4ヶ月の   作:めもちょう

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二十三話

「えっいいな切島くん! バクゴー君、俺も勉強会に入れて!」

「勝手にしやがれ」

「ッシャ!」

 

 期末まで一週間に迫った。今日の昼休みもヘアバンが弁当持参でやってきた。今日は珍しく白米の上にそぼろじゃなく、鮭フレーク。暫くはそれか?

 

「あれ? 心操から聞いたけど、吐移ってC組中間1位だったらしいじゃん。教えてもらう必要ある?」

「上鳴くん、さすがの情報収集能力だね……。応用でちょっとつまづいてて、そこ教えてもらえると助かるなって」

「なるほどなぁ」

 

 バカなふりして近づいてきたのかと思ってゾッとした。キモ。中間と期末じゃ範囲が違うから、今の言い訳で騙されてやるか。

 

「吐移はあの記見って可愛い女子と勉強会すると思ったけどなぁ」

「教えるのは苦手でさ。俺より下の学年ならいいけど、同学年はさすがに余裕がないよ。物理とか」

「俺の理系選択は生物だぞ」

「嘘だろバクゴー君!?」

 

 「物理でつまずいてんのに……」としょげたヘアバン。キャベツの炒め物をつまむが、表情は良くならない。物理は2年で取るつもりだった。

 

「元気だせって吐移! それよりどこで勉強会する? ベタにファミレス?」

「金の無い俺をよくそこに誘えたな、切島くん」

「ごめんなさい」

「じゃあどこだよ。図書館は喋れねえぞ」

「うーん……」

 

 場所が決まらねえ。俺の家は普通に嫌だ。

 

「俺ん家、友達呼ぶなって言われてんだよなあ」

「じゃあいっそ、教室でやる?」

「机が動かせねぇし、狭ぇだろ」

「そっか」

 

 辛口カレーを口に運ぶ。残りの選択肢はこいつの家だが、単身者用アパートなんて狭いに決まってる。それが分かっているからか、ヘアバンも言いにくそうにしている。はずだと思ったのに。

 

「……俺の家来る? 一人暮らしだし、まぁまぁ広いよ」

「は?」

「へー、広いんだ?」

 

 嘘だろ?

 

 

 

 放課後、改めてこいつに説明させた。

 

「情報解禁していいって許可降りたから二人には言うけど、あんまり人に言わないでね? 実は俺の“個性”、『他人の傷を直すことが出来る』“個性”でもあったんだ。治癒系の“個性”はとても貴重だからって、今俺、雄英に保護されてる形でさ」

「マジかよ、すげーな!」

「手のひら返しがな」

「は?」

「バクゴー君!」

 

 親がヴィランだから要注意人物。使える強個性だから保護。つくづく都合がいいな。

 

 

 日曜日。俺たちは朝から雄英の校門に集まっていた。ヘアバンからそう指定されたからだ。

 

「どんな家なんだろうなぁ、雄英が準備した家って」

「まず、セキュリティは高ぇな」

「間違いねぇ!」

「おはよう! 少し遅くなってごめん!」

 

 クソ髪と話していたら、やっとヘアバンがやってきた。早くテメェの家に案内しやがれ。

 

「おはよう! 今日はよろしくな。お菓子買っといたぜ!」

「わあ、ありがとう! じゃあ早くいこっか!」

 

 ヘアバンはくるりと回れ右をして、俺たちを先導した。……この先、いや、まさかな……?

 

 

 

 予想は、当たっちまった。

 

「は~~~~……」

「すげぇな、雄英」

「俺にはもったいないよねー」

 

 俺たちが見上げているのは雄英近くの高級マンション。32階もある。コンシェルジュもいる。嘘だろ、こんな……。

 

「いい思いさせて、ヴィランにさせないようにしたいのかもなー」

「なんでそんな後ろ向き? ま、怪しむ気持ちも分からないでもないけどな」

「20階か」

「うん。たまたま空いてたって」

「高いなぁ」

 

 エレベーターの動きは滑らかで、変な重力も感じさせない。あっという間に20階についてしまった。

 

「さすがに角部屋じゃないか」

「それは贅沢すぎでしょ! さあ、いらっしゃいませ」

「お邪魔します」

「しゃっす」

 

 玄関の床が、大理石。早速高級感。

 白さの中に木の素材が暖かさを演出している、良くある内装だ。ただ、元の素材の良さが、高級感を隠しきれていない。まだ入って30秒なのに打ちのめされた気分だ。窓でっか。

 

「そこのテーブルでやる? それとも、地べたになるけどそっちの机でやる?」

「こ、こっちのテーブルで」

「分かった。席に着いて待ってて。今お茶出すから」

「……部屋いくつあるんだ」

「絶対単身者用じゃないな」

 

 天井が高い。扉が多い。廊下が長い。リビングが広い。

 

「トイレまで広いのかよ……」

 

 珍しい“個性”ってだけで、ここまで優遇されていいのかよ。絶対ヒーローになってやる。

 用意された茶は普通のガラスコップに入った、普通の麦茶だった。

 

「なんか安心したわ」

「立派なのは家だけで、俺自身はまだ貧乏人だからね。食費は自分持ちだし!」

「そっか!」

「じゃあ勉強始めっぞ」

「あ、その前にいい?」

「なんだよ」

 

 クソ髪が一口チョコの大袋を開けている横に座るヘアバン。テーブルは3人で座っても、まだ余裕があった。

 

「実はさ、俺、君たちの期末実習の関係者になったんだ。よろしくね!」

「は?」

「なんでっ!?」

「ははっ、さっきも言ったでしょう? “他人の傷を治す”って。ヒーロー科の演習、絶対怪我人出るでしょ? だから、リカバリーガールの補助として、君たちを見守ります!」

「すげーじゃん!」

「マンションの対価か」

「足りない……もっと利用してくれていい……」

「だから」

 

 俺たちの様子をこいつに見られるのか。……また前みたいなことになるのはめんどくせえ。無駄に暴力的になるのだけは避けるか。

 

「何と言うか、まあ、バクゴー君。合わない人とグループを組むことになっても、協力して頑張ってね!」

「……入試の時と、内容変わんのか」

「そこまでは知らされてないけど、確実に難易度上がってそうだし、協力プレイはプロもやってることだから評価の対象でしょ! ……とりあえず今は、普通科目の対処から始めようか」

 

 意味深なことを言いやがって……。

 勉強は、ヘアバンはほとんど手がかからなかった。数学に少し手間取ってるくらいか。目の前のクソ髪に色々手を焼いた。

 

「昼ごはん、オムライスでいーい?」

「手作りっ!?」

「ラーメンで」

「ムリ」

「じゃあ訊くな」

「いや、あの、爆豪さんや……」

 

 昼飯はオムそばになった。ラーメンスープの素が無かっただけらしい。

 

「すげぇな、吐移って……」

「美味しい物って、幸せになるからね」

 

 味は、悪くなかった。

 

 

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