4ヶ月の   作:めもちょう

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二十四話

「さて……今日は激務になりそうだ」

 

 期末演習試験当日。私たちは練習場近くに保健所を出張し、待機していた。出張所のテントの中には、数多くの小さめの液晶が並んでいる。その一つ一つに二人一組の生徒たちが映っている。例年忙しいけれど、今年は楽になるといいね。

 

「改めてよろしくね、吐移正くん」

「よろしくお願いします、リカバリーガール!」

 

 私のそばにいるのは、普通科1年、吐移正。息をするように回復出来るが、その対象は自分のみと思われたその“個性”。でも実際には口で患部付近を吸えば、他人のものであろうと傷を吸収出来る“個性”であることが後に発覚した生徒。色々検証した結果、治療を受けた対象に少しの疲労感があるだけで、ほとんどリスクなしと言っていい。個性が分かった最初の頃は吐移に移って傷ついていたし、リスクはそれだったんだろう。それもすぐに克服したけどね。

 

「くれぐれも、治し過ぎないようにね」

「自己治癒能力を失わせないように、ですよね」

 

 下手したら私より強力だろう、治癒系の“個性”を持ったこの子を今回側に置いたのは、それが理由だった。次にすぐ戦闘が無いのなら、あんまり強く治癒する必要は無い。怪我の大きさによって吸う空気の量も変わるみたいだしね。その辺りの調整も出来れば、この子はより完璧になる。

 

 

 

 今回の演習試験は例年の対ロボット演習ではなく、二人一組で一人のヒーローを相手にするもの。勝利条件は「ハンドカフスを教師に掛ける」か、「試験者どちらか一人がステージから脱出」すること。教師側には体重の約半分の重量の超圧縮おもりを装着するが、それでも教師陣は生徒より当然格上。嘗めてはいけないよ。

 教師をヴィランと見立てての演習。戦ってカフスを付けるか、応援を呼ぶ為にいち早くステージから脱出するか。相手になる先生や本人の“個性”によって、その選択肢は変わってくるだろうね。その柔軟さも採点対象さ。

 

 

「それじゃあ、見ていくかね」

 

 マイクの電源を入れる。

 

「皆、位置に着いたね。それじゃあ今から、雄英高一年、期末テストを始めるよ! レディイイ──……ゴォ!!!」

 

 三十分の、長い試験(たたかい)が始まった。

 

「先生たちの雰囲気が変わった……?」

「そりゃそうさね。教師陣も、生徒たちを全力で叩き潰すつもりさ」

「……怖い、ですね」

「将来的にもっと凶悪で最悪なヴィランと毎日のように相手するんだ。これくらい当然さ」

 

 画面の中の生徒たちは、とりあえず隠れたり撤退したりして、戦闘を避けていた。

 

「今回の相手は先生だから、“個性”の把握はある程度出来ますね。今はとりあえず距離を取って、自分や相棒の個性の相性だったり、相手の弱いところを突く作戦を取れるか、それともそうではないと判断して応援を呼びに行くか。なんかを話し合わないとですね」

「分かってるじゃないか。そう。この試験で見ている項目の一つには、コミュニケーション能力があるよ」

 

 さすがヒーローを目指すだけある。普通科の生徒であろうとも、基本的なことは分かっているね。

 

「この社会……ヒーローとして地味に重要な能力。特定の相棒(サイドキック)と抜群のチームプレーを発揮出来るより、誰とでも一定水準をこなせる方が良しとされる。となると、あの二人は──」

「バクゴー君……」

 

 注視する画面には、A組の爆豪と緑谷が映っている。様子を見るに、爆豪は緑谷の話を聞く気は、一切無いみたいだね。

 

「音声も聞けるよ。聞くかい?」

「……いえ、大丈夫です」

「そうかい?」

 

 この子は最近、爆豪と少し喧嘩をしたらしい。もしかしたら、もう嫌な部分には目を瞑りたいのかもしれないね。

 

「! うそ……」

 

 彼の地雷を踏んだのか。爆豪が緑谷の顔を籠手で殴りつけた。もうこれじゃあ。

 

「チームワークなんて、無いも同然だ……」

 

 吐移が顔を青くさせたその時、建物が吹き飛ばされた。その衝撃波と暴風は緑谷をも吹き飛ばした。

 

「最悪のチームだね」

 

 オールマイト(脅威)が現れた。

 

「あんなパワーが……てか、建物!」

「ヴィランがそんなこと気にするもんか。さて、どうするかね」

「……」

 

 オールマイトの出す威圧感に、緑谷は逃げ出そうとする。が、爆豪は立ち向かうみたいだ。弱い爆破の連打を食らわせ、顔を掴まれても攻撃をやめない。そのタフネスは評価に値するね。まぁ投げられたけどね。

 逃げ腰の緑谷の前に回り込むオールマイト。ああ、やっぱり緑谷は逃げるが、後ろへのジャンプで遠ざかろうとしたその背に、爆破で既に飛んでいた爆豪が飛び込んで、ぶつかってしまった。

 

「勝つことだけが条件じゃないのに……。バクゴー君、何か焦ってる? 緑谷くんがいるから……?」

「そうかもしれないね」

「落ち着いてくれ……頭いいだろうが」

 

 オールマイトによって、ガードレールで地面に拘束された緑谷と、みぞおちを殴られ吐きながらぶっ飛ばされた爆豪。絶体絶命。そんな状況の二人。

 

「ここまで、かね」

 

 それでも立ち上がった爆豪に、オールマイトが立ちふさがる。ああ、なんて情けない表情(カオ)すんだい! それでもヒーロー候補生かい!

 ひと思いにやってやろうというのか。オールマイトが腕を上げた。

 

「あ!!?」

「おや」

 

 爆豪の諦めきったその横っ面を、いつの間にかガードレールから抜け出した緑谷が吹っ飛ばした。

 

「緑谷くんは、まだ諦めてない!」

 

 

 

 爆豪を抱えた緑谷は勢いそのままに、カメラの無い路地裏へと隠れ逃げて行った。

 

「さて、二人はそのままゲートへ向かうかな?」

「俺は、立ち向かうと思います」

「なぜ?」

「……前に、バクゴー君から聞きました。彼は、『オールマイトみたいになりたい』と、言っていました。それってきっと、“絶対に勝つ”ってことだと思うんです。差がありすぎるなら、一矢報いるくらい、するはずです」

「なるほどね」

 

 画面ではオールマイトがゲートに向かって走っていた。その背後から、路地裏から爆豪が爆発と共に飛び出してきた。爆豪は自身の方へ振り返ったオールマイトに目潰しを喰らわせると、緑谷に合図をした。煙の中から現れた緑谷の右腕には、爆豪の籠手が装着されていた。

 緑谷がピンを抜くと、とても大きい爆破がオールマイトを襲った。撃った場所も最初にオールマイトが一直線に破壊した場所をなぞっていて、更なる被害をもたらした訳じゃない。いいね。賢い活用法だ。

 オールマイトが爆破の衝撃で動けない隙を狙って、二人はその場を離れていった。

 

「すごいな……」

「そうだね。でも、この子らばかり見てちゃ勿体ないよ。他にも目を向けてごらん」

「はい」

 

 吐移は切島チームと上鳴チームを見るようだった。私はどうしようかね。

 

 

 

「報告だよ。条件達成最初のチームは、轟・八百万チーム!」

「その二人は、特に怪我もなさそうですね」

「それに引き換え、緑谷チームは大変そうだ」

「うわっ!? 何があった!?」

 

 緑谷は左腕を掴んで持ち上げられ、爆豪は腰辺りを踏まれていた。対照的なやられ方で、共通して暴力的だった。

 

「籠手も無い」

 

 目がいいね。だがそれでも爆豪はやるみたいだね。特大の爆破を足元から食らったオールマイト。浮いてひるんだ隙に、爆豪は緑谷を爆風に乗せて、ゲートまで飛ばした。

 

「あれ人の体だぞ!」

 

 そのままゴールするかと思われた緑谷の背中に、オールマイトがヒップアタックを決めた。

 

「ありゃ、腰がいったね」

 

 地に落ちた緑谷は、地面を跳ねて転がった。ヒップアタックで浮いたままのオールマイト。そこに爆豪が特大火力をお見舞いした。

 

「手、絶対焼けてる」

 

 それをもう一度発動する爆豪。さあ、その隙にゴール出来るか? オールマイトの妨害を避けれるか?

 

「っ!! バクゴー君!」

 

 ゲートへ向かう緑谷を狙っていたオールマイト。だが、本当の狙いは、そんな自分を妨害しようとした爆豪だったらしい。

 

「頭を打たれた! ……えっ!」

 

 思いっきり地面に頭を打ち付けられた爆豪。でも彼は、右手で、自分の頭を掴むオールマイトの右腕を掴み、爆破させる。

 

「でも、弱い……」

「爆豪はここまでかね」

「そうです、ね……」

 

 爆豪はここでオールマイトに討たれ、その隙に緑谷はゴールするだろう。そんな予測を緑谷はオールマイトの顔をフッ飛ばすことで裏切った。

 

「ええっ!?」

 

 緑谷の行動に度肝を抜かれたか、無理が祟ったか。オールマイトは尻餅をついたまま立ち上がれず、走り去る緑谷の背中を見るだけだった。

 爆豪を取り戻した緑谷は、気絶している彼を抱えて、二人でゴールした。

 

「すごいなぁ……どんな状況でも勝つことを諦めない。そして、助けにいく。……ヒーローだ」

 

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