4ヶ月の   作:めもちょう

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二十八話

「お前、本音しか言えない“個性”事故に巻き込まれたらしいなぁ? いい機会だ。テメェから色々聞き出してやるよ」

 

 爆豪お前、昼休みまで「本人が言い出すまで大人しくしとけ」とか言ってたくせに、どういう心境の変化だよ。

 膝を付いている吐移は俯いたままだ。肩が震えている。泣いているかもしれない。

 

「まぁまずは、喋らす口を作んねぇとな。誰かハサミよこせ」

 

 爆豪が辺りを見回す。つられて俺も見回せば、俺と同じように見回す奴ばかり。唯一、記見だけは鞄の中からソーイングセットを取り出した。そのハサミか。

 

「……吐移くんを泣かせたあんたにはさせない。私にやらせて」

「誰がやろうと一緒だ。さっさとしやがれ」

「命令しないで!」

 

 爆豪を睨みつける記見。記見は未だしゃがみこむ吐移に高さを合わせて、震える肩を支えた。

 

「ごめんね吐移くん……。爆豪もあんな言い方したけど、私たちと同じで、吐移くんがずっと喋らないのが、笑顔になれないのが嫌なだけなの」

「オイ、俺は別に……」

「この“個性”を解くには、『秘密を晒け出すこと』が必要なの。お願い、どんなに小さくてもいい。喋ってくれない?」

 

 吐移の顔が上がる。記見の説得が届いたか。吐移は口から左手を離し、吐移から見て右側にいる記見に手のひらを見せた。自分で切るって事だろう。記見もそう捉え、先の丸い、小さいハサミを渡した。右手にハサミを持ち直した吐移は、他のクラスメイトから受け取った手鏡をまた左手に受け取り、それで自分の唇を見ながらハサミで糸を切り出した。

 

 ジャキ、ジャキ、ジャキ。

 

 顔にハサミを近づける、奇妙な光景。しかも切れた糸は外れるわけでもなく、唇に貫通して残ったままだ。医療用でも無い糸、自然に抜けるものなのか? 自分でやっているからか、きつく縫われていた唇は順調に解放されていく。

 改めて見ると、いくら口を塞ぐ為とはいえ、どうして唇を糸で縫うなんて方法を取ったんだ。針が何度も通ったはずだ。糸が継続して痛みを与えたはずだ。その痛みを覚悟出来るほど、こいつの本音は酷いものなのか?

 

「終わったな。さあ白状しやがれ!」

「どうしてそんなに急かすの! 吐移くんには吐移くんのペースが──!」

「いいよ、記見さん。話すから」

 

 鏡とハサミを記見に押し付けた吐移は、フラリと、力の入らない身体でどうにか立ち上がった。爆豪は余裕そうに、悪人面で「何から晒してもらおうか」と言っている。

 吐移は溜め息を吐く。

 

「俺よりよっぽどヴィラン顔だね、バクゴー君」

「ああ゛?」

「俺が受けた“個性”は本音を晒すものであって、秘密を晒すもんではないんだけどなあ」

 

 言ってることも、声色も、表情でさえも初めて見て聞いたものばかりだった。お前、そんな邪悪になれるんだな。それだけ、この“個性”事故が強力なものだったってことか? 邪悪なのが、お前なのか?

 

「……話さなきゃならないなら、そうだな……俺があいつらに殺意を持ってるって事ぐらいか」

「殺意?」

「当然、中学まで俺を虐めていた奴らのことだよ」

 

 ……邪悪にならざるを得なかったんだと、信じるからな。

 よっぽど喋るのが嫌なのか、吐移の体は発言するたびにふらついている。支えよう。

 

「ありがとう、シンソー君」

「どうやって殺すつもりだ。ヴィランになりたくないお前が」

「運任せだよ。いつかヒーローになって、災害現場で被災したあいつらを、見殺しにする。それだけだよ」

「本当か?」

「“本音しか言えない個性”になってんだから、疑ってんじゃねーよ」

「口が悪ぃな。それが本音かよ」

「ハッ! 君のが移っちゃったかもね」

「キメェ」

「俺は嬉しいなあ!」

 

 本音しか言えないからか、吐移の情緒が不安定だ。さっきまで怖い顔をしてたのに、今じゃ少し疲れた笑顔だ。感情がここまで振り回されると疲れるだろうな。それも、この“個性”にかかった人たちが口を塞ぐ理由か。

 

 爆豪が俺にアイコンタクトを送った。やらなきゃダメか、これ。きっと“個性”はもう解けて、嘘を吐くと思うんだがな。

 

「えっ? どうして、シンソー君」

 

 吐移の身体を羽交い締めにして拘束する。

 

「や、やめろよ、何すんだっ」

「ごめんな、吐移」

「二人まで!」

 

 爆豪の後ろに待機していた上鳴、切島も、申し訳なさそうに吐移の体を取り押さえる。

 

「まだ話は終わらねぇぞ、ヘアバン」

 

 ズボンのポケットをまさぐり、何かを取り出した爆豪。吐移に向かって見せたそれは、小さな黒いキューブだ。

 

「!!?」

 

 なんだそれは、と俺たちが首を傾げる前で、吐移は分かりやすく狼狽えた。

 

「やっぱ、テメェのだよなぁ?」

「ど、どうしてそれを……!?」

「テメェが自分で落としたんだろうが」

「二つ、も……俺っ!!」

「さあ、話に追いついてねー奴らの為に、テメェの口から説明しやがれ」

「そんな……っ! 嫌だ! これだけは、嫌だよ!!」

「言わねぇなら、また握り潰すだけだ」

「ヒッ!!!」

 

 あの小さな黒いキューブが、吐移の秘密なのか。どんな秘密だ。

 

「さあ言えよ。俺が三つ数える間に」

「いっ、嫌だ……!」

「さーん」

「!」

 

 腕の中の吐移が跳ねた。

 

「にーい」

「や、やめ……」

 

 キューブが爆豪の握り拳の中に隠された。

 

「いー「わかったからぁ!!!」

 

 爆豪のカウントを遮って、吐移が泣き叫んだ。

 

「分かったから……言うから……! だから、お願い……」

「……なら言えよ。てめェの隠してる“個性”を」

 

 隠している“個性”? その黒いキューブが、吐移の“個性”なのか?

 

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