「えっいいな切島くん! バクゴー君、俺も勉強会に入れて!」
「勝手にしやがれ」
「ッシャ!」
期末まで一週間に迫った。今日の昼休みもヘアバンが弁当持参でやってきた。今日は珍しく白米の上にそぼろじゃなく、鮭フレーク。暫くはそれか?
「あれ? 心操から聞いたけど、吐移ってC組中間1位だったらしいじゃん。教えてもらう必要ある?」
「上鳴くん、さすがの情報収集能力だね……。応用でちょっとつまづいてて、そこ教えてもらえると助かるなって」
「なるほどなぁ」
バカなふりして近づいてきたのかと思ってゾッとした。キモ。中間と期末じゃ範囲が違うから、今の言い訳で騙されてやるか。
「吐移はあの記見って可愛い女子と勉強会すると思ったけどなぁ」
「教えるのは苦手でさ。俺より下の学年ならいいけど、同学年はさすがに余裕がないよ。物理とか」
「俺の理系選択は生物だぞ」
「嘘だろバクゴー君!?」
「物理でつまずいてんのに……」としょげたヘアバン。キャベツの炒め物をつまむが、表情は良くならない。物理は2年で取るつもりだった。
「元気だせって吐移! それよりどこで勉強会する? ベタにファミレス?」
「金の無い俺をよくそこに誘えたな、切島くん」
「ごめんなさい」
「じゃあどこだよ。図書館は喋れねえぞ」
「うーん……」
場所が決まらねえ。俺の家は普通に嫌だ。
「俺ん家、友達呼ぶなって言われてんだよなあ」
「じゃあいっそ、教室でやる?」
「机が動かせねぇし、狭ぇだろ」
「そっか」
辛口カレーを口に運ぶ。残りの選択肢はこいつの家だが、単身者用アパートなんて狭いに決まってる。それが分かっているからか、ヘアバンも言いにくそうにしている。はずだと思ったのに。
「……俺の家来る? 一人暮らしだし、まぁまぁ広いよ」
「は?」
「へー、広いんだ?」
嘘だろ?
放課後、改めてこいつに説明させた。
「情報解禁していいって許可降りたから二人には言うけど、あんまり人に言わないでね? 実は俺の“個性”、『他人の傷を直すことが出来る』“個性”でもあったんだ。治癒系の“個性”はとても貴重だからって、今俺、雄英に保護されてる形でさ」
「マジかよ、すげーな!」
「手のひら返しがな」
「は?」
「バクゴー君!」
親がヴィランだから要注意人物。使える強個性だから保護。つくづく都合がいいな。
日曜日。俺たちは朝から雄英の校門に集まっていた。ヘアバンからそう指定されたからだ。
「どんな家なんだろうなぁ、雄英が準備した家って」
「まず、セキュリティは高ぇな」
「間違いねぇ!」
「おはよう! 少し遅くなってごめん!」
クソ髪と話していたら、やっとヘアバンがやってきた。早くテメェの家に案内しやがれ。
「おはよう! 今日はよろしくな。お菓子買っといたぜ!」
「わあ、ありがとう! じゃあ早くいこっか!」
ヘアバンはくるりと回れ右をして、俺たちを先導した。……この先、いや、まさかな……?
予想は、当たっちまった。
「は~~~~……」
「すげぇな、雄英」
「俺にはもったいないよねー」
俺たちが見上げているのは雄英近くの高級マンション。32階もある。コンシェルジュもいる。嘘だろ、こんな……。
「いい思いさせて、ヴィランにさせないようにしたいのかもなー」
「なんでそんな後ろ向き? ま、怪しむ気持ちも分からないでもないけどな」
「20階か」
「うん。たまたま空いてたって」
「高いなぁ」
エレベーターの動きは滑らかで、変な重力も感じさせない。あっという間に20階についてしまった。
「さすがに角部屋じゃないか」
「それは贅沢すぎでしょ! さあ、いらっしゃいませ」
「お邪魔します」
「しゃっす」
玄関の床が、大理石。早速高級感。
白さの中に木の素材が暖かさを演出している、良くある内装だ。ただ、元の素材の良さが、高級感を隠しきれていない。まだ入って30秒なのに打ちのめされた気分だ。窓でっか。
「そこのテーブルでやる? それとも、地べたになるけどそっちの机でやる?」
「こ、こっちのテーブルで」
「分かった。席に着いて待ってて。今お茶出すから」
「……部屋いくつあるんだ」
「絶対単身者用じゃないな」
天井が高い。扉が多い。廊下が長い。リビングが広い。
「トイレまで広いのかよ……」
珍しい“個性”ってだけで、ここまで優遇されていいのかよ。絶対ヒーローになってやる。
用意された茶は普通のガラスコップに入った、普通の麦茶だった。
「なんか安心したわ」
「立派なのは家だけで、俺自身はまだ貧乏人だからね。食費は自分持ちだし!」
「そっか!」
「じゃあ勉強始めっぞ」
「あ、その前にいい?」
「なんだよ」
クソ髪が一口チョコの大袋を開けている横に座るヘアバン。テーブルは3人で座っても、まだ余裕があった。
「実はさ、俺、君たちの期末実習の関係者になったんだ。よろしくね!」
「は?」
「なんでっ!?」
「ははっ、さっきも言ったでしょう? “他人の傷を治す”って。ヒーロー科の演習、絶対怪我人出るでしょ? だから、リカバリーガールの補助として、君たちを見守ります!」
「すげーじゃん!」
「マンションの対価か」
「足りない……もっと利用してくれていい……」
「だから」
俺たちの様子をこいつに見られるのか。……また前みたいなことになるのはめんどくせえ。無駄に暴力的になるのだけは避けるか。
「何と言うか、まあ、バクゴー君。合わない人とグループを組むことになっても、協力して頑張ってね!」
「……入試の時と、内容変わんのか」
「そこまでは知らされてないけど、確実に難易度上がってそうだし、協力プレイはプロもやってることだから評価の対象でしょ! ……とりあえず今は、普通科目の対処から始めようか」
意味深なことを言いやがって……。
勉強は、ヘアバンはほとんど手がかからなかった。数学に少し手間取ってるくらいか。目の前のクソ髪に色々手を焼いた。
「昼ごはん、オムライスでいーい?」
「手作りっ!?」
「ラーメンで」
「ムリ」
「じゃあ訊くな」
「いや、あの、爆豪さんや……」
昼飯はオムそばになった。ラーメンスープの素が無かっただけらしい。
「すげぇな、吐移って……」
「美味しい物って、幸せになるからね」
味は、悪くなかった。