4ヶ月の   作:めもちょう

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三話

 ヴィランによる襲撃で雄英は各所対応に追われて臨時休校になった。それをいいことに早朝、事前に聞かされていたヘアバンの電話番号にかけて呼び出した。昨日の事件のこともあって相当渋られたが、「てめェが講師を俺にしたんだ。俺の言うことを聞け」つって俺がいつも訓練している公園に呼び出した。

 

「10分で、来いだなんて……、君マジで鬼畜だ!」

「喋るヨユーあるなら始めるぞ」

「休ませて!!」

 

 ヘアバンの家からこの公園までは電車に乗るくらいには遠いみてーだな。駅からここまで全力ダッシュで来たんなら、この疲れ具合は普通か。

 

「疲労は個性で回復出来ねーのか」

「んー、出来たことは無いかな。回復出来るのは怪我と病気だけだと思う」

「任意発動型か」

「ううん。常時。息してればいつのまにか直ってるよ」

「そりゃあ便利な個性だな」

 

 流石に“サンドバッグに丁度いいな”とは言えなかった。

 

 

 

 俺が立てたメニューはこれだ。ネットにあったのを参考にした。

 

・深呼吸(20秒吐き、5秒吸い)×2

・“あ”ロングトーン(最低30秒)×2[声がかすれ始めた時点で終了]

・“あ”スタッカート(1セット10回)×2

・七十五音(a,e,i,u,e,o,a,o)×2

・早口言葉(その時々で)1セット3回×3

・“あ”ロングトーン×2

 

 書き起こしていたメニュー表をヘアバンに渡す。その内容を見たヘアバンは「思っていたより優しい内容だね?」と、不思議そうに首を傾げた。ハッ。これだけで終わるとでも思ってんのかよ。めでてぇ頭してんなぁ?

 

「こっちが筋トレメニューだ」

「筋トレ!?」

 

・腕立て伏せ ×100

・フロントブリッジ 30秒×3セット

・腹筋 ×100

・懸垂 ×20

・スクワット ×100

・ランニング 3km

 

「数えっぐっ!?」

「初回だからな。これでも少なくしてやったんだぞ。てめぇがどれくらい出来るか分からねぇからな」

「うわぁ……ありがとう」

「嫌ならやめんぞ」

「誠心誠意、やらせていただきます!」

 

 自分で選んだ講師、有り難がって、従えよなぁ?

 

 

「喉じゃねぇ! 腹から声出せ! 歌声みたいな声出してんじゃねーぞ!」

「はい!」

 

「スタッカート言ってんだろ! 弾くように声出せ!」

「はいっ!」

 

「口の形意識しやがれ! 同時に表情筋の体操だ!」

「はい!!」

 

「意味考えればどこで切るか分かんだろ!」

「ひーっ!」

 

 

 言えば直すし、返事は良い。難点はまだまだ声が小せぇことと、恥じらいがあることだろう。まさに新人。

 めんどくせーとは思ったが、クラス委員長になり損ねた俺にとってこの講師遊びが一種のリーダーシップの訓練になると考えれば悪くなかった。

 

 喉を痛めない程度に発声練習を終えれば、次は筋トレだ。本来ならダンベルなり機器を使って身体全体を鍛えたいところだ。学外で訓練するのは計画外だった。だが、一度決めちまったことは何があっても、多少曲がっててもやり遂げてやる。

 

「背中反ってんぞ! 持ち上げろ、砕けるぞ!」

「は、はいぃ!」

 

「息を止めんな! 体を下ろしながら息を吸って、押し上げながら吐け!」

「すーっ、はーっ!」

 

「また背中反ってんぞ! 足から首まで一直線になるように意識しろ。真下じゃなく1メートル先を見やがれ!」

「はいぃっ!!」

 

 腕立て伏せの時点でこうだ。こいつはまず数よりも質を向上させなきゃ話にならねえ。60回こなしたところで腕立て伏せを切り上げる。「まだやれます!」とか、スポ根アニメみたいなセリフを言うヘアバンに「100回出来るまで待ってたら夜になるわ!」と言って黙らせた。

 次からは3セットずつだな。あと今よりテンポは遅い方がより負荷をかけられる。残りのメニューを数を減らしてスローペースでこなしてもらえば最後にランニング3kmが残った。3kmはこの公園の外周一周分。最後に流すにゃ丁度いい。

 

「あれ? 一緒に走るの?」

「やんなきゃ体が鈍る。てめェは呼吸を意識して一周して帰れ」

「え、いいの!?」

「体壊したきゃ、もっと走ればいい」

「やっぱバクゴー君やっさしー!」

 

 キメェ。

 置いてランニングを始めれば、後ろから「ま、待って!」と声がかかるが、無視する。トレーニングで疲れきった野郎とそうでない俺が同じ速度で走れるワケがねェだろ。

 俺が一周走りきる頃に、あいつは半周より少し多く走っている程度だった。二周目終わりかけには追いつき、流しとばかりに歩いているヘアバンに「痛めたくなきゃクールダウン忘れんじゃねぇぞ」と声をかけて三周目に向かう。後ろからは「ありがとうございました!」と、疲れた大声が聞こえてきた。

 

 公園の中をちらっと見れば、筋を伸ばしてクールダウンするヘアバンが見えた。

 そういえば、痛みと疲労は個性発動の範疇外のはずだが、回復する際に炎症を起こしている筋肉痛は個性発動の対象なのか? もしそうなら毎日出来るな。喉も痛まねぇし疲れるまで声を出し続けられるのは災害避難誘導で使える。問題は声の大きさか。恥じらいさえ捨てれば、あいつの目標は直ぐに達成されるはずだ。

 ……あいつの心配よりも、俺の心配が先か。

 いつのまにか、隣で知らない男が、同じ速度で走っていた。なんだこれ。

 

「誰だ」

「HEY YOU! 吐移はともかく、お前は外に出ちゃ駄目だろ、爆豪!」

「……」

「ん? まだ分からないか? 俺だ、プレゼント・マイク!」

「だとして、何でここにいる」

「パトロールがてら、だなぁ!」

 

 気付くつもりは無かったが、このちょび髭はヒーローのプレゼント・マイクらしい。アングラ系でもないヒーローがスーツを着ずにパトロール? 怪しすぎんだろ。第一、雄英は恐らく報道の準備やら保護者説明会の準備やらでバカみてぇに忙しくしているはずだ。だから臨時休校になってんだ。なのになんで雄英教師がここに居る。ただのパトロールならこの地域のヒーローに強化の要請すればいいだけの話だ。何かある。デケェ何かが。

 

「俺に、何の用だ」

「少しの注意と多大の感謝ってところだ!」

「は?」

 

 何が言いたいのか分からねえ。感謝ってなんだ。マジで意味分かんねぇ。その言葉の先を促せばプレゼント・マイクは続けた。

 

「注意はさっきの、ヴィランに狙われた生徒が軽率に外に出るなって話。感謝は吐移のことだ」

「ヘアバン? 何でだ」

「あいつは、要注意人物だからな」

「……はァ?」

 

 どういうことだ? まさか、あいつに、ヴィランと繋がりが!?

 

 

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