ」

「……オールマイト。そっか」

 

 俺の答えを知ったヘアバンは顔を伏せ溜め息を吐くと、クックッと笑いだしやがった。

 

「何がおかしい」

「おかしいよ。オールマイトはヴィラン以外の人を笑顔にさせている。安心させてくれる。“平和の象徴”、その名に恥じないヒーロー活動をしてる。……君はどうだ?」

「あ゛ァ?」

「君は、緑谷くんから笑顔を永遠に奪いかねない行為を繰り返していた。どこがオールマイトだって?」

「……テメェ」

 

 黙って聞いてりゃ、こいつ……っ!

 

「関係ないなんて、思ってないよね! 君の行動は、君の憧れから遠いと俺思うなぁ! オールマイトじゃなけりゃ、俺も何も言わなかった! 憧れる人を目標にするのは構わない。素敵なことさ! でも、さすがに虐めっ子がオールマイトを目標にするのは、俺は認められないかな? オールマイトは虐めっ子じゃないから!」

 

 目が、瞳孔が開いてきている。この場所が暗いからか、こいつの精神がやられてきてるからか。

 ……こいつが不安定になるなら、俺がこいつに構う必要性はまるでねーな。今まではこいつがヴィランになったら目覚めが悪ぃから相手をしていただけだ。原因が俺になるくらいなら、もうこの関係も終わりだ。

 

「……何も言わないんだ。残念だな。……今までありがとう、爆豪くん」

 

 分かりやすく俺に蔑みの目を向けて、俺の横を通り抜けようとしたヘアバン。だがその足は直ぐに止まった。少し奥から、足音が聞こえる。

 

「勝手に期待して、勝手に嫌いになるのは酷いと思うよ、吐移くん」

「っ!? 緑谷くん!?」

「チッ」

 

 テメェも着いてきてやがったのか、デク。

 

 

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