4ヶ月の   作:めもちょう

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二十六話

 期末演習試験を終えた翌日。赤点を取ったダセェ奴らも林間合宿に行けるどんでん返しが起こった日。昼休みはいつも通り、ヘアバンが俺たちのところに来ていた。

 

「皆良かったね、合宿行けて!」

「合宿先で補習は絶対大変だけどな」

「行けるだけいいっしょ! お土産話、楽しみにしてるよ!」

「おう!」

 

 朝まで情けなく沈んだ表情だった奴らとは思えねえな。ヘアバンの進化した“個性”について話しながら食事を続け、そろそろ昼休み時間が終わる。

 

「俺、少し先に帰るねー」

 

 とっくに弁当を包んだヘアバンが立ち上がった。そう言っていつも俺達より先に帰るが、何してんだろうな。

 

 カランッ

 

 一歩進んだヘアバンの足元に、黒いキューブが転がった。これがヘアバンのものなのか、別の誰かのものなのか。その場では判断つかねぇからヘアバンに声をかけなかった。

 

「爆豪、それなんだ?」

「知らね」

「知らないのに持ってんの?」

「どこで拾ったんだよ」

「食堂」

 

 キューブは1四方cmで、黒地に濃い赤で、ひび割れのような模様が入っている。禍々しく感じるが、そこらに捨てるわけにもいかなそうな気がした。 やっぱり後でヘアバンの奴に聞こう。最初で聞いときゃ、こんなのに囚われずに済んだのに。バカだ。

 

 午後のヒーロー基礎学を終えた後、更衣室でもう一度それを見る。さっきより角の辺りが砕けている気がする。

 

「かっちゃん、それは?」

「あ゛? テメェには関係ねェだろ」

「でもそれ、何か……」

「見てんじゃねぇ!」

 

 デクに話しかけられるのが気に入らなくて、イラついて、手に取っていた話題のキューブを握り潰して爆破した。

 やっちまった。まぁでもこれの持ち主はヘアバンだし、どうでもいいか。落としたことに気がつかねぇんなら、対して大事なもんでもなかったんだろ。

 

 広げた手に、キューブの破片は無かった。

 

「は?」

 

 頭に衝撃を与えられた。角のある鈍器で殴られたような、強い衝撃を。目が飛び出るかと思った。痛ぇ、熱い、立っていられない。周りが焦ったように声をあげている。“リカバリーガールを呼んでこい”とか、“止血をしないと”とか。視界が赤くなってんのは、俺の、血が、原因か……。

 

 

 

 気を失っていたらしい。目が覚めると、保健室の天井が見えた。原因不明の怪我で気絶した俺を、クラスの誰かが運び込んだらしい。ベッドの周りに張られたカーテンの一部が開いた。開けたのはリカバリーガールだった。

 

「起きたね」

「リカバリーガール……」

「何があったかはあの子らから聞いてるけど、一応あんたからも聞いていいかい?」

「……ああ」

 

 原因っつーか、元凶は絶対にあの黒いキューブだ。ヘアバンが歩いた後に出てきた、赤いひび割れの入ったあの小せぇ黒いキューブ。あれを握りつぶした瞬間、俺はこの怪我をした。

 

「何か上から落ちてきたわけでも無し、誰かがあんたを襲ったわけでも無し。演習中じゃなく着替え中に起こったのも変だと思ったけれど、そうかい、キューブかい……。そのキューブ、まだあるのかい?」

「いや……、あの一つだけだ」

「そうかい? まあ次見つけたら、今度は潰さず、私か先生達に渡しとくれ。誰の“個性”か分かるかもしれないからね」

「うす」

 

 頭には包帯が巻かれていた。昨日の今日でリカバリーガールの処置なら、一気に活性化出来なかったんだろう。動けないのはだりぃな。

 保健室の扉がカラカラと開いた音がした。

 

「失礼します……」

 

 声的に、入ってきたのはヘアバンらしい。

 

「丁度いいところに。あんた、私が許可出すから“個性”であの子の頭の傷を直してやんな」

「いいんですか!?」

「頭は後遺症が残ったら大変だからね」

「ありがとうございます」

 

 カーテン越しに繰り広げられる会話。俺の意思は無視か。

 ふわりと遠慮がちにカーテンが開けられる。影でなのか。覗いてきた奴の顔色は、少し白く見えた。

 

「あ、起きてた」

「目ェ覚めてなかったら勝手にするつもりだったんか」

「その方が何も言われずに済むと思って。“個性”発動条件的にね」

 

 鞄を置いたヘアバンは、右手の人差し指で自分の唇に触れていた。

 

「気色わりぃ。さっさと済ませよ」

「はいはい」

 

 近いうちに林間合宿がある。なるべく万全がいいから、こいつの“個性”で回復した方が絶対にいい。

 

「目ぇ閉じてて。顔近づけるから」

 

 頭のそばに手を置かれる。俺への配慮か、近づいてくる気配は脳天に向かっていた。

 息を吸われた。そして、別方向に向かって吐かれた。これがお前の“個性”か。感じていた痛みが一気に消えた。

 

「はい、おつかれ。全部取れたよ」

 

 ヘアバンが離れたのを確認して、俺も起き上がる。患部に触れてみるが、本当に特に痛みも違和感もない。

 

「すげぇな」

「でしょ?」

「調子乗んな」

「乗らせてもらいますー!」

「治ったなら、包帯取るよ」

 

 リカバリーガールに頭の包帯を取られながら、「応急処置として活性化もしたから、今日は絶対安静だよ」と注意を受ける。ワクチン注射かよ。

 

「明日休みだし、丁度いいんじゃない?」

「テメェは筋トレ忘れんなよ」

「はーい」

 

 帰り支度の為に教室に向かう。コスチュームはさっき着替えた。

 

「バクゴー君」

「あんだよ」

「……やっぱり、なんでもない!」

「ああ゛?」

 

 言いたいことあるなら言えばいい。言いたいのに、言えないのか。なら、もう少し考えてから言え。

 

「……ごめんね」

「だから、なんだよ」

 

 何への謝罪だ。一連の流れに、てめェが謝る要素があったんか。あるんだとしたら、背中を丸める前に、何に謝ってんのか説明しやがれ。

 

 

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