4ヶ月の   作:めもちょう

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二十九話

「その黒いキューブが“個性”として現れたのは、小2の頃だった。

 最初からだとは思う。でもその黒いキューブが出るのはある程度大きな怪我からだったから、いじめがひどくなった小学2年生の頃に気付いた。

 そいつは俺の中にしまいこむことが出来て、俺が取り出したいと思えば、どこからでも取り出せる。

 キューブは壊すことで、いつか俺の受けた傷を出現させられる。

 ……説明忘れてた。俺の“個性”は、“息をするように自己回復、他者の傷を吸収出来る”んじゃなくて、“自己・他者の傷を自分の息を通じて黒いキューブに変換する”個性だ。そのキューブは俺の意思ひとつで破壊することが出来る。つまり、攻撃手段だ」

 

 驚愕の事実だった。俺と同じ人種だと、自分の体しか攻撃手段が無いものだと思っていたのに。

 だが、ならなぜ、入試や体育祭でそれを使わなかったんだ。それは十分強い“個性”だ。同じ事を思ったんだろう。上鳴が問うと、「バカだなぁ」と、吐移は心底バカにした声色で返した。

 

「えっ」

「あ、ああ、そうか。皆は知らないか。ごめん」

「い、いや。でも、何が?」

「俺、雄英から要注意人物として認識されてんの」

「な、なんで!?」

「俺の親がヴィランで、俺自身が度の過ぎた虐めを受けて、復讐心を持っていたのがバレてたからだろうね。一応奴らは少年院にぶち込んであるけど、いつか出てくる。その時が来たら、俺は運次第で見殺しにしようと思ってる。でも学校側は、もう少し深刻に考えてるんでしょ。それを入試の筆記の時、先生達の視線で感じ取った俺は、実技試験で黒いキューブを使うことを止めた。今まで誰にも見せたことはなかったから、雄英にもバレてないはずだった。ヒーロー科に落ちても、どうにか普通科に入学して、それから編入すれば良いと考えた。肉弾戦で強くなればヒーローになれるって、俺は自分を信じていたから!」

 

 雄英から警戒されていたとしても、自分の目標達成の為に、自ら飛び込んでいったのか。自分を信じるこいつは、周りからの信頼を勝ち取って、学校からも協力を得るところまで来ていた。

 

「だから!」

 

 落ち着いていた吐移が、また震えだした。

 

「バレたくなかった……! 体育祭で使ったことも後悔してる。あのタイミングしか、視界が悪いあのタイミングしか、カメラを誤魔化せないと思ったのに……。思っていたより、あのロボ、足元が弱くてびっくりしたよ。常闇くんにも怪しまれたし。……他人の傷も回復出来ると分かって、よりヒーローになる上で強みになる“個性”と分かったから、この黒いキューブは封印しようと思ってたのに……!」

「吐移くん……」

 

 記見の手にはハンカチが。もしかして吐移、泣いてるのか?

 

「なんか分かんないけどキューブが俺から出て来ちゃうし、それで大好きな人が傷ついちゃうし! 俺のこんなのよりずっと酷い“個性”事故だよ! ごめんなさいっ! ごめんなさい!! ごめんなさい!!!」

「吐移くん!」

 

 記見が吐移の顔を両手で包み、その後、目の辺りをハンカチで拭く。ああ、泣いているのか。

 爆豪に目をやる。奴は顎で“外せ”と指示を出した。それに従い、俺は羽交い締めを止めて、吐移の体を支えた。上鳴も切島も、吐移から離れた。

 

「……てめぇの“個性”事故で負った傷は、てめぇの“個性”で治った。だから、それについては気にすんな」

「バクゴー君……」

「このキューブはつまり、てめぇの過去の傷ってことか」

「……うん」

「そうか」

 

 爆豪はこの間、脈略もなく頭に大怪我を負って、それを吐移が治していた。それのことを言っているのなら、吐移は過去にその傷を負ったことがあるって事かよ。

 黒いキューブを持って、爆豪が吐移の近くに来る。

 

「こいつを使わない、隠した理由は何だ」

「あらぬ疑いをかけられて、小・中学校の間にヴィラン扱いされたくなかったから。それに、ずっと隠し通してきて、今更言ったら更に警戒される。ただでさえ悪い意味で注目されてんのに、普通科も落ちる可能性があった。それに、もう使うつもりもなかった。だから、隠してた」

「なるほどな」

 

 答えを聞いた爆豪は吐移にキューブを渡した。左手に乗ったキューブに、吐移は違和感を覚えたようだった。

 

「ま、そいつはただのサイコロを細工したもんだがな」

「だ、騙したのかよ! こっちは本音しか言えねぇってのに!」

「なんか関係あんのか?」

 

 人が悪いな、こいつは。

 爆豪は「それに」と、言葉を続けた。

 

「果たして雄英が本当に、お前のその“個性”を把握してなかったとは、言えねえけどな」

「え?」

 

 気になることを言った爆豪。疑問の声を上げる吐移に、爆豪は左に寄って後ろを示した。吐移にとっての正面。教室のドアのところに立っているのは、プレゼント・マイク先生だった。あんな存在感たっぷりのヒーローを見落としてたのか。

 

「せ、先生……」

「HEY! 俺だぜ! さぁて吐移! どうやらお前は“個性”の攻撃性を隠してたつもりみたいだが、雄英は把握してたぜ!」

「……え?」

 

 吐移がふらついた。

 

「い、いつ、知って……!?」

「お前さんは法律を守る良い国民だな。役所への“個性”届は正直に届けていただろ? 再届けの時も。だから雄英は把握してたし、それを使う様子がないことが、何か企んでいるんじゃないかと、お前を要注意人物に引き上げていたんだよ」

「そ、そんなぁ……」

「と、吐移!」

 

 吐移がついに倒れこんだ。俺と切島で支えるが、それでも吐移はぺたんっと座り込む。

 

「怖くって、そこは正直に言ってたら……意味無かったのかよぉ!」

「杞憂だったな!」

 

 HAHAHAと笑うプレゼント・マイク。う~う~泣く吐移。困惑するクラスメイトたち。カオスだ。

 

「お前の孤独な戦いはほとんど意味はなかったわけだが、その縛りプレイのおかげで得たものだって、あるだろ?」

「……ここにいる、皆、ですかね……」

 

 吐移ははにかむ。まだあの“個性”の影響は残っているだろうか。

 

「それに、隠そうとしたから、俺は人にこの“個性”をぶつけずに済んでいた。……人権を得た」

「それは生まれた時からだな! まぁ、何はともあれ秘密はなくなった! これからは大手を振って歩いてけ!」

 

 マイク先生に肩を叩かれたと吐移は、そこで初めて、にっこり笑った。

 

「はい!」

 

 立ち上がれるようになった吐移に、今まで静観していたクラスメイトたちが集まり、「良かったな!」とか、「お前すごいやつだったんだな!」とか、「これからもっと活躍出来るじゃん!」と声をかけていた。それに答える吐移も、憑き物が落ちたように、穏やかに笑っていた。

 忘れちゃいけないのは、吐移の唇には、まだ糸が貫通してるって事なんだよな。

 

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