4ヶ月の   作:めもちょう

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二十二話

「かっちゃんのこと、何も知らないまま側にいて、いざ知ったら最低だったからさよなら? 君は本当にかっちゃんの友達なの? 違うよね」

「まあ、今さっき違くなったね」

「最初から、違うだろ」

「……びっくりした。緑谷くん、爆豪くんのこと庇うんだ? 君が一番の被害者のくせに!」

 

 俺を置いて口喧嘩が始まりやがった。止めんのもめんどくせェ。

 見るだけ見届けてやろうと、壁にもたれかかる。

 

「……そうだね。確かに僕は、中学までかっちゃんに“無個性”を理由に虐められていた。『“無個性”がヒーローを目指すな』って。夢を否定され続けてきたよ」

「不思議。それでなんで恨まないわけ? 憎まないわけ? そうならないとかおかしいって、緑谷くん」

「恨んでるって言うより、悔しかった、かな。でもやっぱり一番は……理由が、明確だったから、かな」

「理不尽には変わりない!!」

「“無個性”はヒーローになれない。……当たり前だ。だから、理解は出来たよ」

「虐めていい理由にはならない……! 自分が暴力を振るわれることを、認めてしまっていい理由にならない!! 蔑まれていい、理由になんか……っ!!」

「ありがとう、吐移くん。君は僕のことを同情してくれてるんだよね」

「!! そうだよっ! だから俺、爆豪くんがヒーローを目指しているのが、許せない!!」

 

 ……別に誰かの許しを得てなるものじゃねえだろ、ヒーローは。許しじゃなく、認められてなるもんだ。

 

「俺は!!」

 

 ヘアバンの感情はヒートアップしていく。

 

「俺は……もし、俺を虐めていた奴らがヒーローを目指すと言ったら!! 俺は絶対に許さない!!! あんなクズどもが、俺がどうも出来ない“生まれ”を、母さんの“犯罪”を理由に暴力を振るってきたあいつらが、人を救う!? 俺の心を砕きまくったあいつらが、人の心を救うっ!? ふざけんなっ!! 許せるわけねぇ!!! なぁ緑谷くん。そうは思わないか……!?」

 

 心からの叫び、訴え。それがお前の本音か。ああ、ああ、確かに、そうなのかもしれねぇ。

 凄みを効かせた目で、声で、最後にデクにそう尋ねるヘアバン。デクは、どう答える?

 

「…………そうだね。君の境遇は酷いものだったみたいだね。僕には想像も出来ないよ」

「想像くらいは出来るでしょ」

「……僕は、そこまで酷くはなかったかな」

「……そっか。……俺と一緒にして、ごめんね」

「うん。一緒にしないで」

「……そうだねっ!!」

 

 こいつを煽って、何が言いたいんだ、デク。

 

「僕は別に、かっちゃんに心を砕かれたとは思ってないんだ。そりゃあバカにされて悔しかったけど、それをバネにして、そして色んな人に助けられながら、今、ここにいる」

「バネ、に……」

「君は僕と違う。そして、君を虐めた人と、僕を虐めた人は違う。そう、違うんだ」

「……」

「吐移くん。君を虐めたのは、キミの心を砕いたのは、かっちゃんなの?」

「……違う」

「違うでしょ? なら、その“許せない”っていう気持ちを、かっちゃんに向けないで」

「!!?」

「かっちゃんと君を虐めた人は違うんだ。君が知っているかっちゃんは、爆豪勝己は、君を虐めた? ねぇ吐移くん、君の知っている爆豪勝己は、どんな人なの?」

「…………助けて、くれた。生きてるかって、血まみれの俺に、声かけて、くれた。……トレーニングにも、文句いいながら、講師、してくれてる。……言動、怖いけど、面倒見のいい、カッコいい男だ」

「そうなんだね。それが、君の中の、爆豪勝己だ。他人の評価を鵜呑みにして、自分がした評価をないがしろにしちゃ、だめだよ」

「……ごめん、なさい」

 

 デクに説き伏せられ、背が丸くなったヘアバン。さっきまでの勢いはどこへやら。すっかり小さくなってしまった。

 ビクビクしながら、ヘアバンがこちらへ振り向く。

 

「……関係ないことで君に暴言をぶつけて、ヒーローになってほしくないなんて、言って、本当に、ごめんなさい」

「……そーだな」

 

 こいつが嫌う人間と同じ行為を、俺はしてたかもしれねぇ。だが、誰に対して、どのレベルでやっていたかは違う。どんな理由で引き起こされたかも違う。単純に同じレベルで比べられちゃ、たまんねぇ話ってこった。

 

「何突っ立ってんだ。戻れよ」

「えっ?」

 

 つまり。テメェの怒りは意味がなかったんだ。

 

「無かったことにしてやる。先に戻って、筋トレしてろ」

「……はいっ!」

 

 瞳孔も元に戻ったヘアバンは、泣きそうな、情けねぇ声で返事して、駆け足でトレーニング室に帰っていった。つけてた奴らはどうした?

 気になることもあるが、今は置いておこう。気に入らねぇこいつとも、話をつけなきゃなんねぇからな。

 

「オイ、クソデク。俺の交遊関係に口出しすんじゃねぇよ」

「あ、ごめん……。でも、吐移くんの怒りは、かっちゃんだけが関係してるわけじゃ無いと思って……。吐移くんが、自分を虐めていた人とかっちゃんを重ねて見ていたのなら、自分と僕を重ねて見ているはずだ。だから僕もしゃしゃり出た。さっきも言ったけど、僕と吐移くんの虐められていた理由は違う。理解出来る理由と、出来ない理由。彼は後者だった。だから、同列に考えるのはおかしいと思ったんだ。何より、僕は君たちの見下しを見返してやろうって成長に多少繋げられたけど、吐移くんは恨んでいたんでしょう? ……一緒にしちゃ、ダメだよ……」

「……そうかよ」

 

 程度が違うとはいえ、虐めは虐め。急に“個性”が出たとか、俺の動きを真似たような動きをしたりと、調子に乗り出したこいつがやっぱり気に入らなくて、ウザくて、相手にもしたくねぇ。だから、俺からアイツの主張に“同じにすんな”とは言えねぇ。そんな事は、俺でも分かっている。

 デクだからこそ、ヘアバンに言葉が届いたんだろう。

 

「友達、大切にしなよ」

「あ゛ァ!? ダチじゃねぇっ!!」

「ええっ、でもさっき、交遊関係って……」

「るせぇ! 失せろ!」

「わ、分かったよ……」

 

 やっぱりこいつは、気に入らねぇ。

 

 

 トレーニング室に戻れば、ヘアバン達いつものメンバーが揃っていた。ヘアバンから説明を受けて、あたかもホッとした顔を作っている。お前ら、後をつけて話を聞いてただろーが。

 準備体操を始める五人。その中から、俺に気付いた青髪が近寄ってきた。

 

「悪かったな。爆豪」

「あ?」

「記見のこと。吐移を焚き付けた奴だよ。吐移は今の様子だともう大丈夫だろうけど、あいつはまだ、お前のことを認めてない。デマを流さないように言い聞かせるけど、もしかしたらまたお前に突っかかるかも知れねぇ。気をつけてくれ」

「……おう」

 

 何を気を付ければいいのやら。

 

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