4ヶ月の   作:めもちょう

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三十一話

 ヘルメットで顔を隠した顔なし男が指差したのは、さっきまで俺が気を取られていたホルマリン漬けの化け物。

 

「そいつらは、かつて君を貶め、暴力を振るった人間だ」

「!!?」

 

 この脳みそ剥き出しのムキムキが、あいつら!?

 そんな訳がない。少し考えればすぐ分かる事だ。ちょっと惑わされたのが恥ずかしい。そんな、俺を辱しめたそいつを睨み付けた。

 

「嘘つくんじゃねェ。似ても似つかねえぞ」

「信じてもらえないと思っていたから、証拠を用意しているんだ。それを見てくれ」

 

 俺の後ろに立っていたワープ野郎が、俺にビデオカメラを渡してきた。ボタン押せばすぐ再生されるところまで操作された状態。俺は目の前の奴や周りを警戒しながら、促されるまま再生する。

 

「!!」

 

 ビデオカメラの小さな画面に映し出されたのは、確かに、いつか俺の腹に穴を開けてくれたヤツらのうち、二人。このグループは四人いたはず。画面外か?

 

「僕の“個性”は、他者から“個性”を『奪い』、そしてソレを他者に『与える』ことの出来る“個性”でね。四人のうち、弱そうな二人からは“個性”をもらって、後は二人に分けたのさ。まあ、二人とも負荷に耐えられなかったけどね」

 

 その通りらしい。椅子に拘束されている二人は、顔無し男に頭を掴まれた後、痙攣して、泡を吹いて、白目を向いた。なんてヤバイ“個性”なんだ……!!

 

「弱くても使えはする“個性”達だったからね。脳無にはしたよ。ここはヒーローたちをおびき出す脳無格納庫であり、君への脳無展示場さ」

「……これを見せて、どうしたいんだ」

「分からないかい? 君の復讐は僕たちが代わりに果たした。でも、まだ足りないだろう? 君は、自分の思いを否定するヒーロー側より、受け入れ、実行する僕達側にいる方が、のびのび出来るはずだ」

「……」

「遅れたね。僕は、オール・フォー・ワン」

 

 皆は一人のために……?

 

「僕たちは君の復讐心を受け入れる。続けようじゃないか。ヴィラン側(こちら)へおいで、吐移 正」

 

 オールマイトを追い詰めた脳無の生みの親。そんなヴィラン史上最もヤバそうな男が、俺の目の前にいる。俺の事も調べがついている。だから、俺を虐めていたこいつらを脳無、または“無個性”にし、さらに、まだいる対象者に復讐しようと持ちかけてきている。

 そんな男だ、組織だ。きっと、俺の答えを予想してるに違いない。

 

「行くわけないだろ、ボケカス」

「へぇ……」

 

 何を驚いていやがる。

 

「俺の復讐心を受け入れるぅ? 見えてんだよ、テメェらが欲しいのは、俺の“個性”だろ。サンドバッグに丁度いいもんなぁ。盾にするにもいいもんなぁ、この“個性”。──誰がヴィランにやるか、ボケ」

 

 俺の心は俺のモノ。復讐なんて、今じゃ俺の人生の目的の、“ついで”でしかないんだよ。

 

「どうして雄英が俺を野放しにしてたか、分からねェか? 俺に復讐が無理だと分かってたからだ。元々方法も運任せで、犯罪者になることをすごく恐れていた俺の個性が“他人の傷まで吸収出来る”モンだと判明しちまった。そんな“個性”じゃ、見殺しにすることが不自然過ぎて不可能になった。だから雄英は俺を自由にしてたんだよ。そこまで考えて、俺の代わりにしてくれたって言いてぇなら、お門違いだ。俺は、幸せになりたいんだからな」

「へぇ、幸せに」

 

 何を笑っていやがる。自分の幸せを追求して、何が悪い。お前だってそうだろう。自分勝手過ぎる幸せを!

 

「吐移 正。君の復讐に燃えていた心を鎮めたのは、爆豪勝己くん、だね?」

「それが、どうした」

「その彼も弔の仲間になる、と言ったら、考えを改めてくれるのかな?」

「…………は?」

 

 バクゴー君が、ヴィラン、に?

 ありえない。ありえない。だか、もし、あり得るなら?

 

「……」

 

 覚悟を決めろ、俺。

 

「言っただろ。俺はヴィランにならねえってよォ」

 

 ヴィランの定義をざっくりと言えば、“個性”を使った犯罪行為を行った者。“個性”で人を傷つけちゃいけないっつーのが分かりやすい言い方か。

 

「バクゴー君がヴィランになるわけない。だって、彼の目標は“オールマイト”。絶対的な勝利。トップヒーローを目指すバクゴー君が、お前らみたいに暗躍したがるヴィランになるわけない!」

「果たして、そうかな」

 

 “個性”で傷つけちゃいけないのは『他人』だ。正当防衛で使うことは認められているけれど、俺の後ろには相変わらずワープ野郎がいる。逃げたところで、捕まれば“個性”が奪われるだけ。奪われれば、俺の価値は人質っつー足枷。もう二度と、逃げることは出来なくなる。

 

「俺を人質にしたかったのなら、残念。叶わないよ」

 

 『他人』が駄目でも、『自分』は別にいい。昔、殴られるのを減らす為に出血量増やそうと隠れて使ったことがある。だから、とっくの昔に検証済みだ。

 

「助けは来ないよ」

「分からないぜ?」

 

 黒いキューブは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「俺はなぁ、自分の幸せの為に、回りくどい復讐方法を考えてたんだ。犯罪者にならない為に」

 

 時間稼ぎに見せかけろ。

 

 こわい

 

「バクゴー君のおかげで、雄英の皆のおかげで、俺は未来に目を向けることが出来るようになったんだ」

 

 だから、俺を変えてくれた皆の未来を、暗いものにしない為に。

 

 こわい

 

「それは、いい話だね」

「そうだろ? だから、俺はヴィランにならねぇ!!」

 

 お母さん。ごめんなさい。約束守れなくて、ごめんなさい。ごめんなさい、皆。

 

さよなら

 

 

 

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