「お前、本音しか言えない“個性”事故に巻き込まれたらしいなぁ? いい機会だ。テメェから色々聞き出してやるよ」
爆豪お前、昼休みまで「本人が言い出すまで大人しくしとけ」とか言ってたくせに、どういう心境の変化だよ。
膝を付いている吐移は俯いたままだ。肩が震えている。泣いているかもしれない。
「まぁまずは、喋らす口を作んねぇとな。誰かハサミよこせ」
爆豪が辺りを見回す。つられて俺も見回せば、俺と同じように見回す奴ばかり。唯一、記見だけは鞄の中からソーイングセットを取り出した。そのハサミか。
「……吐移くんを泣かせたあんたにはさせない。私にやらせて」
「誰がやろうと一緒だ。さっさとしやがれ」
「命令しないで!」
爆豪を睨みつける記見。記見は未だしゃがみこむ吐移に高さを合わせて、震える肩を支えた。
「ごめんね吐移くん……。爆豪もあんな言い方したけど、私たちと同じで、吐移くんがずっと喋らないのが、笑顔になれないのが嫌なだけなの」
「オイ、俺は別に……」
「この“個性”を解くには、『秘密を晒け出すこと』が必要なの。お願い、どんなに小さくてもいい。喋ってくれない?」
吐移の顔が上がる。記見の説得が届いたか。吐移は口から左手を離し、吐移から見て右側にいる記見に手のひらを見せた。自分で切るって事だろう。記見もそう捉え、先の丸い、小さいハサミを渡した。右手にハサミを持ち直した吐移は、他のクラスメイトから受け取った手鏡をまた左手に受け取り、それで自分の唇を見ながらハサミで糸を切り出した。
ジャキ、ジャキ、ジャキ。
顔にハサミを近づける、奇妙な光景。しかも切れた糸は外れるわけでもなく、唇に貫通して残ったままだ。医療用でも無い糸、自然に抜けるものなのか? 自分でやっているからか、きつく縫われていた唇は順調に解放されていく。
改めて見ると、いくら口を塞ぐ為とはいえ、どうして唇を糸で縫うなんて方法を取ったんだ。針が何度も通ったはずだ。糸が継続して痛みを与えたはずだ。その痛みを覚悟出来るほど、こいつの本音は酷いものなのか?
「終わったな。さあ白状しやがれ!」
「どうしてそんなに急かすの! 吐移くんには吐移くんのペースが──!」
「いいよ、記見さん。話すから」
鏡とハサミを記見に押し付けた吐移は、フラリと、力の入らない身体でどうにか立ち上がった。爆豪は余裕そうに、悪人面で「何から晒してもらおうか」と言っている。
吐移は溜め息を吐く。
「俺よりよっぽどヴィラン顔だね、バクゴー君」
「ああ゛?」
「俺が受けた“個性”は本音を晒すものであって、秘密を晒すもんではないんだけどなあ」
言ってることも、声色も、表情でさえも初めて見て聞いたものばかりだった。お前、そんな邪悪になれるんだな。それだけ、この“個性”事故が強力なものだったってことか? 邪悪なのが、お前なのか?
「……話さなきゃならないなら、そうだな……俺があいつらに殺意を持ってるって事ぐらいか」
「殺意?」
「当然、中学まで俺を虐めていた奴らのことだよ」
……邪悪にならざるを得なかったんだと、信じるからな。
よっぽど喋るのが嫌なのか、吐移の体は発言するたびにふらついている。支えよう。
「ありがとう、シンソー君」
「どうやって殺すつもりだ。ヴィランになりたくないお前が」
「運任せだよ。いつかヒーローになって、災害現場で被災したあいつらを、見殺しにする。それだけだよ」
「本当か?」
「“本音しか言えない個性”になってんだから、疑ってんじゃねーよ」
「口が悪ぃな。それが本音かよ」
「ハッ! 君のが移っちゃったかもね」
「キメェ」
「俺は嬉しいなあ!」
本音しか言えないからか、吐移の情緒が不安定だ。さっきまで怖い顔をしてたのに、今じゃ少し疲れた笑顔だ。感情がここまで振り回されると疲れるだろうな。それも、この“個性”にかかった人たちが口を塞ぐ理由か。
爆豪が俺にアイコンタクトを送った。やらなきゃダメか、これ。きっと“個性”はもう解けて、嘘を吐くと思うんだがな。
「えっ? どうして、シンソー君」
吐移の身体を羽交い締めにして拘束する。
「や、やめろよ、何すんだっ」
「ごめんな、吐移」
「二人まで!」
爆豪の後ろに待機していた上鳴、切島も、申し訳なさそうに吐移の体を取り押さえる。
「まだ話は終わらねぇぞ、ヘアバン」
ズボンのポケットをまさぐり、何かを取り出した爆豪。吐移に向かって見せたそれは、小さな黒いキューブだ。
「!!?」
なんだそれは、と俺たちが首を傾げる前で、吐移は分かりやすく狼狽えた。
「やっぱ、テメェのだよなぁ?」
「ど、どうしてそれを……!?」
「テメェが自分で落としたんだろうが」
「二つ、も……俺っ!!」
「さあ、話に追いついてねー奴らの為に、テメェの口から説明しやがれ」
「そんな……っ! 嫌だ! これだけは、嫌だよ!!」
「言わねぇなら、また握り潰すだけだ」
「ヒッ!!!」
あの小さな黒いキューブが、吐移の秘密なのか。どんな秘密だ。
「さあ言えよ。俺が三つ数える間に」
「いっ、嫌だ……!」
「さーん」
「!」
腕の中の吐移が跳ねた。
「にーい」
「や、やめ……」
キューブが爆豪の握り拳の中に隠された。
「いー「わかったからぁ!!!」
爆豪のカウントを遮って、吐移が泣き叫んだ。
「分かったから……言うから……! だから、お願い……」
「……なら言えよ。てめェの隠してる“個性”を」
隠している“個性”? その黒いキューブが、吐移の“個性”なのか?