4ヶ月の   作:めもちょう

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二十七話

 木椰区(きやしく)ショッピングモールでヴィランが出現した事件があった2日後。月曜日の朝。吐移がマスクをして登校してきた。

 

「風邪か?」

 

 話しかけると手を振ってきてくれたが、何も言わなかった。代わりにまっさらなノートを取り出し、マジックペンで何かを書き込んでいく。書き終えると、それを俺に見せてきた。

 

「『喉風邪お休みで引いて声が出ない』? 休めよ」

 

 吐移は左手で額に触れ、その手を横に振った。

 

「熱はないってことか」

 

 吐移は嬉しそうに頷いた。通じたからか?

 

「吐移くん、風邪引いちゃったの? 私が看病するから、お家帰ろ!」

 

 吐移は手を横に振って、記見の提案を断った。せっかく来てるんだから、そりゃそうだよな。

 

 昼休み。吐移は弁当箱を持って、教室を飛び出した。振り返って手を振るのを忘れずに。

 

「アイドルしてるなぁ……」

「でも、今日くらいこっちにいとけばいいのに。大好きな爆豪に感染るかもしれないのに」

「お前、ついに……!」

「認めてないわよ! でも、事実は正しく認識するべき、受け止めるべきだと思ってんの。いいから、私たちも大食堂に行くわよ。今日は鯖煮定食の気分なの」

「はいはい」

 

 そして大食堂にやってきた俺達。一応吐移を探してみた。だが、あのダサい小豆色のヘアバンドが、見つからない。

 

「ねぇ、居なくない?」

「……爆豪んとこにもいないぞ」

 

 爆豪にも直接聞いてみたが、今日はまだ来ていないとのことだった。……あいつ、どこに行った?

 

 

 

「また“個性”事故かぁ。何人か“本音しか言えない個性”の事故に巻き込まれたみたいよ、昨日」

 

 記見が見せてきたスマホの画面に写っているのは、今日の日付のネットニュース。

 

「本音しか言えないから色々喧嘩だったり、仕事にならなくて大変みたい。……皆しゃべらないように、口にガムテしたりしてる、って……」

「……」

 

 

 教室に戻ると、吐移は既に帰ってきていて、自分の席に着いていた。

 

「どこに行ってたんだよ。ちゃんと食べたか?」

 

 吐移が見せてきたノートには、『途中で気分が悪くなって、保健室に行った。弁当はそこで食べさせてもらった』と書かれていて、弁当も空なことを確認出来た。だが、どうも怪しい。

 

「吐移くーん、今日の笑顔見せてー?」

 

 吐移は『ごめんね』と紙に書いて、見せた。

 

 どうして、口を見せてくれない。

 

 

 

「ねぇ、やるの、本当に。違ったらどうすんの」

「当たってたら、あいつはずっとあのままだぞ」

「それは、そうだけど……」

「外れてたら、その時はその時だ。放課後。何があろうと、決行だ」

「……うん」

 

 6限前の休み時間。吐移がトイレに行ってる間、記見と上記の会話をした。

 吐移の行動があまりにも怪しくて、“個性”事故を疑った。少ない休み時間で隠れて検索をかければ、この“個性”は潜伏期間である6時間以内に被害者に接触すると、接触者に感染する特徴があることが分かった。これが被害拡大の原因らしい。あのおかしい様子とこの事件。もう、決まりだろう。

 

 そして、その時はやってきた。

 

「吐移、 爆豪が教室で待ってろって。さっき言ってたの忘れてたわ」

 

 放課後。帰り支度をしている吐移にそう伝えると吐移は当然、「なんで?」と言いたげに首を傾げた。続けて「演習が長引くかもしれないから待っとけってさ。宿題して待ってこうぜ」と言うと、優しく頷いた。信じてくれたな。

 帰り支度をした鞄の中から、課題のプリントが入ったクリアファイルを取り出した吐移。俺も緊張が伝わらないよう、早く同じプリントを持ってこよう。30分、待てばいいんだ。

 

「オイ」

 

 は?

 

「ヘアバン、こっち来い」

 

 嘘だろ、爆豪。時間指定しただろうが。

 吐移は無邪気に、手に持っていたものを机に置いて、爆豪の元へ駆け寄る。

 待て、待て! まだ、クラスの連中帰ってねぇ!!

 

 

 

 

 

「爆豪。今日の放課後、C組の教室に来て、吐移のマスクを引っぺがしてくれないか?」

「ああ? マスクぅ?」

「ああ。風邪で声が出ないとは言っているが、どうも怪しい。俺たちは、吐移が昨日の“個性”事故に巻き込まれたと考えている」

 

 昼休みも終わりに近づいた頃、俺たちは爆豪に依頼した。爆豪は、まぁ当然だが意味が分からねえと、元々顰めっ面なのを更に顰めていた。

 

「テメェらでやれよ」

「あいつの警戒心が高いのは知ってるだろ。C組の奴らじゃダメだ。チャンスは一回。一番自然に、警戒されずに出来るのは、マスク姿を見てないお前なんだ」

「ほーん、で、マスクを外す必要性は何だ」

「あ、もしかしてその“個性”事故の治し方が関係してるのか?」

 

 話に割り込んできた上鳴の手には、スマホが握られている。

 

「“個性”を解くには、一つ秘密を晒け出すこと、らしいじゃん。で、吐移は声が出ないって言って喋らないようにしてるんだろ? それじゃあいつまでも解けねぇもん」

「解いてやりたいから、マスクひっぺがして秘密を言わせたいってことか! ダチ思いだな!」

「言い出すまで待てばいいじゃねぇか」

「そりゃ正論だが、バイトに影響するだろ」

「あいつが言えない秘密を持ってんのが悪ぃんだろ」

「だから、ムリにでも言わせるんだよ。待っていたらまたあいつは、笑顔を忘れちまう。自分が何の為に吐移に付き合ってんのか、忘れたわけじゃないよな?」

「……チッ」

「協力、ありがとな」

 

 

 

 時間を指定して、吐移の隙をついてマスクを引っぺがしてほしいと言ったはずだ。あんまり人がいる前でやるのも可哀想だから、ある程度教室から人が居なくなった後に。だから、時間を置くと言っただろ。

 

 言った時間よりもずっと前に来た爆豪は、無警戒で近寄ってきた吐移のマスクを、乱暴に引き剥がした。

 

「っ!!?」

 

 マスクの下から現れた口は、糸で縫い付けられていた。開かないように、何重にも、黒と赤の糸で、人よりも少しだけ厚い唇を縫い付けていた。

 今更両手で隠しても遅い。もう教室にいたほとんどの奴らがお前のその口を見たはずだ。

 

「俺相手に秘密を作ろうなんざ、甘ぇんだよ! 晒しやがれ。全部な!」

 

 悪人面の爆豪の前には、膝をついて俯く、吐移の姿。俺は、あんなに怯える吐移の姿を見たことが無い。あんなに震えた、小さい吐移を。

 

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